小説みつめてナイト ライズ氷解 【完結】   作:ケルティック☆タイチ

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【99】誰が為に鎮魂の鐘は鳴る

 ドルファン歴二十九年三月八日。

その日は朝から快晴で、春らしい爽やかな好天に恵まれていた。

私がドルファン城の地下牢獄に投獄され、恩赦で開放されるまでの間にヴァルファバラハリアンの残存部隊は全面降伏。

ダナンのゼノス・ベルシス卿の自害が公表されて、ドルファンとプロキアの戦争が正式に終結した事をドルファン王室議会が発表していた。

休戦協定の調印は十六日まで先送りされているが、私にはもう関係のない事だ。

海の見える共同墓地の外れ、その外れの方の隅に建てられたルシア・ライナノールの墓の隣に、父は葬られた。

 

墓石を立てる事は許されず、そこに眠るのがかつてこの国の次期国王であったデュノス・ドルファンである事を知る者は誰もいない。

私はその父とルシアの墓所を、春の潮風に吹かれながら見降ろしていた。

真紅のマントが風になびき、身に着けていたヴァルファバラハリアン八騎将の証たる特別拵えの鎧が露出したが、もはやそれを隠す必要もない。

この二年半のドルファンへの潜入捜査を思い返してみれば言葉では言い表せない程の出来事ばかりで、私のたかだが十八年程の人生の中でも非常に濃密な期間ではあったが、最終的には一人の男によって我がヴァルファバラハリアンが壊滅させられるのを追いかけた二年半でもあった。

 

あの最初の戦争で、後にイリハ会戦と呼ばれるあの戦いで疾風のネクセラリアが彼に討たれた時からすべてが始まり、私を除いたすべての八騎将が彼に敗北し、結果としてヴァルファバラハリアンは壊滅した。

もちろん本質的には彼の所為でヴァルファが壊滅したわけではない。もっと複雑な背景がからみ合い、政治的に色々な要因が重なった結果、南欧最強と謳われた傭兵部隊ヴァルファバラハリアンは敗北し消滅した。

だが大きな原因の一つを作ったのは間違いなく彼であり、だからこそ私は今こうしてここにいるのだ。

 

 

 懐中時計を取り出し、時間を確認する。約束の時間まであと少し。

少しずつ時間を刻んでいく時計の針をみつめながら、私は深呼吸をする。

今日、この場所ですべての決着をつけるべく、彼に果たし状を送りつけていた。

差出人には隠密のサリシュアンと書いたが、彼ならば理解するはずだ。

これから先どうやって生きていくにしても、彼との決着はつけなければならない。

私が一人の騎士として立つ為にも、最期の八騎将として立つ為にも。

約束の時間まで五分を切ったという所で、教会の方からゆっくりと歩いてくる影が見えた。

ドルファン国軍の青い制服で身を包み、癖のない黒髪が潮風になびいている。この国の人間ではない東洋の出身である事を物語る異国めいた顔立ちに涼し気な目。

ゆったりとした歩調で歩いているが一切の隙がなく、シャツの上からでもわかる鍛えられた体躯には無駄な肉は一切ついていない。

ネクセラリアを討ち取った時から変わらぬその姿を目の当たりにして、私は胸が押しつぶされそうな感覚を覚えていた。

 

 

「ライズ」

 

彼が私の名を呼ぶ。

その声は私の勘違いでなければ、彼の心遣いがまじまじと感じられる程の優しく切なげなものだった。

心配そうな顔でこちらみつめるその表情。私は大きく息を吸い込んですべての想いを振り切るように言った。

 

「……良く来たわね」

 

私の言葉に、ヒューイ・キサラギは立ち止まった。

 

「もう分かっていると思うけれど、私はヴァルファバラハリアン八騎将の一人、隠密のサリシュアン。貴方が討ち取った破滅のヴォルフガリオは私の父よ」

 

ヒューイは僅かに気まずそうな表情を浮かべたが、何も言わなかった。

私は続ける。

 

