ケットシーが好きなのでバディを生やしました
その日は快晴、雲一つない青空。そんな中で色々と詰め込まれた買い物袋を片手に商店街を歩いている時だった。せっかくの日曜日、ちょっと凝ったものを作ってみようと思い立って、レシピ本やスーパーを巡った帰り道。俺はホクホク顔で帰り道を歩いていた。大根が思ったより安かったのはラッキーだった。
週末ということもあって、街中を子供や大人が行き交っている。超東京の商店街は活気に溢れていた。まあ、人じゃないのも混じってるが。
どこかから、歓声が聞こえてきた。
「――《ガエルゴルガ》でファイターにアタック!」
「何の、キャスト! 《緑竜の盾》ッ!」
見慣れた建物に設置された大型モニターに映像が流れる。特設のステージで相対する少年と少女。片方の少年が宣言すると同時に、強靭な鱗に包まれた特撮の怪獣のようなモンスター――《激突竜 ガエルゴルガ》が相手へと襲いかかった。しかし、少女は慌てることなく目の前に浮かんでいたカードを掲げる。それはたちまち、緑色の竜を象った盾に変化すると《ガエルゴルガ》の突撃を容易く受け止めてみせた。
バディファイト。
異世界からやってくるモンスターとバディを結成し、共に闘うカードゲーム。
俺が通っている相棒学園においても、特にカリキュラムに力が入っている分野でもある。
パックから出てくるカードには、如何にもTCGらしくレアリティが存在している。その中でも最上級とされているのが『バディレア』。
そのレアリティに該当するカードはただの紙ではなく、なんと文字通り異世界へと繋がるゲートでもある。この門を通して、様々な
今や、モンスター達は俺たちの良き隣人としてその立場を確立している。タレントとして芸能界で活動しているモンスターまで居るくらいだ。
そういえば俺のクラスメイトも、この前の国語の授業中に開封したパックからバディレアを引き当ててたな。そのバディはなんか気難しそうな上に、その後に色々と大騒ぎにはなってたが。というか、開封したパックのカードで感想文を書けって何だよ。
それにしても……
「賑わってるなぁ、キャッスル」
それなりに広大な敷地の上に建てられた小さな城のような建物。広々としたストレージコーナーやサプライ売り場、そして強化ガラスで囲まれた専用のファイティングステージ。この街有数のバディファイト専門店『カードキャッスル』は、今日も大勢のバディファイターによって大盛況であった。やる気を持て余しているのか、そこら中でテーブルファイトまでしている奴もいる。
一応、俺もバディファイターである。最も、学校で触れる機会が多いからなんとなくやっているだけだが。
「そういえば、今日は新弾の発売日だったか」
ふと、耳に挟んだ程度の情報を思い起こす。
新発売のパック。
それほど熱心にやっていない俺でも、それとなく気を引かれるには十分なワード。この時の俺には急いで帰らないといけない用事はない。持ち合わせている小遣いという名の資金は十分。行けない理由は特にはないし、クラスでの話題作りに使おう。それくらいの軽い気持ちで、俺――
「ただいまー」
ややぐったりとしながら、玄関のドアを開ける。普段置いてある位置に靴がないところを見るに、お祖母ちゃんは外出しているようだ。多分、散歩でもしているのだろう。
「いくらなんでも、人が多すぎるだろ……」
案の定、店内は新パックを求めて訪れた客で賑わっていた。時期が時期ならソーシャルディスタンスで問題にされていてもおかしくないほどの混雑ぶりの中、買い物の荷物を守りながらパックの購入に成功した。新弾ともなると、周りの客の目もこころなしかギラついて見えた。
買ってきた食材をさっさと冷蔵庫に突っ込む。買い物袋の中がなくなったのを確認して、代わりにボトルで作っていた麦茶と氷を取り出した。自動洗浄機に置かれたままのコップを適当にテーブルに置き、氷を入れる。カラカラと氷の鳴る音が妙に心地良い。そのまま麦茶を注ぎ込むと同時に、一気に飲み干した。
