俺の名前は
昼休み――俺はいつも通り、男子グループの中で弁当を食べている。「このネイル可愛くない?」「キャントメイクよりネイルゴシックの方が色綺麗だよね」とか、そんな男子高校生っぽい会話をしながら。
そんな俺には、気になる女子がいる。
同じクラスの、
静木さんは、いつも女子オタクグループで固まっている。
今も、女子4人グループで弁当を食べている。4人ともメガネの女子だ。彼女たちは昼食を取りながら、机に置いたスマホを操作しつつ談笑している。多分ゲームでもしているのだろう。
時おり、俺はこんな風に彼女を目で追ってしまう。
――綺麗なのだ。
メガネを掛けていても分かる、つぶらで円かな瞳。文学少女然とした、三つ編みの黒髪。日焼けのない、新雪のように真っ白な肌。
華奢で、細身で、触れれば折れてしまう儚さを帯びている。
それだけ見ていれば相手にも気づかれる。1日に1回以上、彼女と目が合う。そして、すぐ目を逸らされる。
俺と静木さんだけが知っていて、他の人は誰も気づいていない、俺たちふたりの薄い関わりだ。
*
ある日、俺は廊下で静木さんに手を振ってみた。彼女は驚き、辺りをぶんぶんと見回し、何かに納得したように、背を向けて歩き去った。
たぶん、近くにいた友達に手を振っただけ、と勘違いしたのだろう。
う~ん。
なんとかして、お近づきになりたいな。
よし、次に目が合ったら話し掛けよう。
*
翌日のこと――。
「「あっ」」
階段でばったり静木さんと会った。
ちょうど踊り場から降りてくる静木さんと、目が合う。
彼女は一瞬目を見開いたが、すぐに目を逸らしてしまう。
「静木さん」
「わひゃあっ!?」
俺が声を掛けると、静木さんは足を滑らせた。静木さんの三つ編みが揺れて――。
ゴチン!とお互いの頭がぶつかった。が、幸いどちらも転倒することなくその場に踏みとどまる。
「いたたた……大丈夫? 静木さん」
「ご、ごめんね! さ、佐久間くんは大丈夫?」
「俺は平気。ごめんね、いきなり声掛けちゃって」
静木さんは申し訳なさそうな顔をして――。
(うわぁああああああああああああああ最悪最悪最悪! 佐久間くんにぶつかっちゃったぁあああっ! 好感度下がったぁあああああああああああああああっ!)
「いや、そんなぶつかったくらいで好感度下がらないって」
「えっ?」
静木さんは驚き、呆けたような顔で俺を見ている。
(な、なんで何も言ってないのに……考えてること分かったの?)
俺はようやく、異常に気付く。
静木さんは口を開いていないのに、静木さんの声が聞こえる。
さらに――。
「え、そうだよね!? 私も、さっきから佐久間くんが喋ってない時に佐久間くんの声聞こえる!」
「えっ!?」
頭をぶつけて中身が入れ替わる――とかはマンガの鉄板だけど、お互いの心の声が聞こえるって何!? そんなことあるの!?
「静木さん、今俺が考えてること分かる?」
「『頭をぶつけて中身が入れ替わるとかはマンガの鉄板だけど、お互いの心の声が聞こえるって何。そんなことあるの』って、考えてる?」
「合ってる……!」
(佐久間くんってマンガ読むんだ……。どんなの読むんだろう)
「静木さん、今、『佐久間くんってマンガ読むんだ。どんなの読むんだろう』って考えてる?」
「合ってる! 合ってるよ!」
俺たちは顔を見合わせる。事態の突飛さに驚き、固まることしかできない。
(え、ウソ、てことは、私が佐久間くんのこと見てたのもバレて――あっ、ヤバっ)
静木さんが「しまった」という表情をする。その瞬間から、みるみる彼女の顔が青くなっていく。
「あ、やっ、そのっ」
(だって、佐久間くん可愛くて、つい見ちゃって……)
「……っ!」
静木さん、俺のこと可愛いって思ってくれてたんだ。え、なにそれ嬉しい……!
