譜面をやっと作れたので続きました
「よーやく放課後なのニャ! 英介、気合い入れるニャ!」
「分かった、分かったから。一旦落ち着け、ケットシー」
放課後、朝に約束した(ケットシーが吹っかけたとも言う)
ノボルとのファイトの時間がやってきた。牙王は何やらキリにバディファイトを教えに行くらしく、今日の試合の事を伝える前に学園を後にしている。爆やくぐるは観客席で試合を観るらしい。
牙王には話したが、実は爆たちにはケットシーの事どころか、バディができた事自体まだ話していない。このファイトが初公開である。
それにしても、さっきからやけにケットシーがソワソワしている。これは……
「初めてのファイトだから、緊張してるのか?」
「そっ、そんな事ないのニャ。ぼくちんはいつだってへーじょーしんなのニャ。錠剤洗浄ってやつニャのだ」
それを言うなら常在戦場だし、使い方もちょっと違う。
そうやって強がりながらも足が震えてるあたり、わかりやすい奴である。
だがまあ、気持ちは分かる。誰だって『初めて』はドキドキもするし不安はあるものだ。
「まあ、別に緊張しててもいいぞ」
「えっ、いいのニャ? ぼくちんが見てきた戦士や英雄は、みんな……」
……何と比較しているんだ、このバディは。
おそらく、出身地であるレジェンドWの【英雄】辺りの事を言っているのだろうが……もしそうならば、はっきりいって御門違いだ。
そもそも、生死をさまよう多くの戦場で経験を積み上げてきたであろう彼らと、これから初めての事に臨むケットシーとでは前提が違う。
「気にしないでいい。これから俺たちがするのは何だ?」
「も、もちろん、バディファイトニャ!」
「そう、バディファイトだ。英雄たちがしているような命を懸けた果たし合いでもない――ゲームだ」
別に負けたら死ぬわけでも、何かを失うわけでもない。
だったら……『この遊びを楽しむ』ことを第一にした方が良いに決まっている。
「ゲーム……」
「難しく考えるな。気楽に、これから始まるファイトを楽しむことを考えていればいい。朝の喧嘩や英雄たちのことは一旦どこかに置いといておけ」
色々と話している内に、時間が来たらしい。
所定の位置で待機していた俺たちを床のリフトが上へと運び始めた。
登っていくと同時に徐々に大きくなってくる喧騒。日常の中にある非日常が俺たちを待ち受けている。
床が登りきったその先に見えたのは、石造りの闘技場。
そして、9つのエリアで構成されているこの場所をぐるりと囲うように設置された観戦エリア。配置された大量の観客席は……ほぼ埋まっている。
「す、すごい人ニャのだ……!」
俺たちが立っているのは、9つあるエリアの内の1つ、フラッグエリア。その対極に位置するもう一つのフラッグエリアに、今回の対戦相手……ノボルが立っていた。
「来たみたいだな? てっきり、そこの猫が逃げてここに来ないかと思ったぜ」
「そんな訳ないだろ。せっかくこんな大きい場で堂々と遊べるんだ。俺もケットシーも、乗らないはずがない」
「はっ、そうかよ。なら――初等部ランキング2位の虎堂ノボル様の実力をたっぷり教えてやるよ!」
軽いやり取りを交わしたタイミングで、ファイティングステージ上の空中に何かが出現した。
それは、小型のUFOめいた何かに搭乗する、マイクを持った一人の女子。
『バディファイトある所――奈々菜パル子あり! 私のバディ【火星人UFO タコ助】とともに、今日の実況をお送りしちゃいまーすっ!』
敷地内でバディファイトが行われていると、どこからともなくやってきては実況解説を始めることで有名なパル子である。なんなら、カードキャッスルでもよく見かける。
彼女の実況自体は的確かつ、臨場感が出てとても良いのだが、たまーに私情や私見が混じるのが難点である。例でいうと、この前の牙王と龍炎寺タスクのファイトの時とか。色々と仕方ないとはいえ、実況役自体がほぼ完全に牙王をアウェーにしていたしな。
『連日熱戦が繰り広げられている、相棒学園ファイティングステージ! ここで繰り広げられる本日の対戦は……トップクラスの成績でありながら、初等部ランキングの2位に座する竜騎士使い、初等部6年虎堂ノボル!』
実況とともに、ノボルの手元に逆四角錐のような形をしたユニットが一つ飛んでいった。俺も前までは使っていたが、バディを持たないファイターでもデッキを展開し、カードを実体化させる――ルミナイズできる、汎用型コアガジェットだ。
"Luminize!"
