小説みつめてナイト ライズ氷解 【完結】   作:ケルティック☆タイチ

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【86】ライズと37年目の贈り物(前編)

「メリークリスマス! 皆さん、楽しんでいますか? 今夜は常の忙しさを忘れて、存分に楽しんでいって下さい!」

 

プリシラの恒例の挨拶で始まったドルファン王城の中庭を開放したパーティーは、今年も大盛況の中で始まった。

昨年のパーティーの際はテラ河での戦闘に参加するべくドルファンを離れていたので、このクリスマスパーティーに参加するのは二年振りという事になる。

初めて参加した時はプリシラの顔を見る為だけに参加しており、緊張で気が立っていたのを覚えているが、今年は随分リラックスした状態で参加している自分に驚き半分、呆れも半分といったところだ。

 

 先日のプリシラの誕生日と同じドレス、つまりは二年前のクリスマスと同じドレスで会場に行くと、開場間もない時間だというのに城内は多くの人でひしめき合っている。

みな一様にドレスや礼服を着て着飾っており、その表情は明るい。二年前にも感じたが、このクリスマスパーティーでは戦争の匂いなどまるでしないし、人々は平時のそれと同じようにこのイベントを楽しんでいるのだろう。

中庭には毎年恒例の装飾過剰なクリスマスツリーがあり、そこでソフィアとハンナと待ち合わせをしているのだがあまりにも人が多くて中庭に抜けるのも一苦労だ。

苦労しながら人混みをかき分けて進んでいると、不意に肩に手をかけられた。

反射的に手が出そうになるのをこらえながら手の主を見ると、その相手はジーン・ペトロモーラだった。

 

「メリークリスマス、騎士殿。あんたでもこんなイベントには参加するんだな」

 

私は軽く会釈をして答えた。

 

「メリークリスマス。同じセリフをそっくりそのままお返しするわ」

 

ジーンは白と緑を基調としたクラシックなドレスを着ていて、大体いつも御者服を着ているか、どちらかというと男っぽい服装を好んで着ている印象だったので、そのあまりにもクラシカルな出で立ちは少し新鮮だ。

ただ、私のドレスと基調としている色合いが同じなので、センスが良い事は間違いない。

 

「相変わらず愛想ってものがねぇな」

 

呆れて言うジーンに私は肩をすくめてみせた。そして、少しだけ周り気にしながら、声を抑えて言った。

 

「先日は助かったわ。謝礼は足りたかしら?」

 

私の言葉にジーンは訳知り顔で頷くと、私と同じように低い声で言った。

 

「何、オレはあんたに言われた通りダナンまで客を乗せただけだ。いつもの商売と何も変わらない」

 

そう言ってウィンクするジーンに、私は微笑んで見せた。

 

「へえ」

 

ジーンは何か感心したようにこちらを見たが、すぐにバツが悪そうに言った。

 

「すまない、仕事仲間の所へ顔出さなきゃならないんだ」

「ええ、構わないわ。私も待ち合わせている人がいるので」

 

私の回答が意外だったようで、ジーンは驚いた顔をしたがそのまま続けた。

 

「あんたも随分印象が変わったよな。オレに微笑みかけてくれるなんて、嬉しいよ。じゃあな」

 

そう言って手をあげて人波に消えていくジーンを見送る。

印象が変わったと言っていたが、そうだろうか。

 

 

 そんな事を考えているより、ツリーを目指さなくてはならない。

再び歩き出したところに、メイド服を着たキャロル・パレッキーが忙しそうにテーブルの上の物を並べており、顔を上げると私と目があった。

キャロルはニヤリと笑うと手招きをした。

私は渋々とキャロルの方へ近づく。

 

「メリークリスマス。クリスマスなのに大変ね」

 

私が言うとキャロルは大げさにため息を吐きながら言った。

 

「本当だよー。今年のパーティーはいつもより参加者が多くて大変! あんた達のパーティーを裏で支えている人がいるって言うのは忘れないでよね」

「あなたが自分で選んだ仕事でしょう」

「キャハハハハ、まぁね~」

 

相変わらず飄々としていて捉えどころのない態度をしているが、あっけらかんと能天気なところはどこか憎めない。

 

「今年はさー、プリムがいなくなっちゃったから、只でさえ忙しいのに倍以上忙しくてさ」

 

私は一瞬言葉に詰まった。そうだ。仕事仲間であるキャロルにしてみれば、プリムは獄中自殺をした事になっているのだ。

 

「プリム……の事は残念だったわね」

「ああ、まぁねー。でも、あの娘なんであんな事をしたのかな。幽霊騒動なんて起こして、何がしたかったんだろう」

 

