特別な日々が特別じゃなくなるまで 作:文才の無い本の虫
第一話「プロローグ」
――雨が降っている。
公園のベンチに座り込み、ソウジは天を仰いだ。
「ったく・・・・・慣れない依頼なんて受けるもんじゃねえな」
金払いが良いからと、珍しく護衛の依頼を受け、金が振り込まれたのを確認したまでは良かった。
だが、もう既に日は沈み、ホテルなどもこういう時に限って空いていない。
「はぁ、もういっそこのまま寝ちまうか」
雨に一晩打たれ続けた程度では体調すら崩さないだろうと、ソウジはベンチに横たわり、目を閉じようとし――
「あん?」
視線を感じて目を開けた。数メートル先で、ピンク色の傘をさした女がソウジを見ていた。
傘で〈ヘイロー〉は確認出来ない。
(敵意・・・・・は無え。これは好奇心か?)
女はソウジの近くに来て、ソウジを傘に入れる様に傘を上に持ち上げる。
頭上に紫色の〈ヘイロー〉が見えた。
「君。〈
「誰だお前」
「酷い言い草だね。君の事を心配しているというのに」
「
「うん、確かにそうだ」
やけにあっさりと頷く。何がしたいのだろうかこの女は。
そして女は言う。
「――だけど、私は君に興味が湧いた」
「は?」
ソウジは思わず呆けた声を出した。
そして、手が差し出される。
「私はウタハ。白石ウタハだ。少し遠いけど、私の家に泊めてあげよう」
「何言ってんだお前」
「ほら、このままじゃ深夜になってしまうよ」
ウタハはキヴォトス人特有の怪力でソウジを立ち上がらせて、手を引いて歩き出した。
抗えるとは言え、この手を振りほどくのは面倒そうだ。
(了承すらしてねえんだが?)
その強引さに頭が可笑しいのかとソウジは頭痛がした。
――それが、ソウジとウタハの出逢いだった。
◣◥◣◥
キヴォトス人の頭上に浮かぶ〈ヘイロー〉。それは彼女達の神秘を証明するもの。
神秘は彼女達に頑丈さや、特異な能力を与える。
少女しか保たないそれをキヴォトスの外で保っていた
彼の家族は彼の為にキヴォトスに移住し・・・・・ある時、彼は家族と〈ヘイロー〉を失った。
彼は知った、幸せ程脆い物は無いのだと。
強くなければ、このキヴォトスでは満足に生活することすら出来ないのだと。
「クックックッ・・・・・外の世界に現れた、たった一つの特異な〈
少年は強くなるためなら何だって利用した。
何時しか少年は青年となり、キヴォトスにあるブラックマーケットで『掃除屋』と呼ばれる程までになっていた。
そして彼は、この学園都市キヴォトスで〈ヘイロー〉を保った少女と出逢った。
◣◥◣◥
「ようこそ、我が家へ」
ウタハに強引に連れてこられたソウジは、先ほどウタハに渡されたバスタオルで頭を拭きながらため息をつく。
(罠では無さそうだな・・・・・雨風で無駄に疲れないで済むと考えれば儲けものか)
「おや?嬉しくないのかい?」
「初対面の女の家に連れ込まれて喜んでる奴が居たら驚くぜ」
「ふむ・・・・・もしかしてファーストコンタクトに失敗した感じかな?」
「大失敗に決まってるだろ」
「うーん・・・・・取り敢えず温かいコーヒーとかどうかな」
露骨に話題を逸らしたなと思いながら、温かい物は欲しかったのでソウジは頷く。
「貰えるならくれ」
「ふふふ、良いとも。バリスタ君3号の勇姿を見給え」
そう言ってウタハは赤いペンギンの様な機械を操作し始める。暫くしてその機械がコーヒーが入ったコップを吐き出した。
「はい、どうぞ」
毒物を警戒しながら一口飲む。
瞬間、これまで飲んできた安い缶コーヒーが泥に感じる様な強烈な味わいがソウジを襲った。
「美味え」
「お気に召してくれた様で何よりだよ」
そう言ってウタハは笑う。ソウジは初めてウタハの少女らしい所を見た。
「そういえば君の名前を聞いてなかったね」
「・・・・・俺はソウジ。唯のソウジだ」
すると、ウタハはソウジの前に手を差し出して言う。その真っ直ぐさを少し眩しいと思った。
「うん。よろしく、ソウジ君」
「ああ・・・・よろしく、ウタハ」
ソウジは少し躊躇してからウタハの手を握った。これまで触れたことのない柔らかくも職人の様な手だった。
(珍しく出会いに恵まれたのかもな)
でも流石に家に男を連れ込むのは頭が可笑しいのかとは思ったが。