ゼンレスゾーンVI Hollow in the ERIDU   作:スロー、スロー、クイッククイックスロー

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親愛なる新しいご友人。お久しぶりです。
またこの小説を読んでくださるのですね。感激だ……。

コロナでダウンし、指がステップを踏んでくれず、こんなにも時間が空いてしまいました……。

これから暫く不定期になるかと思われますが、待っていてくれたなら、素敵だ……。




メインシステム・戦闘モード起動

 

 

 「一つ、二つ、三つ……」

 

 

カートを引いて、目の前にいる不埒者共の数を数える。

 

 

 「五つ……あ、六つか。」

 

 

フードをかぶっていたり、仮面をつけていたり、ガリヒョロだったりダルマだったり。

 

客たちが皆怯えるなか、なんの気なしに歩を進めるメイド。そんな彼女に計十二個の目が向けられた。

 

あからさまな敵意。やっちまえだの何だのとやかましいが、はっきり言ってやろう。

 

 

こっちのセリフだ。

 

 

 「行きたかったなぁ。女子会。」

 

 

彼女は……エレンはそう呟き、勉強会兼女子会を楽しんでいるであろう友人たちの姿を思い浮かべた。

 

 

 「残業、あんた達のせい?」

 

 

 カートから獲物である大鋏を引き抜く。

 

その拍子に店の内装が吹き飛ぶが気にしない。気にする気になれない。

どうやら存外、自分は腹が立っていたらしい。

 

サメのアギトをあしらった刃が、彼女の意志を表すようにぎらりと輝く。

 

 

 「消えろ。」

 

 

今から行ったらまだ間に合うかな。

そんな事を考えながら、エレンは男たちに牙を剥いた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 『ーーってなわけだ。兄弟たちがやられちまった……う、うう……すまねぇ。』

 

 

 「6人がかりで?……まあいい。ターゲットはどうなった。」

 

 

 『白いバンだ。裏手から出ていくのを見張りが確認した。残りの護衛は3人だな。』

 

 

 「位置情報を送れ。通信切るぞ。」

 

 『あぁ。あとは頼ーー』

 

 

プツリ

 

シルバーヘッドが何か言いかけるが、九遠は無視して通信を切る。

 

ソレとほぼ同時に、左の視界にホログラムが一つ浮かび上がる。新エリー都の地図らしい。動いているマーカーが件の白いバンだろう。

 

ソレを認めた九遠は、おもむろにマスクに手をかざした。

 

左目との接続が切れ、マップやホログラムが視界から消える。

 

 

 「ハァ……。」

 

 

ため息が一つ聞こえる。中から現れた顔には、疲れたような表情が張り付いていた。

 

 

ーー疑問、何故ため息を?ーー

 

 

 「いや……前のギャングもそうだったが、ああいう手の奴らって妙にキャラが濃くないか?」

 

 

ーー推測、ギャング等[ああいう手のやつら]に部類される組織は、主にストリートなど低治安区域で結成されることが多い。そのためリーダーとなる人物には発言力や影響力求められ、必然と[キャラが濃い]人物が集中するものと考えられるーー

 

 

 「なるほどな。どっちにせよ参考にはならなさそう……いや、そもそも俺が一番普通じゃないけど。」

 

 

もう一度ため息をついて、気を取り直してマスクを被り直す。

 

 普通というのはなんとも難しい。

 

そもそも付き合いのある人物の殆どがクセが強いせいで、見本がないに等しいのだ。

 

ジャンク屋の頭目に、そのサポートAI。邪兎屋三人衆に、頭の中の同居人もそうだ。

 

そのリストにまた1人名前が載ったわけだが……

 

まったく笑うしかない。ハッハッハ。

 

 

左目とマスクの接続を待つ一瞬の間に、ふと先程の通信が頭をよぎる。

 

確かシルバーヘッドは、下っ端達がサメのシリオンのメイドにやり込められたと言っていた。

 

 