私は答えず、テーブルの上のピュエリを見つめていた。

そして少し間をおいて言った。

 

「何か、そこまでして訴えたかった事があったのよ。彼女にしかわからない、何かが」

「……そんなもんかねー。生きていれば、また訴える事が出来たのにね」

「……」

 

今年のクリスマスをプリムはどう過ごしているだろうか。

それはわからないが、心穏やかに過ごしてくれていれば、それでいい。

 

「それより、何か用かしら」

 

私が言うと、キャロルは周りを警戒しながらメイド服のエプロンに隠していたシャンパンの瓶を取り出した。

 

「これ、貴族専用のシャンパンで一般の人には振舞われないヤツなんだよね。自分で飲もうかと思ったんだけれど、こう見えて結構忙しくてさー。どう、今なら格安で譲ってあげるけれど」

「未成年にアルコールを売りつけてどうするのよ」

「ちぇ~ダメかー。どこかに隠しておいて、あとで回収するかなー」

 

とんだ不良メイドがいたものだ。私は呆れつつも思わず笑ってしまった。

 

「あれー」

 

キャロルは私の顔を見ると、微笑んだ。

 

「いいじゃん。せっかくのパーティーなんだから楽しまなくちゃ損だよねー」

 

私はキャロルの言葉の意味がいまいちわからなかったが、とりあえず頷いておく。

 

「まあ、そうね」

「ふーん。ほら、あたしは忙しいから行った行った! あ、スーに会ったらシャンパンを格安で提供するって言っておいてね」

 

言いながら手で猫を追い払うような仕草をする。

私はため息交じりにキャロルと別れ、また会場を進みだした。

 

 

 吐き出した息が白くなり、人が多いのにわずかに寒さを感じた。

そういえば今年のドルファンの冬は例年よりも寒いようで、私の故郷であるスィーズランドと体感が近い感じがして過ごしやすい。

私は寒い冬が好きだが、寒さにあまりいい思い出のなさそうなあの東洋人傭兵はどうだろうか。

辛い過去を思い出して気分が滅入ったりしていないだろうか。

 

「……そういうタイプではないかもね」

 

独り言を言いながら歩いていると、前方に白い大人びたドレスを纏ったアンが、不安そうにまわりをきょろきょろとしているのが見えた。

大人しい性格とは裏腹に、胸元が大きく開いた大胆なドレスに、長く美しい青い髪はアップにしてまとめてあり、その洗練された出で立ちと不安そうな挙動がミスマッチだった。

知らぬふりをしてもいいがヒューイとの間を仲介した以上、無視をするわけにもいかない。

 

「アン!」

 

声をかけると、アンはパッと明るい表情になりこちらに駆け寄ってきた。

 

「あ、ライズさん。メ、メリークリスマス……です」

「メリークリスマス。あなたも来ていたのね」

「は、はい。もしかしたらヒューイさんに会えるかと思って……。でも、知っている人も全然いないので、ちょっと不安になっていたところだったんです」

 

そう言って恥ずかしそうに眼を伏せるアン。こういう仕草を『恋する女性』と形容するのだろうか。

自分の気持ちを偽らずに言葉にも行動にも出来るのはすごい事だと思う。

私はそんなアンの素直さに感心しつつも、彼女の頼りなさに若干不安も感じつつ言った。

 

「今年のパーティーは例年よりも盛況みたいだから、難しいかもしれないわね」

「そうなんですね……」

 

アンはそう言ってしょげてしまった。

かと言って、適当な事を言って慰めた所でどうにもならない。

ツリーへ向かおうとしたところで、アンが小さく言った。

 

「あ、あの、今日のパーティーでは会場でランダムに選ばれた人たちが、ダンスをする催しが開かれるみたいなんです」

「そう」

「もし、そこで選ばれるのがヒューイさんと私だったら、嬉しいなぁ……と」

「これだけの数の人がいる中で選ばれるのは、難しいんじゃないかしら」

 

気の利いた慰めの言葉でも言えればいいのだが、どうしても現実的な事を言ってしまう。

これはしかし性分でもあるし、戦場に生きる傭兵として仕方のない事だ。

だが、アンはそんな私の言葉に落ち込むではなく、逆に強い意志のこもった言葉で答えた。

 

「そう……ですよね。でも、逆にこんな人数がいる中で選ばれたとしたら、それは〝運命〟なんじゃないでしょうか」

 

運命。

 

思いも寄らなかった言葉に、私は思わず感心してしまった。

 

