ベアトリーチェを開幕早々ぶん殴った男 作:テッポウエビ
……越谷ゴウの人生は、その異形の腕によりとてもじゃないがいい生活はできなかった。
その異形と能力故、内戦が起きたアリウスで、ゴウはどのテリトリーにも居られずに各地を転々とすることになったのだ。何度化け物と罵られたのかは数え切れない。
しかし意外にも、受け入れられなかったことについての不平不満はゴウには無かった。そんな事よりも、手に宿したその力をどう扱うか……そればっかりをゴウは考えていた。
こんなアリウスじゃ、奪うか奪われるか……そのどれかしか道はない。辛いのも苦しいのも嫌になるほど転がっているのはアリウスと言う自治区だ。
彼は手にしたその力で戦う事を選んだ。誰にも奪われないためには、そうするしかなかったからだ。奪ってくる奴らから奪う……それが、ゴウの生き方だ。
そんな大胆な性格をしているゴウ……しかし実を言えば、彼はかなりの臆病者だ。
そうではなかろうか?それだけの力をあり、そのあり方を探したいというのならば、アリウスから出ればよかったのだ。
しかし、ゴウはアリウスから出なかった……外の世界が、トリニティが恐ろしかったのだ。
いくら普段は堂々と立ち上がり、えらそうな口を振るっていても、結局は外の世界にでられず井の中の蛙で居続けることを選んだ臆病者だ。
いくら、出口となるカタコンベが内部が一定期間て変わる迷宮だったとしても、脱出する素振りも努力も魅せなかったのがその証だ。
その結果、ベアトリーチェに目をつけられ……彼女に捕獲されサンドバッグにされる毎日を招いたとも言える。
何を言おうとも、ゴウは所詮その程度の男だったのだ。
しかし、ゴウは変わった。変わることができた。
……恐れていたトリニティへ、外の世界へ飛び出す事を決めたのだから。
その道を選ばせたのが、彼を捕獲し良い駒に使おうとしたベアトリーチェと言うのは皮肉というべきかなんと言うべきか……。
「はぁ……はぁ……!」
ゴウは、トリニティへと繋がる出口、カタコンベを只管に走る……アリウスからカタコンベの入口には、ゴウの衝撃波によって倒されたアリウス生が転がっていた。
カタコンベの
元々はトリニティに潜入するための駒だったのだから、周期で変わるカタコンベの入口や内部を教えておくのは当たり前だ。
これが聞いた情報が偽物だった場合も考えたが、ベアトリーチェもこんな事態は予測していなかったのか、彼女が言った道筋は
……まぁ流石に、庭で家主を殴って逃げる様な常軌を逸した輩の対処法なんて考えていなかったのだろう。爪が甘い……と言うよりも、ゴウが規格外と言ったほうが正しい。いろんな意味で。
さて、ゴウがアリウススクワッドから逃げる際に何をしたのか……簡単だ。地面に向かって拳を打ち付けて、
落下によるダメージはキヴォトスの人間の肉体には無いような物……上空ならばアリウススクワッドも追えない。完璧な逃走経路というわけだ。
……結局巡回中のアリウスの人間に見つかって、カタコンベの扉諸共衝撃波で破壊する羽目になったのだから同じ事だって?
それを言われれば、後は何も言えまい。
「くっそ……あいつらの所為で
ゴウは、そう言いながら自身の右腕を見る……確かに、前腕部の突起――
一見大丈夫か!?と思わなくもないが、問題はない。よくある事だ……ゴウの腕のハサミは、その衝撃に耐えられずに連続で使用すると自壊する事がある。
だが、心配はいらない。折れても、甲殻類や節足動物の様にそのうち生え変わるのだ……具体的には3日、逆に言えば、3日間はゴウ最大の武器である衝撃波が使えないと言う事になる。
「3日か……キチィな。」
これから暫くの間、追手や輩は拳一つで退けなければならない……中々にきつい条件だ。
だがそれはともかくとして、
すると、たどり着いた……アリウス自治区の外の世界。トリニティ総合学院だ。辺りはお嬢様高校と言われるにはらしくなくスラム街の様な風体が広がっていた。
外は雨が降り注ぎ、ゴウの身体を雨粒が貫いていく。
「はぁ……はぁ……キッツ……」
ゴウはそう言いながら、上がった息を整える。心臓はバクバクして蠢いている。
だが、ゆっくりはしていられない……アリウス自治区で、かなりの追手を衝撃波で吹き飛ばしたが、自宅の外にもある程度の範囲にアリウス生はいる。早くここから離れねば……
ゴウはトリニティのスラム街を歩く中……心のなかで叫ぶ。
(いやぁ……めっっっちゃスッキリしたぁぁぁぁぁ!!!!!)
ゴウはとても晴れ晴れとした顔でそう言って笑顔を見せる。
……前前から高飛車で高慢ちきで、道具やサンドバッグ扱いしてきた腹立つBBAの顔面に全力の一発をぶち込んでやったのだ。
これをスッキリしたと言わずになんと言う。
おかげで面倒なことにはなったが、一切合切悔いはない……!!
1年間も大人しくサンドバッグであり続けた甲斐があった言う物だ。お陰で自治区の外にも出ることができた。
こんな爽やかな気分を味あわせてくれたことについては、むしろベアトリーチェに感謝したいくらいだ。それはそれとして殴るが。
「さて……と、これからどうした物かねぇ。」
ゴウはそう言ってスラム街の廃街を駆け抜けながら、頭を掻く……もうアリウス自治区には戻れない。アリウスという組織がある限り、ゴウは永遠に追われる存在となるだろう。
……トリニティだろうが、ゲヘナだろうが、何処に行こうが関係ない……永遠に追われる身だ。
そんな道を選んだのはゴウ自身……しかし、後悔はない。
自分の道を自分で決められる……それほどの幸福は、この世界でなかなか巡り会える物ではない。
「……まっ、なんとかなるか。」
ゴウは自身に満ち溢れた言葉を紡いで、地面を蹴って町中を、壊れた街灯の照らす瞬きの中を歩き続けるのだった。
「……申し訳ありませんマダム。対象をロストしました。アリウスの外へ逃げた可能性もあります。」
『くっ……使えないですね貴方方も。しかし、今更彼一人いなくなったとしても計画に支障はありません。しかし、今後も彼の追跡は続けさせなさい……必ず見つけ出して私の元につれて変えるのです。
「……了解。」
アリウス自地区、錠前サオリは突如大きく吹き飛んだゴウを追って自治区をくまなく探していた。
しかし、探せども探せどもゴウは見つからず……先程、カタコンベの入口でアリウス生達が衝撃波を、受けて倒れていると言う情報が手に入った。
既にゴウは外の世界へ向かったのだろう……
……しかし、サオリはどうも不可解だった。なぜ、あの越谷ゴウはあんなにも清々しい顔をしていたのだろ。ベアトリーチェに逆らって、生きて帰れるはずがないのに。
まるでしがらみなんて何も無い……はしゃぐ子供の様な笑顔。そんなゴウの顔が、サオリは頭から離れなかった……その笑顔がとても眩しく、輝いて見えたのだ。まるで、フィルムに絵がこびりつく様に。
「......vanitas vanitatum. et omnia vanitas...」
サオリは、自分に言い聞かせるようにアリウスの銘をつぶやいた。空は空である。全ては虚しい……徹底的な虚無主義を体現したような言葉、そういう意味の言葉だ。
サオリは、少し一息吸うと……またアリウス自治区の宵闇へと走り出して、消えていくのだった。