佐久間くんは静木さんのお家にお邪魔する!
静木さんのスマホを操作している時、再生リストに『イジワルえちえち陽キャ男子に罵倒されちゃうASMR』という動画があるのを発見してしまう!
静木さんはMであることがバレた上に、佐久間くんに耳元で囁かれ、バタンと倒れる!
静木さんは、佐久間くんを好きになってしまった!
中間テストが終了した。
今までのテストの中で、最も手ごたえがあった。静木さんが勉強を教えてくれたおかげだ。
テストの日は午前だけで終了するので、これで帰宅となる。
テスト勉強からも解放されて、完全に自由。晴れ晴れとした気分だ。
(そっか、これで終わりなんだ。寂しいなあ……)
静木さんの、寂しそうな心の声が聞こえた。
俺は勉強会のために静木さんの家へ行っていた。でも、テストが終われば行く理由がなくなる。
(佐久間くん、もう家に来てくれないんだ……)
という声が聞こえた直後、静木さんがバッとこっちを見る。
(い、今のはその……! 気にしないで!)
静木さんは顔を赤くしながら、軽く首を振った。
俺は静木さんに、心の中で話し掛ける。
(静木さん)
(な、なに?)
(今日、静木さんの家に遊びに行っていい?)
(えっ!?)
静木さんが大きく目を見開いた。信じがたいことだったのか、思考が止まり、心の声が数秒途絶える。
俺は続けて聞く。
(ダメ?)
(も、もちろんいいよ!)
静木さんの声色は明るかった。嬉しそうな表情だ。
俺は静木さんと一緒に購買でパンを買い、学校を出た。路面電車に乗り、隣に座る。
「静木さんの家、リビングにSwitchあったよね?」
「うん、あるよ。よく覚えてたね」
電車に揺られながら「妹と一緒に遊んでるの」「一緒に遊べる姉妹いるっていいな~。俺ひとりっ子だから」という話をしていたら、あっという間に最寄り駅に着いた。
さらに歩いて5分で、静木さんの家に到着。
「お邪魔しま~す」
「ふふっ、どうぞ」
正午なので、静木さんのお家にはもちろん誰もいない。両親は共働きだし、妹さんも学校である。
これから6時間くらいは、ふたりっきりの時間だ。
テレビをつける。平日の正午という時間帯。普段は見れないワイドショーが放送されている。
「俺、平日のこの時間のテレビって、なんかワクワクして好き」
「分かるかも。風邪の日に皆が授業受けてる時間に見るテレビとかも、同じワクワク感あるよね」
「そうそう!」
俺と静木さんは、購買で買った総菜パンとサンドイッチを食べながらワイドショーを見る。
可もなく不可もない内容。けど、この時間帯の番組を見れるという特別さを感じる。
食べ終わり、Switchを起動する。様々なゲームタイトルがダウンロードされている。
「あ、金太郎電鉄! 実は俺、金鉄やったことないんだ!」
「え、そうなの?」
(意外……佐久間くん友達多そうだし、こういうのやったことあると思ってた)
「なんかたまたま金鉄に出会う機会のない人生だったんだよね。実はずっとやってみたいって思ってた」
「じゃあやろっか。ルールは大丈夫?」
「ゲーム実況で見てるからバッチリ!」
そして、人生初プレイの金鉄が始まった。
――数分後。
「あ、着いた! 初目的地到着~!」
「おめでとう、佐久間くん」
「しかもキングボンビーが静木さんに着いた~!」
「でもここから逆転できるのが金鉄だから!」
さらに数分後。
「うわ、地理クイズだ。どこだろう……?」
(あ、これ茨城県が答えだ)
「そうなんだ! ありがとう静木さん!」
「頭の中覗くのは反則でしょ!!!!!」
「流石静木さん、頭いいな~!」
「ズルい~~~~~~~!!!」
さらに数分後。
「私もうマイナス10億超えちゃったよお! あ、しかもカード全部キングボンビーに捨てられた!?」
「あはははは! 静木さん弱すぎ~!」
「逆転できる気がしない……」
「あ、徳政令カードだ」
「それ使って! お願い!」
「じゃあ捨てとくね」
「使ってよお!!!!!!!!!」
さらに数分後。
「このままじゃ私最下位だ……。あ、でも、近くのCPUと同じマスを通過すれば、キングボンビーをCPUに押し付けられる!」
「じゃあ最果てカードでそのCPU飛ばすね」
「なんでそんなことするのぉ!!!」
そして、ゲームが終了した。
俺が1位、CPUが2位3位で、静木さんが最下位だ。
「あははっ! ウケる~! 静木さんマイナス30億だ~!」
「うぅ~~~! 佐久間くん強すぎ! 初めてじゃなかったの!?」
「何回も金鉄実況の動画見てたから、普通にやったことある人より詳しいかも」
次に、俺たちは、世界のアソビ大全101を始める。たっぷり時間もあるので、面白そうなゲームを片っ端からプレイしていく。
静木さんは、ずっと楽しそうだった。
(男子と家で遊ぶの、最高……!)
