侯爵からの貰い物   作:みいの

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なんとか続きました
今更ですが、ケットシーについて知りたい方はアニメ原作100(第二期)の第7話を御覧ください


猫と学園

 

 

端的に言おう、夜更かしをしすぎた。

 

 

 

 ケットシーから受け取った《妖精》カードが中々面白いテーマだったこともあり、気がつけば深夜1時を過ぎるまで構築を練り直し続けていた。(ケットシーはすでにベッドの上で丸まって寝落ちしていた。)

 週の初めから遅刻をするわけにはいかず、なんとかいつもの時間に起床し朝の支度を済ませた訳だが、睡眠時間が足りない。

 

「くっそ、早く寝とけば良かった……」

「英介、大丈夫ニャ?」

 

 大丈夫だったらエスカレーターの上でグロッキーになっていないのだが。

 とはいえ、昨日()()()()()()()驚かせてみたい奴がいるのだ。眠気を堪えて、段差から足を踏み外さないように気を張った。

 

 山登りでもしている気分になるほど長いエスカレーターは、俺が通っている学校――相棒学園の(個人的)名物である。

 超東驚という都市はおろか、日本有数の規模を誇る相棒学園は小中高、そして大学まで一貫の学び舎である。敷地は普通の学校の範疇には留まらないほどに広く、設備も恐ろしく充実している。ドーム1個分ではとても効かないほどの広大さを誇るここの建設事業には、かの天野鈴コンツェルンといった大企業なども携わっていたらしい。

 

 何より、この学園の最大の特色として挙げられるのは『バディファイト専門コース』というカリキュラムが存在することだろう。俺も所属しているこのコースでは文字通り、国語、算数、英語、理科、社会に加えてバディファイトに関する授業が設定されている。基本的なルールからカードの応用例や戦術といった事柄を授業を通して習得していくというのが基本方針らしい。

 

 この世界では、人間とバディモンスターとの距離がとても近い。その間を取り持っているのが、バディファイトだ。賞金付きの世界大会なども開催されているだけでなく、時には犯罪者を取り締まる手段の一つとしても用いられるようになった。もはやこれらは日常に馴染み深い光景となっているご時世であり、社会とバディファイトが強固に結びついていると言ってもいい。

 

 社会に適応する人材を輩出するために専門のカリキュラムを設置するのは分かる。とはいえ、俺としては学校で堂々とカードゲームをするというのはちょっと変な感じもするのだ。

 

 バディファイトの為だけに、ローマのコロッセオさながらの円形闘技場――ファイティングステージが観客席や待機室なども含めて敷地内に設置されているほどだ。力の入れようが分かる。防護フィールドまで貼られていることもあって、実体化したモンスターや魔法による迫力あるファイトが展開されるのだ。

 

「そういえば、学校にはたくさんのファイターがいるって言ってたのニャ、なら……バディのいるファイターも居たりするのだ?」

「あー……そうだな、ある程度はいるぞ。というか、この学園の実力者は大体がバディを連れているな」

 

同じ初等部の如月やら、中等部の轟先輩やら、有名な奴は軒並みバディモンスターが居る。これらの面子はプレイングもミスが少ない上に、方向性はそれぞれ違っていてもデッキの構成自体がしっかりしている。というよりも、バディを結成しているファイターは、バディを中心にデッキを組むからかデッキのコンセプトが定まりやすい傾向にあるのかもしれない。

 もっとも、バディができるまであれこれとデッキを変え続けていた俺が言えた話ではないな。

 

「ぼくちんたちのデッキが組めたのニャ、せっかくなら最初のファイトは強いバディファイターと戦いたいニャ!」

「戦いたいと言ってもな……都合よく戦ってくれる強いファイターとそうそう出会える訳」

「――おい、英介!」

 

 聞き覚えのある声。思わず振り返ると、いつもの虎柄のシャツを着たよく知る男がこっちに向かってきた。同じクラスの6年、虎堂ノボルだ。

 ……何やら、ケットシーを見た途端に顔が強張ったように見えたが、気のせいか?

