あなたは無力な生徒である   作:暇じゃない暇人

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あなたは既にあなたじゃない

 

 あなたは気が付くと、見たことのない路地裏にいた。

 

 “?”

 

 

 思わずなぜ? という疑問符が頭に浮かぶ。

 

 とりあえず、どうして自分がここにいるのかを記憶から精査しようとした。

 しかし、分かったことは何も分からないということだけで、それ以外のこと、例えば(恐らく路地裏だと思われる)ここはどこなのかとか、自分は誘拐されてここにいるのかとか、はたまたこれは夢なのかとか。

 

 いろいろと考えてはみたが、大した収穫は得られなかった。

 

 

 あなたはひとまず“悩んでも仕方がないか”と、半ば無理やり考えて歩き出す。

 目指す方向は光指す場所。つまり路地裏を出ようと考えたというわけだ。

 

 

 トコトコ。擬音に直すとそんな音を出しながらあなたは歩く。

 そしてとうとう裏路地を出て、表通りにたどり着いた。

 

 

 “!”

 

 

 そこで目にしたものはあなたの常識から考えるとあり得ないものだった。

 

 まず、そこそこ広い道を歩いているのは人間ではなくロボットや二足歩行の犬猫で、人間は全く歩いていない。いや、よくよく見ると完全に人間が0というわけではなく、女学生らしき人影がぽつりぽつり歩いているところを確認は出来る。

 

 しかし、その女学生(少なくとも見える範囲にいる)にもおかしいところはあった。

まず一点目は頭の上に何かある。これは比喩ではなく本当に何かが、たとえるのなら天使の輪っかとか、未確認飛行物体的な何かとか。そんな感じのものが少女たちの頭上数センチを付かず離れずフヨフヨ浮いていたのだ。

 

  もちろん少女たちの上に浮かんでいるあれが何かなどあなたは()()()()し、()()()()()()()

 

 ()()()()()

 

 

 そして、正体不明の未確認浮遊物体は百歩譲って(例えばあれが最新のホログラムを使った新手のファッションの類かもしれないので)見逃すとしても、絶対に見逃してはいけないのは道行く少女たち全員が(形や種類は違えど)銃を所持しているということである。

 

 もちろんあなたが知る限り日本には銃刀法違反、危険物所持法違反など、武器類の所持は(理由がある場合を除き)禁止されている。

 もしかしたら知らない間に銃の所持が合法になった可能性もなくはないが、いくら何でも考えにくい。

 

 となると少女たちがもっているのはモデルガンで、女子学生の間では今、空前のサバイバルゲームが流行っているのかもしれない。そんなおかしいところ山積もりのことをあなたは考えた。いや、間違えた。考えて()()

 

 なぜなら、もし、本当にサバイバルゲームが流行っていたのだとしても、道路を()()()()()が走っているはずがないのだから。

 

 

 普通の車ならタイヤがある底部にタイヤはなく、代わりにベルトコンベアみたいに動くキャタピラがあって、フロントガラスがあるはずの部分は鉄で覆われて前が見えるさまが想像もつかない。

 そして、車体に比べて一段高いところに平たい円形の突起があり、進行方向を向いている長い筒が当然のごとく鎮座している。……なぜか巡回中と書かれた札みたいなものを吊るしているが、良く分からない。

 

 分かりやすく一言で言おう。

 

 

 『戦車』がまるで一般車かのように堂々と走っているのだ。

 

 

 ……よく見ればあなたが見ている戦車の上部には女の子が二人いて、一人は赤い髪でかなりの毛量をしていることが分かる娘で。もう一人は恐らく小学生? の金髪でぶかぶかの上着を着ている娘。

 

 どちらも例にもれず頭に何か浮かんでる。やはりあの頭に浮かんでいるものは、あって当然なのだろうか。

 

 

 巡回中と書かれた札を提げた戦車はそのまま見えなくなってしまった。しかし、戦車は他にも何台か走っている。

 誰もそのことを指摘も騒ぎもしないので、今ここであなたが騒いでも誰にも相手にされず、むしろあなたがおかしいやつ扱いされるだけな気がしてならなかった。

 

 

 あなたは頭痛を起こしそうになる。

 

 まず、道を歩いているのは大半が人ではなくロボットや二足歩行の犬猫。人間らしき存在も今のところ少女しか見ておらず、男性がまるでいないかのように思えてきてしまえるほど。そのうえ歩いている少女たちの頭にはふわふわ浮かぶ何かがあり、誰もそれを気にしない。極めつけは銃を持っていて戦車が道を走っていても誰もそのことを指摘しない。

 

