肉体年齢を操作できる病弱男子生徒が血反吐を吐きながらホシノを曇らせるお話 作:絶対正義=可愛い
タツヤが眠り、冬が終わって桜が咲く季節が来た。
ネフティスのご令嬢のノノミちゃん。
記憶喪失の拾い子シロコちゃん。
心の何処かでは、こんな寂れた学校に新しい人なんて来ないだろうと思っていたが、タツヤやユメ先輩の言う通りだった。
後輩ができた。
それも、私にはもったいないほどいい子たちが。
「それじゃおじさんは
「…はい。分かりました」
「ん、私もそろそろ保健室の謎について知りたい」
「う〜ん、それじゃあ私のことを先輩って呼べるならいいよ〜?」
「なら勝負しよう」
「うへ〜、シロコちゃんも懲りないねぇ〜?」
ノノミちゃんにはもう知られてしまっているが、シロコちゃんにはタツヤのことは伝えていない。
伝えた方が良いということは分かっているのだが、どうしても尻込みしてしまう。
シロコちゃんの根が良いのは分かっているが……それでも不安なのだ。
……いや。
ただ、思い出に踏み入ってほしくないという
シロコちゃんを適当にあしらって保健室に来る。
ここの鍵は私しか持っていないため、ドアを壊すとか物騒な事をしない限り開かない。
鍵をさしこみ、ガチャッという開閉音とともに滑り込むようにして中に入る。
念の為、鍵を内側から閉める。
普通の保健室というのは薬品の匂いでツンとした空気になるものだが、薬品系のものは全て売り払ってしまっているためそんな空気は皆無だ。
置いてあるものなんて、シングルサイズのベッドに、申し訳程度にある救急箱程度だ。
保健室とは名ばかりの、タツヤの居城。
ベッドに横たわるタツヤを見る。
そのベッドの両脇からは、銀白色の髪が簾のように垂れ、テーブルクロスのようにベッドの下の空白を覆い隠している。
そっと、そのベッドに近づき、近くにある椅子の上に座ってその寝顔を眺める。
その顔はとても安らかだ。
タツヤの手を握る。
生気が無いように、冷たい。
生命の温もりが感じられない、無機質な温度と、それに反する人としての柔らかさが握った手から伝わる。
タツヤの胸に顔を横にして押し当て、耳を澄ませる。
生命の象徴たる鼓動は、やはり聴こえない。
「……やっぱり、動いてないか」
心臓が動くこともなければ、脈があるわけでもない。
呼吸をするわけでもないし、寝返りをうつこともない。
それでも、話すんだ。
今日あったことを……。
「今日はね、色々あったんだ〜」
『時』が止まる。
理解はしていても疑ってしまう。
「みんなでバイト帰りに指名手配犯に遭遇しちゃってね〜」
手を握って話しても、その手に力が加わることはない。
「たしか……やく、厄災?災厄?まぁ、細かいことはどうでもいいかな。狐のお面の人とドンパチしたんだよ〜」
体温が感じられない。
「中々強くてね〜?シロコちゃんも強くはなってきたんだけど、ちょっと手こずっちゃったんだ」
まるで□□みたいだ。
「っ!で、でね!その人を何とか撃退したんだけど、そしたら今度はシロコちゃんが勝負してって襲いかかってきてね」
考えるな考えるな考えるな!!
違う!!
タツヤはちゃんと生きてる!!
「まったく、困っちゃうよね?それでね、えっと、えっと…」
――ほんとうに?
「…っ!!だから、だから、えーっと……」
――あの日抱えたユメ先輩と、どこが違うの?
「う、うへ……何言おうとしてたんだっけ?」
――ねぇ、いい加減認めちゃいなよ。
「うるさいっ!!!」
――現実逃避は良くない。
「タツヤはちゃんと、
――じゃあ、どうして
ユメ先輩は守ってくれなかったの?
