小説みつめてナイト ライズ氷解 【完結】   作:ケルティック☆タイチ

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【終】エピローグ

 私は地方都市の片隅で暮らす、しがないメイドでございます。

スィーズランドの首都、ノルンから歩いて四日ほどの静かでのんびりとした空気が漂うこの街の、こぢんまりとしておりますが住み心地の良い暖かな雰囲気のこのお屋敷で、住み込みのメイドとして働いています。

私がこちらのお屋敷にお仕え始めたのは、今から十年ほど前になります。

実は私は、ちょっと人には言えない過去を持っておりまして、故郷を追われてしまった人間です。

 

そんな私を拾って下さり、住む場所と仕事を与えて下さったのが他ならぬこのお屋敷の主だったのです。

故郷に帰れないのは少しだけ寂しいですが、いつかきっと帰れる日もくると信じています。

それまでは、拾っていただいた恩返しも含めて、今の主にしっかりと奉仕したいと思っています。

 

 

 メイドの朝は早いです。

小鳥が目覚めるよりも早く、誰よりも早くに起きて洗濯物を片付けたら、主達が起きる前に朝食の準備です。

大きなお屋敷ですと料理人を別で雇い、彼らが食事を用意したりもしますが、当家はそこまで裕福な屋敷ではございませんので、メイドの私が食事も用意します。

奥様は昔、「料理の味なんてどうでもいいわ。栄養が取れればそれでいい」なんて仰っていたのですが、最近は味の好みがうるさくて大変です。

 

でも、昔のなんの感情も表に出さずに淡々としていた頃の奥様に比べると、今のわがままを仰る奥様の方がとても可愛くて好感が持てますけれどね。

旦那様は旦那様で、何を食べても「美味い」しか言わないので、果たして本当に美味しいと思っているのか疑問です。

もっとも、旦那様は奥様とご結婚なさる前は長らく傭兵なんていう仕事をされていたそうなので、戦場で食べる粗末な食事に比べたら私の料理の方が何倍も美味しいのかもしれません。

 

ですが、今日は屋敷の主たる奥様とその旦那様も、首都にお出かけになっておられますので、少しだけ手抜きが出来ます。

とは言え、朝食の用意はしなくてはいけません。

私一人であれば買い置きのパンにチーズでも挟んでかぶりつけば済むのですが、そうはいきません。

なにせ育ち盛りのお子様が二人もいらっしゃいますからね。

 

小麦粉に重曹と砂糖、卵、ミルクを混ぜてさっくりと空気を含むように混ぜます。

鉄のフライパンを使い弱火でじっくりと焼き上げれば、お子様も大好きな特製のパンケーキが焼きあがります。

先日、奥様の学生の頃からのご友人の旅の絵描きさんからいただいた、海の向こうの国の楓を使った琥珀色のシロップをかければ完成です。

本当は野菜のスープを用意したいところですが、今日は少し手抜きでサラダを盛り付けて、お子様たちを起こしにいきます。

 

まず私が起こしに行ったのは、ご長女でいらっしゃるロゼッタお嬢様です。

ロゼッタお嬢様はお母様に似て真っ直ぐで癖のないビロードのような黒い髪と、ルビーのような赤い瞳が印象的でとても美しいお子様ですが、大層活発で絵にかいたようなお転婆でいらっしゃいます。非常に頭が良くて大人がびっくりするような合理的な事を仰る事もありますが、実はとても家族思いで優しい方でもいらっしゃいます。

お転婆の度が過ぎて奥様に叱られたりする事もありますが、反省する素振りの裏で舌を出している仕草など、まるで私が以前お仕えしていたどこぞのお姫様のよう……。あら、これは蛇足でございました。

 

ロゼッタ様を起こしたら、次は双子の弟でいらっしゃるタダマサ様の番です。

変わったお名前をしていらっしゃいますが、これは旦那様の故郷であるおハシの国(?)では一般的なお名前のようです。

タダマサ様はお姉様に比べると大人しくて無口なお子様でいらっしゃいますが、色々な事にご興味をお持ちで、本を読むのが大好きな方です。

とても理知的でどんな物事も俯瞰して考えられる様など、とても子供には見えない時がございますが、食事中でも本を読んでいて旦那様に叱られてしょげている姿は、メイドという立場で不謹慎ではございますがとても可愛らしくていらっしゃいます。

 

 

 このお二人が起きると、お屋敷は突然にぎやかになります。

ロゼッタ様が屋敷内を所狭しと跳ね回り、静かに本を読みたいタダマサ様がそれに巻き込まれて姉弟喧嘩が勃発。

喧嘩の仲裁が終わったと思ったら、花瓶を倒す、ミルクをこぼす、友達を泣かす、飼い犬を怒らせる等、私の仕事は増えるばかりです。

もっとも、原因のほとんどはお転婆お嬢様の所為なのですが、それに巻き込まれて迷惑そうな顔をするお坊ちゃま。

でも、お二人は実はとても仲良しな姉弟である事を私は知っています。

 

 

