小説みつめてナイト ライズ氷解 【完結】   作:ケルティック☆タイチ

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こちらは番外編となるifストーリーの後編となります!
物語の直接の続きではありませんので、こんな世界線もあるかもね、くらいの気持ちでお楽しみいただければ幸いです。


【55】番外編 ライズのクリスマス(後編)

 十二月二十五日、クリスマス。いよいよその日がやってきた。

昨日のイブにはドルファン城でのクリスマスパーティーが例年通り盛大に行われた。

だが、今日はレズリーの家での小さなクリスマスパーティーが行われる。

私はクレアにお願いしていたピュエリを受け取るべく、サウスドルファンのバーの前で壁に寄りかかりながら立っていた。

十一時に受け取りの約束をしていたし、この時間にあの運搬係も来るはずだった。

懐中時計で時間を確認すると、約束の十分前である事がわかった。

 

 少し早く来過ぎたかもしれないと考えていると、大きなガウンを羽織った私服姿のクレアが歩いてくるのが見えた。

クレアは私に気が付くと、小さく手を振って見せた。

片手を小さく上げて答えると、そのクレアの後ろから歩いてくるヒューイの姿が見えた。

歩くのが速いヒューイはクレアに追いつき、隣に並ぶと何事か言葉を交わしていた。

この東洋人傭兵はクレアとまで知り合いなのかと呆れたが、よく考えれば彼の上司だったヤング・マジョラムの妻であるクレアと知り合いでもおかしな話ではない。

「ライズさん、お待たせ」

クレアが店の前に到着し、少し待つように言うと地下へと階段を下りていった。

ヒューイはそれを見送ると、私の顔を見た。

 

「よう」

 

にこやかに声をかけてくるが、その笑顔で何人の女性に声をかけているのだろうか。

そう思うと少しばかり腹が立ったので、声のトーンを少し落として答えた。

 

「少し待ったわ」

「時間通りだろ」

「少し待った事実を述べただけよ」

「それは悪かったな」

 

悪びれる様子もなくぬけぬけと言った彼は、手に持っていた革の袋を私に投げてよこした。

私はそれを受け取る。

 

「これは何?」

「まだ開けるなよ。パーティーを盛り上げるアイテムだからな」

「あなたはただの荷物持ちで、パーティーに招待しているわけではないわよ」

 

私の言葉に彼はニヤリと笑うと、「もちろん、そうだ」と言った。

 

「まあいいから持っていてくれないか。ピュエリの木箱を持ったらそれが持てないのでな」

 

私はため息を吐き、その袋を小脇に抱えた。

しばらく待っていると、階段の下からクレアの声が響いた。

 

「ヒューイくん、来てくれる? ピュエリを渡すわ」

 

その言葉に私は若干の違和感を覚えた。

 

「なぜクレアが、あなたが荷物持ちだと知っているの?」

「そりゃあ、さっきそこで話したからな」

「口の軽い事ね」

「おいおい、タダ働きさせるわりには随分じゃないか」

「まあいいわ。早く受け取ってきてくれる」

「へえへえ」

 

ヒューイは渋々と下へ降りていき、大きな木箱に丈夫な麻紐で作った肩ベルトを通したもので背中に背負った状態で戻ってきた。

 

「これは、なかなかの重さだぞ」

「体が鍛えられていいわね」

 

そんな事を言っていると、クレアが下から上がってきた。

 

「ごめんなさいね、思ったより量が多くなっちゃって」

「運ぶのはヒューイだから、別に構わないわ。それより会計はいくらかしら」

 

クレアは、「ああ」となんとも気の抜けた声を出したが、すぐに笑顔で言った。

 

「お金はいいわ」

「──?」

 

私は思いもよらない言葉に、思わず思考が固まってしまった。

今クレアが言った言葉の意味がわからなかった。

 

「どういう事?」

 

私の返答にクレアは困ったように人差し指を頬にあてた。

 

「そのままの意味よ。いつも贔屓にしてもらっているライズさんやレズリーさんに、お店からの気持ちよ。これからもお店に来てくれれば、それでいいわ」

「言っている意味がわからないわ」

 

平行線を辿る私たちの会話に、ヒューイが「やれやれ」と首を振りながら入ってきた。

 

「クレアさんがこう言っているんだ。まあ、いいじゃないか。子供らしくご厚意に甘えればいい」

「そうはいかない。買い物をしたのだから、対価を支払うのは当たり前でしょう。このままじゃ私は、窃盗犯になってしまうわ」

 

