小説みつめてナイト ライズ氷解 【完結】   作:ケルティック☆タイチ

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このお話はライズがヴァルファバラハリアンに戻らなかった場合のifストーリーになります。
前編後半の2話構成となります!

ストーリーとは違った、ほのぼのクリスマスをお届けします。


番外編①
【54】番外編 ライズのクリスマス(前編)


「クリスマスパーティーをやろうよ!」

 

年末も差し迫り、色づいた枯れ葉が北風に舞い踊る学校からの帰り道の途中で、ハンナの突然の言葉にソフィアと私は思わず顔を見合わせた。

 

「王宮主催のパーティーの事?」

 

私の言葉に、ハンナは大きくかぶりを振った。

 

「そうじゃなくって、ボク達だけでパーティーをやろうよ!」

 

ハンナは目を輝かせながら私たちに迫ってきた。

その迫力に若干圧倒されつつも、ソフィアがおずおずと言った。

 

「私たちだけで、どんなパーティーをするの?」

「そうだなぁ、クリスマスツリーを飾り付けてさ、みんなでそれぞれ料理を持ち寄って、ケーキを焼いたりピュエリを飲んだりして、わいわいやりたいな!」

ハンナの能天気な回答に、私はため息を吐きつつ言った。

「どこでやるの、それ」

「え!?」

 

そんな事は考えもしなかったと言わんばかりのハンナの反応に、私はもう一度ため息をついた。

 

「楽しいパーティーをやりたい、というのは結構だけれど、計画がなければ意味がないわ。だいたい学生の私たちでそんなパーティーをすること自体無謀よ。だからみんなドルファン城のパーティーに行くんでしょう」

 

私の正論に、ハンナはみるみる勢いがなくなり、二回りほど体が小さくなったように見えた。

ソフィアがあわててフォローを試みる。

 

「で、でも、私たちでパーティーをしようっていうのは素敵なアイディアだと思う! 王宮のきらびやかなパーティーも素敵だけれど、仲の良い人たちでお祝いするパーティーもとっても魅力的!」

「ソ、ソフィア~! そうだよね、素敵だよね。ライズはちょっとクール過ぎるんだよ!」

 

潜入捜査の基本は冷静である事。私はそれを実践しているに過ぎないので、それは誉め言葉として受け取っておこう。

 

「企画は良くても、実現性が無いのでは意味がないわ」

 

私がそう言った時、不意に後ろから肩をたたかれた。

振り向くと、レズリーがロリィと連れだってそこに立っていた。

 

「よう、お三方。悪いけれど、話は聞かせてもらったよ。そのパーティーの話、あたし達も一枚噛ませてもらおうじゃないか」

 

突然のレズリーとロリィの登場に、若干訝しみつつ私は答えた。

 

「一枚噛むのは勝手だけれど、そもそも実現しないと思うわよ」

「ああ、場所の話な。それなら心配いらないよ」

 

レズリーは言いながら、ふふんと胸を張った。

 

「あたしの家を提供しようじゃないか。こう見えて一人暮らしだからね、それなりの広さもあるし」

 

その提案に大人しくなっていたハンナが息を吹き返した。

 

「本当に!?」

「ああ。あんたらには世話になったし、それくらいの恩返しはさせてくれないか」

「ありがとう!! ほら、出来そうじゃない? 場所は確保出来たんだし、あとはツリーと料理さえあれば、それはもうパーティーと言っていいでしょ!」

「そのツリーと料理はどうするの」

 

私だって意地悪で言っているわけではない。クリスマスにパーティーをする事自体にあまり興味が無いのも事実だし、私がそれに参加しなかったとしても、ハンナの勢い先行の計画で実際に当日になってパーティーが出来なかったら、悲しむのはハンナ本人だし、それに付き合わされたソフィアやレズリー、ロリィ達に他ならない。

ハンナの勢いがまら急速にしぼんだ時、それまで黙っていたロリィが声を上げた。

 

「ツリー、準備できるよ。お姉ちゃんの家に」

 

え!? と声を上げながらロリィを見たのはハンナだけでなく、当のレズリーもだった。

 

「おい、ロリィ、うちにツリーなんかないぞ?」

「何も本当のツリーじゃなくてもいいでしょ? お姉ちゃんが描けばいいんだよ」

「描く?」

 

ロリィは自信満々に頷いた。

 

「お姉ちゃんの家、大きなキャンバスとイーゼルがあるでしょ。あれにツリーの絵を描けば、簡単に用意出来るよ!」

「そりゃあ、まあ、そうだけれど」

「私も手伝うから、お姉ちゃんと二人で用意しようよ!」

 

ロリィの妙案にレズリーは納得してしまっているようだった。

そもそもなぜレズリーの家にキャンバスやイーゼルがあるのかは知らないが、別にクリスマスツリーが絵であろうが樅ノ木であろうが、それは大した問題ではない。

 

「じゃあ」

 

ソフィアが控え目に手を上げる。

 

