「おいどうすんだよ?ばれてるみたいだぞ」
「仕方がないだろ。腹くくって上に上がるぞ」
「うぇぇ……ぜってぇカナさんにボコボコにされる……」
知弦先輩に促され俺ともう一人は苦虫を潰したような表情で橋の上へと上がる。
奏と呼ばれていた他校生はもう一人の顔を見てかなり驚いているようだが、俺の顔を見た知弦先輩は呆れた顔で俺に話しかけてくる。
「やっぱり貴方のだったのね、ニュー君。盗み聞きなんて趣味が悪いわよ」
「す、すいません……あの、知弦先輩、いつから気づいてたんですか?」
「最初からよ。見つからないように下へ潜り込んだみたいだけど、それ以前に近づいてきた時点で気づいていたわよ」
「マジですか。見えたとしても一瞬だと思っていたんですが」
「人間の視野は200度まで一応見えるのよ。まぁ、気付いていたのは私だけみたいだけどね」
知弦先輩が視線を俺以外の方向へと向ける。
つられて見てみるとつられて見てみると、奏さんと
「ちょ、カナさん!落とすのはやめてください!」
「うるさいわねぇ!なんであんたがここにいるのよ!今日は生徒会は欠席するって伝えたでしょ?!」
「いや、最近カナさん暗かったのが気になって……自分の彼女が心配にならない彼氏がいますか?」
「っ!カッコつけるんじゃないわよ!」
「あっ!ちょ、カナさんヤバいです!マジでおち……」
うわぁ……あの要が反撃しなかったとはいえ簡単に落とされた。
生徒会のメンバーっぽいから相当強いんだろうな。
まぁ、話を盗み聞きした感じだと俺に彼女が出来た事を黙ってたみたいだし、いいか。
「ふぅ、とりあえずこいつの処理は良いとして……そこの金髪の君」
「はいぃ!何でしょうか!」
急に呼ばれてびっくりして思わず声が上ずってしまった……。
あ、知弦先輩が俺を見ながら笑ってる。恥ずかしすぎる。
「もしかして君が豹堂君?この馬鹿からよく聞いてるよ。金髪で目つきの悪い友人が碧陽にいるって」
「こいつ、今意識があったらボコボコにしてるぞ」
「他にも運動も出来て勉強も出来る
「……いえ、俺なんかよりも要の方がずっと凄いですよ」
「え?」
そうだ、まがい物の俺なんかより、純粋なこいつの方がずっと。
「謙虚だね、こいつに爪の垢煎じて飲ませたいよ」
「そうでしょう?私の自慢の後輩よ」
「なるほど。彼が知弦の"大切な人"ってこと、か」
「……少し違うわ。私の"大切な人達のうちの一人"よ」
「へぇ……。それじゃあ、今度は全員と会わせてほしいな」
「えぇ、機会があれば是非」
「そうね。それじゃあ知弦も豹堂君も、またね」
そう言いながら奏と呼ばれていた人は、意識を失ったままの要を引きずりながら去っていった。
要達と別れた後、俺と知弦先輩は学校へと並んで歩を進めていた。
しかし、別れた後から数分経っても特に会話は無く、知弦先輩からの質問でようやくその静寂は破られた。
「さっきの彼、もしかしてニュー君の知り合い?」
「え、あっはい。中学の時の友人です」
「そうなの?珍しい偶然ね。私の友人の彼氏がニュー君の友人だなんて」
「奏さん……やっぱりさっきの人が手紙の―」
「手紙?」
「あ」
しまった。あの手紙は本来知弦先輩宛であって、本来は俺たちが見ちゃいけないもの。
あの時はあの場の流れでつい見ちゃったけど、どう誤魔化したものか……。
俺があたふたしていると、知弦先輩がいたずらっぽく笑う。
「ごめんなさい。あの手紙、実は私が先生に頼んで生徒会のみんなにに渡してもらうようにお願いしてたの」
「え!?なんでそんなことを?」
「どうしてかしらね。自分でもよく分からないわ。でも、みんなには知っておいてほしかったのかもしれないわね」
「そうですか……」
「それともう二つ、ニュー君に質問があるわ」
「二つもですか?」
「そう。一つは、手紙を見て私を探しに来た理由はなんなの?」
「それは……会ってみたいと思ったからですかね」
「会ってみたいって、奏に?どうして?」
「……似ていると思ったからですかね俺と」
「え?」
自分の過去を、他人に話す。
簡単なことかもしれないけど、本人にとってはかなり難しいことだ。
知弦先輩の過去。さっき会っていた友人の奏さんからいじめを受けていたということ。
知弦先輩は紆余曲折ありながらもそれを、消化し、他人に伝えられるようになった。
俺には、おそらくできないことだ。
少し俺が顔を伏せたのでそれ以上の回答が返ってこないと判断したのか、知弦先輩は別の話題を切り出す
「じゃあもう一つの質問だけど、ニュー君はいつになったら"先輩"呼びをやめてくれるのかしら」
「先輩呼びをやめる……鍵と同じようにさん付けって事ですか?それはちょっと……」
「なによ。なにか呼びたくない理由でもあるの?もう1年近くの付き合いなのに」
「いや、あの……なんというか、純粋に恥ずかしいというか……」
「ふ~ん……」
うっわ、めっちゃ怖い目つきなんだけど。人を見ただけで殺せそうなレベルなんだけど。
これ言わないと相当恨まれるやつだろ……しょうがないか。
「ち、知弦、さん」
「え」
うわ、知弦先輩キョトンとしてるよ。
やばいよ、なんか顔がめっちゃ熱いよ。絶対顔真っ赤だよ
知弦先輩もそんな俺を見ていられなかったのか、すぐに顔をそらして前を向く
「あ、先輩今の―」
「録音しておいたからね」
「え、ちょ、知弦先輩、今の無し!今の無しで!消してください!」
「嫌よ。これは私が厳重に保管しておくわ」
「やめてください!結構困りますから!」
知弦先輩は少し小走りで進み始める。俺もそれに合わせて知弦先輩の横につける。
知弦先輩の顔は夕陽に当たったせいか軽く赤みを帯びていた。