その言葉を聞いてクレアは吹き出して笑いだした。

 

「あはは、ライズさんって本当に真面目ね!」

 

笑いながら目元に滲んだ涙をぬぐうと、続けて言った。

 

「じゃあ、こうしましょう。このピュエリは、私からのクリスマスプレゼント!」

「そういう問題じゃ……」

「ね、大人になると、誰かにプレゼントをあげたくなるものなの。人助けだと思って受け取って」

 

そこまで言われてしまうと、逆に受け取らない方が失礼になってしまう。

正直に言えばここで飲み物の予算が減れば、パーティーの費用がかなり抑えられるはずだ。

私は深くため息をついて、意を決してクレアの方を見た。

 

「わかったわ。これはありがたくいただく事にする」

「まあ、嬉しいわ」

 

クレアは柔らかく微笑んで見せた。

 

「パーティー、楽しんできてね!」

 

 

 クレアに別れを告げ、パーティー会場のレズリーの家へと歩き出した。ヒューイは木箱を背中に背負って歩き、私はその隣を並んで歩いていた。

街行く人たちが物珍しそうに私達を見ていた。

 

「注目を浴びているな」

「東洋人が珍しいのじゃないかしら」

「それはそうと」

 

ヒューイはかなり重い荷物を背持っているのに、呼吸一つ乱さずに言った。

 

「せっかくのクリスマスパーティーだが、ライズはクリスマスプレゼントを用意したのか?」

「クリスマスプレゼント」

「友達同士でクリスマスを祝うんだ。必要だろう」

「そういうものなの?」

 

私の言葉に、ヒューイは呆れたような顔をした。

 

「そういうものだ」

 

ヒューイの言葉が正しいなら、プレゼントを用意しなければならない。

だが、何を用意すればいいのか。それは人数分必要なのか。わからない事だらけだ。

 

「何をどれくらい用意すればいいの?」

「事前にプレゼントを用意するように言われていないのなら、プレゼント交換なんかはしないみたいだな。だったら簡単な小物やお菓子などを人数分用意すればいいだろう」

 

すらすらと答えるヒューイに、私は感心するのと同時に呆れてしまった。

 

「あなた、本当に傭兵なの?」

「お前より人生経験が長いだけで、正真正銘の傭兵だよ」

 

そんな事よりも、困った事になってしまった。今からクリスマスプレゼントを用意できるのだろうか。

私が物思いに耽りながら歩いているのを隣で見ていたヒューイが、不意に立ちどまった。

 

「ライズ」

 

彼の声に振り返ると、ヒューイが顎ですぐそばの店の入り口を示した。

 

「ここで簡単なお菓子でも用意したらどうだ?」

 

見上げると、そこは見覚えのあるお店だった。

 

「グラフトン・パン店……!」

 

そこは、あの結婚願望の強い看板娘、スー・グラフトンのパン屋であった。

 

 

「いらっしゃいませ~!」

 

ドアを開けるとドア上部に取り付けられたカウベルがカラコロと音を立て、カウンターにいたスーが愛想よく迎え入れてくれた。

スーは来店客が私だと気づくと、幾分声のトーンは下がったが、笑顔を絶やさずに続けた。

 

「ああ、この間のプリムと一緒だった……ハイマーさんだったかしら」

 

さすが客商売、一度会っただけの客の事も覚えているのは素晴らしい。

 

「先日は何も買わずに失礼したわ」

「いいえ、ラスクが売り切れてしまってごめんなさいね。今日は何かお探し?」

「実はクラスメイト達とパーティーをするのだけれど、何かプレゼントを用意したくて」

「へえ、いいじゃない」

 

スーは思いのほか乗り気のようで、カウンターから出てくると私を手招きした。

 

「これなんかどうかしら」

 

スーがすすめてくれたのは、高さ二〇センチはありそうな大きなパンのような菓子だった。

外側は台紙に囲まれているが、そこから頭の部分が溢れんばかりに飛び出しており、こんがりと焼けた良い色合いの中に乾いた果物が織り込んであるのが見える。これは初めて見るお菓子だった。

 

「これは何?」

「これはね、ドルファンのクリスマスでは定番メニューのパネットーネっていう甘いパンなの。卵とバターたっぷりの生地に、うちのお店はオレンジピールと乾かしたデーツを入れてあるの。ナイフで縦に割ってマスカルポーネチーズを添えて食べると、とっても美味しいわよ!」

