ゼンレスゾーンVI Hollow in the ERIDU 作:スロー、スロー、クイッククイックスロー
親愛なる新しいご友人。またこの小説を開いてくれたのですね。感激だ……。
感想もお気に入りもこんなに……本当に心が躍ります。
今回も楽しんでいってくれたなら、素敵だ……。
ーー設定時刻経過。脳深部エーテル管理デバイス起動ーー
ーー報告、現在時刻午前7:00ーー
ーー推奨、速やかな起床ーー
「……」
ーー報告、現在時刻午前7:01ーー
ーー推奨、速やかな起床ーー
「……ッ」
ーー報告、現在時刻午前7:01:30ーー
ーー報告、現在z「わかった、わかったから黙れ!」
ーー否定。当機の一連の行為は明星九遠からの命令に基づくものであり、該当人物の起床が観測されるまで30秒経過ごとに繰り返されるーー
ーー推奨、速やかな起床ーー
「わかったおはよう!……これでいいだろ?」
ーー強化人間E4-621の覚醒を確認ーー
ーーメインシステム通常モードに移行ーー
黒髪の青年、九遠が乱暴に起き上がる。
跳ね飛ばした布団が宙を舞い、もう一度布団の上に舞い戻った。
「ったく……目醒め最悪だ。」
ーー当機に対する苦情と判断。一連の出来事は全て明星久遠の行動によるものであり、脳深部エーテル管理デバイス管制人格ユニットである当機に一切の非はないーー
「あーはい、悪かった。」
ーー尚、このやり取りは今月既に17回繰り返されている。推奨、有意義な時間の活用ーー
頭の中に響く嫌味な声に、九遠は思わずといった様子でガリガリと頭をかいた。
腹は立つ。しかし彼は、コレに何を言い返したところで数倍以上に跳ね返ってくるこを知っている。
諦めた様子でカーテンを開けると、明い日差しが薄暗かった部屋へと差しこんだ。
薄ぼんやりとしていた頭が回り始め、不意に腹の虫が空腹を訴えて鳴き始める。
「なんか食うものあったっけ。」
ーー肯定、昨日、当機の助言により購入した発酵乳製品が冷蔵庫3段目の右端側に保管されているーー
「あーい」
甲斐甲斐しく世話を焼いてくる声、正式名称……は、長いので割愛する。に従い九遠は冷蔵庫に手を掛けた。
さらに棚からスプーンを取りだそうと手を伸ばし……途中で面倒になったのかその場でシール蓋を開けて中身を口へと流し込んむ。
ーー推奨、食器の使用ーー
「ふふへぇ(うるせぇ)」
鼻に抜ける爽やかな酸味を数度の咀嚼の後に一気に飲み込む。合成音のくせに呆れたような苦言も知ったことかと口元を拭う。
さらにもう一度冷蔵庫を覗くと、今度はパックのコーヒーを取り出した。
眠気覚ましにはちょうどいい。
また説教を食らうのも癪だ。久遠は今度こそ棚まで手を伸ばしてマグカップを取り出す。
しかし、そこでまた横槍が差された。
ーー報告ーー
「今度は何だ?」
ーー今月、同メニューの朝食を既に17回摂取している。提案、自炊ーー
「やかましいわ!」
スパン!
冷蔵庫の戸が思い切り締められる。
「ちゃんと調整もしてるだろ!姐さんも体内エーテルの量に気をつけておけば問題ないって……」
ーー否定、今の明星久遠の発言は“普通の人生”とは大きく剥離した考え方の現れである。ソレを許容する場合、当機はハンドラーからの最終命令に背くことになるーー
ーーハンドラーからの最終命令が最優先事項として登録されている以上、当機の思考アルゴリズムにおいて今の発言は肯定できないーー
ぎゃあぎゃあと騒がしい。防音がなされていない部屋なら隣近所からクレームが入ること間違いなしだ。
今月に入って17回目の朝は、そんなくだらない時間が埋め尽くしていった。
◇◇◇
すっかり太陽が昇りお昼時。場面はとある高校の教室に移る。
「この世にはうんざりすることが多すぎる……」
まるで悟りでも開いたような静かな響き。
しかしソレは、グレネードが爆発する直前に訪れる一瞬の静けさのようなものにすぎない。
「そうは思わないかね明星くん!」
ビシィッ!