 いくら何でもありえない状況。少なくともあなたが培ってきた常識に当てはめると今の状況はあまりにも頓珍漢すぎると言えた。

 

 

 思わず目頭を揉んでしまう。疲れているのかもしれないと。

 

 しかし、現状は何も変わらなかった。

 

 

 あなたは一度考えるのをやめて歩き出す。何となく、巡回中の札を提げた戦車が走っていった方向と反対方面に進むことにした。

 あなたは歩きながら、現状の整理を行おうと試みたのだ。

 

 

 それからしばらく歩き続けて、ふと、あなたは立ち止まる。これも理由は何となく。

 

 そう、なんとなく、ガラス張りになったビルを見た。

 

 

 ?…………???

 

 

 ガラス張りということは光が反射して自分の姿が写る。そこまではいい。

 

 問題はあなたの視点的に映っている人物がおかしいということである。

 

 タタタ、と早足でビルにあなたは近づき、ガラス壁に手をついて、移っている姿を凝視した。

 

 まず顔。一言で言えばロリっぽい。ソシャゲだったら人気投票で上位に入れるくらいの顔だと思う。

 そして服。どこの学校のモノか分からないブレザー、スカート、小奇麗なローファ。どれ一つとっても着た覚えも見覚えもない。

 最後に頭上。頭の上に何か輪っかがフワフワ浮かんでる。多分これは道行く女生徒たちと同質のものなのだろう。

 

 

 そこまで理解してあなたの脳はフリーズした。

 

 はたから見たらいきなりガラスに走り寄って自分の姿を凝視したまま動かなくなるという奇行を披露してみせたあなたを、道行く人やガラス張りになったビルの中にいる人が変なものを見る目で見る。だが、あなたは自分自身の変容(変体?)をどう受け止めるべきなのか考えるのに必死でそんなことを気にする余裕などない。

 

 

 しかし、幸か不幸かあなたは歩き出す。纏まらぬ考えと混乱する正気をどうにか収めるために。

 

 目的地なんてない。とりあえずここではないどこかへ行こうとしたのである。

 

 

 

  

 これから先のことを考えたら、あのまま動かずにヴァルキューレを呼ばれて保護されるという道も存外よかったのかもしれないが、どちらにせよ、あなたにそんなことを言っても全くの無駄であることは間違いない。

  

 今のあなたは冷静な判断力など持ち合わせていないのだから。

 

 

 

 

──────

 

 

 彷徨い歩いてどれくらい経ったか。あなたは人がいない公園のブランコに腰かけ、手で顔を覆っていた。

 

 

 あの後とりあえず歩いて分かったことは、ここの治安の悪さは尋常でないということ。

 どこでも銃声らしきパパパやダダダという音が聞こえてくるし、ビルでも解体してるのかと思うほどの炸裂音が響き渡るのだ。

 

 爆音はもちろん銃声すら聞いたことのない現代日本暮らしのあなたからすれば耐え難かった。騒音と聞いてもバイクのエンジン音や、住宅街での工事などが真っ先に思い当たるような生活をしていたのに、いきなり銃声や爆発音があちこちでする始末。

 

 率直に言って恐怖の一つでも覚えて不思議ではない。

 

 

 だが、そうはいっても行動せねば現状は変わらない。

 

 そのためあなたは銃声爆音に怯えながらもがんばって情報収集を進めたのだ。

 

 まず分かったことは、今あなたがいるのは学園都市キヴォトスというところのD・U地区という場所で、現在地はミレニアムサイエンススクールという学校の自治区との境界線上にほど近い場所であるということ。

 次に分かったことはキヴォトスの人間(犬猫、ロボットや女子生徒)は銃弾が当たっても死なないらしく、引き金を気軽に引くため銃撃戦が後を絶たないということ。

 

 そしてなぜか日本語が使われていて、文字も普通にひらがな、カタカナ、漢字が使われている。

 

 あなたが数時間歩き回って分かったことは大体そのような事だった。

 

 

 自分で言っていて思うことだが意味が分からなすぎる。

 学生が銃撃戦をして銃弾に当たっても死ななくて、街を歩いているのは女子生徒か獣orロボット。

 そのうえココは学園都市? 一体どこのラノベの世界だと突っ込みたくもなる。

 

 

 

 そして最後。これがあなたを最も混乱に陥れたこと。

 

 それはあなたの今現在の姿である。

 

 