「よく自由の身になれたなって顔してるわね。昨日、恩赦が下ったわ。デュラン国王は兄の遺児である私を養子にしたいと言っていた」

 

私は目を閉じて父の顔を思い出しながら言う。

 

「だが……叔父であれど、父が生涯憎み続けた敵。養子になどなろうとも思わない」

 

そこまで言って、息を吐く。

ヒューイは変わらない表情のまま、こちらをみつめていた。

敵である私に対し罵りの言葉や侮蔑の言葉でも吐いてくれれば気が楽なのに、彼は何も言わない。

少し間を置く。

何故かわからないが喉元まで何かが溢れかかっていて、気を抜くとそれが零れだしてしまいそうな気がする。

努めて感情を制御し、喋らない彼に代わって私は一人言葉を続ける。

 

「私はスィーズランドに戻るわ。しかし、その前に……」

 

これから口に出さなければいけない言葉に躊躇している自分がわかる。

その言葉を吐いてしまえば私達の関係は決定的になってしまう。

そして、心の奥底ではそれを望んでいない自分がいる事も分かっているからこそ、自分で自分が嫌になる。

だが私はその言葉を吐かなければならない。

ヴァルファバラハリアン八騎将の最後の一人として、私が騎士であるために。

 

「その前に……父の仇である、あなたを倒さねばならない」

 

言った。

この瞬間、私は明確にヒューイの敵となった。

そしてそれと同時に、私は自分の気持ちをはっきりと理解した。

 

 

──私は、この人を失いたくない。

 

 

始めはただの観察対象だった。

疾風のネクセラリアを討ち取った時から、彼は観察対象でしかないはずだった。

だが、あの日通学途中で彼に出会った日を契機に彼と時間を過ごす機会が増え、彼の生き方に、彼の考え方に触れるたびにいつの間にか彼は私の中で存在感を増していき、ついには憧れの対象となっていった。

今までに出会った事のない傭兵としての生き方、戦場で戦った者への理解と尊敬を忘れぬ姿勢、戦場以外では剣を振るわない優しさ。

飄々とした生き方の中で時折見せる激情と寂しさ。

 

彼は常に私の予想外の行動を取り、いつも私に新しい世界を見せてくれた。

意義を見出せずに腐っていた私に、自信を取り戻させてくれたのも彼だった。

彼と過ごす時間はいつの間にか観察対象と過ごす時間では無くなり、私にとって安らぎの時間にすらなっていった。

しかし、それを認めてはいけないとずっと思っていた。

私は八騎将の一人。隠密のサリシュアンであり、この敵地ドルファンの潜入捜査員だ。

ましてや同じ八騎将達を次々と討ち取っていくこの男に、心を許す事などあり得るはずがない。

 

私は自分の心を凍らせることによって隠密のサリシュアンとして生きる事が許され、八騎将としての誇りを得る事が出来ていたのだから。

だが、彼と明確に敵対関係になった今、私は彼への気持ちをはっきりと理解した。

この気持ちはただの憧れだけではない。

理解してしまった気持ちが、何も言わない彼に対して自然と口からこぼれていった。

 

「どうして……」

 

こぼれだした気持ちを止めるすべはなく、勝手に言葉が溢れていく。

 

「どうしてあなたは敵だったの!? どうして民間人じゃないの!?」

 

こんな事を言った所でどうにもならない事は分かっている。

だが一度決壊した想いは止められない。

 

「傭兵なんかやっているから……剣を向けなきゃならないのよ!!」

 

本音だった。

もし、私も彼も傭兵などではなく、ただの学生と民間人だったのならば二人の関係は違ったのかもしれない。

ソフィアやハンナのように純粋にクリスマスパーティーのダンスパートナーに憧れ、戦争など関係ない所で出会った二人ならば、もっと優しく温かな関係を築けたのかもしれない。

だが、それまで黙って聞いていたヒューイは静かに口を開いた。

 

「……その傭兵をやっていなければ、オレはライズと出会う事もなかった」

 

彼の言葉は今まで聞いたことのないほど切なく、そして苦しそうだった。

 

