RAVENS   作:オリスケ

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第4話

 

 

 

 数週間経った、某日。

 スカイ/ホロウの緊急招集を受けたアランが《レイヴン》事務所に行くと、既にメンバーが集まっていた。

 

 

「すみません、最終調整してたら遅くなりました」

「おっせーぞハゲ」

「ハゲてねえ──ハゲてねえだろ!? 見ろやこの髪、フサフサだわ! ふっさふさ!」

「はいはい、出会って二秒で喧嘩をおっぱじめるんじゃないわよ。今はあなた達の痴話喧嘩で時間を潰してる場合じゃないの、ねえボス?」

 

 

 即座にいがみ合うヴィルとアランの間を取り持って、ブレアレストが話題を軌道に乗せた。デスクに座っていた《レイヴン》のリーダー、ケルト・Ⅳ・ヴィジブックが頷く。

 

 

「急に集まってもらって申し訳ないね。だが今回は緊急の案件だ。活動可能なメンバー全員で取りかかって欲しい」

「はて。これまでも相当な危機だったが、ここまで物々しい言い方をされる事はなかったぞ」

 

 

 エルフ耳を訝しげに持ち上げ、イスラが聞く。相変わらずのTシャツにジーパン姿で、Tシャツにはつり下げられたバナナに群がる沢山の子猫がファンシーに描かれており、アランは必死に頬が緩むのを堪えなければいけなかった。

 そんなアランの弛緩した空気は、ヴィジブックが放った一言を聞いた瞬間に霧散した。

 

 

 

「『聖骸』だ」

 

 

 

 一瞬、しんと空気が静まり返った。

 

 

「……なんと、真か」

「うん。ウチの諜報部が掴んだ確かな情報筋だ。古き神々の時代、人理を超越する魔術によって製造された魔具の一つが、フラナガンで密売されようとしている」

 

 

 ヴィジブックは一枚の資料を取り出し、机の上に置いた。

 印刷された画像に映っていたのは、一つの壷だった。表面は何千年も経過したような樹木の皮のように乾いて苔生し、細い蔦が幾重にも絡み付いて渦を巻いている。

 植物に聡くないとはいえ、絶対の記憶力を持つアランにさえ、それを構成するいずれの素材も見たことが無かった。画像越しにさえ、近寄りがたい威厳のようなものが感じられる。

 

 

「〈パズスの虫籠〉。今でも名の残る程の神代の蒐集家パズスによって作られた魔具だ。エルベア国の博物館に保管されていた物が、半年前のテロ騒ぎで紛失。必死の捜索にも引っかからず相当深くまで潜られたと考えられていたが、海を越えてテオス・フラナガンに向かっているとの情報が入った」

「……虫籠には見えねえけどな」

 

 

 口に咥えたロリポップをカロ、と回してヴィルが呟く。ヴィジブックが苦笑し、答えた。

 

 

「一見すると壷に見えるだろうね。しかしこの蓋の中は、どうも途方もなく広い亜空間になっているらしくてね。中身を覗き込んだ相手を、質量体積を問わずに、時間の概念すら曖昧な空間に半永久的に閉じ込めて出し入れできるらしい」

「神代の変態どもはそんなブツを昆虫採集に使ってたってのかよ。でも、聞いた限りじゃそこまで危ない魔具とは感じねえけどな。ただのクソデカいタンスと変わらないんじゃないか?」

「用法用量を守って正しく扱えばその通りでしょうね。でもヴィル、フラナガン暗部に巣くうような奴らが、ルールを守るとでも思う?」

「言ってみただけだよブレアレスト。何でも出し入れできる神々の時代の魔具。誘拐、密売、何でもござれだ。夢が膨らむぜ」

「ヴィルくんの指摘も間違いじゃない。確かに超常の魔術を内包した魔具だが、これ単体で街が吹き飛ぶような代物では無い──虫籠を紛失するテロ騒ぎを起こしたのが、かの玩饗王でなければね」

 

 

 バキッと音がした。

 ヴィルが咥えていた飴玉を噛み砕いたのだ。ヴィルは一気に膨れあがった凄みを噴出し、ロリポップの棒とぷっと吐き出す。

 

 

「玩饗王か……そいつぁ、ヤバいな。マジでヤバイ」

「天災メーカーとも謳われる希代の魔具発明家が送り届ける、何でも収納できる貯蔵庫だ。紛失からの半年で、パズスの虫籠は実質的に武器庫と化していると見ていいだろう」

「ああ、蓋を開けた瞬間に何千人が死ぬか分からねえぞ。いやひょっとして何十万人かもな」

 

 

 度を超えた感情は人を否応なしに笑みを作らせる。ヴィルの牙を剥いた獣のような顔には、抑えがたい怒りの色がありありと滲んでいた。

 蒼く発光する入れ墨を揺らめかせ、ヴィジブックはヴィルを見、それからアランを見た。

 アランは表情をぐっと固め、震えるのを堪えている。しかし机に乗せられた固く握り締められた拳は、ヴィルの笑みと同じように抑えきれない感情を表象し、小刻みに震えていた。

 

 

「君に参加してもらう理由も分かるね、アランくん。ある意味で、君にとって望んでいた時が訪れたという事だ」

「冗談じゃない。俺はもう二度と奴の名なんて聞きたくなかったですよ」

「この時代に生きる誰もがそうさ」

 

 

 ヴィジブックは微笑みで緊張をほぐすよう促す。アランが深呼吸して気持ちを落ち着けるのを待ってから切り出す。

 

 

「取引予定は明日未明。〈パズスの虫籠〉はフラナガン北西部の貿易港に運ばれ、そこで玩饗王のシンパによって受け取りが行われる予定らしい。既にスカイ/ホロウが〈目〉を飛ばして張り込みを行ってくれている」

「堂々と港で聖骸のやり取りとは、馬鹿なんだか日和ってんだか」

「それだけ失敗しない自信があるのかもしれない。フラナガン市警が連携し港の封鎖に向け動いているが、十全とはいえないだろう。街の平和は、今回も僕達の手に委ねられた訳だ」

 

 

 そこで言葉を句切り、ヴィジブックは一同を見渡した。

 ヴィル、アラン、ブレアレスト、イスラ、そして通信補助を担うスカイ/ホロウ──少数だが、構成員としてはいずれも優秀、特に戦闘能力においてはズバ抜けた能力を持つ者ばかりだ。

 そして、中には二人、玩饗王の名前に特別な感情を抱くものもいる。

 自然と、アランの視線がヴィルに向く。彼女もまた同じ思いを感じていたか、視線が交錯した。ヴィルは相変わらずの憮然とした態度で、左腕の、肩口の金属の機構を振る。

 

 

「オレが活き活きと暴れられる位にはイカした奴を持ってきたんだろうな、アラン?」

「さあな。俺に保証できるのは、お前の義肢がいつだって俺の最高傑作だって事だ」

 

 

 アランは持ってきたアタッシュケースをヴィルに手渡した。ヴィルは待ちきれないとばかりにその場で開き、中を改める。

 梱包材に包まって、義手は使用者の手に収まる瞬間を待っていた。磨かれた硬質な輝きを見て、ヴィルの顔に、今度は昂揚からくる笑みが浮かぶ。

 

 

「よっしゃ、それじゃあぶちかましてやろうぜ。どんな悪事を企んでるのか知らねえが、その鼻っ柱をへし折ってやる!」

 

 

 かくして私設対魔術制圧部隊《レイヴン》は、またしても襲いかかる危機からテオス・フラナガンを守るべく動き出した。

 

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