 

だが、丁度いいタイミングでお誂えの奴が来たな。

 

「ノボルか、おはようさん」

「……英介、そのちっさい猫は?」

「あぁ、俺のバディだ。昨日買った新パックから出てきたんだ」

「ぼくちんはケットシーニャのだ!」

 

 俺がバディであると説明した途端に、ノボルはケットシーの事を一瞥する。その直後、馬鹿にするような薄笑いが漏れた。

 

「……はっ、こいつがお前のバディ? こんな弱っちそうな奴が?」

「むかっ! ぼくちんは弱くニャいのだ! いきなり何を言うニャ! この……猫シャツ!!」

「んなっ!? これは猫じゃねぇ……虎だ! 見れば分かんだろ、この猫野郎!」

「ぼくちんは猫ではニャーいっ! というか、なーにが虎ニャ! お前が虎とか虎に失礼ニャのだ! どっちかって言うとお前はぶちネコニャ!」

「ハァっ!? これのどこが猫だって言うんだよ! そういうお前こそ、どーみても長靴を履いた猫野郎だろうが!」

  

 なんか、不毛な喧嘩が始まってるな。

 

 ノボルはどうも、自身の使う【竜騎士】や注目しているとあるファイターのような人物、いわゆる『英雄』に憧れている節がある。そんな彼からしてみれば、お世辞にも偉人、英雄とは言えないケットシーが非力そうに見えるのだろう。まあ、実際に童話から出てきたように見えるビジュアルだしな……否定はしきれない。

 

 とはいえ、このノボルもまた、学園の中でも有数の実力者だ。実際、初等部に設置されているランキングでも今なお2位の座を維持している。俺もデッキを組み直した時やノボル自身がデッキ調整をする際にファイトを持ちかけたりしているため、その力量は理解している。バディモンスターこそいないが、ケットシーの言う強いファイターに十分当てはまるだろう。

 

 ここ最近までは、これまで自身を脅かすような新たなファイターが現れていないからか、若干調子に乗っていたようだが……何やら焦っているような気もするな。

 

……とりあえず、一旦二人の言い争いを止めるか。その後でファイトを申し込めばいい。

 

「あー……ちょっといいか、ノボル。俺にバディが出来たから、新しくデッキを組んできたんだ、後でファイトに付き合ってくれないか?」

「いいアイデアニャ、英介! おい猫シャツ! ぼくちんたちとファイトするニャ! ぼくちんたちが強いことを教えてやるのだ!!」

 

なんでそこで喧嘩腰になるんだ??

俺は普通にファイトに誘うつもりだったんだが。あと、しれっと俺も巻き込むんじゃない。

 

「おい、ケットシー」

「はっ、上等だ。ここ最近はむしゃくしゃしてたからな……お前らで鬱憤を晴らしてやるよ! 放課後にファイティングステージだ!」

「ちょ、ノボ……行っちまった」

 

我が意を得たりとばかりに、ファイトという名の喧嘩を売ったケットシーに買ったノボル。勢いのままに俺たちを追い抜いてエスカレーターを登っていった。

 

……争いは同じレベルでしか起きないって、こういうことか

「英介! それ、どーいう意味ニャのだ!?」

 

蓋を開けたらどっちもしょうもない言い合いだろうが。子どもか……って、俺も含めて子どもだった。

 

向こうから煽ってきたとはいえ、ケットシーも言い過ぎた部分があるからな、後でノボルに謝罪のメールを送らないと。

それはそれとして、ケットシーは後で説教な。

 

なんでニャのだっ!?

 

 

 

 

「あ゛ー……だるい……」

 

ただでさえ寝不足気味だというのに、朝っぱらから疲れた。すでに教室の中に入っているため、ケットシーにはカードの状態に戻ってもらった。授業中、バディモンスターの連れ込みは校則で禁止されているからな。

朝の会が始まるまで休もうと自分の机に突っ伏していると、俺の後ろから声が聞こえてきた。

 

「よう、おはよう! 英介……って、大丈夫か?」

「あー……牙王か、おはようさん。俺のバディがちょっとな」

 

一昔前の漫画に出てきそうな学ランに、太陽柄のシャツを着た男。同じくバディファイト専門コースであり、俺の友人の1人である未門牙王だ。その頭にはいつもの学生帽が被さっている。『太陽番長』なるものを称するこの男は、今や話題の中心にいる新米ファイターである。

 

「おぉ! お前もバディレアを引いたのか! どんな奴なんだ!?」

「あー……後で紹介するわ。そんで、今日の登校中にノボルと会ったんだが、煽られた俺のバディが喧嘩しだしてな……今も機嫌が悪いんだよ」

 