「果たし状を受け取った時、正直、来るかどうか迷った」

 

彼は言葉を続ける。

 

「だが、ここで待っているのはライズだと確信していたし、そうであるならばここに来なければならないと思った」

「……」

「なぜならば、お前の大切な人を奪ったのが、オレに他ならないからだ」

「同じような事を、氷炎のライナノールと戦った時にも言っていたわね」

 

ヒューイは頷いたが、確固たる決意を秘めた声で言った。

 

「オレは戦場以外で剣を抜くつもりはない。だが、お前の大切な者を奪った人間として、そしてその人の最期を看取った人間として、オレはオレ自身の誇りと生き方に懸けてこの決闘に応じなければならない」

 

彼の言葉の真意を知る事は出来ないが、その瞳が強い炎を宿している事はわかる。

彼が果し合いに応じてくれた事に対する感謝と、応じずに来なければ良かったのにという恨み節と、綯い交ぜになった気持ちを抱きつつ、私は答える。

 

「私は……私は八騎将の一人。血は血でもって償わせなければならない……」

 

腰のベルトに差していたレイピアを引き抜き、彼に向けて構える。

 

「さあ、剣を抜いて」

 

ヒューイは黙って頷くと、腰を落としながら刀を引き抜いた。

 

 

 その瞬間、全身に鳥肌が立った。

初めて対峙した剣を持ったヒューイ・キサラギから放たれるプレッシャーは、今まで対峙したどんな相手とも違うものだった。

ただ剣を構えて立っているだけの彼に、打ち込めるイメージがまったく湧かない。

どこに斬り込んでも、立ちどころに斬り返されるイメージしか想像できない。

構えのどこにも綻びなどなく、一切の隙もなければこちらに対する油断もない。

わずかな隙を作る為にフェイントで剣先を少しでも動かす事すらはばかれる。

一ミリでも私の剣が動いた次の瞬間には、切り伏せられていそうな気さえする。

このプレッシャーと対峙して剣を切り結んでいた他の八騎将達の凄まじさを、今になって感じるとはなんとも皮肉な話だ。

 

攻めあぐねて呼吸が荒くなっていく自分に気付いた時、そんな自分がひどく滑稽に思えて来た。

私は父の仇を討つべく、八騎将達の無念を果たすべく、ここにいるのだ。

今更自分の命惜しさにプレッシャーを感じるなど、なんと浅はかな事だろうか。

もとより今の私には八騎将の誇り以外何もない。

研鑽を重ねた自分の剣以外に、信じられるものなど何もないのだ。

今ここで彼を倒すのは難しいかもしれない。

だが、私の八騎将としての名誉と騎士としての誇りすべてを剣に込めるしかない。

 

恐怖を振り払うように牽制の突きを二発。もちろんヒューイはそれをわずかな身のこなしで躱す。

それが当たらない事はわかっている。

私は短く息を吸い込み、私の放てる最高の技にすべてをかける。

私の想いのすべてを込めてこの一撃を。

 

「プレシズ・キル!!」

 

その声とともに私のレイピアは一筋の光の軌跡となって星を描く。

光の速さで煌めく斬撃を必要最低限の動きで避けるヒューイ。

斬撃から刺突へ手首を返して切り替えたその刹那の瞬間、ヒューイの剣が比喩でもなんでもなく消えた。

そして私のレイピアは根元から折れた。というより、根元から斬り払われて切断されて、刀身が宙を舞った。

そのゆっくりと弧を描きながら空を舞う刀身をみつめながら、私はその場に膝をついた。

私の剣は彼には届かなかった。

私は想いは何一つ、届かなかった。

 

「う、うう……」

 

堪えようもなく、声が漏れた。

悔しさではない。騎士の誇りである剣まで折られて、私は完全に打ちのめされてしまった。

 

「私は……何もかも失ってしまった。……父も……八騎将としての名誉すら……」

 