「……っ……ぅあ……タツヤぁ、早く、早く起きてくださいよ……私、もう、心が……」
タツヤを信じられない、自分の心が嫌いだ。
何も守れない、自分の弱さが嫌いだ。
私のためにしてくれたことに、報いられない自分が嫌いだ。
期待に応えられない、自分が嫌いだ。
尊敬していた先輩の、想いを疑う自分が嫌いだ。
どこまでも子供である自分が、何よりも大嫌いだ。
ホシノ先輩はアビドス高等学校最後の生き残りである。
私はもちろん、周囲の同級生の人たちもそう認識していた。
その人を見るまでは。
名前は知っていた。
歴舟タツヤさん。
キヴォトスでも珍しい、男性型生徒。
風に聞く噂では、幼い子供の姿をしていた、青年の姿をしていた、大人だったなど諸説ある。
戦闘スタイル、性格、性別、名前。
その情報が揃っていながら、容姿についての言及がバラバラ。
対比するように、「暁のホルス」と呼ばれていたホシノ先輩と対を成して、「
アビドスが3人を置いて去り、生徒会長が行方不明になって、てっきり、もう一人も行方をくらませたものだと思っていた。
実際はもっと酷いものだった。
歴舟タツヤさんは……昏睡状態だった。
しかも、心臓も脈も呼吸すら止まってしまった。
ホシノ先輩は「眠っているだけ」と言っているが、私が見る限り、真実や事実がどうであれ、今の歴舟タツヤさんは死んでいるのと変わらないと思う。
喋らない、温もりがない、息をしていない、脳すら動いているか怪しい。
そんな人を、本当に生きていると言えるのか。
ホシノ先輩がその人を見る目はいつも優しい。
けどその瞳の中に渦巻く、『後悔』や『自責の念』みたいなものを垣間見た時、ああ……きっとこの人は、今も過去に囚われ続けているんだと理解してしまった。
その眼を、私は知っている。
毎朝鏡に映るそれと、似ている。
違うのは、私が知っているそれよりも淀んでいて、闇が深いことか……。
出会い方や、過ごしてきた日々を通じて、ホシノ先輩がとても強い人ということは分かってきた。
それと同時に、心がとても脆い人なんだとも。
「…ぁ……っ、う……ぅ」
だから、だから…!
ホシノ先輩には支える人が居ないといけない。
静かに聞こえるしゃくり声を扉越しに聞き、静かにその場を離れた。
タツヤとユメ先輩が居て、ノノミちゃんもシロコちゃんも居て、
みんなで
『ほらほら皆で一緒に写真を撮ろうよ〜』
ユメ先輩がカメラを持って腕を振っている。
『俺パトロール、パス』
タツヤが冷や汗流しながら自分の得物である
『駄目ですよ先輩?ほらほら!』
そこでノノミちゃんが、タツヤを止めるために脇に手を挟んで持ち上げる。
『あ、おいノノミ!!やめろ、俺の身長の低さが露呈するだろうが!!』
『ん、タツヤ先輩はチビだから、露呈もなにも事実』
シロコちゃんがドヤ顔でタツヤの前に出ておちょくる。
『テメェの方がチビだろぉがァ!?何イキってんだぁおい!!?』
それに憤慨してるタツヤが四肢を振り回してるが、体格が災いして虚しい抵抗となっている。
『ん、私は将来性がある。先輩には無い』
えっへん!と胸を張りながらまたもやドヤ顔で勝ち誇った笑みを浮かべるシロコちゃんに、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、タツヤが口をワナワナしながら言う。
『上等だゴラァ……表出ろ狼娘ェ……!!』
『ん、のぞむところ!』
『シロコちゃん?』
『タツヤくん?』
ノノミちゃんがシロコちゃんににっこり微笑んで、
ユメ先輩がタツヤに「めっ」してる。
『『…………』』
フイッと同じタイミングで目を逸らす。
『『いや、だって…』』
またもや同じタイミングで言い訳しようとするタツヤとシロコちゃんを見て、ユメ先輩とノノミちゃんが目を合わせてからからと笑う。
『もう!それよりも写真撮ろうよ』
『そうですよ〜?ほら、先輩も逃げないで』
しぶしぶ、仏頂面のタツヤが頷く。
『ほらほら皆集まって!』
『シロコちゃんいきましょ?』
『ん』
『ったく……ほらホシノ!』
『……え?』
呆れたような顔をしながら私を見つめるタツヤ。
『ここまで来て抜け駆けは許さねぇ。一人外れてもいいなら俺とここ代われ』
『タツヤくん?』
『タツヤ先輩?』
『ん、サボりは良くない』
『………あーもう、わーったよわかった!抜けねぇって!』
地面にまで垂れる銀白色の髪をガシガシと掻いて、私に向けて手を出すタツヤはめんどくさそうに言った。
『ほら、テメェも道連れだ』
『…っうん!じゃあ、私もそうさせてもらおうかな〜』
その手を取ろうとして………、
そこにいた4人全員が砂となって崩れ落ちた。
『…ぇ?』
いつの間にか、生徒会室から砂漠に。
『ノノミちゃん……?シロコちゃん?』
周りを見る。
『タツヤ……!!ユメ先輩…!!』
何もない。
一面砂で覆われた大地に、私は立っていた。
『あ、あれ……?どうして、私…こんなところに……?』
そして、理解する。
『あ』
そっか。
そうだよ。
あんなのが現実なわけないじゃないか。
全部…
あんな
だって、ユメ先輩は……、タツヤは……っ!!
