小説みつめてナイト ライズ氷解 【完結】   作:ケルティック☆タイチ

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【3】ライズとポワレ

 次の週の日曜日、私はいつものように街へと出かけた。

街に出かけ国内の様子を探り、不審な事はないか、不穏な動きはないか、そういった事を調べるのは重要な任務の一つだ。

しかし、このドルファン王国の首都は鉄壁の城塞レッドゲートに囲まれていていつも平和な雰囲気を醸し出しているし、私の散歩はいつも本当にただの散歩で終わってしまうことが多かった。

だがこの日はいつもとは違い少しはまともな仕事があった。

早い時間に外国人傭兵専用の宿舎を訪れ、ヒューイ・キサラギの居室を調べ上げた。

宿舎自体は誰でも行けるし、ヒューイに手紙を届けにきた学生アルバイトのふりをすれば宿舎の管理人が簡単に部屋を教えてくれた。

ドルファンの正規軍であればもう少しまともな警備体制かもしれないが、所詮外国人傭兵の詰所であればこの程度のレベルの警戒なのだろうか。

いや、それだけレッドゲートの中が平和であり、内側からの脅威など考えもしないという事だろう。

 あまりにも早く用事が済んでしまったので少し街の様子を見ることにした。

午前中に銀月の塔の展望台に行き景色を楽しんだあと、昼過ぎに馬車でキャラウェイ通りまで戻ってきた。

キャラウェイ通りはいわゆるドルファンの中心街で、いつものように人で賑わい活気にあふれていた。

戦時中とは言え特に活動規制のないこの街は普段と変わらぬ喧噪に包まれている。

通りに沿って色々な店が軒を連ね、時には露店がアクセサリーを売っていたり、屋台が得体のしれない肉の焼いたものなどを辻売りしていたりしていた。

どこかで昼食をとろうと歩いていると不意に後ろから声をかけられた。

 

「ライズ!」

 

振り向くとそこにはあのヒューイ・キサラギがいた。

私は軽く頭を下げた。東洋では人と挨拶をする時に頭を下げると文献で読んだことがある。

 

「こんにちは」

「この前はすまなかったな」

「別に構わないわ」

「昼飯はもうすんでいるのか?」

 

私は首を振った。

 

「そろそろ何か食べようと思っていたところよ」

「そうか、じゃあ丁度良い。この前のお詫びを兼ねてご馳走させてくれないか。どうだ」

 

別段断る理由もないし、彼とは少し話をしてみたかったところだ。

 

「いいわよ」

 

私の言葉に彼はにっこりと笑うと、近くにいい店があると言って歩き出した。

 

 彼に案内されたのはキャラウェイ通りでも有名なレストラン『エル』だった。

店の中は意外とシックだがどこかきらびやかで、傭兵や女子学生には不釣合いな感じがする。

私も彼も非常にラフな出で立ちだったが昼過ぎにレストランに正装で来る人間はいない。

この際靴がハイヒールでないのは見逃してもらおう。

 

「……気取ったお店ではあるわね」

 

昼の遅い時間なので待たずに席につけた。

ランチコースではあったが彼は肉中心のコースを、私は魚中心のコースをそれぞれ食べた。

真鯛のポワレがとても素晴らしかった。

 

「おいしいわ。味はスィーズランドのヴェッフェルに勝るとも劣らないわ」

「そうだな。まさに至高と呼ぶに相応しい」

「そうね。ここのシェフは一流だわ」

 

私は正直、彼のセリフに驚いた。

東洋の傭兵と言うからには学の無い乱暴者かと思っていたが、そうでもないらしい。

ルーマン語を使いこなしている所といい、少し東洋人という先入観を捨てたほうが良いかもしれない。

 

「ライズはスィーズランドに行った事があるのか」

 

私は食後のコーヒーを上品にすすってから答えた。

 

「スィーズランドの出身なの」

「そうか。ドルファンには何のために」

「留学よ」

「なるほど」

 

彼はそれ以上聞かなかった。

私は反対に質問をした。

 

「あなた、先の戦いでヴァルファバラハリアンの八騎将、疾風のネクセラリアを討ち取ったそうね」

 

私の言葉に彼の表情は変化しなかった。

くつろいだ様子でコーヒーを味わっているが、粗暴な印象は受けない。

食事の作法も決して完璧ではないが必要最低限の教養はありそうだ。

 

「驚いたな。そんなことを知っているなんて」

「かの有名な八騎将を討ち取ったのよ。ウィークリートピックスや新聞にも載っているわ」

 

実際、彼の名前がそういった記事に乗ったことが無い事は確認しているが、これくらいのカマかけは許容範囲だろう。

 

「それもそうか」

 

彼は特段いぶかしむこともなくさらりと受け流した。

 

「だが、運が良かっただけだ」

 

そして、一呼吸置いてから話を続けた。

 

「彼はヤング大尉、オレの元上司だが。その上司との戦いで消耗していた。だから勝てた。それだけの事さ」

「それでも勝ちは勝ちだわ。戦場では、消耗していたからなんて言い訳は通らない」

 

彼は驚いたようだがふっと唇の端を緩めて微笑した。

 

「とても一学生のセリフとは思えないな。だが、確かにその通りだ」

 

私はコーヒーを口にしながらなにも答えず上品に頷いた。

ヒューイが会計をすませ私たちは店を出た。

店の外は九月の午後の日差しで眩しかったが、すこしだけ秋の香りがした。

 

「ごちそうさま。話が出来て楽しかったわ」

 

私が言うと彼はにっこりと笑った。笑っていると傭兵には見えない。

 

「満足してもらえたようで何よりだ。どこか散歩でも?」

「これで失礼するわ」

「そうか。それじゃまたな」

 

彼は片手を上げるとキャラウェイ通りの人ごみの中へと消えていった。

私は彼と逆の方向に向かって歩き出した。

八騎将を打ち取った事を偉ぶることもなく、傭兵にしては飄々とした雰囲気はあまり例をみないタイプといえる。

ヒューイ・キサラギを引き続き調査対象とする事にし、一旦寮に帰ることにした。

真鯛のポワレが食べられるなら、エルのランチコースにはまた来てもいいかもしれない。

 

 

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