ノボルがデッキをセットした瞬間、電子音声が発せられる。置いたカードたちがコアガジェット内に収納されると同時に、光となったカードが6枚、手札として空中に展開された。
『対するは……決まったデッキを持たない事どころか、ワールドすら変えては使いこなしてくる、猫の如き気まぐれファイター! 初等部ランキングの5位、同じく6年の猫宮英介!』
気まぐれねぇ……これまでバディが居なかったのだから、ワールドとかに拘らずにいろいろと触ってみただけなんだがな。あくまでカードゲームだし。
『両者はこれまで、バディが居ませんでしたが……英介選手の隣には今までに見なかった猫のようなモンスターの姿が見えます! どうやらあのモンスターが英介選手のバディの様です! おとぎ話にでてくるマスコットのような可愛らしさですが、果たしてノボル選手の擁する竜騎士軍団に太刀打ちできるのかーッ!?』
案の定、オッズは俺たちのほうが高いらしい。というか、しれっとケットシーが舐められている。
当の本人は、さっきの話で何か思うところがあったのか緊張自体はしているものの、どこかワクワクとした表情でステージを見つめていた。どうやら実況も聞こえていなかったようだ。
「ケットシー、準備はいいか?」
「! もちろん、いつでも行けるニャ!」
さて、じゃあ俺たちも――初めてのルミナイズと行こうか。
ポケットから、傷一つ無い新品のデッキケースを取り出す。中央に透き通った水色の結晶が取り付けられた、銀色のコアガジェット。
俺が、俺たちが作ったデッキ。
そしてケットシーにとっても、俺にとっても、初めてのバディがいるファイトの初陣。
「「――――今日より強くなるために、あらゆる苦難を乗り越える!」」
2人で一緒に述べると決めた口上とともに、コアガジェットが猫を象る金属の装飾を纏う剣の鞘へと変形する。
「「――――ルミナイズ! フェアリーブレイド!」」
納められた刃のない鞘に残されたコアに手をかざす。そのまま抜刀するように手を振り抜くと、ノボルと同じように手札6枚が光となって目の前に展開された。
「あいつ、バディが出来たのか。それにあのデッキは……」
「爆ちゃん、どうしたの?」
「――いや、何でもねぇ」
『両者、ルミナイズ完了しました! それでは、早速始めちゃいましょうっ! バディ――――』
『『ファイッ!!!』』
「「――――オープン・ザ・フラッグ!」」
実況と観客の宣言が重なると同時に、歓声が爆発する。
それに後押しされるように、俺たちはファイトを開始した。
「ドラゴンワールド! バディは【竜騎士 レッドバロン】!」
「――レジェンドワールド!」
宣言と同時に戦闘機めいた姿をした赤いドラゴンとその騎手、竜騎士レッドバロンが代理のバディとしてノボルのそばに出現した。騎竜の手には竜と剣、槍をあしらった青い旗、ドラゴンワールドを示すフラッグが握られている。
一方、俺たちのフラッグエリア上空には重なった剣と盾、飛び交う数匹の妖精が描かれたレジェンドワールドの旗が浮遊している。
向こうのフラッグには持ち手があり、こっちのフラッグには無いが、仮にあったとしても小柄なケットシーには持てないだろうな……。
それはともかく、俺たちの先行だ。
先行1ターン目は最初、手札1枚をゲージに送りカードを1枚引くチャージ&ドローのみ行える。
「チャージ&ドロー!」
まだ使用条件を満たしていない【死を呼ぶバンシーの涙】を一旦ゲージへと送る。この手札なら……早速、やるか。
「相棒、出番だ。――バディコール! 【長靴を履いたケットシー】をセンターへ!」
「ぼくちんに任せるのだっ!」
バディコールを宣言したと同時に、コールしようとしていたケットシーのカードが粒子となって空中に溶ける。そのまま、隣に立っていたケットシー本人が猫のように軽やかなステップでセンターゾーンへと躍り出た。
『英介選手! 先行1ターン目で早速、新しいバディのお披露目だーーーっ! バディギフトによって、ライフが1回復します!』
英介:手札5 ライフ11
「そのままアタックフェイズに入る。ケットシーでファイターにアタック!」
攻撃宣言をすると、ケットシーは機敏な動きでエリアからエリアを飛び石のように跳ねていく。ノボルのいるフラッグエリアに辿り着くと、抜き放っていた細剣で乱れ突いた。
「食らうニャ猫シャツ!」
「だから、虎だッ! ッちぃ!」
ノボルの近くにあった残りライフを表す10の数字のエフェクトが砕け散り、ライフ9に減ったことを示していた。
ノボル:ライフ9
与えたダメージこそ低いが、今はまだ待ちのターン。きっちり耐えて返していくとしよう。
"The move end!"