 

ドルファンではこういった物を食べるのがクリスマスの定番なのか。私の故郷であるスィーズランドではレープクーヘンという蜂蜜やスパイスを混ぜ込んだクッキーのようなものを食べるのだが、土地が違えば文化も違うものだ。

郷に入れば郷に従え、とも言うし、みんなで切り分けて食べられるのなら人数分を用意する必要もないし、手っ取り早くていいかもしれない。

 

「じゃあ、それをいただくわ」

「マスカルポーネチーズはつける? 別料金だけれど」

「商売上手なのね。つけてもらうわ」

「お買い上げ、ありがとうございま~す。今ラッピングするね。ああ、ラッピング代はサービスしておくわ。クリスマスだものね!」

 

嬉々として箱に詰めてリボンをかけていくスーを見ながら、私は商売人のたくましさに感心していた。

 

「ところで」

 

スーがリボンを巻きながら言った。

 

「外で待っている傭兵さんは、なんなのかしら」

 

言われてみると、ショーケースの窓の外にピュエリの箱に腰かけているヒューイの姿が見えた。

だが、彼の姿を見て傭兵だとわかるものがいるだろうか。

私服で箱に腰かけているヒューイは、この国の人間でないことは一目瞭然だが、パッと見ではどこかの貴族の奉公人か役所の公務員のように見える。

彼が傭兵だと一目でわかるのは、彼を知っている者だけだ。

 

「ヒューイを知っているの?」

 

私の質問に、スーの顔は笑っているが、声のトーンが数段下がって不機嫌そうに言った。

 

「ええ、とってもよく知っているわ!」

 

それは小さな子供が自分の玩具を取られまいとするような声音だった。

ここでもそうなのか。

私は今日一番のため息を吐いて言った。

 

「ヒューイには、荷物運びのバイトをしてもらっているの。ピュエリをパーティー会場に運んでもらうのに人材斡旋所に相談に行ったら、彼を紹介されてね」

 

我ながらよくそんな嘘が出てきたな、と思ったが、半分は本当の事だし、遠回しに言えばだいたい合っている。

 

「アルバイトなの?」

 

スーの声が幾分明るいトーンに戻った。

 

「そうよ。そうでなかったらあんな荷物持たせるわけがないでしょう」

「そうよね!」

 

スーの機嫌はすっかり元に戻り、綺麗にラッピングされたパネットーネの箱を渡してきた。

 

「はい、出来上がり。楽しいクリスマスを過ごしてね!」

 

私は箱を受け取り代金を支払うと、会釈をして店を出た。

 

 

「プレゼントを買えたようだな」

 

こちらの状況など何も知らずにヒューイが言う。

 

「おかげ様で。あなた、本当に見境ないのね」

「なんのことだ?」

「いいえ。こちらの事。さあ、行きましょう」

 

ショーウィンドウの中から手を振るスーの視線を背中に感じつつ、私は足早にマリーゴールド地区方面へ歩き出した。

しばらく歩き、レズリーに教えられた住所まで行くと、住宅街の中の一角にその家はあった。

まわりの家に比べると幾分小さめではあるが、煉瓦造りの立派な家で、明かり取りの丸窓が印象的な家であった。

私がドアをノックしようとすると、ヒューイがその手を掴んで止めた。

 

「なに?」

「すまんが、ライズだけ先に入ってくれ。オレは少し準備をしてからこのピュエリを中に運ぶよ」

「準備?」

「ああ。来る時に渡した袋をくれないか」

 

言われて、ここまで持ってきていた袋を思い出した。

何が入っているかしらないが、パーティーを盛り上げるものが入っていると言っていた。

この男が何を考えているか知らないが、まあ今更ピュエリを持っていなくなるわけでもないし、パーティーを盛り上げてくれると言うならそれはそれで良いのかもしれない。

 

「何を考えているかわからないけれど、ピュエリはちゃんと運んで」

「任せな」

 

笑顔でウィンクするヒューイを横目に、私はドアをノックした。

 

 

「ああ、いらっしゃい、ライズ!」

 

ドアを開けて迎え入れてくれたのは家の主レズリーだった。

 

「お邪魔するわ」

 

一歩中に踏み入れると、意外なほど明るい部屋で、外とは打って変わって温かな空気が冷えた体を包んでくれた。

ドアの向こうは大きな広間になっていて、一番奥で暖炉に火が入っていた。

広間には大きなイーゼルがあり、そこにレズリーが描いたであろうこれまた大きなクリスマスツリーの絵が飾ってある。

 