「うわぁああああああああああっ! ご、ごめん佐久間くん! 今までジロジロ見てて、キモかったよね! もう見ないようにするから!」
「え、待って待って! 俺も! 俺もだから!」
「えっ……?」
俺が見てるのバレてると思ってたんだけど、お互い見てたんだ。
確かに、俺が見てるにしても目が合う回数が多かったような……。
「え、あの、なんで、佐久間くんが私のことを?」
「静木さんが綺麗だから、毎日目で追っちゃった」
静木さんは沈黙した。
けれど、数秒後――。
「あっ、わっ……」
静木さんの頬が、紅潮していく。白い肌のせいで、赤くなると照れているのが丸分かりだ。
俺は心を読まれている。俺の考えていることが本心だと、全部伝わっている。
静木さんは、俺の言ったことがお世辞でも冗談でもないと理解してしまったのだろう。
「あ、あの、その……」
「俺、静木さんのこと綺麗だなって思って、ずっと目で追ってた。静木さんが俺のこと見てる以上に」
「……!」
静木さんが信じられないものを見る目で、俺を見ている。
「ほ、本当に……? 私が綺麗……?」
「うん、心の声で伝わってる、よね?」
静木さんがこくこくと頷く。
「あの、佐久間くん――」
その時、授業開始を告げるチャイムが鳴った。
衝撃的すぎて、時間のことを忘れていた。
「やばっ! 教室戻ろう!」
「う、うん!」
*
5時限目の科目は数学だ。
昼飯の直後なので、普段だったら眠くなるのだが――。
(どうしよ、今も佐久間くんの心の声聞こえる! 変なこと考えないようにしないと……! 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏――!)
流石に、ばっちりと眼が冴えている。
リアルタイムで、静木さんの心の声が聞こえてくるのだ。眠くなる筈もない。
また、俺と静木さんの席は離れている。将棋盤で例えると2二と5五だ。にも拘らず、しっかり聞こえてくる。
やっばいなあ、これ。
心の中がバレるのは、ヤバい。
どんな聖人君子でも、常に健全で無害なことばかり考えている訳ではない。俺のような高校生であれば尚のこと、俗物的で不健全なことを考える時もある。
静木さんの真似じゃないけど、俺も変なことを考えないよう気をつけないと。南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経――。
――飽きた。
仏教作戦は5分で止めた。普通にしんどいし、授業にも集中できない。静木さんも念仏を唱えるのを止めている。
(そういえば、佐久間くんってなんで私に話し掛けてきたんだろう?)
(ああそれ、静木さんとお近づきになりたくて話し掛けたんだ。次目が合ったら話し掛けようって考えてて)
(えっ、そ、そうなの!?!?!?)
テレパシスト同士のように、心の中で会話をする俺と静木さん。
(なにそれなにそれ、嬉しすぎ! 心臓爆発しそうっ……!)
静木さんがいたく感激している。
その時――。
「――の答えは何か。今日は20日だから、出席番号20番の佐久間、答えてみろ」
げっ……やべっ、聞いてなかった。
(√2だよ、佐久間くん)
「あ、√2です」
「正解だ」
静木さんのおかげで事なきを得た。
俺は振り返り、静木さんにウインクする。
(ありがと、静木さん)
(ど、どういたしまして……!)
静木さんはびっくりしながら、軽くうなずいた。
役に立てたことが嬉しかったのか、すごく弾んだ声だった。
(静木さん、今日の放課後時間ある? いろいろ話し合いたい)
(い、いいよ! 話し合おう!)
心の中だけで、放課後の予定を取り付ける。
この現象を放置したまま帰る訳にはいかない。原因や解決方法を考えないと。
(ほ、放課後、佐久間くんと一緒にいられる……! ヤバい、嬉しい、死にそう……!)
