続きました
「英介、早く始めるニャ!」
「もう少し落ち着け」
我が家に急行してきたバディポリスから俺用のコアガジェットを受け取り、夕食を済ませた夜。今にも待ち切れない様子で跳ねているケットシーを宥めすかしながら、自分の部屋に入る。
ちょっとしたテーブルやベッド、クローゼットなど、最低限のものしかおいていない。小学生らしからぬ、我ながらつまらない部屋である。精々、本棚に料理系の本や雑誌が数冊置かれているくらいか。
「『妖精』か……」
ケットシーとバディを結成した以上、俺は共に戦えるデッキを持つ必要がある。ここで問題となるのは、ケットシーの属性『妖精』である。
バディファイトにおけるデッキというのは、基本的には特定の属性に寄せて構築することが定番である。ドラゴンWならば、《武装騎竜》や《竜騎士》などが代表例だ。それぞれの属性にサポートカードやコンボが存在しており、デッキ全体に統一感をもたせることでそれらの恩恵を受けやすくする訳だ。
今回の場合、ケットシーを含む《妖精》は専用の構築が必要な属性だと思う。おそらく、デッキの大半を《妖精》で統一しなければ、まともに動かせないのではないだろうか。この手のデッキは使うのはもちろん、組むこと自体難しい場合が多い。そうなると、デッキを組む上でモデルケースは欲しいところだ。
「……どうかしたのニャ?」
いたわ、絶好の参考資料。
「ケットシー、自分のデッキって持っていたりするか?」
「ニャ? 一応、持ってるニャ」
「あるのか……なら、ちょっと俺とファイトしてくれるか? デッキ作りの参考にするから」
「わかったのだ!」
やはり、モンスターの事をわかっているのはモンスター自身だろう。大いに参考にさせてもらうとしよう。
どこからともなく、カードの束を取り出すケットシー。
早速テーブル越しに向かい合って、お互いのデッキを準備し始める。コアガジェットはもらったとはいえ、家の中なので普通にテーブルファイトだ。これを通して、少しでも妖精デッキを組む上での、モンスターや魔法、アイテムのバランスを少しでも掴みたいところだ。
「ぼくちん、このデッキには自信があるニャ。間違いなく、サイキョーのデッキニャのだ!」
そう言って、ケットシーは自慢げに胸を張っている。最強とは、随分と大きく出たものだ。なら、その自信満々な構築から学ばせてもらうとしようか。
などと思いながらも、その時の俺は薄々察していたのだ。
そもそもの話、サイズ0の身でサイズ3のモンスター相手に楽勝などと言えてしまうような奴が、デッキ作りのセオリーを知っているなどと、誰が保証できるのだろうか。
「「オープン・ザ・フラッグ!」」
ゲーム開始の掛け声と同時に、テーブルに伏せられたお互いのフラッグ、バディゾーンのカードを捲る。にしてもあの肉球で、よくカードを掴めるもんだな。
「レジェンドワールドニャ! バディはぼくちん、【ケットシー】ニャのだ!」
「マジックワールド、バディは【伊達男 シトリー】だ」
今回、俺が握っているのはケットシーが来るまで使っていたマジックワールドのデッキ。バディに指定しているシトリーは、場に出ると同時にデッキの一番上が魔法カードならば使用コストを払わずに発動できる能力がある。これを利用することでマジックワールドの誇る強力な魔法の数々を連打して、アドバンテージを稼ぐ構築になっている。
なお、安定性は二の次とする。
「先行はもらう、チャージ&ドロー……キャスト【ナイスワン(最高だぜ!)】【ソロモンの鍵 上巻】」
猫宮英介
ライフ10 手札6枚 ゲージ4
まずは手堅く、魔法の連打でゲージと手札の質を高める。手札はもちろん大事だが、ゲージもまた魔法のコストで度々使うことになる。最初のターンでこの2枚が来たのは中々の滑り出しだろう。
特にマジックワールドのナイスワンという魔法はちょっと可笑しい。それらしい制限もなく、ゲージ1枚を払うだけで簡単に2ドローができるのだ。使っておいてなんだが、お手軽すぎる気がする。【ドラゴジーニアス】*1が泣いてるぞ。