「……さて、開けてみるか」
氷だけが残ったコップをテーブルに置いて、リビングのソファに腰掛ける。目の前のテーブルには、先ほど買ってきたカードパックが置かれていた。とはいえ、俺は特に欲しいカードや使うワールドが決まっているわけでもない。なんか面白いカードがくればいいな、ぐらいの気持ちでいた。
バディファイトというゲームは、ファイターが宣言するワールド毎に使えるカードも制限される。例えばゲーム開始時にドラゴンワールドを宣言したなら、基本的にはそのワールドのカードしか使えない。他ワールドもまた然りだ。例外としてワールドに関わらずに使用できる『ジェネリック』カードや、1枚で複数のワールドに属するカードというのも存在している。
バディがいる奴はもちろん、持っていないファイターであってもある程度は使うワールドを絞っているし、当然欲しいカードの方向性も定まっていることが多い。
決まったデッキを持たずに、定期的に中心テーマやワールドごと変え続ける俺は、少数派のファイターと言えるだろう。
前々回に組んでみたのは強大なモンスターで盤面を制圧するエンシェントワールド。その次は忍法や鬼道で相手を翻弄するカタナワールド。そして今日は強力な魔法を自在に操るマジックワールドのデッキを握っている。こうしてみると、統一感が全くないな。まあ、自分でなんか変化を加えないとあんまりモチベーションが上がらないし。
どうせパックを開けるのだから、ついでに新しいデッキでも組んでみるか。そろそろマンネリ化してきた頃合いだ。次のワールドは……パックから出てきた中で、一番レアリティの高い奴に合わせよう。大体のワールドは触れてきたし、運に任せるのも悪くない。まあ、数パック買ったくらいでそうそう高レアなんて当たるわけもない。出たとしても精々レア、ガチレアが来たなら大戦果だろう。
そんなお気楽な気持ちで1つ目のパックを剥いた瞬間、その中身が唐突に光り始めた。
「……は?」
突然の発光現象を引き起こしたのは1枚のカードだった。俺の手を離れて、勝手に空中へと浮かびあったそれが、光ともに何かを形どり始める。パックに封入されているカードは本来、独りでに動いたりもしなければ、光りもしない。
それに例外があるとすれば、バディレアと呼ばれるものだろう。
バディファイトのカードというのは、異界と地球を繋ぐゲートそのものとも言える。コアガジェット*1を介したファイトでは、カードという門を通じてモンスターや魔法、アイテムなどを呼び出すことができるものとされている。
その中でもバディレアというのは、呼び出される側が自発的に開くことのできる、影響力の強い分け身と言われている。モンスター側の意思で、目当てのファイターが剥いているパックに入り込む事も出来るらしい。
これまで幾つかパックを開封してきたが、いざこの瞬間に立ち会うとなると感じ入るものがあった。
徐々に光が収まっていくなか、視界に飛び込んできたのは……
「問おう。――お前が、ぼくちんのバディだニャ?」
「……え、猫?」
――猫だった。それも、二足歩行の。
見たところ黒、白、灰の三色、三毛猫か?
身長はだいたい……60cmほど。
赤を基調としたケープに羽根つき帽子、腰に携えたマスコットサイズの細剣、格式の高そうな長靴を履いたその姿は、いかにもとある童話に出てきそうな風貌だ。そんな存在が――自身より何倍も大きなテーブルの上で、なんかドヤ顔をかましている。
「むっ、猫じゃニャいのだ! ぼくちんは《長靴を履いたケットシー》……レジェンドワールドから来たモンスターニャのだ!」
レジェンドワールド。
数多の神話や英雄譚が集う伝説の世界。そこに所属するモンスターは伝承における怪物や英雄、生き物が殆どである。
そう考えると、童話に登場する長靴を履いた猫、ケットシーがいてもおかしな点はない。そもそも、ケットシーというとアイルランドあたりの妖精だったような……?