「静木さん嬉しそ~」
「う、嬉しいです……」
心の中を覗かれて、恥ずかしそうな静木さん。隠そうにも、心の声が聞こえる以上、正直なことしか言えない。
「次はこれやろうよ、5目並べ」
「いいよ、ちなみに私、妹とやって負けたことないよ?」
ゲームがスタートする。確かに打ち筋が強い。防戦一方になってしまう。
(じゃあ……)
俺は静木さんの集中力を削ぐため、わざと距離を詰めて、ぐいぐいと肩をくっつける。
「……っ! ちょ、直接妨害するのはズルじゃないかなっ」
(ボディタッチ嬉しい……あっ、近いといい匂いする……)
そう言いながらも、口角が上がっている静木さん。内なる喜びを抑えきれていない。
「ふふっ、静木さん喜んでる~」
「うぅううう~~~~~~~!」
「次の一手はどうするのかな? 男子に触られるの大好きな静木さん?」
「やめて!!! 言わないで!!!」
静木さんは思考を乱され、時間制限ギリギリになってしまい、焦って微妙なところに置いてしまう。
それがきっかけで攻守が逆転し、勝利した。
「静木さんの攻略法見つけちゃったかも」
「や、やめてよ! ズルいよ佐久間くん!」
(これもっとやってほしい~~~~~~~!)
セリフと心の声が一致していない静木さん。心の中の願望が丸聞こえなのが面白い。
「聞かないで聞かないで聞かないでぇ~~~!」
さらに、ボウリングやトイベースボールなどでも、色仕掛けを仕掛けてみる。
「えいえい」
「っ……!」
操作の妨害にならない程度に、手の甲と甲をくっつけてみる。途端に、静木さんのプレイはガタガタに崩れてしまう。
さらに――耳に息を吹き込む。
「ひゃあっ!?」
静木さんがびっくりして、体を震わせる。
「集中しなきゃだ~め」
「あっ、あっ、あっ」
耳元で、ぽそぽそ囁いてあげると、静木さんの身体は嬉しそうに震える。
(嬉しい嬉しい嬉しいっ……! これ嬉しすぎっ……!)
「静木さん、ちょっかい掛けられて喜びすぎ~」
「うぅ~~~~~~~~~~~~~~っ!!!」
静木さんの心は喜びっぱなしで、ずっとハイテンションだ。歓喜の声が頭の中に響き続けている。
そうして、ゲームで遊んでいると――。
(好き……佐久間くん、好き……)
静木さんの気持ちが伝わってくる。
ライクではなく、ラブ。恋愛的な意味での『好き』という感情だった。
俺は静木さんの横顔をじっと見る。彼女は微かな緊張感を帯びた表情で、画面を見詰めていた。
(バレちゃってる……知られちゃってる……)
静木さんも、気持ちが俺に伝わっていることは分かっている。
彼女は少しだけ息を吸い込んで、口を開いた。
「佐久間くん、その、気にしないでほしいな」
「えっ」
「告白とかするつもりじゃないの。だから、気付かないフリしてくれると、嬉しいな」
静木さんはテレビ画面を見たままそう言った。
その口調は何気ないものだった。気まずくなることを嫌がって、できるだけいつも通りを装おうとしていた。
そのことまで、心の声で伝わってくる。
「俺、静木さんのこと好きになると思う」
「え……?」
静木さんが驚き、俺の方を向く。メガネの奥の瞳が大きく見開かれている。
俺は、静木さんのことが好きだ。
この感情は、友情だけでもなく、恋愛感情だけでもない。単体のものではない。白でも黒でもなく、グレーなのだ。
「今も、半分は恋愛的な意味で好きになってる。きっと、これから全部になると思う」
(佐久間くんが、私のことを……)
俺の言葉が本心であることは、静木さんにも伝わる。
静木さんは、意外そうにしていた。
「だから、これからも仲良くしてほしいです」
俺は笑顔で、そういった。
(珍しい、佐久間くんの敬語)
静木さんも、穏やかな笑みを浮かべる。
「こちらこそ、よろしくね。佐久間くん」