「ニャニャっ! いきなりカードをいっぱい使ってきたのだ!?」
「続けるぞ。バディコール、【伊達男 シトリー】をセンターにコール」
――――――――――――――――――――――――
【伊達男 シトリー】
モンスター/サイズ2
マジックW
72柱
攻撃力4000/防御力3000/打撃力2
■"当たって砕けろ"このカードが登場した時、君のデッキの上から1枚を公開する。
公開したカードが魔法カードなら、【使用コスト】を払わず使ってよい。使わないなら、または公開したカードが魔法でないなら、公開したカードをデッキの1番下に置く。
―――――――――――――――――――――――――
バディギフトによって、俺のライフが1増加する。
センターに置かれたカードには、白いスーツを着込んだダンディそうな黒豹の悪魔が描かれていた。マジックワールドではモテていたりするのだろうか。
(俺だったら見向きもしないな……)
最も、少しの間使い続けた俺としては今にも破産しそうな泥舟にも見えかけてる訳だが。何処ぞの豪華客船に乗ったらすぐに沈められていそうだ。
「【シトリー】の登場時効果を発動、デッキの一番上のカードを確認……設置"魔法"【ノイジィ・ダンスルーム】*2が出たため、使用コストのゲージ1を払わずに設置する」
「デッキからカードを使ったのニャ!?」
「まだ終わらないぞ。【ノイジィ・ダンスルーム】の起動能力で自分の《72柱》つまり【シトリー】を手札に戻して、再びセンターにコールだ」
ノイジィ・ダンスルームは設置さえしてしまえば、毎ターンに1回、こちらの《72柱》を手札に戻しつづけることができる。リスクを減らすためにバウンス……シトリーを手札に戻して登場時能力を使い回す手段の一つだ。数撃ちゃ当たる、という言葉もある。ここまでやっても、外れるときは外れるからなんとも言えないな。
さて、今回のギャンブルは……お、大当たりの【バディヘルプ】だ。ゲージ3というコストを払って2ドローするジェネリックの魔法。*3だが、シトリーの効果でそういったコストを無視して発動できる。どうやら、今日の運はかなり上振れているらしい。
「更にゲージ1を払い【ガンロッド ベヒシュタイン】を装備、効果でファイターに1ダメージを与える」
「こ、この程度、どうってことニャいのだ!」
「そのままアタックフェイズだ。シトリーでファイターにアタック」
防御カードがないのか、それとも温存しているのか。
こちらのファーストアタックは無事に成立、ケットシーのライフをさらに削った。初手で盤面をここまで整えられたのは、このデッキを作ってから中々なかった。
ここからどう返すのか、《妖精》デッキの動き方を見せてもらおう。
「俺はこれでターンエンドだ」
猫宮英介
ライフ11 手札6枚 ゲージ3
ケットシー
ライフ7 手札6枚 ゲージ2
「ぐぬぬ、今度はぼくちんのターンニャ! ドロー、チャージ&ドロー……ぼくちん自身をセンターにバディコール!」
「そっちもバディコールか」
「続けて、ライトに【円卓の騎士 パーシヴァル】をコールニャのだ!」
これで、サイズ0のケットシーとサイズ2のパーシヴァルが場に並んだ。見たところ、ケットシーの持つ攻撃力、防御力といった数値は軒並み低い。これならば、元々攻撃力が低い傾向のあるマジックワールドのモンスターでも単独で突破できそうだ。
やや気になるのは、ライトに出されたパーシヴァルだ。名前からも分かるように、このモンスターは妖精ではなく、英雄属性である。これといった能力もなく、恐らく妖精属性とのシナジーはあまり無いだろう。とはいえ、ノーコストで場に出せる割には打撃力3と高い数値を持っているので、決して悪いというわけでは「さらに、【剛竜 タラスク】をレフトにコールニャのだー!」
……はい?