なんなら、カードに戻っている今もテレパシーやらで「あんの猫シャツ……絶対ぼっこぼこにしてやるのニャッ!」とかぶつくさ言っているのが聞こえてくる。随分と手のかかるバディだ。

 最も、牙王の所のバディよりはまだ楽であるのは間違いないのだが。

 

「あー……俺も知らずにドラムのプリンを食べちまったんだが、まだへそを曲げちまってて……食い意地張りすぎだろ、アイツ」

「あぁ、確か……【ドラムバンカー・ドラゴン】だったか。まあ、気難しそうだったからな……え、プリンが好物なのか?」

「母ちゃんが色々とメシを作った時に気に入ったみたいでな、ったく……」

 

プリン好きのドラゴン、どことなくシュールだな。

 

それにしても【ドラムバンカー・ドラゴン】か。

牙王が最近バディを結成したモンスターであり、彼が話題の的となった要因の一つ。

先週の授業の時に牙王が開封したカードパックから出現したバディレア、ドラゴンワールド所属の《武装騎竜》。

 教室から飛び出して中庭に実体化したときには、やたら長い名乗りを上げていたな……『Ⅹ世の息子』とか言っていたから、ワールド内における有名な一族の出とかなのだろうか。気性難であるように見えたが、牙王もかなり苦労しているようだ。

 

まあ、牙王のことだからなんだかんだでドラムと仲直りする事だろう。

 

「とはいえ、随分と濃い一週間だな……学園どころか、バディファイターたちの注目の的じゃないか」

「まあな!」

「分かりやすく調子に乗ってるな……まあ、バディレアを引き当てた直後に、龍炎寺タスクに勝った時点でこうなるのは既定路線みたいなところがあるが……」

 

 バディレアの反応を察知したバディポリスが牙王にコアガジェットを渡しに向かわせたのが、人々から絶大な人気を誇る最年少バディポリスの龍炎寺タスクであったのも話題の一つ。

 中学生にして国家公務員として勤務し、バディファイトの腕前も随一と言える龍炎寺某に対し、この友人は稽古と称してバディファイトを挑んだのだ。

 その結果、細い勝ち筋を拾い上げての逆転勝利。大金星である。それに加えて、龍炎寺タスク直々にライバル宣言したどころか、彼が所有する唯一無二の必殺技カード【ガルガンチュア・パニッシャー】を渡された。

 

現実は簡単に創作を超えてくるから恐ろしいものだ。本当にこれが1日で起きた出来事か?

 

 

「先週の黒岳テツヤとのファイトでも、例の必殺技を携えて大立ち回りしていたしな。初心者とは思えない堂に入ったプレイングだった」

「タスク先輩が託してくれたカードだからな、どうしてもデッキに入れたかったんだ。それに【ガルガンチュア・パニッシャー】を使えたのは、爆やくぐるのお陰だ」

「――なら、感謝の印として弁当を分けてくれよ、太陽番長」

「もう、爆ちゃんったら……。おはよう、英介くん」

 

話している途中に、いつの間にか一組の男女が近くにいた。

聞こえてきた声に、牙王は思わずといった感じでゲッとした顔をしている。

……噂をすればなんとやらだな。

 どうやら牙王もこの二人と途中まで一緒に来ていたようだが、一足先に教室に入ってきていたようだ。

 

 エンジニアのようなツナギと鉢巻の男は、デッキビルダーの大盛爆。牙王のドラゴンデッキを組み上げた本人だ。デッキビルドの腕前は凄まじく、俺もよくデッキに関してあれこれと談義をしている。ただ、弁当の早食いと機材分解の常習犯なのが玉にキズ。

 

 髪に取り付けた蛍光灯が特徴的な女子は、ライブラリー*1の宇木くぐる。様々なワールドのカードやバディファイトのルールを熟知しており、まさに生き字引。爆のストッパー、もとい幼馴染であり、世話を焼いているのをよく見かける。

 

「おはようさん、二人共。爆は相変わらずだな」

「朝飯は食ってきたんだが、登校中にまた腹が減ってきてな。腹減った……」

「爆ちゃん、早弁はほどほどにね」

 

 くぐるも爆を窘めているが、早弁に関しては抑えきれたのを見たことがない。十中八九、早弁して空腹に耐えられなくなるのを察したのか、牙王は弁当が入っているであろうスクールバッグを庇っていた。

 

「ま、また俺の弁当を平らげるつもりじゃないだろうな……?」

「まあまあ、いざとなったら俺の弁当も分けるから。いつも話やデッキ作りに付き合ってくれてることだしな」

「英介、お前は俺の心の友だ!」

 

お前は何処のガキ大将だ……?