左後ろから凄い嬉しそうな歓喜の声が聞こえてきて、思わず笑いそうになった。
*
放課後。
俺と静木さんはそれぞれの友達を見送って、教室に残った。
後に残っている数人は、なんとなく駄弁っている帰宅部や、部活はあるけどすぐ行こうとしない生徒たちだ。
俺は静木さんに話し掛けに行く。
「じゃあ、一旦教室出ようか」
「う、うん」
クラスメイトが、俺たちを不思議そうに見ていた。俺と静木さんのペアが珍しいのだろう。
「まず実験したいのが、お互いの声がどこまで聞こえるのかってこと」
「分かった。私が離れていくね」
心の中が読めているので、意図が伝わりやすく、話が早い。
俺が廊下の端に立ち、静木さんが離れていく。
(これずっと聞こえてたら、困るな……)
教室3個分離れたところから、静木さんの声が聞こえにくくなった。
(家のこととか、個人情報とか、プライベートなこととかまで聞こえちゃうもんね……)
教室4個分。明らかに音量が落ちている。
(あれ? 佐久間くんの声、ほとんど聞こえない……)
教室5個分。完全に静木さんの声が消えた。
久しぶりの、無音だ。
俺は歩き出し、静木さんに近付く。すると、だんだん静木さんの心の声も大きくなっていった。
(佐久間くん、距離に応じて、聞こえ方が変わるみたいだね)
(うん、他にもいろいろ試していい?)
(もちろんだよ!)
そして数分後。
実験結果をまとめると――心の声が聞こえる範囲は、実際に声を出して聞こえるくらいが限界。その時、間に障害物があっても声量には影響しない。
「佐久間くん、私たちがぶつかったところにも行ってみていい?」
「うん、いいよ」
俺たちは、頭をごっつんこした階段に戻ってきた。
「頭をぶつけたことが原因、だよね?」
「そうだと思う」
「もう一回頭をぶつけたら戻ったりしないかな?」
「やってみる?」
俺と静木さんは、ぶつかった時の立ち位置を再現する。そして、静木さんが俺の頭に頭突きをする。ゴチン!と、再び額に痛みが走る。
「お、思いっきりいったね……」
「強さも再現しないと意味ないかなって思って……ごめん、痛かったよね」
「大丈夫だよ」
(や、やりすぎたかな……ごめん佐久間くん)
けど、まだ静木さんの心の声は聞こえている。
う~ん……。
俺は静木さんに近付き、彼女の頬に両手で触れる。
(えっ)
そして、静木さんと額をくっつけてみる。
(近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い熱い熱い熱い手ちっちゃ近い近い近い近い可愛い可愛い可愛いっ! いい匂いする!)
静木さんの心の声が滝のように流れ込んでくる。
顔は熟れたリンゴのように真っ赤で、メガネの奥の瞳はぐらぐらと揺れていた。
「ぷふっ……!」
静木さんのあまりのキョドりっぷりに、面白くなって噴き出してしまった。
(わ、笑われた……! 流石に陰キャ丸出しすぎだ私……!)
「ごめんごめん、静木さんが可愛くて」
そういってニコッと笑いかける。すると、静木さんは赤い顔で俯いてしまう。
(ほ、本気で言ってる……)
俺の気持ちが本音だと伝わっている。また、彼女の心の声から、気分を悪くしている訳でないことが分かる。
「帰り、喫茶店寄らない?」
「え、いいの!?」
「うん、もっと静木さんと話したいし」
そして、校舎を出て路面電車に揺られること10分。喫茶店最寄りの停車駅に着く。ここから歩いて2分くらいのところに、コメダワラ珈琲店がある。
(ど、どうしよ……放課後に男子とふたりなんて初めてで、緊張してきた……しかも、佐久間くんだし……)
「なんか放課後デートみたいだね」
「ふぇっ!?」
「手とか繋いでみる?」
「えっ、えっ!?」
俺は静木さんの了承を待たず、彼女の手を握った。
俺よりも少しだけ大きな手。女子の手って感じだ……。
一方、静木さんは――。
(あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! 手ちっちゃ!!!!! かわいっ! 近っ!!!!! わたしっ、男子と手繋いでるぅううううううううううううううううううううう!)