「……はっ、バディコールしたから何かと思えば……やった事はたった1ダメージ与えただけかよ? よく見ればそいつ、攻撃力や防御力も2000……ステータス最底辺じゃねーか!」
「ニャ、ニャんだとーっ!」
ケットシー単体のスペックが低いのは事実ではある。そもそも、ケットシーどころか、レジェンドワールドはカード単体のパワーで殴るデッキではないのだからそんな事を言われても困る。
ただ、まあ。
「甘く見るのは勝手だが、痛い目を見ても知らんぞ?」
「っ、そーかよ! だったら見せてもらおうじゃねーか! ドロー! チャージ&ドロー!」
スタートフェイズのドローを経て、ノボルの手札は7枚に増えた。引いたカードをみた瞬間、彼の唇がにやりと歪む。そのまま彼は、2枚の手札を両手に構えた。
……反撃が来るな。
「【竜騎士 マサムネ】をレフトにコール! さらにゲージ1を払い、センターに……コール!」
レフトに現れた鎧兜を身にまとう青い騎竜と武者を尻目に、俺とケットシーの目の前で放たれる強烈な威圧感。神をも貶めるような赤い眼光が、展開された召喚陣の奥から覗く。
「ニャ、ニャんなのだあれは……!?」
「来いッ!【竜騎士 ノブナガ】!!」
召喚陣から悠然と這い出てくるのは、禍々しい、漆黒の鱗を纏う黒龍。その上にて仁王立ちし、戦場を俯瞰するのは……赤い外套を羽織る、魔王。
『――是非もなし』
……1ターン目から、随分なものをお出ししてくるものだ。
「ノブナガは竜騎士の中でも最高の打撃力4を誇るモンスターだ! お前の猫じゃ比べ物になんねぇよッ! 折角だ、さっさと焼き払ってやる――キャスト! 【ドラゴニックシュート】!」
「ギニャーーーッ! 早すぎるのニャーーー!!!」
燃え盛る炎球が、ノボルの手によって撃ち出される。攻撃力3000以下のモンスターを破壊するそれは、容易くセンターにいたケットシーを焼き尽くしてカードの粒子に還した。
それと同時に、俺のコアガジェットから光となったカードが2枚、浮かび上がっては消えた。
「ケットシーの効果発動。ケットシーが破壊された時、デッキの上から2枚をドロップゾーンへと送らせてもらう」
「それがどうした! 自分でデッキを削っただけじゃねーか! このままアタックフェイズ!」
果たして、本当にそうかな。
このターンは恐らく生き残る事自体は出来るだろうから、一旦様子見といこう。正念場は、次のターンからだ。
「マサムネでファイターにアタック!」
「対抗の発動はなしだ」
英介:ライフ11→9
突撃してくる騎竜と、刀を抜き放つ武者のツープラトン。腕を交差してそれを食らった途端、俺のライフは2点削れる。攻撃処理が終わった途端……いつの間にか目の前にまで近づいていた魔王の姿が目に入る。
「ノブナガッ! ファイターにアタックだ!!」
「――――これも受けるッ! ぐぅッッッ……!」
黒龍が振り下ろした無造作な爪撃、それは能力が制限されているにも関わらず俺の肉体にまで衝撃を与え、空中に浮かしてみせた。俺のライフもまた、けたたましく変動し……バディギフトで11もあった数字は、いつの間にか初期ライフの半分を切っていた。
英介:ライフ9→5
ノボル:ゲージ2 手札4 ライフ9
"The move end!"