 

弁当を分ける、という言葉を発した時点で目にも止まらぬ速度で俺の手を握りしめる爆の姿は末恐ろしい何かを感じた。牙王がホッと胸を撫で下ろしているが、おそらく俺の分を食べても足りないだろうから、そっちにも魔の手は伸びると思うぞ。

 

 

 実際の所、俺はこれまで様々なワールドのデッキを組んでは使ってきたが、卓越したデッキの構築能力を持った爆の助言や視点はとてもありがたいものであり、学ばせてもらった点も多くあるのだ。握ってきたデッキの大体が爆の監修したレシピであるともいう。

 それを踏まえれば、弁当を分けるくらいはまあ許容範囲である。デッキどころか宣言するワールドまでころころと変えるファイターに付き合ってくれるビルダーは貴重なのだ。

 

 もっとも、これからしばらくは使用デッキを固定することになる。流石にバディを結成しておいてデッキに入れずに放置プレイをする訳にはいかない。

 

 

 

 

あぁ、そういえば、ここまで来る途中で先生たちが何か話していた気がする。

 

「確か今日は、このクラスに転校生が来るみたいな話があったような……?」

「Good morning、皆サーン! 席についてくだサーイ!」

 

前方の入口から金髪の男性と、見知らぬ水色の髪の少年の二人が入ってきた。

 

 前者は俺たちのクラス、6-11の担任である煮付二世(につけにせい)先生だ。英語の発音がネイティブっぽいがれっきとした日本人である。煮付先生もそうだが、この学園の教師陣はいろいろと個性的である。主に、名前が暴力的なのに中身は教育者の鑑みたいな校長とか。

 

 後者は……顔立ちはやや可愛らしさを感じる大人しそうな少年だが、見たことがないな。となると、例の転校生は彼のことか。

 

話を切り上げて、俺たちはそれぞれ自分の席に座った。

俺の席は教壇から見て中央の列、後ろから2番目の席――一番後ろに座る牙王の前だ。右には爆とくぐるの幼馴染コンビが仲良く座っている。

 

 チラリと後ろを振り返ってみると、牙王は何やら考え込んでいるようで上の空だ。(大方、ドラムの事が気になるのだろう)

 お前の席(俺から見ると真後ろ)の席が空いているから、転校生は多分そっちに来るぞ。などと考えていたら、すでに転校生の紹介が始まっていた。

 

「氷竜キリです、よろしくお願いします」

「じゃあキリ君……って、あれ?」

 

 

 

「――太陽番長さん!」

「んおっ?」

 

座る席を指定しようとしていたらしき煮付先生が気づいた時には、転校生――キリは未だに上の空な牙王に話しかけていた。

 

どうやらすでに、キリは牙王との面識があるようだ。

彼の目には、太陽番長に対する憧れが浮かんでいる。

 

「牙王、前に会ったことがあるのか?」

「あぁ、ちょっとな」

 

 話を聞く感じ、以前にキリがガラの悪い連中に絡まれていた所を『太陽番長』を名乗って手を貸したらしい。

 

「子分ができてよかったな?」

 

ノボルはこんな時にまで牙王に茶々を入れなくていいから。もうすぐ授業が始まるだろ。

 

 

 

「俺は未門牙王、牙王でいいぜ」

「牙王くんって、中等部の人かと思ってました!」

 

嬉々として、初めて登校した相棒学園のすごさをあれこれと牙王に語っている辺り、キリからの好感度がめちゃくちゃ高いことが伺える。隣にいる爆も似たようなことを思ったらしく、苦笑しながら箸を動かしていた。というか、お前は弁当を開けるのが早すぎる。まだ朝だぞ。

 

 

なかなか静かにならない現状にヤキモキしたのか、煮付先生が無理矢理1限目の授業を始めたことをきっかけに、今日の学園生活が始まった。

 

*1
相手の盤面や味方ファイターの手札などを照らし合わせて戦況を分析する、いわゆる頭脳役のこと




時間軸としては
原作第3話(牙王vsテツヤ戦)→土日(本作の1.2話)→原作第4話という流れになっています。(そのため、アニメとは若干差異が出ています)

次回、続けば本当のファイト回

(8/25時点で、ノボルの苗字が虎堂→虎洞となっていたため修正しました)
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