 「サメのメイドねぇ……」

 

 

クラスメイトの彼女のことが、エレンのことが頭によぎるが……まず無いだろう。別人に決まっている。

 

 

ーー疑問、何故そのような結論に?ーー

 

 

 「何故って……じゃあ想像できるか?エレンさんがメイド姿で奉仕してるところ。」

 

 

メイドに喫茶店。そう言われてパッと思いつくのは、

「おかえりなさいませ!ご主人様!」であったり、「萌え萌えキュン!」みたいな歯が浮きそうな言葉で愛想を振りまくメイドたちの姿である。

 

 九遠の頭の中では、彼女がそんなことをしているシーンが思い浮かばないのだ。

 

少なくとも学校で見る彼女は誰かに使われるようなタイプには到底見えない。むしろ上に立つか、なんなら独立傭兵でもやっていそうな逞しさだ。

 

誰にでも裏の顔の一つや二つあるのものだが、しかし彼女に限ってそんな事があるものだろうか。

 

 

ーーその場に溶け込む為の変装は、傭兵からしても普通に行われる行為である。また、彼女の推定戦闘能力から鑑みてもサメのメイドがエレン・ジョーである可能性は十分にあり得るーー

 

 

 「何でお前はエレンさんをメイドにしたがるんだ。」

 

 

何故か頑なに考えを譲らない同居人に思わず頭を振る九遠。

 

目を開ければとっくの昔に接続は終わっており、視界には幾重のデータやホログラムが展開されている。

 

 

 「もういいだろ?今から顔を合わせるわけでもない。」

 

 

ーー……了解ーー

 

 

不承不承。何故が残念そうな声に、思わずため息が漏れる。

元々こんなに感情豊かだったろうか。

 

完全に無駄な時間を食った。

 

 

 「フェーズ1、展開。」

 

 

ーーターゲット情報更新、ナビゲート開始しますーー

 

 

ゆるりと立ち上がれば、黒翼が風になびく。

 

 

 「さて、仕事の時間だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わり、九遠が追う白いバンは新エリー都を疾走していた。

 

ホロウにほど近い一本道に他の車影が映ることはない。カムフラージュには向いていないものの、何をするにも邪魔が入ることはない絶好の逃走経路だ。

 

 そのまま進めば郊外まで到達する。しかし追いかけているのは腐っても赤牙組だ。新エリー都最大規模のギャングたちがやられっぱなしで終わるわけもない。

 

 そして、その瞬間は直ぐに訪れる。

 

バンが十字路に差し掛かったその時。四方八方、どこに隠れていたのか無数のトラックが轟音とともに飛び出してきたのである。

 

速度を上げてどうにか方位されることは防いだものの、トラックの群れは図らずも護衛の数を一つ減らすことに成功していた。

 

 後方からはもう一台、遅れてカフェから出発した車両が追走していたのだ。

 

あと少しで合流する、というところでトラックが壁となり、2台は完全に分断されてしまったわけである。

 

 

 これでバンは完全に孤立し、ターゲットに直接干渉できる護衛は二つに減った。

 

 

 「フェーズ2」

 

 

ーー了解、車両の進行経路を計算。接敵に最適な地点を予測ーー

 

 

その一部始終を道路脇の廃ビル、その屋上から監視していた九遠。

視界に映し出されたマップに従い、瓦礫を伝ってバンの予想経路に先回りする。

 

 

 ーー左翼ユニット、神経接続完了。体内循環エーテル濃度、適正値。システムオールグリーンーー

 

 

投棄された廃屋の中から、1番背の高い物の上に飛び移る。

縁から下を見れば予測通り。バンはトラックの群れに追われつつ今にも自身の足元を通り抜けようとしていた。

 

 

ーー報告、ターゲットの目標地点通過まで、5、4、……ーー

 

 

足を一歩前に出す。

その先に足場はなく、当然のように九遠は頭から真っ逆さまに転落する。

 

 