「私、お菓子を焼いていくわ。簡単なものなら用意できるから」

 

その言葉にまたも息を吹き返したハンナが手を打って喜ぶ。

 

「いいね! それなら、ボクも何か用意するよ! 実は従妹のお姉ちゃんがレストランで働いていたから、何か持ち帰り料理が頼めないか相談してみるよ」

 

ハンナがドヤり顔で私を見た。

 

「ほら、出来そうでしょ! あとはいつやるかだけだね」

「そこまで決まったのだから、好きにすればいいでしょう」

「そうだな~、クリスマスイブは王宮のパーティーがあるし、クリスマス当日の二十五日にしようか」

 

その言葉に、ソフィアもレズリーもロリィも肯定の頷きを返した。

ハンナがそれを見渡して満足そうに頷いたが、私の顔を見て少し不満そうに言った。

 

「あれ? ライズは都合悪い?」

 

私は思いもしない言葉に、逆にとぼけた質問を返してしまった。

 

「都合もなにも……私は参加するの?」

 

ハンナは大げさによろけて見せると、大きなため息を吐きながら言った。

 

「いやいや、じゃあなんで今まで話に参加していたのさ。もちろんライズも参加に決まっているでしょう! ボク達って言ったでしょう!」

「それに私は含まれているの?」

「当たり前じゃない! ねえ、みんな」

 

ハンナの言葉にソフィア達がまた頷いて見せる。

私は若干戸惑いながら感情を持て余していた。同じ年ごろの人達と過ごすクリスマスなんて経験がない。

何をしていいのかもわからないし、想像も出来ない。

そんな私の戸惑いを他所に、勢いづくハンナが話をすすめていく。

 

「じゃあ、ライズは当日の飲み物を用意してよ! お金はあとでみんなで清算しよう」

「飲み物?」

「そうだよ、ピュエリが欲しいよね。じゃあ頼んだよ!」

 

こうしてその日は、突然の出来事に戸惑う私を残して解散になってしまった。

 

 

 クリスマスパーティーをどう過ごせば良いか答えは出ていないが、頼まれてしまったからには飲み物を用意しなくてはならない。ピュエリを用意しろとは言われたが、どこでそれを調達したものか。

そんな事を考えながらサウスドルファン駅前を歩いていると、ふとクレアの働くバーが視界の隅に映った。

そうか、酒を扱うお店なら、ピュエリ等も取り扱っているかもしれない。

なんなら卸元でも聞ければ売ってもらう事が出来るかもしれない。そんな考えに思い至り、地下へと続く階段を下りて店の重い入り口ドアを開けた。

まだ夕方で酒を飲むのには早い時間だったが、いつもながらの薄暗さと染み付いた葉巻の匂いが重苦しい雰囲気を醸し出していた。

珍しくポーカーテーブルではなく、バーカウンターの拭き掃除をしていたクレアが私の姿に気づいて迎えてくれた。

 

「あら、珍しいわね。いらっしゃい」

「お邪魔するわ。少し聞きたい事があって」

「あら、何かしら」

 

クレアは柔らかく微笑むとカウンターの席をすすめてくれて、私はそこに腰かけた。

カウンターの中に納まったクレアは、何も言わずにあたたかな紅茶を出してくれた。

せっかくなので一口飲んでみると、ほのかな苦みにキリッとしたベルガモットが香り、最後に柔らかな甘みの余韻が残る上等なアールグレイティーであった。

 

「美味しい……」

 

思わず口をついた言葉に、クレアは嬉しそうに言った。

 

「良かった。前にライズさんとお茶をした時から紅茶を勉強していてね。最近はもうすっかり凝ってしまって……」

「そう。とてもいい茶葉だわ」

 

私はもう一口紅茶を楽しみ、しばらくその香りを楽しんでいた。

 

「それで」

 

クレアの言葉で我に返る。

 

「今日は何を聞きに来てくれたの?」

もう少し紅茶を楽しみたい気持ちもあるが、今日の目的は別にある。

「このお店でピュエリを扱ったりしているかしら。個人的に少し用立てしたいのだけれど」

「あら」

クレアは少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの柔らかな笑顔に戻った。

 

「普段から置いているものではないけれど、すぐに仕入れる事は出来るわ」

「それを売ってもらう事は出来る?」

「もちろん出来るけれど……」

 

クレアが人差し指を頬にあてながら、少し茶目っ気のある笑顔で続けた。

 

「何に使うつもりなのかしら。一人でピュエリを飲みたいわけじゃ、ないわよね」

 

私はクレアが面白そうにしている理由が思いつかなかったが、特に隠し立てするような事でもないので、正直に答えることにした。

 

「クラスメイト達とクリスマスパーティーをしなければならなくて。私はその飲み物の用意を任されたものだから」

「まあ!」

 

クレアの顔がパッと明るくなった。

 