「なかなか素敵な住まいね」

「ありがとう、もともとあたしの叔父さんが使っていたアトリエだったんだ」

「それでイーゼルがあるのね」

 

そのイーゼルの脇でロリィが色取り取りのオーナメントを絵に飾り付けていた。

そのロリィは私に気が付くと、大きく手を振った。

 

「あ! ライズさん! もうみんな来ているよ!」

 

その言葉に奥を見ると、広間の隣のキッチンに併設しているダイニングで、テーブルに料理を並べているソフィアとハンナの姿があった。

二人も私に気づくと、次々と声を上げた。

 

「ライズ、遅かったじゃん! ボクもう待ちくたびれてお腹ペコペコだよ」

「ライズさん、お待ちしていました! さあ、パーティーを始めましょう」

 

テーブルの上には七面鳥と思しき腿肉のローストや、ナッツ、干し肉などが並べられている。

その脇にソフィアが作ったのであろう、メレンゲが並べられていた。

 

「随分豪勢ね」

「えへへ、ボクの従姉妹がレストラン『エル』でちょっと前まで働いていたからさ、その伝手で格安で用意してもらったんだ」

「すごいわ。ソフィアも、これは自分で焼いたの?」

「ええ、もともとお菓子を焼くのは好きなので……」

 

ソフィアとハンナの手際に感心しつつ、私はここまで抱えてきたパネットーネの箱を差し出した。

 

「これ、クリスマスプレゼントよ。みんなで食べて」

 

私の言葉にハンナは飛び上がらんばかりに驚いた。

 

「ええ!? ライズがプレゼントを用意してくれたの!?」

 

そのあまりの驚きぶりに少しムッとする。私がプレゼントを用意するのがそんなに珍しいのだろうか。

たしかにヒューイの入れ知恵がなかったらプレゼントなど用意する事もなかったのだが。

ハンナが箱を開けて中身を取り出すと、歓喜の声を上げた。

 

「パネットーネだ!」

 

その声にレズリーとロリィもテーブルの周りに寄ってきた。

 

「へえ、気が利いているじゃないか」

「ロリィ、パネットーネ大好き!」

 

それぞれが嬉しそうな顔をして、明るい声を上げる。

それを見ていると、パーティーというものには意味を見出せないでいたものの、なんとなく苦労が報われるような気がしてくる。

 

「あれ」

 

ハンナがきょろきょろとしながら私の横に来て小声で言った。

 

「ライズ、ピュエリはどうしたの? もしかして忘れちゃった?」

 

この娘は何を言うのだろうか。

自分で私に手配を依頼したというのに、私が忘れるとでも思ったのだろうか。

 

「ちゃんと手配済みよ。もうすぐ届くと思うわ」

 

そう言った時、玄関ドアをノックする音が聞こえた。

ハンナが私の方を見るので、頷いてみせる。

 

「わーい! 今開けます!」

 

家主のレズリーを差し置いて玄関ドアを開けに行ったハンナだったが、ドアを開けた瞬間に動きが固まった。

 

「え? ええーっ!?」

 

と同時に絶叫が響き渡る。

ソフィア達が一斉に一口ドアの方を見た時、驚きで固まるハンナを押しのけて、それは入ってきた。

顔を覆う真っ白でふわふわの髭。その髭は長くて胸元まで届いている。同じように真っ白な髪の毛はもじゃもじゃと長く、その雪山のような頭に真っ赤な三角帽子が乗っている。同じような真っ赤な服に身を包み、大きな木箱を抱えた男性がのっそりと入ってきて、重そうにそれを床に置いた。そして、のんびりとした口調でこう言った。

 

「やあ、メリークリスマス。これはサンタクロースからのプレゼントだよ」

 

突然のサンタクロースの来訪に、ソフィアを始め全員が訝しげに見ていたが、ロリィがいち早く正体に気づいた。

 

「お兄ちゃん!」

 

叫ぶなり、その胸に飛び込む。

その拍子に付け顎鬚がずれて、ヒューイの顔が露わになってしまった。

 

「ヒューイ!?」

 