ーー3、2、1……ーー

 

 

視界が赤く染まり、走馬灯のように頭の中を情報の羅列が通り過ぎる。

 

世界の流れが遅い。ゆっくりと目の前に近づいてくる黒い地面。

 

 

ーーゼローー

 

 

目の前に、白い車体が現れた。

 

 

ーーメインシステム、戦闘モード起動ーー

 

 

瞬時に体を反転させ、着地。

通常の人間であればそのまま潰れ死ぬところだが、ホロウでの活動を前提とした強化人間に限ってソレはない。

 

体内を循環するエーテルによって底上げされた身体能力を遺憾なく発揮し、被害はバンの天井がひしゃげるのみに終わった。

 

まさか真上から接触してくるとは考えていなかったのだろう。バンの動きが揺らぐ。

 

そのまま車内に侵入しようとしたところで、

 

 

ーー敵性反応検出ーー

 

 

なるほど、赤牙組のトップが手練れと称するだけはある。

即座に迎撃が始まった。

 

 

 「ナニモンダ!!」

 

 「ナニモンダナニモンダ!!」

 

 

車体両側から現れたのは宙に浮かぶ2体のボンプ。

フリフリのドレスのような衣装を身に纏い、一見可愛らしく見える。

 

しかしそれらを見た瞬間、傭兵としての本能が警告を鳴らした。

 

 

ーー体内に高電圧反応を感知。戦闘用ポンプと推定ーー

 

 

 「「クラエ!!」」

 

 

声を聞き終えるより早く、背筋に走った悪寒に従い跳躍。

直後、爪先を二筋の雷光がかすめた。もう少しで丸焦げになっていたやもしれない。

 

揺らいでいたバンが立て直す。この一瞬で、奇襲による動揺からは抜け出されてしまったらしい。

 

現在既に2対1、さらに車内には護衛が2人。このままでは不利は必至。

 

 

 手早く終わらせよう。

 

 

着地と同時に車両側面に張り付き、即座にハンガーから引き抜いた剣を窓ガラスに突き立てた。

 

防弾対策だろうか。ガラスにしては硬い。

さらにブレードを展開しようとしたところで、

 

 

 「はあ?」

 

 

なんと窓が開き始める。

何事かと思わず動きが止まるレイヴン。その耳に、金属同士がこすれ合うけたたましい音が突き刺さった。

 

 

 咄嗟に身を捩って屋根の上に退避する。

刹那、窓から突き出た高速回転する円盤が背筋を掠めて羽が数枚ちぎれ飛んだ。

そして息をつくまもなく飛来する雷光。

 

今度こそ剣からパルスブレードを展開し、どうにか電撃を殺し切る。

 

しかし余波までは防ぎ切ることができない。

体に痺れが走った。

 

 

そこから始まる飽和攻撃。2体がレイヴンを挟み込んで浮遊し、高速で回転しながら休みなく雷撃を放ってくる。

 

 

 (ジリ貧だな……)

 

 

2体の立ち位置は完璧で、レイヴンは攻撃に移ることができない。片方に意識を集中させればもう片方から蜂の巣にされるだろう。

 

このまま持ちこたえるのみならばどうにでもなるが、生憎と彼の仕事はそれだけではないのだ。

 

目的は足元にいるであろうあの男。どうにかして車内に侵入しなければ話にならない。

 

 

 しかし、無常にもさらに状況は悪化する。

 

突然、背後のトラック群から轟音が響く。

ふり向いて状況を確認。どうやらトラックの一台が横転したらしい。

 

原因は直ぐに現れる。

 

横転し、慣性のまま地面を削るトラックから一つ白い影が飛び出した。

 

正体は狼のシリオン。ソレはまた別のトラックに突入し、数秒と掛からず離脱。

襲撃された車両は制御を失い、後続を巻き込みつつ離脱していった。

 

 

 どうにかバンの上でボンプ達の猛攻を凌ぎ続けるレイヴンと、トラックを撃破し続ける狼との視線が一瞬かち合う。

 

