ベアトリーチェを開幕早々ぶん殴った男 作:テッポウエビ
雨が弾丸のようにざあざあと降り注ぐトリニティの昼頃、その少女は屋根のある建物の影で雨が弱まるのを待っていた。少女の名は――宇沢レイサ。
「はぁ……いい天気だったのに雨です。」
トリニティ総合学院の非公式部活――トリニティ自警団の一人。……今日は、運が良い日かと思っていたのだが、そうでもないようだ。
まさか限定品のロールケーキの購入できたと思ったら、急に雨に降られるとは……朝までは良い天気だったと言うのに。
運が良いのか悪いのか、まぁ、ケーキは濡れていないようだから良しとしよう。
そんなレイサの近くに近づく影が一つある……背は170cmほどだが、身長と共にかなりのガタイの良さを誇り、灰色の髪を後ろにまとめてポニーテールにして居る男。
しかし、全身ボロボロで、肌が見える所から血が滴っているのが分かる。明らかになにか一騒動あったって感じの風体だ。
……何よりも目を引くのは、その右腕だった。甲殻類の様な殻を持ち、纏う殻がガントレットのようにも見える。
……彼の名は越谷ゴウ、アリウス自治区からの脱走者、スラム街を抜けてなんとかトリニティの自治区内にやってきた男だ。ここまででもかなり濃い1日を経験している。
ここまでくれば、アリウス生も下手に探すことは出来ない。ゴウは安心した様子で少し休もうとして屋根の内側に入ると、レイサへ言葉を紡ぐ。
「ワリィ、ちょっと邪魔するぜ。」
そう言ってゴウは、レイサの隣に入る。レイサも、特に断る理由もないので、深く頷いてすごい動いてゴウのスペースを作った。
(……ど、どうしましょう!?)
……相手は見るからに、何か訳ありの様子。何処か、スケバンの人達と似たような……似てないような雰囲気を感じる。
もしかしたら、何か大変なことに巻き込まれているのかも知れない。ここは何か声をかけたい……
トリニティ自警団として、見るからにぼろぼろな人を見過ごすことは出来ない。
もしかしたら、変な輩に追われているのかも知れないし――大体合ってる――それならばなおの事、見過ごすわけには行かない。
……しかしそうは思っていても、実際に声をかけるのはとても難しい。レイサが元々あまり人に声をかけれない性格なのもあるが、それ以上にただ隣に来ただけの人に話しかけるのも変な話だろう。
……すると、次の瞬間かなりの大きさで腹が空く音がなる。ゴウは腹の部分を撫でながらグダっと肩を落とし、静かに言葉を漏らす。
「腹減ったァ……」
そう言って、ゴウは建物に背を預けて項垂れる。……考えてみれば、彼はここ暫く何も食べてない。
配給のレーションを昨日の昼食べたのが最後であろうか?そこから昼まで丸一日何も食べてないとなれば、腹の虫が唸るのも当然だろう。
(お、お腹を空かしているのでしょうか……?)
レイサは只管にどうした物かと悩む。ここは勇気を出して話しかけて、多少なれども話を聞いたほうがいいのではないか?