そして、俺たちはゲームを再開した。
静木さんの気持ちを知る前と後で、雰囲気が変わることはなかった。
あっという間に6時間が過ぎて、俺は帰宅した。
*
夜。
私はベッドに横になって、今日のことを考えていた。
佐久間くんのことが好きという気持ちがバレたら、今まで通りの関係でいられなくなると思っていた。
でも、波乱も、瓦解も、起きなかった。
気まずくなってもおかしくないのに、あっさりとその部分を乗り越えて、関係を続けていくことを約束できた。
穏やかな気持ちだ。
佐久間くん以外の男子だったら、こんなに上手く行かなかった気がする。
すごいなあ……佐久間くん。
*
それから1か月が経った。
本日は球技大会である。
丸1日授業がなくなるので、嬉しい日だ。
私は卓球担当だったが、早々に負けてしまって暇になった。今は体育館でバスケ組の応援をしている。
佐久間くんたちがコート上で動き回っている。キュキュッと、靴のグリップが利く音が絶え間なく響く。
ところで、今の私は、コートのサイドライン際で体育座りをしている。
ここから男子の試合を見るとどうなるのか。
結構、際どいアングルだ。
男子たちの、綺麗な脚。体操着がめくれて見える、腹チラ。
極めつけは、ボールを持っている男子が腕を動かした時――袖口から見える腋。
一度意識してしまうと、肌色にばかり目が行く。
良くないことだと思う。でも、つい見ちゃうんだ。
一方、あまり話したことのない女子たちも隣で「高橋エロくね?」「ヤバ、石川のワキ見えたんだけど」などと盛り上がっている。
責められるはずもない。私も、同じことを考えているのだから。
前半が終わる。メンバー入れ替えで、佐久間くんがベンチに行った。ちょうど私の真反対の位置だ。
こっそり手を振ってみる。
すると、佐久間くんも笑顔で手を振り返してくれた。
まだ佐久間くんと話したことがなかった頃にも、こうして遠目に彼を見ていた。けれど、今ではお互いの存在を認知して、通じ合っている。
あの頃には、想像もできなかったことだ。
*
お昼休み。中庭のベンチに座る静木さんを見かけた。
(あ、佐久間くん)
俺が静木さんに気付いたことで、静木さんも俺に気付く。
俺は静木さんの隣に座る。
「おつかれさま、静木さん。応援来てくれてありがとね」
「あ、うん」
「友達の競技と時間被ってなければ、午後も見に来てね」
「うん、もちろん行くよ」
「ところで静木さん、バスケの試合見てる時ずぅ~っとえっちなこと考えてたよね」
「うっ……!?」
静木さんが急所を突かれたように呻いて、うつむいてしまう。
「面目ないです……」
「高橋くんの脚えっちだとか、石川くんのヘソチラ見えたとか、柳くんのワキ見えたとか」
「ひぃっ……! うぅっ……! ごめんなさい……!」
(うわぁああああっ! 最悪ぅううううう! 許してぇええええっ!)
静木さんが縮こまる。白い肌が、羞恥のせいで赤くなっている。垂れた前髪のカーテンの向こうに、熱があるみたいに真っ赤な赤面が見えた。
「静木さん、こっち向いて」
「は、はい……」
俺がそう呼びかけると、静木さんはおそるおそる俺を見る。
「俺以外の男子のこと、そういう目で見ちゃダメ」
静木さんの目に、期待の光が宿る。
「……佐久間くんにならいいの?」
俺は静木さんの耳元に唇を近づけて――。
「静木さんのえっち」
静木さんの喉からひゅっという声が漏れた。直後――。
(うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!)
静木さんの心から、大絶叫が聞こえた。
*
土曜日のこと。妹とゲームをしていると、佐久間くんからLEINのメッセージが来た。
『静木さん、明日映画見に行かない?』
(!?!?!?!?!?!?)