絶叫のような声が脳内に響く。超高速でなだれ込んでくる静木さんの叫びが面白くて、流石に笑ってしまう。
「あははっ、静木さん顔真っ赤~」
「うぅ……私、男子に触れるの初めてで……」
静木さんは耳まで真っ赤だった。俺も女子と手を繋ぐのは初めてだが、隣に自分より照れている人がいるおかげで妙に冷静になれた。
(この人、ヤバ……。佐久間くん、距離感近っ……。クラスの陰キャ女子全員勘違いさせるタイプだ。こんなの私だったから勘違いしなかったけど、私以外だったら勘違いしてた)
「静木さん、勘違いしちゃいそうなの?」
「心読まないでよ……!」
「だって聞こえちゃうんだもん」
静木さんの顔は、もう間もなく爆発しそうなくらい赤く、手も熱かった。
男子との接触に喜んでしまい、意識しすぎてドギマギする女子。なんだか、見ていてイケない気持ちが湧いてくる。
「静木さんなら、勘違いしてもいいよ?」
ぐっ、と静木さんの手に力が入る。
静木さんの両目に、にわかに女の獣欲が宿る。
(うっ、うわぁあああああああああああああああああああああっ! この人お持ち帰りしたいぃいいいいいいいいいっ!)
「あははっ、静木さんこわ~い」
「心読まないで! 違うの! 今のは違うの!」
(可愛いなあ……静木さん)
(うぅっ……!!!)
程なくして、コメダワラ珈琲店に到着した。
俺たちは入店し、クロノワール*1を注文した。
「静木さん、LEINのともだち追加しておいていい?」
「あ、うん、いいよ」
俺はスマホを取り出し、クラスLEINから静木さんをともだちに追加する。静木さんも承認してくれた。
(佐久間くんとLEIN交換しちゃった……! うれしい……!)
静木さんがハッとして、すぐに目を伏せる。顔を赤くして、唇を真一文字に結び、スマホ画面に視線を落としている。
(喜んでるのバレちゃうのつらい……!)
俺も嬉しいんだけどなあ……静木さんとLEIN交換できて。
静木さんの顔がますます赤くなる。俺の気持ちも伝わってしまっているせいだ。
クロノワールが運ばれてくる。ふたりで食べながら話を続ける。
「さっき電車の中で調べてみたんだけど、何にも手がかりなかった」
「同じようなケースがあれば、解決法も分かったかもしれないんだけどね」
お互いの心の声が聞こえるなんてファンタジーすぎる。どう検索してもなんの症例も引っ掛からない。
その後、ああでもないこうでもないと話し合ったが、あまり実にならなかった。具体的な情報がないので、具体的な解決法もないのだ。
結果、話題は他の事に移る。
「へ~、佐久間くんってテニス部なんだ」
「中学の頃はバスケ部だったけど、友達と一緒にテニス部入ったんだ」
「陽キャ男子だ……。私とは縁のない世界だよ」
「静木さんって部活入ってるの?」
「うん、文芸部に入ってるよ」
「え、そうなんだ! 初耳! うれし~!」
「嬉しい?」
「静木さんのこと知れて、うれしい」
「え、えへへ……なんか恥ずかしいな」
「でも静木さんが放課後残ってるのあんまり見たことないけど」
「毎週水曜日だけ活動してるの。といっても、部室に集まってだらだら本読んだり、宿題やったりするだけなんだけど」
「それって部活なの?」
「文集作ってるから……一応、部活動としては動いてる、のかなあ?」
「へ~! じゃあ静木さんも小説書くの!?」
「え、うん、一応」
「見たい見たい!」
「だめ! 絶対だめ!」
「なんで! 見せてよ!」
「恥ずかしいから! 絶対だめ!」
「じゃあ今度文芸部の部室遊びに行こ~っと」
「来ないで!!! ……え、本気で来る気だ! やめて!」
と、雑談でほとんどの時間を過ごし、俺たちはクロノワールを完食した。
レジで財布を出そうとすると――。
「あ、私が払うからいいよ」
と、静木さんに止められた。奢ってくれるつもりらしい。
「ん~、じゃあ、今回はご馳走になるよ。ありがとう」
「どういたしまして」
「でも、次からは割り勘ね?」
お金を出し終えてレジの操作を待っていた静木さんが、一瞬ぴたっ!と硬直した。
「あ、うん……!」
(次! 次からは! 次からはって言った! また一緒に来れるんだ!)