今の状況でアレが増援にやって来れば、まず勝ち目はないだろう。

 

それも、あと数秒と時間がない。

 

 

舌打ちを一つ放ち、すぐさま次の行動を選択する。

 

 

 「ここで切るには惜しいが……」

 

 

ーーコアフォーマット起動ーー

 

 

ブレードの出力を瞬間的に解放して範囲を拡大。横の大ぶりでポンプを振り払う。

 

 

 「ドリシラ!ダイジョウブ?」

 

 

 「アナステラ!ソッチコソ!」

 

 

気遣い合う2体を尻目に、左翼が展開し排熱板がせり上がる。マスクからバイザーが展開し両目を覆う。

 

バチリと音を立て、体に閃光が駆け巡った。

 

 

 「ナニカスルキダ!」

 

 

 「サセナイ!サセナイ!」

 

 

レイヴンがとった突然の行動に、2体はナニカを感じ取ったらしい。一際激しい雷光を纏いレイヴンに向けて突貫する。

 

その威力は見るからに今までとは桁が違う。喰らえば一溜まりもないのは明白だ。

 

 

しかしレイヴンは動かない。

 

ついに衝突するその瞬間、

 

 

ーー出力50%。展開、アサルトアーマーーー

 

 

凄まじい閃光が、一瞬にして周囲を飲み込んだ。

 

 

 「×∌∇ⁿ!$?○□✓∅!?!?」

 

 「≦∷∨≧■✕✦≯!?!?」

 

 

レイヴンを中心に放たれた大規模なパルス炸裂は2体のボンプを跳ね飛ばし、バンの天井を陥没させた。

 

周辺の瓦礫の山を吹き飛ばし、一帯のアスファルトをめくり上げる。

 

さらに車両の制御導体が異常をきたしたらしい。横滑りを起こし、動きが止まった。

 

 

 今しかない

 

 

ヒビの走ったガラスを叩き割って車内に侵入。

ガラスの破片が舞い散る中、レイヴンの眼光が走る。

 

運転席には長髪のメイドが1人。バンの制御をしようとしていたのだろう。反応が遅れている。

 

目の前には写真で何度もみたターゲットの男。手を伸ばせば届く距離にいる。

 

しかし最後、背後からはあの金切り音が迫っていた。

 

 

 「させません!」

 

 

スッラが自分でやりたがらない訳をなんとなく察したレイヴン。

 

後ろを向くと、思いの外可愛らしい緑髪の少女が長柄のチェーンソーを自身に向けて振り下ろしている姿が見えた。

 

最早避けられるような距離ではないし、そんな場所もない。あの威力、剣で防ぎきれる保証もない。運転席のもう一人も直ぐに立て直すはずだ。

 

故にレイヴンは最後のカードを切った。

 

左翼を前方に突き出し、装甲を展開する。

 

瞬間的に形成される光の壁。超高出力のパルスシールドに阻まれ、チェーンソーの刃はあらぬ方向へと弾かれた。

 

 

 「ふえ?!」

 

 

思いもよらぬ反撃に身をすくませる少女。拍子にチェーンソーが手からすっぽりと離れてしまう。

 

 

 「悪いな。」

 

 

 舞っていたとばかりに、宙を舞うチェーンソーに右手を伸ばす。回転する刃をすり抜けて、その柄を掴み取った。

 

視線の先には血の気の引いた真っ青な顔と、絶望に染まった瞳が見える。

 

掴んだ柄をぐるりと一回転。火花を散らすその刃を、渾身の力で振り下ろした。

 

 

 





皆様もコロナにはお気をつけて……。



VP-61PB

レイヴン専用にチューニングされたパルスバックラー。

ガード出力は極めて高いが、その代わりに持続時間が異様に短い特性を持つ。

おおよそ人間が扱える武装ではなく、故にあらゆる事象を無に還す。
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