「──お嬢様! ミレディお嬢様! ボーッとしないで、しゃんとして下さい! 今日は殿下にお会いする大切な日でしょう!」
──はい?
耳元で名を呼ばれ、彼女は我に返った。いやちがう、それは彼女の名前じゃない……はず……。
「えっと……なに……これ……」
そして彼女は呆然とした。
そこが見慣れた自分のオタ部屋ではなく、アンティーク調の家具がそこやここに配されたバカバカしいほど広い
──いや、待って。……この展開、
彼女の本来の名前は
「お嬢様……? もしや、お体がどこか優れないのですか?」
だから彼女は瞬時に察していた。
そうなったときのシミュレーションは脳内で何百回と済ませていたし、ミレディという名前から、どの
破滅フラグを
──けれど。
心配そうな侍女を手で制した彼女は、壁面に飾られた刺々しいデザインの大鏡に、つかつかと歩み寄った。
「知ってます。
そして鏡の中の自分──真紅と漆黒の
「あなたが
「……お嬢様……? あの……誰か呼んでまいります!」
逃げるように部屋を出て行く侍女に構わず、鏡像を糾弾し続けた。
「──やがて悪しき魔女として断罪され、ギロチンで首を
変わらぬ沈黙。それにしても──ふと彼女は我に返る。
悪厄獣って一体……あんな、頭にでっかい包丁の生えた大怪獣になってしまって、しかも最終的に
彼女個人としては、嫌いではなかったけど。
──なお、彼女のオタクとしての守備範囲は広い。
「とにかく! 悪の
さらに一歩、鏡の真ん前まですすんだ彼女は、その両側面をガッと掴んだ。
そして冷たくドスの利いた声で、言い放つ。
「────割りますよ?」
…………沈黙。
「よーしわかった、もう割る。すぐ割る。いま割る」
断言した彼女は、思ったより堅く固定されていた鏡を外すのを諦め、傍のテーブルに置かれていた大きめの花瓶の左右の取っ手に両手をかけた。そしてふるふると震えながら頭上まで持ち上げ──鏡面へと振り下ろした!
『──ちょっ! 待って、ちょっと待って!』
鏡の中の彼女が、両手で顔を覆って懇願している。
対する本物の彼女は、満足げな笑みを浮かべて花瓶を寸止めしていた。活けられた白い花がふぁさりと鏡面を撫で、慣性でこぼれた水が数滴、床に落ちる。
「なら、さっさとわたしを現世に
この時代の誰も知り得ぬはずの正体まで言い当てられ、鏡の中の彼女──女神は大きくため息を吐いた。
『……
「
再び花瓶を頭上に掲げ、バッキバキに据わった目で凄む彼女。
『……ヒェッ……』
鏡の中の
『わかった、わかったから! 今のお前の魂は、両方の世界に紐づく二重存在! だからこっち側の縛りを緩めてやれば、すぐに戻せるはず!』
その言葉を聞いて、彼女は花瓶をゆっくり胸の前まで降ろす。深い藍色の瞳が、白い花の向こうで、ふと何か思い出したように揺らめいた。
「ところで