そんなSEでも鳴りそうな勢いで、拳から突き出た人差し指が向けられる。
その指先をたどっていくと、金色のショートカットに前髪を持ち上げる赤いカチューシャ。何故か覇気のようなものを浮かべたグリーンの瞳。
クラスメイト、ルビーの姿がそこにはあった。
彼女の腕を横にずらすと、困ったように笑う……というか実際に困っている九遠の顔が現れる。
「えっと、なんで俺?」
「だぁってぇ……」
突然覇気が消え失せ、ムスッとした表情で顔をそらすルビー。
聞けば、面倒くさそうな授業をサボっていた結果、とうとう単位が危ないとのこと。暫く真面目に全授業出席する必要があるそうだ。
そもそもサボる事自体どうかと思うが、彼女にとっては死活問題なのだろう。
「ありゃりゃ……ん?」
しかしそこで、ふと九遠の頭に疑問がよぎる。
確か、彼女が授業をサボるときは決まって仲の良い友人が連れ立っていたはずだ。
「エレンさん達は大丈夫なのか?」
「あ〜ソレがねぇ……」
今までの表情が一転し、しゅんと俯くルビー。
九遠をさしていた指先同士を突き合わせ、大きなため息をついた。
「3人とも出席日数はちゃんと計算してサボってたみたいでさぁ。単位が危ないの、私だけなんだよね。」
ひどい落ち込みようだ。もしやすればその場で体操座りでもしそうなほど、と言えば伝わるだろうか。
「で、置いて行かれちゃったから俺に絡みに来たわけね。」
「うぅ〜〜!あんなに薄情だったなんてぇ!」
教室を見渡しても、ルビーの3人の友人は見当たらない。
どうやら彼女の情緒は、そういう理由で不安定だったようだ。
「私も新作ラテ飲みたかった……」「女子会行きたかった……」「新作スイーツ食べたかった」「私もetc……」
「えーっと……ところでルビーさんや。何か用があったんじゃ?」
口からの愚痴に加えて、とうとう全身から怨嗟らしきものまで溢れ出し始めたルビー。
九遠の困ったような声にハッと我に返り、ゴメンゴメンと手を合わせた。
それから素早く周りのクラスメイト達の様子を確認すると、なにやら神妙そうな顔で九遠に耳打ちをする。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「?……いいけど」
いったい何事か。困惑しながら頷く九遠。ルビーは口に手を当て、さらに耳元に近寄ってくる。
はて、最近何か彼女に興味を持たれるようなことをしただろうか。首を捻って、記憶を絞り出そうと試みていると、
「明星君ってさ、」
「うん」
「エレンのことどう思ってる?」
「……ウェ?」
思いも寄らないセリフに九遠の口からはらしくない素っ頓狂な声が漏れ出た。
なぜならビリーとコミックで読んだから。後、アンビーと映画のビデオで見た。
「ちなみに聞くけど、なんで?」
「この前、空き教室に2人っきりでいるのを見たって人がいて!」
おまけに二人の距離が随分近かったとのだと聞いたらしい。九遠の目の前に、ルビーのキラキラした瞳がずいっと迫る。
エレン・ジョー。
いつも気だるい雰囲気を漂わせているサメのシリオン。成績優秀、運動神経も抜群。この学校でも1位2位を争う有名人であり、毎日のように学校中の部活から勧誘を受けるような人物。
ルビーの親友である3人、凛、モナ、エレンの内一人でもある。
そんな彼女と自分が、そっち方面で誤解をされるような事しただろうか。九遠は数瞬頭を巡らせ、
「……してたわ。」
合点がいったと手を叩く。
確かに1週間前くらい前、二人っきりで空き教室にいた覚えがある。
「ホントに!?」
ただ残念ながら、そこに至った経緯は目の前の彼女が待っているような甘酸っぱいモノではない。
「ほら、エレンさんって尻尾触られるの嫌がるだろ?逆に俺は翼を触られるの、むしろウェルカムだからさ。前から理由が気になってたんだと。」
「ふーん?でもソレって空き教室でコソコソ話すようなこと?」
「それはほら、俺の翼ってこんなだろ?」
九遠が親指で自身の背を差す。
優雅に揺らめく右の翼と、なにもない左の背。
「エレンさんが気を使ってくれてな。」
気がついたときには隻翼で、自力では飛ぶことすらできなかった。同じ鳥類系のシリオンには同情されるか、酷いときには気味悪がられる程。
種族は違えど同じシリオン。そういった事にうっすら気がついていたのだろう。
だから人目を避けてくれたようなのだが、まさかその気遣いがこんな誤解を生むとは夢にも思わなかった。
ルビーの表情を伺うと、そこには「私、つまんないです」とデカデカと書かれている。
「なーんだ。エレンにも春が来たかと思ったのに。」
「噂なんてそんなもんさ。」
「そっかぁ……。ちょっと、いや結構残念。」
「残念?」
九遠が聞き返すと、彼女は頷く。
「エレンってさ、誰にでも素っ気ないし、態度も変えないし、ずっとだるそうじゃん?」
そこがいいんだけど!と目を輝かすルビー。
紛うことなく、彼女達は大親友なのであろう。九遠はそう思った。
「人付き合いもいいとは言えないし……だから、転入生の明星君を急に呼び出すなんてもしかして!……って思ったんだけどなぁ……。」
「一目惚れってこと?ないな。第一、気持ち悪いだろこれ。片腕がないみたいなもんだ。」