「すごく素敵じゃない! ライズさんってあんまりお友達が多くなさそうだから、おばさん、ちょっと心配していたの」

「なぜ、あなたがそんな事を心配するの?」

「うふふ、なんでかしらね」

 

クレアは嬉しそうに笑いながら、カウンターの下から伝票を探して取り出した。

 

「どれくらいの量を用意したらいいかしら。お友達は何人くらい集まるの?」

「私を含め、五人ね」

「色は?」

「色?」

 

思いもよらない質問に、私は答えに詰まってしまった。色がなんだというのだろう。

 

「ピュエリは味によって何色かあってね。好みによって結構わかれるのだけれど」

「そうなのね」

 

正直困った事になってしまった。

ピュエリに色や味の選択肢がある事など知らなかったし、ソフィア達の好みもまったくわからない。

 

「何を選べばいいか、見当もつかないわ」

 

私が言うとクレアは少し考えているようだったが、すぐにいつもの笑顔で言った。

 

「じゃあ、私に任せてもらっていいかしら。きっと喜んでもらえるものを用意するわ」

 

同世代の女子達の考える事など何も思いつかない私が選ぶよりも、クレアに任せられるのならばその方が間違いはないだろう。

 

「お任せするわ」

 

私の言葉にクレアは嬉しそうに頷いた。

 

「わかったわ。納品はいつ?」

「二十五日に取りにくるわ」

「うん、十分間に合うわ! あ、でも」

 

クレアは少し言い淀んで続けた。

 

「ピュエリは瓶での用意だから、結構重くなるし、ライズさん一人では運べないかも」

 

 

 飲み物の確保が出来ても、今度は輸送の問題が発生した。

ただパーティーをやるだけなのに、次から次へと問題が起こる。そう考えると、ドルファン城の王宮主催のパーティーに参加する方がどれだけ効率的かわからない。

なのに、ハンナがパーティーをやりたがるのは何故なのだろうか。

それを考えても、答えはきっと出ないだろう。

そんなパーティーの経験がない私がいくら考えたところで、答えが出せるはずもない。

もしも答えを出せるようになるとしたら、それはこのパーティーが終わったあとになるはずだ。

 

だとしたら私のやる事はただ一つ。

ピュエリを運ぶ手段を確保するだけだ。

ピュエリは木箱に詰めてくれるらしく、クレアの予想している量なら、少し大きめの二段入りの木箱がひと箱分になるとの事だった。

木箱ひと箱であれば、少し力の強い者であれば一人で運べない量ではないらしいが、私一人で持つのはとても無理だという。

私はソフィアやハンナよりもよほど力が強い自負はあるが、それを披露するのは私の潜入捜査に影響を及ぼす可能性がある。

それであれば、運ぶ為の術を考えればいいのだが、その方法に極力お金は使いたくない。

ジーンに頼んで馬車を出してもらえば一番早い気がするが、あとで費用を清算するときに、余計な出費となってしまう。

普段からアルバイトで家計を支えているソフィアや、一人暮らしのレズリー、中等部のロリィなどは出費が抑えられたほうが良いだろう。

そうなれば自ずと取れる手段は限られる。

それに、この手段を試みればソフィアやレズリー、ロリィはもちろん、ハンナはたいそう喜ぶであろう事が想像出来る。

そうえあればこの手段を何としても実行しなければならない。

 

 

 私は夕闇の差し迫る夕方のシーエアー地区を、白い息を吐きながら歩いていた。

目当ての建物を見つけると、前にも来たことがあるので迷うことなく目的の部屋へと急いだ。

もっとも、以前来た時は主人が不在の時に手紙を差し込みにいっただけだったわけだが。

今日は少し事情が違う。

この時間ならばすでに部屋に戻っているはずだし、直接話をしなければならない。

前に手紙を届けに来た時とは少し違う緊張感を持って、廊下を進む。

目的の部屋に辿り着くと、手袋のおかげでかじかむ事のなかった手が、わずかだが震えているのがわかった。

思いのほか寒かったのだろうか。

 

息を一つ吸って、ドアをノックする。

わずかな時を置いて、部屋の主がドアを開けて、私を見るなり驚いたような表情を浮かべた。

私はそれを見てかすかな満足感を抱きつつ言った。

 

「こんばんは。突然の訪問で悪いわね、あなたにお願いがあって来たのだけれど」

 

部屋の主は戸惑ったように微笑んだが、ドアを手で支えながら言った。

 

「ここじゃなんだし、取り合えず外に出るか。飯は食ったか? まだなら夕飯でも食おう」

「ええ、結構よ」

「少し待っていてくれ。準備をする」

 

そう言って、かの東洋人傭兵、ヒューイ・キサラギは部屋の奥へと入っていった。

私はドアをしめて、後ろの壁にもたれかかりながら長い息を吐いた。

さあ、巷で大人気のこの東洋人傭兵を荷物運びに口説き落とさなければならない。

私はほんの少しだけ自分の胸が高鳴るのを感じつつ、彼が出てくるのを待った。

 

 

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