「面白い事を言うわね」

「そうですか? もし選ばれたとしたら、本当に素敵……ですよね」

 

私はアンほどロマンチックに物事を考える事はできないが、これだけの人数の中から偶然ダンスパートナーに選ばれるとしたら、それは何か目に見えない縁の力があるのかもしれない。

それは、運命なのか宿命なのかわからないが。

ただそれはもう少し後になればわかる事だ。

今はツリーに辿り着く事の方が重要なのだから。

 

「ヒューイとダンスに選ばれるといいわね。私は用があるので、失礼するわ」

「は、はい。ライズさん、それではまた」

 

微笑みながら小さく手を振るアンに、少し喉が詰まるような感覚を覚えつつ、私はツリーを目指した。

 

 

 ようやく人をかき分けてツリーに到着すると、ソフィアとハンナはすでにツリーの下で談笑していた。

二人は私の姿を見つけると大きく手を振った。

改めて二人の姿をよく見てみると、対照的な組み合わせで興味深い。

普段から元気いっぱいで明るい性格のハンナは、寒色系の濃紺のドレスを着ている。

 

ベーシックで伝統的な型で派手さはないが、敬虔さが表現されたドレスは普段のハンナのイメージとはかけ離れているが、彼女と深く付き合ううちに見えてくる真面目さであったり、純朴さであったり、そう言った部分とよく合っており女性らしく慎ましやかな印象だ。

 

反面、ソフィアは赤を基調としたシックだが華やかな白のフリルのついたドレスだ。

普段は控えめで一歩下がって微笑んでいる印象の強いソフィアだが、その秘めたる情熱は赤いドレスのようでもあるし、全体的に華やかな印象のドレスの中で、アップにまとめた髪を黒いリボンでまとめているが、その引き締まった黒い色こそ、ソフィアの内面にある一本筋の通った少し頑固で強情なところを表現しているようで面白い。

 

「遅いよ、ライズ!」

 

ハンナが私を招き寄せると、腕を組んで引っ張り寄せた。

そしてマジマジと私を見ると、うんうんと頷いてみせた。

 

「なに?」

「邪魔しないで。ボクは今ドレスを着たライズからしか摂取できない栄養素を吸収しているんだから」

「……意味がわからないわ」

 

ハンナの意味不明な言葉に嫌な顔をしいていると、ソフィアがくすくると笑いながら言った。

 

「メリークリスマス、ライズさん」

「メリークリスマス、ソフィア」

「あの、ドレス、とってもお似合いですね。ライズさんって私達の中ではとっても大人びているから、シックなドレスがすごく恰好いいです」

「ありがとう。二人ともとてもドレスが似合っているわ」

 

私のドレスは極力目立たないようにと思い、クリスマスカラーの緑と白を基調とした比較的落ち着いたデザインのものになっている。

もちろん、体の傷跡が見えないように露出は皆無だ。

 

「そうでしょ!」

 

ハンナが嬉々として声を上げた。

 

「自分で言うのもなんだけれど、ボクもソフィアも滅茶苦茶可愛いと思うんだよね」

 

そう言ってその場でクルリと一回転して見せたハンナだが、私を見て両手を広げた。

 

「でも、ライズも同じくらい可愛いかな! その髪をまとめている大きなリボンがとってもいいと思うよ!」

「これは……」

 

私は咄嗟にリボンを触りつつ、目を逸らした。

この大きな薄い黄色のリボンは、全体的にシックなドレスとバランスを取る為に敢えて大きめな物をつけているだけで、私の個人的趣味とは関係ない。

ハンナに続いてソフィアも言う。

 

「確かに、いつも三つ編みをまとめている赤いリボンもお似合いですけれど、その大きなリボンもとても可愛いですね!」

「おだてても何もでないわよ」

 

私は言いながら少し驚いていた。

この二人は普段の私も含め、よく観察しているという事だ。

私は装飾品の類は興味がないし、戦場で何の役にも立たないので、持とうと思った事もない。

 

だが、唯一リボンだけは好きだ。

髪を纏める、何かを纏めるという行為に使う事が出来て、殺伐とした戦場でも違和感なく持ち込めて気持ちを盛り上げてくれる。

そのリボンを誉められれば、それはやはり悪い気はしない。

私は軽く咳払いをする。

 

「そんな事より、パーティーを楽しむのでしょう。まずはどうするの?」

「そうだ! まずは料理だよ! 取る尽くされる前に食べきゃ!」

 

私とソフィアの手を取ったハンナが引っ張っていく。

ソフィアが明るく笑う。

私は苦笑しつつも今日くらいはいいか、と思っていた。

 

 

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