通知を見るなり、衝撃でスマホを落としかけた。妹が「どうしたの?」と訊いてくる。
「な、なんでもないよっ。ちょっと待ってて」
妹は「うん」といってスマホをいじりだす。
私はすぐに「行く!」と返信した。時間、待ち合わせ場所を決めて、「ばいばい!」のスタンプで会話が終わる。5分足らずの出来事だった。
(これ、デートのお誘いだよね?)
(……異性と、休日に、ふたりで出かける。うん、デートだ)
(………………)
(これ、デートのお誘いだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!)
「ふふっ、ふへへっ……!」
「どうしたのお姉ちゃん、きもちわるいよ?」
「な、なんでもないよ」
この後、私は妹とゲームの続きをした。嬉しくてずっとハイテンションだったので、妹には怪訝な顔をされた。
*
翌日。
私は私にとって最大限のオシャレをして、待ち合わせ場所へと来た。
(あっ)
佐久間くんの心の声が聞こえた。近づいてきているようだ。
数秒して、佐久間くんの姿が見えた。私が手を振ると、佐久間くんが近付いてくる。
(うわ、すごっ、私服姿の佐久間くんだ……!)
佐久間くんの格好は、オシャレなパーカーにジーンズだった。モデルみたいに可愛い。
「お待たせ、12分待ったでしょ?」
「バレてる……!」
「あははっ、聞こえちゃった」
それより、言わなくてはいけないことがある。
「あの、佐久間くんっ」
「なに?」
「か、可愛いねっ」
勇気を出して伝える。
しかし、佐久間くんはわざとらしく――。
「服が?」
「えっ、えっと……!?」
佐久間くんは笑いながら私を見ている。
「さ、佐久間くん分かってて訊いてるでしょ! 心の声聞こえてるんだから!」
「え~? 言葉にして伝えてほしいな~?」
にまにまと意地悪な笑みを浮かべる佐久間くん。
私は、より大きな勇気を振り絞って言葉にする。
「佐久間くんが、可愛い。です……」
「ふふっ、ありがと~!」
佐久間くんは満足そうに満面の笑みを浮かべる。
「うぅ……」
一気に体力が減った気がした。
その後、私たちは映画館に移動した。
先にポップコーンとジュースを買う。
まだ前の映画の上映中なので、場内には入れない。
私たちはロビーの座席に座った。モニターには、これから見る映画の予告映像が流れている。
私たちが見る映画は、ミステリーものである。嵐の洋館に閉じ込められた男女10人が、1人ずつ殺されていくというストーリーだ。
「実は私、こういう映画よく見るんだけど、ある法則があることに気付いたの」
「どんなの?」
「タイトルやポスターで3番目に大きく映ってる人が犯人なの」
「そうなの!?」
「うん、私が今まで見たミステリーものの映画、大体そうだった」
「じゃあ今回でいうと、赤ジャケットの人が犯人だね」
「そうなるね」
前の映画の上映が終わり、私たちはロビーから場内に移動する。
場内が暗くなり、予告が始まった。
(うわ、すご……私、男子とふたりでデートしてる……。人生初だ……)
(静木さん嬉しそ~)
(うぐっ……!)
佐久間くんがこっちを見て笑っている。暗い場内のせいか、蠱惑的な笑みに見えた。
本編が始まる。
洋館に招待された男女10人。嵐が止むまで出れなくなり、宿泊することに。ところが、殺人が発生し――。
それから1時間後、招待客の中にいたカップルが、寝室で話しているシーン。ふたりはベッドに腰掛けている。怯える彼氏を、彼女が励まし、安心させるためにキスをする。
(え、うそっ……)
まさか、という予感が的中する。彼女がそのまま彼氏をベッドに押し倒し、脱がし始めた。
(わ、わぁ~~~~~~~~~~~!)
そして、ふたりの影が重なる。情事は映していないが、男性の嬌声が聞こえる。
声、えっちだ……!
すごっ……!!!
なんか、変な気分になる……!
(静木さん喜んでる~、えっち~)
(うぐっ……!)
まずい。
考えてはいけない。
けれど、そう意識すればするほど、妄想が浮かんでしまう。
ベッドの中、服をはだけさせた佐久間くん。頬を赤らめて、うっすら涙目になって、淫らな声を上げながら悶えて――。
(あ~、静木さん俺とえっちするところ想像してる~)
(待って待って今のは違うの! 許して!)