「っていうか、他に何か言うことはニャいのだ!?」
現れたときは何やらカッコつけようとしていたケットシーだが、目に見えて頬を膨らませていて、そんな雰囲気はとうに消え失せている。あと、見た目がなんというかメルヘンすぎる。同じレジェンドワールド出身の英雄……例えば円卓の騎士ならばさぞ映えただろうに。
まあ、それはともかく……このモンスター、ケットシーがテーブルに乗れるくらいの大きさで一安心した。色んな意味で。仮に来たのがドラゴンみたいな巨体だったら大変だったかもしれないしな。
なにはともあれ、
「いきなり悪かったな、まさか(猫が出てくる)レア(な状況)が来るとは思わなかったんだ」
「! ま、まぁ……ぼくちんは(バディ)レアなのニャ、確かに驚くのは仕方ニャいのだ!」
……さてはこいつ、チョロいな?(確信)
咄嗟に誤魔化した俺が言うのもなんだが、ちょっと心配になる。
目を離してると死神辺りにほいほい騙されてそうだ。
「ぼくちんにかかれば、ケートスやグレンデルだって楽勝なのニャ!」
「どっちもサイズ3のモンスターだろうが、それ」
思わず突っ込んでしまった。
ちらりとケットシーのカードを見て、こいつがサイズ0のモンスターであることは知っている。*2 流石にケットシーも言っていることが無茶なのは分かっているらしく、勇ましい語勢も尻すぼみになっていく。
「そ、そんなことニャいのだ! ぼくちんだって……バディさえ、いれば……」
……どうやら、ケットシーはなんらかの執着があるらしい。その執着がどんなものであって、何故なのかは俺には分からない。初対面で心を読む能力なんてものもない。
なので、まあ……
「それはどうでもいいとして」
「ニャッ!? どっ、どうでもいいはヒドイのニャ! 」
「そんなことよりもデッキをどうするか考えた方が有意義だろ」
予想できることとしては、ケットシーの持つ執着は、バディを組む――つまりは共にバディファイトをする事に関わってるのではないだろうか。
もともと次に組むデッキでは、引いたパックの中で一番レアリティの高いカードを使うと決めていた。流石にバディレアが出てきた以上、これよりも上はない。ケットシーを主軸にして構築を決めようじゃないか。そして、なにより……
「初めて
せっかく、俺のところに来てくれたのだ。我が家で養い切れるだけの余裕はある以上、バディを拒む理由もない。
「!! それって……!」
「……そういえば、名前を言い忘れてたな。俺は猫宮英介。これからよろしく、ケットシー」
歓迎の意を込めて右手を差し出すと、ケットシーはそれに食いつくように右手(前足?)を重ねてきた。
「〜〜〜っ! こっちこそ、よろしくニャのだ! 英介!」
バディを結成できたのがよほど嬉しかったのか、暗かった表情が一気に明るくなった。どうやら、めちゃくちゃご機嫌のようだ。まあ、俺としてもバディができたのは素直に嬉しい。
とはいえ、ちょっと喜び方が大げさすぎではないだろうか。
「とうとう……ぼくちんにも、バディが……!」
何やらケットシーがぷるぷる震えながら小声で呟いているが、それは置いておく。この後は、色々とやらないといけない事がある。バディレアであるケットシーの出現を感知して、そろそろバディポリスが色々と説明しに来るだろうし、お祖母ちゃんにも事情を説明しなくてはならない。あと、歓迎会も兼ねて夕食のメニューも増やす必要も出てきた。
そういえば、猫って食べたらダメなものが幾つかあったよな?
「……ケットシーってキャットフードとか食べたりするか?」
「だーかーらー! ぼくちんは猫じゃニャいから、キャットフードはいらないのニャー!」
すまんかった。
無神経な俺が悪かったから、とりあえずテーブルの上で地団駄を踏むのは勘弁してくれ。
この後、急行してきたバディポリス隊員からモンスターによる行為の責任問題などの説明を受け、無事に専用のコアガジェットを渡された。帰ってきたお祖母ちゃんはケットシーを歓迎しているどころか、第二の孫のように大変可愛がっていた。
歓迎がてら張り切って出した夕食の中には、俺用に用意したイカやタコの刺身も含まれていたが、ケットシーは平気そうにそれらを頬張っていた。純粋な猫ではなく、モンスターだからか基本的には何でも食べれるようだ。
ちなみに、マタタビで酔ってしまうのは猫と変わらないらしい。
猫なのか、そうじゃないのかハッキリしてほしい。
ケットシーのRBカードが欲しい人生でした
気が向いたら続きます