特別な日々が特別じゃなくなるまで 作:文才の無い本の虫
「さて、ご飯を作ろうか。ソウジ君もお腹、空いているだろう?」
「・・・・・そこまでされる義理は無え」
出来る限りぶっきらぼうにソウジは言う。ブラックマーケットという劣悪な環境で育ったソウジは優しさと言うものに慣れていなかった。
「良いから待っていてくれ。これでも料理には自信があるんだ」
そう言ってウタハは準備を始めた。調子の外れた鼻歌を歌いながら冷蔵庫から冷蔵してあった米や野菜、肉を出していく。
「うーん、思ったよりもお米が残っているから・・・・・炒飯にしようかな」
具材を刻み、フライパンに油を引く。米に卵を絡めるように炒め、刻んだ具材と調味料を入れて更に炒める。
時折味を調整しながらフライパンとへらを動かしていく。パチパチと油の弾ける小気味良い音がする。
「はい、出来上がりだ。熱いから気を付けて食べてくれ」
そうして20分程でソウジの前に炒飯の乗った平皿が置かれた。炒飯のパラパラとした米は湯気を立て、香ばしい香りと共に食欲を刺激する。
それはソウジにとってチェーン店やコンビニの弁当などで食べ慣れたはずの料理。
だが――食べる手が止まらない。
ソウジにとってウタハが作った炒飯は何故かそれらよりも断然美味く感じたのだ。
その様子を見てウタハは言う。
「ソウジ君、お味はどうかな?」
ソウジの答えは決まっていた。少々行儀は悪いが――ソウジは食べる手を止めずに言った。
「はぐ、むぐ・・・・・・・・・・美味え」
「ふふふ。そうか、それは良かった。じゃあ、私も食べようかな」
そのソウジの答えを聞いたウタハは少し笑った後、「いただきます」と言って自身の作った炒飯を食べ始めた。
ミレニアム自治区にある一軒家のあまり大きくない食卓。ソウジはその食卓に、不思議と温かさの様なものを感じていた。
「ソウジ君。炒飯はまだまだおかわりがあるんだけれども、いるかい?」
「くれ」
「ふふっ、少し待っていてくれ」
そしてウタハもまた、この時間に温かい物を感じていたのだ。
◣◥◣◥
「この部屋は使って無いから好きに使ってくれ」
「・・・・・アレ、
ソウジは案内された生活感の無い――新品同然のベットだけが置かれた部屋の前で呟く。やはり、家に初対面の男を連れ込むのは頭が可笑しいと心配になった。
その言葉にウタハは首を傾げて、至極真っ当な事を言う様に言った。
「嘘なんて言って私に何か得があるのかい?」
「嫌、無えがな・・・・・」
柄にもなく、ソウジはウタハの善性を心配したのだ。その善性が、真面目さが、何時か食い物にされてしまうのではないか――自身の父の様に。
(ちっ・・・・・)
思い出したくも無い事を思い出し、ソウジは少し眉をひそめる。
それを感じたのか、ウタハはソウジの顔を見上げて言った。
「どうしたんだい?」
「何でもねえ・・・・・少し眠くなって来ただけだ」
「ふむ・・・・・もうそんな時間か」
そんな誤魔化しに気付かず、ウタハは壁に掛けてあるアナログ時計を見て言う。壁に掛けられた時計は、10時を指していた。
「うん、じゃあ・・・・・ソウジ君」
「あん?」
「おやすみ。良い夢を」
そう、ウタハはソウジに言った。
その言葉に、ソウジは固まる。誰かからそんな言葉を送られるのは何年振りだろうか。
「・・・・・ああ」
ソウジはそう答えるしか無かった。その言葉の返し方など、とうに忘れてしまっていたから。
そしてウタハは去って行った。ソウジは扉を閉め、ベットに寝転がる。
今は同仕様も無く、人との繋がりが恋しくなった。
「・・・・・ったく。ソレは、捨てた筈だろ」
――ソウジさん、その生き方は何時か限界が来ますよ。クックック・・・・・。
ソウジは黒服の言葉を思い出した。
手を頭の後ろで組み、天井を見上げながら思う。
(まあ・・・・・・・・・・偶には悪く無えかもな)
ソウジを照らした、ウタハの善性。
燈火となるか、消えて行くか。ソレがどんな変化を齎すかは、まだわからない。
◣◥◣◥
ミレニアムサイエンススクール。それは「千年難題」という七つの難題に立ち向かう研究者達の集まりを雛形としてできた研究者や開発者の為の学校。
白石ウタハもまた、その学校の――最近中等部を卒業し、高等部に上がったばかりの――生徒の一人だった。
ハードウェアの天才。それが彼女の中等部からの評価。
天才と云うのは理解され難い物だ。彼女の成果が、努力の賜物だったとしても、それを見分けられるのがどれ程居るだろうか?
だから、彼女が善人であろうと、努力家であろうと、周囲はまだ一年生の彼女を腫れ物の様に扱う。
無論、知り合いと呼べる様な人物は居たが、彼女達が見るのは「ハードウェアの天才」。組織である弊害。そう、彼女達が見ているのは
故に、彼女は一人だった。
そんな中に、ふと、彼女はある拾い物をした。「縁」という、不思議な拾い物を。
彼女は持ち前の善性を発揮し、その「縁」から、ソウジとの出会いを手繰り寄せた。
「うーん・・・・・明日の朝ごはんはどうしようかな」
――退屈が裏返る。
ソウジとの出会いに、彼女はそんな予感を感じていた。