ああ、いつもの悪夢だ。
分かってる。
これは悪い
何度もみた。
だから、この後起こるのは……。
ごっ、と足元に何かが当たる。
何かなんて言わなくても、正体は分かってる。
『ユメ…先輩』
あの日、砂漠で発見したときと変わらない姿のユメ先輩が、足元にいた。
『こうなったのは、お前のせいだろ?』
後ろから、聞き覚えのある声が聞こえる。
…あの日、病院のガラス越しに見たタツヤがそこにいた。
『っタツヤ』
『お前があの日ユメ先輩と喧嘩したから……』
『違う…違うの……』
『あの日、俺の助言を聞かなかったから』
『あの日は、つい、勢いで言っちゃっただけで……』
『違わねぇぞ小鳥遊ホシノ』
『あの日おまえは、紛れもなく自分の本音を吐露したろ?』
『奇跡なんてものはない、甘ったれるな、いい加減現実を見ろって、パイセンに聞かせた言葉は、おまえの本心だ』
『ちが…』
『違わねぇよ。お前がその後何をどう思ったかなんてものは関係ねぇ』
『おまえは蓋をするべきだったんだよ』
『自分の気持に』
『自分の存在に』
『感情に』
『『だってそうすれば』』
足を誰かに掴まれる。
下は……見ない。
見たくない。
『『パイセン/私は死ななかったから』』
分かってる。
分かってる。
これが夢で、二人がそんな事を絶対に言わないって、わかってる。
私の妄想だって、分かってる…けど……!!
「つらいよ……」
ふと、頭に心地よい感覚が襲う。
「ったく、起き抜けにガキのお守りとか、俺はベビーシッターになったつもりはねぇぞアホ毛」
主人公
歴舟タツヤ
→今回の登場はホシノの夢の中と最後の目覚めしかない。
なのにホシノを曇らせる主人公にあるまじき所業の男。(褒め言葉)
小鳥遊ホシノ(二年生)
→日常生活で問題が無いように見えるだけで、心はしっかりと壊れかかってる。後輩の存在が繋ぎ止めているだけ……。タツヤのベッドに来ては、無意味にも毎日あったことを話しかける様は、見る人が見れば健気であり、痛々しい。
十六夜ノノミ(一年生)
→タツヤのことはユメとは違い失踪していたと思っていた。死んだように昏睡しているタツヤの姿を見てしまっている。ホシノの内面の闇に気づいている。……私が支えなくちゃ。
砂狼シロコ(一年生)
→この時期は「勝負しろウーマン」。まだ何も知らない真っ白な子。
梔子ユメ
→故人。失った命は戻らない。
狐の仮面のあの人
→シロコとノノミを庇いながら戦ったホシノに善戦。関わってはいけないタイプの人間だと判断し速攻逃げた。
ホシノユメ
→自分の願望が映し出された世界であり、自身の罪を再認識する世界でもある。この世界の人は決してIFの世界ではなく、ただのホシノの幻想。そこで紡がれる言葉は全て、ホシノ自身が自分に向けて言っている言葉に過ぎない。
究極的な、現実逃避の一人芝居。
曇らせたい。
希望をちらつかせて、どん底に落とすそんな曇らせがぁ。
曇らせのない、いわゆる日常回的なものを挟んでも良い?
-
良き
-
ダメ
-
好きにしやがれ