『な・な・な・なんとーッッッ! ノボル選手! 後攻1ターン目で11もあった猫宮選手のライフを一気に半分消し飛ばしたー!!! やはり、猫では虎には敵わないのかーーーッ!?』
「どうだ? この虎堂ノボル様の実力は……!」
「相変わらず、安定感のあるプレイングだな」
ノボルのファイトは着実に自分の有利を積み重ねることに重きを置いている。相手とのライフ、手札、モンスター数などの盤面差を現実に作っていく事を第一にしているのだ。
センターに壁となるモンスターを常に設置し、防御魔法や手札補充などで盤面を整え、相手とのダメージレースに勝つ。自身の受けるダメージを少しでも減らし、相手にはより多くの被害を被らせる。
「まさにお手本みたいな有利の広げ方だよ、お前のファイトは」
初等部のファイターの中で、ここまで明確に盤面の有利を意識している奴はそう多くない。だからこそ、初等部ランキング2位を今尚、ノボルは名乗れている。
俺のこのデッキでは、同じような戦い方をしてもノボルには勝てない。先程も言っていたが、こちらのステータス、単体のパワーは竜騎士、ドラゴンワールドに明確に勝っているとは言い難い。
「俺のターン、ドロー」
英介:ゲージ4 手札6 ライフ5
巡ってきた2ターン目。
鞘のコアガジェットから、再びカードを引き抜く。
引いたカードは2枚目の【夢運ぶ彫馬 ダーラヘスト】。そのままゲージに送って、次のドローを手に取った。
「だから俺は……思い切って攻めることにする。――――装備!」
「ッ……!」
たった今引いたカードが、瞬く間に形を変える。血のように赤い文様が彫られた、漆黒の大剣。戦の血潮で鍛えられたとされる一振りが手元に現れた。
「【名剣 フルンティング】!」
攻撃力1000と最低限の数値を持ちながらも、ノーコストにして打撃力3を保有するレジェンドワールドの《武器》。このデッキ、フェアリーブレイドにおける最高打点。
同じような条件では、ダメージレースに勝てない。
ならば、センターを開けてでも攻め立てる以外に俺たちの勝ち筋はない!
「ゲージ1を支払い、キャスト【スンベル・ガルド】! そして【働き者の妖精たち】!」
ライフ6以下の時に使用できるドロー魔法で手札を補充し、2枚目の働き者でゲージを加速する。ドロップゾーンに落ちていったゲージは【妖精騎士 ディナンシー】
……これで、4枚目。
英介:ゲージ4→6 手札5
続けて、手札から2枚のモンスターを手に取り、左右のエリアに投げ込む。
「【夢運ぶ彫馬 ダーラヘスト】をライト、ゲージ1を払って【月夜に疾走るレッドキャップ】をレフトにコール!」
『――――――――ッ!!!』
『今日からここが、オレの舞台だ……!』
光の羽を生やした赤い木彫りの馬、血のように染まった帽子と双斧を携えた黒尽くめの小人が俺のフィールドに出現する。
スウェーデンにおける象徴の名を冠した彫刻馬が嘶く。その声に応えるようにして、俺のデッキから3枚のカードが飛び出しては消える。
「ダーラヘストの効果で、登場時に俺のデッキの上から3枚をドロップゾーンに送る」
センターを開け、アイテムを装備してファイターも参加する攻撃特化の陣形。
「"三列攻撃態勢"……!」
「これくらいしないと、ダメージ量で勝てないからな。あいつ風に言うなら、確か……
「チッ……あの運ゲー野郎……」
なぜか、ノボルの顔が歪む。
装備した大剣といい、この態勢といい、どこか見覚えのある構図だと思えば……牙王の初めてのファイトと盤面が似ているのか。
それはさておき、反撃の準備もできた。
「ここからは、こっちの番だ。――アタックフェイズ!」
すまない、ノボル君。
牙王はこの頃、キャッスルでキリ君にファイトを教えています。
長かったので次回に続きます。