特別な日々が特別じゃなくなるまで   作:文才の無い本の虫

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第三話「悪い大人の企み」

 

 

 

 

 

微かな可燃性ガスの匂い。

 

それを感じ取ったソウジは瞬時に飛び起きる。ブラックマーケットという極限環境で生活していた為、ソウジの身体には火薬に類する物の匂いや物音等で起きる癖が付いていた。

 

 

(毒や睡眠薬の類じゃ無え。血の匂いは無えが・・・・・ウタハは無事か?)

 

 

そのままソウジは部屋の戸の向こうに誰も居ない(人の気配を感じない)のを確認して匂いの発生源に急ぐ。ソウジ自身は気付いていなかったが、何時も無意識で消している足音を立ててしまう程度にはソウジは焦っていた。

 

ソウジがリビングに入った事に気付いたウタハが振り向き、それは杞憂に終わった。

 

 

「おはよう、ソウジ君。今、朝食を作っているんだけど・・・・・そんな所で突っ立ってどうしたんだい?」

 

 

微かな可燃性ガスの匂い――それはウタハがガスコンロを使った事によるものだったと理解したソウジは固まった。

 

ソウジは、何時もとは違う場所に居るのだと実感する。昔は、自分もこんな平穏を享受していたのだろうかと思いながら。

 

 

(ったく・・・・・)

 

 

その雑念を抱いた自分に呆れる様にソウジは頭を掻き、誤魔化す為にウタハに言う。

 

 

「あー・・・・・何でも無え。お前が自分で朝飯を作ってて驚いただけだ」

 

 

「む?そうかな?普通だと思うんだけど」

 

 

手を止めずにウタハは不思議そうに言う。

 

キヴォトスでは各学校で基本的に給食や学食、購買といった仕組みがあり、自炊するよりもクオリティが高いものが手軽に安く手に入る。無論、質より量ではあるもののブラックマーケットでもだ。その為、キヴォトスで朝食まで自炊する生徒は案外少ない。

 

 

「それにしてもすげぇ手際が良いな」

 

 

「まあ、一人暮らし(独り)には慣れているからね」

 

 

そう、ウタハは笑って言う。

 

ソウジはちらりと周囲を見渡す。一人暮らしには大きい――家族が暮らすレベルの大きさの一軒家。ソウジが見る限りこの家にはウタハ以外の生活の痕跡は無い。

 

何故かソウジにはウタハの表情が陰っている様に見えた。

 

 

「・・・・・さ、出来たよ。簡単なものだからソウジ君の口に合うと良いけど」

 

 

空気を変える様にウタハは言い、食卓に二人分の和朝食を並べた。レンジで温めた白米に、味噌汁、焼き魚。ソウジは食欲に抗えず、ウタハの対面に座った。

 

そして――ウタハに倣って手を合わせた。

 

 

「「いただきます」」

 

 

ソウジはコレで最後になるだろうと、確りと噛み締めて食事を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◣◥◣◥

 

 

 

 

 

 

「うーん・・・・・」

 

 

ソウジがウタハの家から去って、一週間が経った。

 

ウタハは引き止めることはしなかった。何故なら彼と彼女はただの知り合いで、それぞれの生活が在るはずだと思ったから。

 

だが。

 

 

「ふむ・・・・・案外寂しいものだね」

 

 

また、この一軒家に一人。たかが一日、されど一日。ウタハはソファーに寝転がりながらスマホを起動し、モモトークという連絡用アプリを立ち上げる。

 

そのアプリのトーク欄の一番上の『ソウジ』という字を眺める。これはソウジが去る前に少々強引に入手した連絡先。

 

 

「ソウジ君は今頃何をしているんだろうか」

 

 

そんな事をぼやきながらウタハは考える。どうすればあの青年と再会出来るかを。

 

 

「うーん・・・・・流石に連絡するのは恥ずかしいな」

 

 

彼女はヘタレだったが、ハードウェアの天才たる彼女の脳は即座に代案を出した。

 

即ち、ファーストコンタクトの場所。

 

 

「あの公園に行ってみようかな」

 

 

スマートフォンをスリープモードにし、彼女はソファーから起き上がる。

 

そしてふと一週間前にソウジが言った言葉を思い出した。

 

 

「ああ、そう言えばソウジ君に『ブラックマーケットとかに来る時は出来るだけミレニアムの制服はやめとけ』って言われたんだっけ」

 

 

ウタハはいそいそと上着を脱ぎ、地味めな茶色いコートを羽織る。そして姿見の前でくるりと回り、ミレニアム生には見えないだろうと納得して銃を持ち、外に出た。

 

 

「さて、ソウジ君と会えるかな?」

 

 

彼女の足取りは軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ウタハがブラックマーケットに向かうのを密かに見ている人形のオートマタが居た。その肩にはカイザーPMCというロゴが見受けられる。

 

 

「・・・・・理事、対象がブラックマーケットに向かった模様です」

 

 

『ほう?護衛や監視は?』

 

 

「見受けられません。どうされますか?」

 

 

『人の目が切れた瞬間に攫え。奴の作り出すタレットがあれば私の昇進も確実なモノになる』

 

 

「了解しました、()()()

 

 

ウタハに、悪意が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◣◥◣◥

 

 

 

 

 

「クックック・・・・・お久しぶりですね、ソウジさん」

 

 

ソウジは不機嫌そうに目の前の黒い大人――黒服に言う。ソウジは黒服があまり好みでは無かった。

 

ゴキブリみたいで(気付けば何処にでも居る黒い奴なので)

 

 

「黒服、何の用だ」

 

 

「いえいえ、耳寄りな情報があるのですが。ソウジさん、貴方はコレを見たことがありますか?」

 

 

黒服はスーツの胸ポケットから写真を取り出す。その写真をソウジに渡した。

 

ソウジはその写真を一瞥して言う。

 

 

「あ?・・・・・コイツはタレットか?」

 

 

「ええ。あるミレニアムサイエンススクールに通う生徒が作り上げた、戦場の常識を変えるモノ」

 

 

「それがどうしたってんだ」

 

 

黒服は頷き、芝居がかった様に語る。ソウジからしてみれば一秒でも早くこの変人との会話を切り上げたかった。

 

ソウジは脈絡が無いと顔を顰め、話を急かす。

 

 

「それがですね、そのタレットの製作者が攫われたと言うのですよ」

 

 

それから黒服はソウジにある少女を連想させる情報や断片的な情報を話していく。

 

曰く、攫ったのはカイザーPMC。

 

曰く、攫われた少女は誰かに会いに行くためにブラックマーケットに変装して行った。

 

曰く、黒服はカイザーPMC理事長と繋がっており、誘拐に関しては無関係である。

 

曰く、カイザーPMC理事長は攫った少女を脅して強制労働若しくは設計図を吐かせるつもりである。また、その為には手段を選ばないだろうと。

 

聞いていく内に、焦燥感を募らせるソウジは黒服の思惑に気が付き、舌打ちを打つ。

 

 

「チッ・・・・・手前(テメェ)、わざとだな?」

 

 

「クックック・・・・・ご想像にお任せします。ですが、こうしていて良いのですか?」

 

 

ソウジは、黒服に返事をすること無く走り出した。向かう先はブラックマーケットにあるカイザーPMCの基地。

 

走りながら、ソウジは呟いた。

 

 

「・・・・・ったく。待ってろよ、ウタハ」

 

 

彼は、貸し借りを嫌う。だが。

 

 

「俺は、借りっぱなしは死んでも御免だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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