無様にも地面に膝をつき、根元から折れた剣を持ったままうなだれる。

もう、立ち上がれない。

私を支えていた八騎将という唯一の誇りすら、根元から折られてしまった。

自分の体が鉛のように重くなり、顔を上げる事すら難しい。

なぜヒューイはとどめを刺してくれないのだろうか。

氷炎のライナノールには、ルシアには最後の一撃を振り下ろしたというのに。

私は彼にとって、騎士としてすら認めてもらえないという事だろうか。

その忸怩たる思いが口をついて出た。

 

「……殺して」

 

言葉とともに涙が頬を滑る。

なぜ自分が泣いているのか理解できないが、涙が溢れてくる。

 

「もう……生きていたく……ない」

 

父の復讐は達成できず、八騎将達の仇を討つ事もできず、騎士として生きる事もできない。

もう私を支えるものは何もない。

ヒューイが私の前に立ち、ようやく剣を振り上げてくれたのがわかった。

父を討ったこの男の手にかかって死ぬのなら、もうそれでいい。

最期の瞬間を迎える為に目を閉じたその時、よく響く澄んだ声が聞こえた。

 

「待って!!」

 

 

 その声に顔を上げると、今まさに駆けてきた女性が私を庇うようにヒューイの前に立ちはだかった。

茶色い肩下までの髪が揺れ、両手を左右に大きく広げてヒューイに対峙したのは、ソフィア・ロベリンゲであった。

奇しくも父を庇った私と同じように立つソフィアを見て、私は声を上げた。

 

「ソフィア……! どうして……」

 

ソフィアは顔だけ振り返り、悲痛な口ぶりで言った。

 

「ライズさん……私、私……!」

 

何かを訴えようと必死に言葉を探しているのがよくわかる。

そんなソフィアに助け舟を出すように、剣を振りかぶっていたヒューイは静かに剣を下げ、鞘に収めながら言った。

 

「オレがソフィアにこの決闘の事を教えていた」

 

なぜヒューイがソフィアに決闘の事を教えるのか、まるで意味がわからないでいるとソフィアが振り返り、私の前に跪いた。

 

「私、どうしてもライズさんの最後の言葉の意味がわからなくて、納得できなくて、ヒューイさんに相談していたんです。そんな折、今日、ここでライズさんとヒューイさんが決闘をする事を教えてもらいました」

 

ソフィアの声は震えていたが、その瞳がまっすぐ私をみつめていた。

 

「今でもライズさんがなぜヒューイさんと戦わなければいけないのか、なぜそんな鎧を着て、剣を持っているのかわかりません」

 

私はそんなソフィアの言葉を、ただ茫然と聞いていた。

 

「でも、そんな事はどうでもいいんです。私は、ライズさんに死んでほしくない。いなくなってほしくない!」

 

真剣で熱い眼差しで訴えかけるソフィアに、停止していた思考回路がわずかに動きだした。

 

「……見ての通り、私は普通の人間ではないわ。しかも、ドルファンに侵攻していた敵であるヴァルファバラハリアンの人間よ。私は、この剣であなたの国を滅ぼそうとしていた人間だわ」

 

私の言葉にソフィアの肩がわずかに震えた。

だが、彼女は引くことなく私の目をみつめたまま続けた。

 

「はっきり言って、怖い……とても怖いです。一緒に学校へ行って、一緒に笑い合っていたはずのライズさんが、そんな恐ろしい物を持って、こうして戦っている姿を目の当たりにするのは」

 

そうだ。私は彼女に自分を偽り、平凡な学生生活を送っているように見せて、その裏で彼女の国を滅ぼそうと画策していたのだ。

しかしソフィアはそんな自分の怖れを振り払うように首を振った。

 

「でも、そんな事はどうでもいいんです。ライズさんが本当は何者で、例えドルファンの敵であっても、それはどうでもいい事です」

「何を……」

 

想いもよらぬソフィアの言葉に、私は思わず声に詰まってしまった。

「私はライズさんに勇気をもらいました。いつだって一歩前に進む勇気をくれたのは、ライズさんでした。だから、ライズさんが何者であっても構わない。私はライズさんを失いたくないし、守りたい」