ハンナたちがサンタクロースの正体にようやく気付き、そこからは大きな歓声が上がった。

ヒューイが持ってきたピュエリの箱を開けると、色取り取りのカラフルなピュエリがぎっしりと詰め込まれていた。

赤い色は苺、黄色はレモン、紫色はぶどう、白はココナツと味も様々で、それぞれが好きな物を選んで乾杯となった。

流石はクレアのチョイスで、みんな大変に喜んでくれた。

結局招待されたわけでもないヒューイもパーティーに居座り、私にとって初めてのホームパーティーは賑やかに夜まで続いた。

 

 

 

 クリスマスパーティーはつつがなく終了し、皆で片づけをして解散となった。

ロリィはこのままレズリーの家に泊まるというのでそこで別れ、ソフィアとハンナはフェンネル方面へ、私とヒューイはシーエアー方面へとそれぞれ帰路へと着いたのだった。

冬の冷たい夜の空気が、温かな部屋で火照った頬に心地よい。

パーティーだからと言って何か特別な事をするわけもなく、ソフィアもハンナも、レズリーもロリィも、いつもと変わらない他愛もない話をしているだけなのに、いつもと違う食事、いつもと違う飲み物、いつもと違う環境なだけでいつもの何倍も話が盛り上がっていた。

これが仲間と祝うクリスマスパーティーというものなのだろうか。

だとすれば、案外悪いものではないし、ハンナがあんなにやりたがっていたのも少しは理解できるようになった、と思う。

私はそんな事を考えながら白い息を吐いた。

冬は清冽な雰囲気がして、静かで好きだ。

静かに隣を歩いていたヒューイが、月を見上げながら言った。

 

「パーティーは楽しめたようだな」

 

私は同じように月を見上げながら答えた。

 

「そうね、思っていたよりも楽しめたわ」

 

月が眩しく輝き、まわりの星たちが冷え切った空気に瞬いている。

私は清々しい気分でヒューイを見た。

 

「荷物持ちを引き受けてくれて助かったわ。あの子たちも喜んでいたみたいだし、あなたに頼んで良かった」

「あ、ああ、どういたしまして」

 

珍しく照れくさそうにしているヒューイ。そんな姿を見ていると、自然と頬が緩んでしまう。

 

「はあ、なんだか不思議な気分だわ。去年のクリスマスは、楽しいというものではなかったし」

「そ、そうか」

 

なんとも歯切れの悪いヒューイの返事に、何からしくない感じがするが、まあいい。

今日は気分がいいので気にしないでおこう。

夜の寒さを楽しむように歩いていると、間もなく学園寮が見えてきた。

ヒューイにもう一度お礼を言っておこうと振り返った時、彼が何か小さな物を投げる。

私は片手でキャッチした。

それは赤いリボンが巻かれた、一〇センチほどの長さの細長い箱だった。

 

「パーティーの実現に向けて頑張った良い子に、オレからのクリスマスプレゼントだ」

 

思いもよらなかった事に一瞬何を言ったらいいかわからないでいると、ヒューイはわずかに微笑みながら言った。

 

「メリー・クリスマス」

「あ……メリー・クリスマス」

 

ようやく返した言葉がヒューイに聞こえたかどうかわからなかったが、彼は片手を上げるとシーエアー地区の方へと歩いて行ってしまった。

私はその後ろ姿を見送ると、なんだか理解ができないまま自室へと帰った。

そこで先ほどの細長い小箱を開けてみると、中には小さな銀の羽の装飾が付いた赤い万年筆が入っていた。

私はそれを手に取ると、しばらく眺めてみた。

 

ヒューイは何故私にこの万年筆をくれたのだろうか。どうして私の好きな赤い色を選んだのだろう。そして、どうしてクリスマスプレゼントをくれたのだろう。

考えながらも、私は今日のパーティーの為にピュエリを用意したり、パネットーネを買ったりした時の事を思い出した。

あの時はなんとかしないといけないと思い夢中で選んでしまったが、今思い返せばソフィア達が喜ぶのならば、と思いながら選んでいた。

もしもヒューイがこの万年筆を、私が喜ぶと思って選んでくれていたのならばどうだろうか。

 

くっ、と胸がつかえるような気持ちが沸き上がり、私は深く息を吸った。

どんな気持ちで彼がこのプレゼントを用意したかはわからないが、せっかくもらった物だしありがたく使わせてもらおう。

そうだ、どうせなら父へのクリスマスと新年の挨拶の手紙を書くのがいい。

私はもう一度息を深く吸い込み、真新しい万年筆の先をインク瓶に浸けた。

そして真っ新な便箋に筆を落とした。

 

 

joyeux Noel et bonne année

(メリークリスマス、そして良いお年を)

 

 

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