「これでぼくちんのサイキョーの布陣ができたのニャ!」
「すまん、サイズ制限って知ってるか?」
「……なんニャのだ、それ?」
バディファイトというゲームにおいて、モンスター毎に設定されているサイズが合計3を超えないようにコールすることができるルールが存在している。すでに場にいたパーシヴァルと、新たに場に出そうとしていたタラスクはともにサイズ2のモンスターであり、同時には出せない。はっきり言ってしまえば、基本中の基本のルールだ。
まあ、何が言いたいのかというと、
……こいつ、バディファイトについて何も知らないのでは?
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「……【魔界の堕天使 ベレト】でファイターにトドメだ」
「グニャーーーッ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ケットシー……これでサイキョーのデッキはないだろ……」
「ニャ……あ、相手の効果とかは【移動】能力で……」
「【移動】はアタックフェイズ時にモンスターの位置を移動させる能力であって、効果の発動は防げないが……?」
「も、もちろん知ってたのニャ」
目が泳いでるぞ、ケットシー。
俺の目の前には、統一感のない多種多様なカードがあちこちに散らばっていた。
あの後、ルールを知らない初心者に負けるわけもなく、普通に勝った。
正直デッキ作りどころか、バディファイトのルール自体を知らないのはちょっと想定外だった。
結論から言うと、渡されたデッキは《妖精》デッキですらなかった。《英雄》《ワイダーサカー》といった別属性のカードが乱雑に入り混じっている上、使用コストが重い魔法やサイズ2.3の大型モンスターばかりが詰め込まれていた。
バディファイトにおいて、モンスターのコール(場に出すこと)は場のサイズの合計に3以下の制限がかかっている。この闇鍋デッキでは、場に出せなかった他の大型モンスターで手札が渋滞すること請け合いだろう。
ここで一つ、ケットシーのカード情報を見てみる。
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【長靴を履いたケットシー】
モンスター/サイズ0
レジェンドW
妖精
攻撃力2000/防御力2000/打撃力1
■"侯爵からの贈り物" 君のドロップゾーンに《妖精》10枚以上があるなら、君の場の《武器》の打撃力を+3する。
■このカードが破壊された時、君のデッキの上から2枚をドロップゾーンに置く。
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この情報から読み取れるのは、ケットシーというカードは、ドロップゾーンに《妖精》属性のカードが多く存在することで効果を発揮するというピーキーな性質を持っているということである。ちなみにドロップゾーンとは、破壊されたり、使い終わったカードを置く場所である。
ケットシーを活かそうとすると、ドロップゾーンに《妖精》をたくさん落とす必要があるため、必然的にデッキの半分以上を《妖精》カードで組むことになる。
「ごめんニャのだ……」
「あー……気にするな、参考にはなった」
自分が何の役にも立っていないと思っているのか、ケットシーは耳を伏せて、気を落としている。
確かに、ケットシーのデッキ自体は正直お粗末なものであった。しかし、カード効果とひたすらにらめっこした結果、これから作る方向性は決まった。おまけに、闇鍋の中には使えそうな《妖精》カードやその他の汎用カードが紛れ込んでいた。
「ルールならこれから知っていけばいい。それに、お前のデッキを改良する形で組めるんだから、気にしなくていいぞ」
「でも」
「組んだばかりとはいえ、バディには変わりない。デッキを組むのは俺の役目、共に戦うのはお前の役目でいいだろ」
さて、明日からまた学校だ。
とりあえず微調整は明日以降にやるとして、さっさと組み直してしまおう。幸いにも、宿題やら教科書やら、明日の準備は済んでいる。時間ギリギリまで構築を練るとしようか。
「ぼくちんの、役目……」
一人机に向かってカードを手に取る俺の後ろで、何かを呟くような声が聞こえた気がした。
これを最初のファイト回と言い張る勇気