今回はこの作品の中でも珍しい常識人、赤荻小毬です
ようやく二人目…後三人分だけど、やはり今日中は無理そうです
それと前話の予約投稿に不具合があって迷惑をおかけしました
ここで謝罪させて頂きます
「あえいうえおあお、んっん!うぅー……緊張してきました」
そう言いながらも、いつもの様に喉の調子を確認しながら台本を読んでいるのに苦笑しつつ、準備を進める。
昼休憩の始まって少ししてあたし、赤荻(あかおぎ)小毬(こまり)は放送室のブースの中にいました。
あたしの所属している放送部の活動の一つとして、毎週木曜日の昼休憩に放送しているラジオ番組のパーソナリティーをあたしが務めているからです。
今日もその放送なんですが、ちょっと今日は特別です。
その理由は二つあって、一つは今日の日付。
今日はバレンタインデーということなのでパーソナリティーの恋愛話の語るとか……。
あたしの恋愛なんか、語るほどの物じゃないですし、それに、あたしはずっと、豹堂くんだけを―
「失礼しまーす」
「ッ!?」
台本を読むのに夢中になっていたら放送開始5分前になってしまった様で、今回の放送のゲストさんが来てしまいました。
実はこのラジオ、時々ゲストをお呼びして放送しています。
まぁ、基本的には部活の部長さんや生徒会の人達ばかりなんですが。
そして今回のゲストさんなんですが、これが今日緊張しているもう一つの理由。
なんと今回のゲストが……
「生放送とか怖いんだけど、下手なこと言えないし……あ、小毬ちゃん今日はよろしく」
「あ、ひ、豹堂くん!よ、よろしくね!
そう、豹堂真くん……あたしの、好きな人……
放送部のラジオ『碧陽通信』は昼休憩時間のほぼ半分の20分程の番組で、自分達で言うのもなんですが、生徒さん達には結構な人気があります。
曲のリクエストやゲストのリクエスト等を受けたりもしますが、一番人気なのは『ゲストへの質問』のコーナー。
普段は真面目な部長さんの知られざるプライベートや、あたしからの質問に四苦八苦するゲストさんの様子が生徒さんに好評になってます。(恥ずかしながら、あたしはラジオ中に性格が変わってしまうんです)
ただ今回はバレンタインということで、ゲストとパーソナリティー”二人”の恋愛話をする……。
あたしの恋愛話は豹堂くんだけですが、当然名前は出しません。
そっちはまだ大丈夫だけど、一番の問題は豹堂くんの恋愛話。
もし、今好きな人が居るなんて言われたら……そう考えただけでも気が気じゃありません。
「れ、恋愛話!?俺も話さなきゃ駄目?」
「う~ん、企画だから話さないとね?」
「なんか小毬ちゃん生き生きしてない?」
放送直前なのにリラックスムードだけど、あたしの心境は大変です。今日はきちんと喋れるのかな?
ブースの外の他の部員から、後一分の指示が来る。
「それじゃ、スタンバイしようか」
「流石ベテラン、慣れてらっしゃる」
「そんなこと無いよ。あたしだって緊張するよ」
今日は別の意味で緊張してますけど。
「ミスしたらフォローお願いするよ」
「珍しいかもね、あたしが豹堂くんのフォローなんて」
開始10秒前でも笑いながらの会話しつつ、あたしは心の中でつぶやく
今日も、笑われるようなとちりをしませんように
3,2,1――GO
「本日のお昼も、失礼いたします。碧陽通信、始まります」
「はぁ~緊張したぁ~」
「でも初めてやったのに豹堂くん、殆どミスは無かったよね」
「……そういえば今日は小毬ちゃんはミスが多かったよね~」
「あ、それは言わないでよー」
放送が終わり、少し遅めのお昼を人が殆どいない屋上でとる。
2月の風は少し冷たいけど、あたしの体はドキドキで温かくて気にならない。
豹堂くんの言ったように、今日はあたしの方がミスが多かった。
豹堂くんの恋愛話に近づくほど緊張していたから。
結果的には、豹堂くんの恋愛話で「好きになった人はいない」という解答でした。
嬉しい反面、悲しい気持ちでもありました。
何故なら「好きな人はいない」、つまりはあたしの事はなんとも思っていない……。
「でもこっちもミスしたから、おあいこかな?」
「いや、でも、こっちのミスにはフォローしてくれましたし」
さりげない優しさ……それが豹堂くんの良いところ。
今日だけでなく、あの時も―
あたしと豹堂くんが知り合ったのは高校に入学して、同じクラスになってから。
最初は、金髪だし目付き悪いしで印象は最悪でした。
でもある日、部長と豹堂くんが話ていて、しかもかなり頼み込んでいる様子でした。
その日の放課後に偶然豹堂くんを見つけて後をつけたら、その先に捨て猫がいて、その猫を心配そうに眺めている豹堂君が……。
豹堂くん自身は理由があって飼えないから、色々な人に頼んでいたんです。
そこに偶然居合わせたあたしが、その猫を引き取って飼うことになったんです。
それから猫の様子を話し合ったりしていく内に、豹堂くんは、ほんとは優しいということを知り、そしてあたしは豹堂くんに惹かれていきました。
「あ、もうそろそろ教室に戻らないと」
「え、もうそんな時間です?」
時計を見ると確かに、休憩終了5分前でした。
少し焦りつつお弁当を鞄に片付け、代わりに小さな箱を取り出す。
少しだけ……少しだけでも、勇気を出さなきゃ。
「ひょ……真くん」
真くんは、あたしがいつもと違う呼び方をしたのに少しだけびっくりしつつも、穏やかな表情をあたしに向けてくれる。
いつかは、お互いの関係が進展した状態で、これを渡したいな。
すこしはにかみつつ、それを差し出す。
「これ、チョコです。味の保証は、出来ませんけれど」