特別な日々が特別じゃなくなるまで 作:文才の無い本の虫
「んで、詳細は?」
「クックック・・・・・そう急いても依頼は逃げませんよ。取り敢えず一杯どうでしょうか?」
「ったく。奢りだな?」
「ええ。呼び付けたのは私ですからね」
ソウジと黒服の決まり事は幾つかある。縛りと言っても良いだろう。その一つが『依頼等で呼び出した時は呼び出した側が相手に一杯奢る』と言ったもの。
ソウジは慣れた手付きでブラックコーヒーを注文する。黒服も同じ様にソウジと同じものを注文した。
暫くして給仕のオートマタが運んで来たソレを啜りながらソウジは黒服に問う。
「アビドス砂漠っつーと
「ええ。ソウジさんのご想像の通りの相手ですよ」
ソウジはその言葉に、一度遠目で見た白い大蛇を思い出しながら言う。
「ほー・・・・・今回のはアレの調査って訳か?」
「間接的にはそうなりますね。今回の依頼はアビドス砂漠の指定した区域にセンサーを設置して頂きたいのです」
「オーケー。じゃ、今から行く」
「そう言うと思いまして、持ってきましたよ。重労働でしたが・・・・・コレが地図とセンサーです。センサーは投げれば自動で微調整を行うので出来るだけ等間隔でお願いします」
ソウジは黒服が取り出した袋と地図を受け取り、ブラックコーヒーを一気飲みする。
(ウタハの迎えに行くのが遅れると不味い。手早く終わらせるか)
そう思いアビドス砂漠に向けて人目を避けながら走り出した。
「・・・・・おやおや・・・・・・・・・・巡り合わせ、運命・・・・・クックック。いえ、実に愉快な偶然ですね」
「私の意図したものではありませんが・・・・・ソウジさん、貴方はこの出会いから、どのような物語を描くのでしょうか?」
「おっと、少しマエストロの言い回しが感染ってしまいましたね、クックック・・・・・」
◣◥◣◥
「はぁ、だだっ広いな」
そうぼやきながらソウジは黒服から渡されたセンサーを等間隔――驚くべき事に十数センチ程の誤差――に投げていく。早くもソウジがアビドス砂漠に着いてから数十分が経過していた。
それからもソウジは等間隔にセンサーを投げながら、広大なアビドス砂漠の指定された区域を端から端へと走り続ける。まるでシャトルランだ。
そこから数時間を掛け、ソウジは昼が過ぎた頃に指定された区域のセンサー設置を終えた。
「・・・・・ん、これで終わりだな」
ソウジは地図を見て言う。黒服の事だから無いとは思うが、難癖を付けられぬ様に仕事の出来を二重にチェックする。
ブラックマーケットでの仕事は依頼主に報酬を値切られない様に確認が重要なのだ。
「帰るか」
そう言ってソウジは空を見上げ、市街地に向けて移動を始める。
此処から市街地まで一時間、遅めの昼食を済ましてもウタハの迎えまでは時間が空く。
(思いの外早く終わった・・・・・ウタハにケーキでも買ってくか)
そんな事を考えながらソウジは走って行く。暫くして、倒れている人影を見つけた。
(・・・・・面倒事は御免だ)
素知らぬ顔でソウジはその横を通り過ぎようとする。
その時、ソウジの耳がその人影から発されたであろううめき声を聞き取った。
「・・・・・う、ぅ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」
ため息を着いてソウジは立ち止まり、その人影に近付く。そして、その人影――鶯に近い水色の長髪の少女に声を掛けた。
「おい、お前」
「だ・・・れ・・・・・?」
(ヘイローが欠けた上に明滅してんな。手遅れだな)
ソウジは気紛れにその少女に名乗る。
「俺は通りすがりの『掃除屋』だ」
「そう・・・じ、や・・」
「遺言ぐらい聞いてやる。あるか?」
ブラックマーケットで死を見慣れたソウジの気紛れ。
暫くして少女は口を開いた。
「・・・・・・・・・・やさしい、ね・・・」
「あ?」
少女のヘイローの明滅が酷くなる。
「ホシ、ノ・・・・・ちゃ・・・・・きせきは・・・」
その少女の意識は既に朦朧としており、ソウジを認識しているかも怪しかった。
だが、少しだけヘイローが安定し、少女の瞳が
「みがって、だけど・・・・・そう、じ・・や・・・さん・・・・・ホシノちゃん、を・・・・・おねがい」
そう言って少女は息絶えた。
特に感慨も抱かない他人の死。その少女の名前も、性格も、何故死んだのかもソウジは知らない。ブラックマーケットにはありふれていた事だ。
だが、
(ホシノ、ね・・・・・)
気紛れか、誰かの影響か、ソウジは少しだけその遺言を胸に留めておく事にした。
そしてソウジは市街地に向けて走り出した。
◣◥◣◥
一日の授業――と言ってもBDの視聴と課題の提出なのだが――を終え、部活動の見学や説明会を回り、ウタハは帰路に就く。
一緒に帰る友人や先輩も居ない帰り道。中等部からの日常。
だが、
「ウタハ」
彼女を呼ぶ声がする。
ウタハは声が聞こえた方を向く。其処には黒いスーツに身を包んだ青年――ソウジが校門の外に立っていた。
「ソウジ君、待たせちゃったかな?」
「いや、今来たところだ」
ソウジはウタハに――本人も気付かない程小さく――笑い掛ける。
その様子にウタハは目を見開き、そして笑った。
「ふふふ、じゃあ、帰ろうか。エスコートをお願いできるかな?ソウジ君」
「ああ。鞄持つぜ」
「うん、ありがとう」
ソウジはウタハの鞄を持って隣に立つ。
そうして二人は帰路に就いた。