「やめて。私はあなたやハンナに自分を偽装し、偽りの友人関係を作っていただけ。それもヴァルファバラハリアンに有利な情報を引き出す為にやっていた事よ。あなた達との関係を上手く利用して、あなた達の信頼を裏切っていただけだわ!」

 

彼女の気持ちを裏切る言葉だ。

だがソフィアはそんな私の言葉に、何の迷いもなく言い切った。

 

「それでいいじゃないですか」

 

思いもよらない言葉だったがソフィアは真っ直ぐな瞳で続けた。

 

「人は誰だって多かれ少なかれ何かを偽ったり、誰かを利用したりする生き物じゃないですか。私だってそう。ライズさんの優しさを上手く利用して、自分の決断力の無さを補うための言い訳に使っていただけです」

「違うわ。私は……」

「ライズさんは」

 

私の言葉に被せるように、ソフィアが強い口調で言う。

 

「ライズさんは私を、私達を守ってくれました。自分が怪我をする事も顧みずに私達を助けてくれた、あの時のライズさんの行動に嘘があったとは思えません。私がライズさんと一緒に過ごした時間にも嘘があったとは思えません。それがライズさんにとって偽りであったとしても、私にとっては紛れもなく真実だし、ライズさんを失いたくないというこの気持ちも真実です」

 

そして大きく息を吸い込むと、はっきりと言い切った。

 

「私達が一緒に過ごした時間は、いつだって真実でした。ライズさんが何者であっても、敵国の剣士であったとしても、私にとって最高の友人であるライズさんに他ならない!」

 

 

 その言葉に私は、ドルファンに潜入して以来大きくなっていった心の中のしこりを打ち砕かれたような感覚を覚えた。

私はヴァルファバラハリアン八騎将の一人、隠密のサリシュアン。

そして、ドルファン学園の生徒として潜伏する、潜入捜査員のライズ・ハイマー。

どちらが本当の私なのか、私自身とは何者なのか、ずっと両者の間をさまよっていた。

だがそんな私の迷いなど、ソフィアは些細なことだと切り捨ててしまった。

打ち砕いてしまった。

 

「だから私は……」

 

ソフィアが私の手を取って優しい声で言う。

 

「ライズさんが困っているなら、支えてあげたい。ライズさんが迷っているなら、一緒に考えたい。」

 

そして、あの日シアターでも言われた言葉をもう一度言った。

 

「私は、ライズさんの親友でありたいから」

 

「わ……私、は……」

 

ソフィアの言葉に返す言葉が見つからない。

ずっと彼女の信頼を裏切ってきたのは拭いようのない事実だし、血塗られた道を歩いてきた私がこんなに眩しい光を放つ娘に返せる言葉などあるはずがない。

戸惑う私の姿を見て、それまでずっと黙っていたヒューイが言った。

 

「父君の遺言を思い出せ、ライズ」

「遺言……お父様の……?」

 

あの嵐の夜、お父様が私に向けて言ってくれた最後の言葉を思い出す。

 

「……自分の人生を生きろと……? 普通の女として……」

 

ヒューイが無言で頷く。

 

「私に……出来るの?」

 

普通の女として生きる。

そんな事を想像した事もなかった。

八騎将でも傭兵でも潜入捜査員でもない、普通の女として。

戸惑う私の手を、ソフィアが優しく握る。

ヒューイが穏やかな瞳でこちらをみつめている。

私のまわりに、こんなに暖かな光をくれる人達がいるのならば、あるいは。

 

しかし、今日までの人生を騎士として生きた来た私がそんなに簡単に変われるはずもない。

変わってしまう事が恐ろしいという気持ちもある。

私はソフィアの手をそっと外して、立ち上がる。

 

「ごめんなさい……暫く独りにさせて……」

 

ソフィアが不安そうな顔でこちらを見る。

 

「大丈夫、逃げやしないから……」

 

ぎこちないながらも微笑んで見せると、ソフィアもはにかんだ笑顔で答えてくれる。

教会の鐘が鳴り響き、その鎮魂の響きが空へと吸い込まれていった。

 

 

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