「静木さん嬉しそ~」
俺は静木さんの腕を、軽く肘で小突く。
「う、うぅ……」
(恥ずかしい……あっ、ボディタッチうれしい……あっ……)
心の中モロバレの静木さんは、恥ずかしそうにしながらも、何も言い返さなかった。
会計を終えて、店を出る。
橙色に燃える太陽が、西の空に浮かぶ。ノスタルジックな夕焼け色に街が照らされていた。
停留場にふたりきり。並んで次の電車を待つ。
俺は隣に座る静木さんの手の甲を、つつ~と人差し指で撫でた。
「んひゃっ!? な、なに!?」
「静木さん、ボディタッチ喜んでくれるから」
「っ~~~~! 佐久間くん、私で遊んでるでしょ!」
「え~そんなことないよ~」
静木さんは円かな瞳を鋭く尖らせ、抗議の眼差しで俺を睨む。
「心の声聞こえるんだからね! 陰キャ女子をからかって楽しそうにしてるの分かってるんだから!」
「でも、静木さんもからかわれて嬉しそうじゃん」
「んぐっ」
核心を突かれ、静木さんが呻き声を漏らす。
静木さんは心の中で、恋愛経験不足を見透かされ、異性にからかわれることに悔しさを覚えている。
でも、それ以上の喜びを同時に感じている。異性に構われている。興味を持って、見られている。掌の上で弄ばれている。
静木さんの心は、そのことにどうしようもないくらいの歓喜を覚えてしまっていた。
「さっきも楽しそうだったもんね? わたしっ、男子と手繋いでるぅううううううううううううううううううううう!って」
「それは忘れて!!!」
「この人お持ち帰りしたいぃいいいいいいいいいっ!」
「やめて!!! 言わないで!!!」
静木さんは、夕日の中でもハッキリ分かるくらい赤面していた。
羞恥に耐えかねるのか、まなじりにはうっすら涙が光っている。
ちょうどやってきた電車に、ふたりで乗り込む。静木さんは両手で顔を覆い隠し、うつむいてしまう。
「最悪っ……! 心の声聞かれてたら、何も隠せないじゃん……!」
「静木さんが考えてること男子のみんなにも教えてあげようかな」
「それだけはやめて! 私学校行けなくなる!」
静木さんはバッと顔を上げ、必死の形相で懇願してくる。もちろん俺にそんなつもりはないし、静木さんにもそれは伝わっている。
もっとも、言ったところで誰にも信じてもらえないだろうけど。
路面電車に揺られながら、窓外を見る。カーブミラーが陽光を跳ね返して光る。眩しくて直視できず、少しだけ目を細めた。
「私、次で降りるね」
「ん、りょーかい」
次の停留場が、静木さんの家の最寄り駅なのだろう。
「俺たち、明日には治ってるかな」
「そうだといいね」
(治ってないといいな、もっと静木さんと話したいから)
静木さんが俺を見る。大きな瞳が、じっと俺を見詰めている。俺は頬をかきながら苦笑するしかない。
(佐久間くん……本当に、私と話したかったんだ……)
俺の気持ちを知った静木さんは、口角がぴくぴくっと上がっていて、喜びを隠しきれていない。
俺も恥ずかしくて、何を言っていいか分からない。
なんか、ずっと告白してるみたいな恥ずかしさがある。
これ、落ち着かないなあ……。
「まもなく、城址前駅。城址前駅となります。お忘れ物のないよう――」
静木さんの最寄り駅に着いた。彼女は立ち上がる。
「また明日、佐久間くん」
「うん、またね、静木さん」
ホームから離れていく静木さんの背中を眺める。歩く度に、三つ編みが揺れていた。
すぐに電車が動き出す。