 瞳は黄色で白い肌。髪はオレンジに近い金髪で背中ほどの長さがあり、耳鼻唇は顔の大きさに合わせて小さい。

 服装はどこかの学校の女子用制服といった具合で、どこにでもありそうに思える。しかし、よく見たら結構オシャレな制服で内心びっくりした。黒のブレザーに青っぽいスカート。男性だったはずのあなたが着ていてひどくむず痒くなるのも仕方ない代物である。だからと言って今持っている唯一の服を脱ぎ棄てようとはさすがに思わないが、とにかく気分としては女装をさせらてるようなもので、やや気恥ずかしい。

 

 そして最後。……これは姿が完全に変わっている現状では大した問題ではないかもしれないが、それでも気になるというもので、身長の話だ。

 

 計ったわけではないため正確な数字は分からないが、大体140センチほどのミニマムサイズ。

 この体が何歳かは分からないが、日本の高校生女子の平均が150センチくらい? だったことを考えればやはり小さいほうと言えよう。

 

 日本の男の子たちの間ではこんな常識がある。

 

 いわく、170センチ以下は人権がない。

 

 であるなら、今のあなたに人権は認められず、一度学校に行けば身長180センチバスケ部彼女持ち経験人数20人越えのヤリ○ンカースト上位系イケメンチャラ男に「おっ、身長170センチ以下の人権ないやつじゃん(笑笑)丁度いいからパン買って来いよ。あ? まさかお前……断わったりしないよな?」と脅されてパンを買いに行かされるのである。

 

 身長170センチ以下のあなたに味方はおらず、同じく身長170センチ以下の存在もイケメンチャラ男を恐れてあなたを助けようとする者は誰もいない。そんな光景がなぜか頭に過る。

 

 

 果たしてここに来る前、あなたは自分の身長が一体何センチだったのか()()()()()が、どちらにせよ今のあなたは負け組と揶揄され、下に見られる人間でしかない。あなたの頭の中に突如『ばにたす』なんていう謎の言葉が思い浮かぶが、それはすぐに消えていってしまった。

 

 

 “はー”とあなたはため息を吐く。

 

 くだらない妄想をして気を紛わそうとしたが、あまり上手くいかず、問題を意識させられてしまった。

 

 そう。今のあなたは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なぜかというと、今のあなたは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 自分の名前は曖昧で、家族構成だってよく分からない。どこの学校に行っていたのか、小学校は? 中学校は? 高校は? 大学には行ったのか? 大学院は? 社会人だった? どこで働いていた? アルバイト経験はある? 趣味は? 住所は? 出身は? 友達は? 

 

 それら全てが曖昧であやふやなのだ。

 

 果たしてそんなあなたはあなたと言えるのか。哲学的な質問になってしまいそうだが難しいことを言いたいわけではない。

 

 

 記憶のほとんどが良く思いだせない以上、あなたは記憶があるときと同じ動きが出来るはずがない。

 例えば格闘ゲームでもやり込んでいた時とそこから何年も触れずに技をすべて忘れてるときでは、同じようなプレイが出来るわけではないはず。

つまるところはそんな感じである。

 

 しかし、一度やり込んだゲームをもう一度やり直せば、否が応でも思い出す。体に染みついた記憶はそう簡単には忘れられないものだ。

 

 

 

 であるなら、あなたの現状記憶喪失にも近い状況は、時間経過で解決するかもしれない。

 

 

 

 あなたは(無理やり)そう自分を納得させて、動き出すことを決意した。

 

 そうと決まれば早速行動を取るとしよう。大丈夫、現在のあなたは着の身着のまま(着た覚え無し)の服しか持っておらず、無知蒙昧(少なくともキヴォトスについてはほぼ何も()()()()から間違ってはいない)にして完全無欠の無一文(あなたの所持金は0円)だ。

 失うものは(命くらいしか)なく、進まなければ得られない。であるなら前進以外の道があろうか? いやない!

 

 さあ進め! 目指すは衣食住が確保された文化的生活。このままではあなたの道は路上生活まっしぐら。それが嫌なら仕事を見つけるなり寄生先を見つけるなりやることがたくさんある。

 

 望んだ未来はそこにある。ぜんた~い、すすめ!

 

 

 

 そうして、あなたは公園を出て歩を進める。

 やはりこれも行先は決めてない。行き当たりばったりな行動だ。

 

 だがあなたはそんなことどうでもいいと言わんばかりに進む。後先考えず、具体的な計画を碌に立てずに。

 

 

 

 もはやあなたは冷静に思考して先を考える事すら満足にできなくなっている。これが元々なのかこの体になってしまったせいなのか。今のあなたには分からない。分かるとしたらこの体になる前のあなただが、そんなことを言っても何にもならない。

 

 

 とにもかくにも、あなたは後先を一切考えずに行動した。それが純然たる結果である。

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