しかし、いきなり話しかけて迷惑と思われないだろうか?うるさいと思われて嫌な印象を持たれないだろうか?レイサは自分の中でドツボにはまる感覚を感じていた。
友達に話しかけられた時もそうだ、うまく返事が出来なかったり反応が大げさすぎて困らせてしまったり……兎に角から回ってしまう。
今回もから回ってしまうくらいなら……だが、しかし……そんな風に考えていると、意外な事にゴウの方から話しかけてくる。
「オイ。」
「わっ!?な、なんですか!?何か問題でも!?」
「あぁ、いや……よぉ。そういうんじゃねぇんだが。」
すると、ゴウは言いづらそうにレイサへ言葉をかける。
「肩に虫止まってんぞ。」
「えっ!?きゃぁっ!?」
するとレイサは驚いて体を強張らせる。ゴウは「悪い」と一言おいてから、レイサの肩に止まっていた虫をつかんで、適当に地面に放す。
「わりぃな。結構デカかったら気になっちまった。」
「お、大きさとかあまり言わないでください!?想像したら……!!」
そう言ってレイサは体を震え上がらせた。
……すると、ゴウは首を傾げてレイサに問いかける。
「つかよ、さっきから俺の顔見ては溜息してどうした……もしかして、俺なんかやっちまったか?」
何処か申し訳無さそうな顔でそう告げるゴウに、レイサは首をすごい勢いで振るって言葉をかける。
「い、いえ!そんなそんな!……ただ、その……」
レイサは、踏み出せなかった一歩をなんとか踏みだこうとする。
これがおそらく声を掛ける最初で最後のチャンスだ。トリニティ自警団として、正義の使徒として、見過ごすことはできないと奮い立たせて、一言問いかける。
「お、お腹空いているんですか!?」
……思わず大きい声が出てしまった。ゴウは、「あー」と少し唸る……レイサは、内心若干やってしまったと後悔しながらも、ゴウの返事を待った。
すると、ゴウは頭をかいて言葉を紡ぐ。
「あぁ……腹の虫聞こえちまってたか?少し、な。」
「結構すごい音なってましたが……どのくらい食べてないんです?」
「あぁ……1日、かねぇ?」
「1日も!?それはお腹すきますよ!?」
「まぁ色々あってなぁ……」
ゴウはそう言って背筋を伸ばす。
「まぁ、気にしないでくれや。いや、マジで。」
ゴウはそう言う……すると、レイサは自分の持っているケーキの袋を見る。
すると、レイサは力強く頷いて、ケーキの入った袋をガサゴソとあさり……小さなロールケーキを一つ、ゴウへと差し出した。
「ど、どうぞ!」
「……はっ!?おまっ……えっ……いや、いらねぇよ――」
すると、ゴウは目の前の糖分の塊を見て、無意識に腹の虫をまた慣らしてしまった。二人は細目を互いに向けると……ゴウは心の底から申し訳無さそうに呟く。
「もらって……いいか?」
「はい!どうぞ!」
すると、ゴウは右腕でロールケーキを鷲掴みにすると勢いよく頬張る……すると、その目を輝かせる。
「あ、甘え!?うめぇっ!?んだこりゃ!?」
「ロールケーキです!しかも限定品ですよー」
「まじかそんな良い物を……いや、マジで……ありがとう!こんな美味いもの食ったのは生まれて初めてだ!」
……限定品とは言えど、普通のコンビニスイーツなのだが、一体今までどんなものを食べてきたんだとレイサは疑問に思う。
すると、ゴウはレイサを見て頭を下げる。
「本当にありがとう!何か……礼をさせてくれ!」
「き、気にしないでください!私が勝手にやったことなので!」
「そうはいかねぇ。こんなに美味いモンを喰わせてくれたんだ!礼をしねぇ訳にゃいかねぇだろうが!」
……つっても、金はねぇけど……と、少しへこんだ様子で呟く。レイサとしては、つい見過ごせずにロールケーキを上げただけなのだが、まさかここまで喜ばれるとは。
ゴウは変わらぬテンションで頭を下げる。
「あぁっと……俺ぁ何が出来るかなぁ……得意な事……駄目だ、思いつかねぇ!」
「えっえっと……じゃあ!」
すると、レイサはこれを上げてゴウへある
「わ、私と友だちになってください!」
「……ふぁっ!?と、友だち!?」
……その瞬間、レイサはやってしまったと思った。何を口走っているのだ自分は……と。
いきなり友だちになってくれと叫んで、素直になってくれるわけがないだろう。すこし恩着せがましい形になってしまったし……レイサは、心のなかでまた後悔する。
ゴウは困ったように頭を掻く……すると、一言声を掛ける。
「あぁ……俺、ダチってのがいなかったからよ。どんな事すりゃいいのかわかんねぇが……そんな俺でもよ、良いか?」
ゴウはそう言ってニッコリと笑うと、レイサは顔を明るくして「はい!」と言ってうなずく。……すると、レイサはとあるとんでもないことに築いてしまった。
「はぁっ!?……私達、まだ自己紹介していません!?」
「うおっ!?マジじゃねぇか!?」
2人は互いに顔を見合わせて驚く。
すると、レイサはピシッと敬礼をして、ゴウもそれに合わせてすこし不格好だが敬礼をすると、互いに自己紹介を始める。
「私は宇沢レイサ!トリニティ自警団のスーパースターのウルトラエースです!」
「俺ぁゴウ!越谷ゴウだ!よろしくな!」
ここに、
レイサ「そう言えば、ゴウさんって幾つなんですか?」
ゴウ「15。」
レイサ「同い年!?」