(佐久間くんと手繋いじゃった佐久間くんと手繋いじゃった佐久間くんと手繋いじゃった……! しかもLEIN交換しちゃった! なんか、すごい一日だった! 恥ずかしかったけど幸せだった! というか、こんなことって――)
そして、静木さんの心の声が聞こえなくなった。
「……」
果たして、俺たちに起きた異常現象は、明日になれば治っているのだろうか。
一晩寝て治っているかもしれないし、これから先無限に続くかもしれない。
治らなければ、また静木さんと話せる。
治っていなくても、普通に話し掛けに行けばいい。
実はどっちでもいいのかもしれない。
でもひとつ言えるのは――高校に入学して以来一番、明日が楽しみだ。
*
その夜、私はベッドに顔を埋め、放課後のことを思い出していた。
「ひゃあ~~~~~~~~~~!」
今も、左手に佐久間くんの手の感触が残っている。
小っちゃくて、可愛い手だった。男の子の手だった。
陰キャ女子である私にとって、人生で初めての、異性との接触だった。
手を繋ぐ。たったそれだけで、人生の大イベントのように感じてしまう。
流石に処女すぎる。そう分かっているけど、嬉しすぎる。
「はぁ~~~~~~~~~~~~!」
私のキモい思考も全部バレていて、その上でキモがらず、好ましく受け取った上で、からかってきた。
佐久間くん、優しい。でも、ちょっと邪悪だ。女を弄んで楽しむ、悪い男の香りがする。
沼らないよう、気をつけないと。
でも、それはそれとして、佐久間くんとお近づきになれたのは嬉しい。
まだ心臓が跳ねていて、駆け出したくなるようなエネルギーが身体中に満ちている。
「うひゃぁ~~~~~~~~~~~!」
佐久間くん、明日も話し掛けてくれるかな。
また放課後一緒に出掛けてくれるかな。
ヤバい、急に人生楽しい。学校行くの楽しみすぎる。
もしかして、私の人生始まった? 静木リア充物語の1ページ目、スタートしちゃった?
「ひゃ~~~~~~~~~~~~!」
ベッドの上でジタバタしながら叫んでいると、隣部屋の妹がドン!と壁を叩いてきた。
「お姉ちゃんさっきからうるさい! 静かにオ○ニーして!」
「してないけど!?」
でも、うるさかったのは事実だ。ごめんね妹よ。
反省し、静かに横になる。
あまり深刻に考えていなかったけれど、『お互いの心の声が聞こえる』という異常事態は、明日になれば治るのだろうか。
案外一晩寝たら治っているかもしれないし、全然そんなことないかもしれない。
その点は、不利益もある。四六時中思考を覗かれていいほど、健全なことばかり考えている訳じゃないから。
真剣に事態の深刻さを考え始めた、その時――LEINの通知が来た。スマホを見てみる。
『今日はありがと! スゴい変なことになっちゃったけど、おかげで静木さんと仲良くなれてよかった!』
佐久間くんからのメッセージだった。続けて「おやすみ!」と送られてくる。
私は震える手で、「おやすみ」とだけ返信した。
私、クラスの男子と、初めてLEINした……! おやすみって、なんか恋人っぽい……!
「ひゃああああああああああああああああっ!」
「お姉ちゃんうるさい!!!!!」
「ごめえええええええん!!!!!!」
・佐久間くん
性別:男性
学年:高2
外見:黒髪。可愛い。
備考:いつも静木さんを目で追っていた。
・静木さん
性別:女性
学年:高2
外見:黒髪。メガネ。三つ編み。
備考:いつも佐久間くんを見ていた。