悪役令嬢系魔法少女のダンジョン最速攻略   作:クサバノカゲ

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美黎さんは帰りたい

「──お嬢様! ミレディお嬢様! ボーッとしないで、しゃんとして下さい! 今日は殿下にお会いする大切な日でしょう!」

 

 ──はい?

 

 耳元で名を呼ばれ、彼女は我に返った。いやちがう、それは彼女の名前じゃない……はず……。

 

「えっと……なに……これ……」

 

 そして彼女は呆然とした。

 そこが見慣れた自分のオタ部屋ではなく、アンティーク調の家具がそこやここに配されたバカバカしいほど広い超豪華部屋(ラグジュアリールーム)だったから。

 

 ──いや、待って。……この展開、()()なのでは?

 

 彼女の本来の名前は阿久津(あくつ) 美黎(みれい)、十五歳の高校一年生。どこにでもいる普通──よりちょっとだけ濃いめのオタク女子だ。

 

「お嬢様……? もしや、お体がどこか優れないのですか?」

 

 だから彼女は瞬時に察していた。これ(・・)は異世界恋愛モノによくあるあれ(・・)──ゲームや小説の作中の悪役令嬢に転生してしまう展開だと。

 

 そうなったときのシミュレーションは脳内で何百回と済ませていたし、ミレディという名前から、どの原作(ゲーム)かも特定できた。

 破滅フラグをかたっぱし(・・・・・)からへし折って、顔のいい皇太子殿下と幸せな結婚(ハッピーエンド)までの完璧な道筋(プロット)もすでに脳内に浮かんでいる。何せ彼女は、普通よりちょっとだけ濃いから。

 

 ──けれど。

 

 心配そうな侍女を手で制した彼女は、壁面に飾られた刺々しいデザインの大鏡に、つかつかと歩み寄った。

 

「知ってます。あなた(・・・)が全ての黒幕でしょ」

 

 そして鏡の中の自分──真紅と漆黒の二色(バイカラー)ドレスを着て銀髪を縦巻きロールにした気強(キツ)め美少女を、びしりと指さす。もちろん、鏡像(かのじょ)も寸分違わぬ動きで、指をさし返す。

 

「あなたがミレディ(わたし)をそそのかして聖女(ヒロイン)をイジメさせ、失敗するたび少しずつ悪の魔力(ちから)を与えてじわじわ人生を狂わせていく──」

「……お嬢様……? あの……誰か呼んでまいります!」

 

 逃げるように部屋を出て行く侍女に構わず、鏡像を糾弾し続けた。

 

「──やがて悪しき魔女として断罪され、ギロチンで首を()ねられる瞬間その刃に沁みついた怨念を取り込んで、ラスボスの悪厄獣(あくやくじゅう)ギロヴィランと化して大暴れ、最後は聖女(ヒロイン)に浄化されて消滅する」

 

 変わらぬ沈黙。それにしても──ふと彼女は我に返る。

 

 悪厄獣って一体……あんな、頭にでっかい包丁の生えた大怪獣になってしまって、しかも最終的に聖女(ヒロイン)も巨大女神像と同化して怪獣映画さながらの殴り合いになる超展開……さすがに斬新すぎるのでは?

 

 彼女個人としては、嫌いではなかったけど。

 

 ──なお、彼女のオタクとしての守備範囲は広い。日曜朝(ニチアサ)は魔法少女から特撮ヒーローまで実況(リアタイ)勢である。

 

「とにかく! 悪の魔力(ちから)を正しく使って破滅フラグを全回避、とかやってられないんです。わたしには現世(むこう)に大切な、やり残したことがある気がする(・・・・)! だから今すぐ(かえ)らせてください!」

 

 さらに一歩、鏡の真ん前まですすんだ彼女は、その両側面をガッと掴んだ。

 そして冷たくドスの利いた声で、言い放つ。

 

「────割りますよ?」

 

 …………沈黙。

 

「よーしわかった、もう割る。すぐ割る。いま割る」

 

 断言した彼女は、思ったより堅く固定されていた鏡を外すのを諦め、傍のテーブルに置かれていた大きめの花瓶の左右の取っ手に両手をかけた。そしてふるふると震えながら頭上まで持ち上げ──鏡面へと振り下ろした!

 

『──ちょっ! 待って、ちょっと待って!』

 

 鏡の中の彼女が、両手で顔を覆って懇願している。

 対する本物の彼女は、満足げな笑みを浮かべて花瓶を寸止めしていた。活けられた白い花がふぁさりと鏡面を撫で、慣性でこぼれた水が数滴、床に落ちる。

 

「なら、さっさとわたしを現世に(かえ)してください。──鏡に封印された、古代(いにしえ)の邪悪な女神さま?」

 

 この時代の誰も知り得ぬはずの正体まで言い当てられ、鏡の中の彼女──女神は大きくため息を吐いた。

 

『……お前(そっち)の世界の女神が、こっちの魂を転入させれば最高の手駒(プレイヤー)として使えるとか売り込んできたんだ。ちょうど活きのいい死にかけ(・・・・)がいるからとか……ぜんぜん、話が違うじゃない……』

女神(そっち)界隈の事情は知ったことじゃないです。どうなんですか? (かえ)すの? それとも……」

 

 再び花瓶を頭上に掲げ、バッキバキに据わった目で凄む彼女。

 

『……ヒェッ……』

 

 鏡の中の女神(かのじょ)が浮かべるのは、もはや怯えの表情だった。

 

『わかった、わかったから! 今のお前の魂は、両方の世界に紐づく二重存在! だからこっち側の縛りを緩めてやれば、すぐに戻せるはず!』

 

 その言葉を聞いて、彼女は花瓶をゆっくり胸の前まで降ろす。深い藍色の瞳が、白い花の向こうで、ふと何か思い出したように揺らめいた。

 

「ところで現世(あっち)のわたし、死にかけてるんですよね。だったら──」

 

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