 そんなお二人も今年で六歳になりますが、まだまだご両親が恋しい年頃です。

奥様と旦那様がお仕事等で遠方に行かれている時は、いつもよりも私に甘えてくる事が多いです。

今日も夕方になって空が暗くなってくると、暖炉の前で編み物をしている私のまわりにいつの間にかお二人が集まってきました。

そして、何か面白い話をして、とねだってきます。

そんな時はお二人に私の故郷の話をしてあげます。

イルカと剣と楯をモチーフにした国旗を持つ、近くて遠い異国のお話です。

お二人が特にお好きなのは、奥様と旦那様が出会われた頃の昔話です。

奥様と旦那様がその国で過ごされた色々な思い出や、当時出会った人々、忘れられない出来事。

私が奥様から聞いたお話をしてあげると、子供達はとても喜びますし、目を輝かせて興味津々といった様子です。

奥様は普段あまり口数が多いタイプではないので、その所為もあるかもしれませんね。

 

 

 あ、そうこうしていると、玄関の鍵を開ける音が聞こえてきました。

屋敷の主の御帰還のようです。

たまらずに駆け出すお子様達に続いて、私もお出迎えに参ります。

両手いっぱいのお土産を抱えた旦那様に続いて奥様が屋敷に入ると同時に、ロゼッタ様、タダマサ様がその胸に飛び込みます。

 

「お母様! おかえりなさい!!」

 

お二人が口々に呼ぶのに、穏やかな笑顔を浮かべて一人ずつを優しく強く抱きしめ、手袋を外したその白い手で柔らかに頬を撫でながらキスをした奥様が、私の方を見て微笑まれました。

私はカーテシーをして出迎えます。

 

「お帰りなさいませ。ノルンはいかがでしたか?」

 

私の質問に、奥様はいつものようにあまり抑揚のない口調で答えます。

 

「留守を任せて悪かったわね。ノルンは人が多くてうんざりしたわ。でも、行けてよかった」

 

抑揚はありませんが、その横顔がとても充実した滞在であった事を物語っています。

だって今回の首都訪問は、かけがえのない親友との十年来の約束を果たされる為に行かれたのですから。

奥様に続いて子供達との再会を済ませた旦那様が、嬉しそうに言います。

 

「素晴らしい公演だった。公演後に楽屋で少しだけ話が出来たが、綺麗になった以外は昔と変わらなかったな」

 

奥様は懐かしそうに目を細めて頷きました。

 

「あの時の約束を本当に果たして、スィーズランドまで会いに来てくれるなんてね……こんなにうれしい事はないわ」

 

奥様のルビー色の瞳が、わずかに揺れました。

そして、旦那様にそっと寄り添うと、言われました。

 

「ねえ、私はお父様の遺言を守れているかしら。普通の女として、自分の人生を生きているかしら」

 

その言葉に、旦那様は悪戯っぽく片目を瞑って答えます。

 

「いいや、どうだろうな。守れていないかもしれないな」

 

奥様が不思議そうな顔をされます。

 

「どうして?」

 

質問をする奥様に、旦那様は自信満々に仰いました。

 

「普通どころじゃなく、世界一幸せな女として生きているからな」

 

そう言って奥様を抱き上げる旦那様に、お子様達も声を上げて囃し立てます。

奥様は顔を赤くしながら「バカね」と目を逸らしつつも、微笑んでおられます。

はあ、本当にこのご夫婦はいつもこうなのです。

私はため息を吐きながらドアを閉めて言います。

 

「はいはい。それで、お夕飯はどうされるんですか。これから召し上がりますか?」

 

旦那様の腕に抱かれながら、奥様が答えます。

 

「みんなでいただきましょう。もちろん、あなたも一緒にね、プリム」

 

どこの世にメイドと一緒に食事をされる主人がいるのだか。

呆れながらも、この優しく穏やかで幸福な状況に涙が零れそうになります。

ここでは昔の主人や私のように、自身を縛る冷たく凍り付きそうな心に怯える必要はまったくありません。

私は気づかれないようにそっと涙を拭うと、もう一度カーテシーを披露します。

 

「承知いたしました。では、すぐに用意いたしますね、──ライズ様!」

 

 

 

fin

 

 




あとがき

この物語は、2022年6月から2023年11月にかけてPixivにて連載していた、純愛シミュレーションゲーム「みつめてナイト」の二次創作作品となります。
ヒロインの一人であるライズ・ハイマーの目線でゲームの背景も含めて自己解釈して書いてみました。
ゲームを楽しんだ事のある方には懐かしく読んでいただければ幸いですし、ゲーム未プレイの方には、これを機に「みつめてナイト」に興味を持っていただければ嬉しいです。

100話を超える物語を最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
是非感想や評価投票をいただけると幸いです!

現在この結末から23年後のドルファン王国を舞台にした続編を執筆中です。
こちらの作品も、今後ハーメルンに掲載していきたいと思いますので、お時間があれば是非またお読みいただければ小躍りして喜びます。

最後になりますが、ここまでお読みいただき本当に、本当にありがとうございました。

なお、続編の「続・小説みつめてナイト 紅玉の双騎士」も掲載しております。
よかったらこちらの作品もよろしくお願いいたします。
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