(静木さんのえっち~)
佐久間くんを見ると、ニマニマと小ばかにするように私を笑っている。
クラスの男子が「女子ってほんと頭の中Hなことばっかりだよね」と呆れまじりに嘲笑するように、見下されている。
笑われている。胸に、グサッと来る。
(やっちゃった~~~~~! なんでこんなこと考えちゃったの私!)
後悔が湧き上がる。
その瞬間、佐久間くんが私に手を重ねてくる。
(!?!?!?!?!?)
男子との接触に、沸き立ってしまう心。
そして、佐久間くんが手を滑り込ませてきて――ぎゅっと恋人握りをする。
ちっちゃな手。男のコの手。佐久間くんの、体温。あったか……。
たちまち、頭の中が桃色の妄想で埋め尽くされる。ベッドの上で重なる、自分と佐久間くんの姿――。
(静木さんえっちしたすぎ~! 思春期真っ盛りすぎてウケる~!)
(きゃああああああああああああああっ! やめてっ、覗かないでえっ!)
心の中を暴かれ、性欲をからかわれる。
繋いだ手はそのまま。
イジワルな男子に、掌の上で弄ばれている。
悔しい悔しい悔しいっ……! 恥ずかしいっ……!
――そのまま、時間が進む。
そして、クライマックスのシーン。赤ジャケットの人が探偵に名指しされ、証拠を突き付けられる。
その瞬間、私と佐久間くんは顔を見合わせた。
(ふふっ……!)
(あはははっ……!)
私たちは、周りに迷惑にならないくらいの声で笑い合った。
*
その後、喫茶店で映画の感想を話したり、本屋でオススメの本を教え合ったりして、解散した。
夜。私はベッドの上で横になり、LEINしている。
『静木さん、今日は楽しかったよ! ありがとう!』
『私も、すごく楽しかったよ』
『また行こうね!』
ぴたっと手が止まる。
また、行ってくれるんだ……。今度は私から誘ってみようかな。
私は「うん、またね!」と返信し、お互いにおやすみのスタンプを押して会話は終わった。
スマホを置く。開いたままのトーク画面を眺める。
デート、か。こっそり佐久間くんのこと見てたあの頃は、想像もできなかったな。
今、人生楽しいなあ。
*
ある日の昼休み。
俺と静木さんは階段を下りている。踊り場に差し掛かったところで、俺は何となく足を止めた。
ここは、俺と静木さんが初めて話した場所だ。ここで頭をぶつけて、お互いの心の声が聞こえるようになってしまった。
静木さんも、俺に合わせて立ち止まる。
「私たち、治るのかな」
「治らないかも」
「困るなあ」
「俺はこのままでもいいかな」
「そうなの?」
「浮気されたら、すぐ分かるし」
「う、浮気!?」
静木さんは驚き、目を見開いている。
(う、浮気なんてしないのに……。でも、「浮気なんてしないよ」っていったら、もう付き合ってるつもりみたいでキモいよね……)
「ふふっ、しないんだ、浮気」
「……しないよ、絶対」
静木さんは心の声を聞かれたことで観念して、そういった。
俺たちは階段を下り始める。
「私、あの日、足滑らせてよかったって思ってるんだ」
「どうして?」
「佐久間くんと、仲良くなれたから」
「じゃあ俺も、静木さんが足滑らせてくれてよかった」
でも、実は変わらない。
俺たちは、心の声が聞こえるようになったから話すようになった訳じゃない。
元々、俺が静木さんと仲良くなりたくて話しかけたのだ。
だから、心の声が聞こえなかったとしても。今よりゆっくりではあっただろうけど、同じくらい仲良くなれたと思う。
「静木さん、俺が今何考えてるか分かる?」
「……っ! う、ぅ……」
静木さんが口ごもる。
自分から口にするのは、あまりにも恥ずかしいようだ。
けれど、小さな声で――。
「……い、いつ静木さんに告白しようかな、って」
「うん、正解。何かリクエストある? 場所とか、告白のセリフとか」
「本人に聞いちゃうの?」
「うん、ダメ?」
「い、いいけど」
「じゃあ一緒に考えよっか」
「ふふっ、なんか変なの」
予鈴が鳴る。あと5分で授業が始まる。
「教室、戻ろっか」
「そうだね」
俺たちは階段を下りきった。
開いた窓から、風が入り込んでくる。俺と静木さんの髪が揺れた。
微かに、夏が始まる匂いがした。