「え、そう?ツヤツヤで気持ちいいし、むしろかっこよくない?」
淀みないルビーの言葉。本心からであろうその言葉に、九遠の目が丸く見開かれる。
「……それ、本気で言ってるのか?」
「うん。この前ね、友だちがやってたゲーム見せてもらったんだけど、そのラスボスがそれはまーかっこよくってさ!本気を出した時にちょうど明星君みたいな翼が生えてくるんだけどそれがまたクールなんだよねぇ。」
「………」
はてさてなんのゲームだったかな、と、今度は彼女が首を捻る。ソレに対して考え込み、黙りこくる九遠。
気を悪くさせたと思ったらしく、ルビーは慌てた様子でワタワタと腕を振る。
「ご、ごめん。デリカシーなかったかな。」
「ん?あぁ、いや。エレンさんにも似たようなことを言われてな。ともだちなんだなぁ、と。」
「へ?そうなの。」
「『なんかゲームの主人公みたいでよくない?……あ、気にしてたらゴメン』だと。あぁ、結構嬉しかったから安心して。」
「えっへへ〜。以心伝心ってやつなのかな?」
どことなく誇らしげに鼻をこするルビー。
九遠が微笑ましげにその様子を眺めていると、不意に見知った顔が3つ、教室の扉をくぐったのが見えた。
「ルビーさん。」
「ん?なになに?」
「後ろ。」
九遠が指差す先には、たった今話題に上がったエレンを始めとし、ルビーの友人たちが手を振っている。
「あっれ?!どうしたの?」
「どうしたのって……ほら、さっきも新作ラテ飲みたかったって言ってたじゃん。はいこれ。みんなで飲も?」
「おやつもあるよ!」
フリーズしたように固まるルビー。しかしソレは、ミサイルの信管が爆発する前触れのようなもので、
「みんな〜!!」
感極まって3人の友人に抱きつくルビー。
ところが、そのうちエレンだけは忍者のようにスルリと抱擁から抜け出す。
手際がいいなとぼんやり眺めていたが、ふとあることに気がつく。
視線はまっすぐ九遠を捉えていて、足が向く先もまた同じだ。
そうして目の前までやってくると、彼女はポケットからスティックキャンディーを取り出した。
「ん」
「これは?」
「迷惑料。」
赤いキャンディーに紙の棒。いつも彼女が舐めているものだ。
有無を言わさぬ彼女の態度に、九遠はできない、思わずソレを受け取ってしまう。
ソレを見たエレンは満足げに頷き、もう一本キャンディーを取り出した。
「イチゴ味。大切に舐めてよ」
「了解。」
2人揃ってキャンディーを口に含む。甘い香りが鼻に抜ける。
悪くない。似たようなものを雑貨店で見たことがあったはずだ。帰りに買っていこう。
「んで、2人はなんの話してたわけ?」
「あぁ、なんか俺とエレンさんが妙な関係になってるって噂が立ってるらしくて……」
「はぁ?」
「ま、噂は噂。すぐなくなるさ。」
「……ソレもそっか。」
誤解を解くとか面倒くさいし。
なんとも彼女らしいセリフとともに、エレンは友人たちの下へと帰っていく。
新作ラテとやらをすすって感涙するルビー、それを見て笑うモナと凛。ため息を付くエレン。
そんな3人を、九遠はただぼうっと眺めていた。
『621。翼は手入れしておけとあれだけ……』
『なに?やり方がわからない?手術の影響がそこにまで……貸してみろ。』
『これはお前の刃であり、盾だ。もし傷ついたのなら……ハァ。わかった。またここに来い。』
『いつかは自分でもできるようにしておけ。いつまもで俺がやってやれるとは限らないからな。』
『翼の手入れは誰に教わったのか?……そんなこと、お前は知らなくとも良いだろう。お前はただ、仕事をこなせばいい。』
「平和、だな。」
ぼんやりと、半ば無意識に発せられたその声は、学校中に鳴り響くチャイムの音に消えていく。
ーー……報告、新着メッセージ一件ーー
ーー差し出し人、明けの明星ーー
九遠の瞳に、光が宿った。
余談だが、あれから例の噂が消えることはなく、九遠の行動によってむしろ盛大な尾ひれがついて広まっていく事になる。
「おそろいのキャンディーを舐めているくらいには仲が良い」
と。
「あのときめんどくさがらなければよかったな。」
「だね。」
「なんでふたりともそんな冷静なの……?」
「ただの噂だろ?」
「そのうち消えるでしょ。」
「そうかなぁ……」
少なくとも、並んで飴を舐めている間は消えないだろうなぁ。
そう思うルビーであった。
「あんたソレ何味?」
「納豆。」
「………美味しいの?」
「悪くはない」
カリンちゃんってかわいいよね。頭撫でてあげたら尻尾の幻覚が見えそう。
持ってる武器が物騒なのもいいよね。マスコットとして大切なものを全て揃えている……。
カリンちゃんが弱いとか言ってるやつにはパイルバンカーぶち込むぞ★
要件はソレだけだ。じゃあな。
HI32:BU-TT/A
独立傭兵レイヴンの主要武装。
パルス波形を刃として振るう特殊な刀剣であり、破壊力と切れ味を両立させた非常にバランスの良い装備。
属性に関わらず敵のシールドを削りやすく、シールドがない場合には高周波のパルス衝撃が襲いかかる。
使い込まれて傷つき、壊れ、しかし彼はコレを手放さなかった。ただ唯一、あの暖かさを感じられる物だから。