【第六章 全ては箱の中まで完結!】弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~   作:初雪空

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秘密の女子校で、1週間の滞在。
けれど、そこには世界を滅ぼす存在の召喚儀式があって……。

「異能者が普通にいる世界へ転生したら死亡フラグだらけの件」の3巻目は、誰もが疑わしい!?
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第16話 音々だけが理解していない村

 柳ヶ淵(りゅうがぶち)村は、珍しく医者がいるようだ。

 

 山に囲まれた、わずかな盆地に集まった住宅や田んぼ。

 切り開いた場所にある畑。

 

 それらを横目で通りすぎて、この村で唯一の繁華街で聞けた。

 

 商店街みたいな左右に1階が店舗になっているメインストリートってだけだが……。

 

 精肉店、魚屋、家電店と、一通りある。

 スーパーやコンビニという文明的なものはなく、雑貨店が現役。

 2階が住居になっていて、どれも年季の入った建物。

 

 メインストリートと言ったが、土道だ。

 対向車がすれ違えるぐらいに広い。

 

 診療所も、このエリアに(のき)を連ねている。

 チラッと声が聞こえてきたが、医者は老齢の男のようだ。

 そりゃ、若い人は来ないか……。

 

(もろに年功序列って雰囲気だし。若者がいないんだよな、子供はいても)

 

 その子供たちは、広場でボールを蹴っている。

 小学生から中学生が、5人ほど。

 

 昭和の光景がそのまま残っていて、工事の資材置き場が、そのまま遊び場になっている。

 大丈夫か、これ?

 

 俺たちは、茶屋のような店のテラス席。

 もとい、メインストリートの一部に置かれた机と椅子にいる。

 言うまでもなく、アウトドア用の安物だ。

 

 さっきの医者の話も、そこの婆さんから。

 

「はい、どうぞ……。御供(ごくう)さんが来られるのは、久しぶりです」

 

 ガタッと盆が置かれて、次の洋菓子――買い置きができる個別包装のやつ――とお茶に交換された。

 ちなみに、俺の分はない。

 

 同じ東京国武(こくぶ)高等学校から来た女子2人は、気まずそうだ。

 

 先輩の相良(さがら)音々(ねね)が、たまりかねて声を上げる。

 

「あの! もてなしは嬉しいのですが、氷室(ひむろ)くん……彼の分は?」

 

「御供さんが言うなら、とは思いますが……。こちらの防人(さきもり)さんは護衛と見届けに来なさったんでしょう? それに、御供さんの分を減らすわけには」

 

 黙々と食べていた西園寺(さいおんじ)睦実(むつみ)が、口を開いた。

 

「相良先輩? 必要なことだけ聞こうよ! ここ、寺社はあるの?」

 

 店主である老婆は、笑みを浮かべた。

 

「今は、ありゃーせんわ! 御供さん方が泊まっているところの田村(たむら)さんに任せておけば、間違いなーて! 時間が空きすぎていたから、ホンマ助かりましたわ」

 

 やっぱり、あのロッジ竜宮(りゅうぐう)の管理人でオーナーの田村東助(とうすけ)は怪しい。

 

 考えていたら、睦実が質問する。

 

「葬式や結婚式は、どうしているの?」

 

「村の若いのは、すぐ逃げ出すんで……。田村さんに言っておけば、希望通りにしてくれると思います」

 

 意味の分からない返事だ。

 

 婆さんは、俺たちの視線に気づき、説明を付け加える。

 

「墓は、それぞれの家にあります……。村の共同墓地だと、盆暮れに他所の坊さんを呼んで、お経を唱えてもらってますわ」

 

 

 ――銀山があった渓谷への道

 

 車のタイヤの跡を追いかけるように、渓谷への細い道を歩く。

 たぶん、ロッジ竜宮から出かけた、ワンダーフォーゲル部の車だ。

 

 相良音々は、気を遣う。

 

「氷室くん、ごめんね? 私たちだけ……」

 

「気にしないでください! 問題は――」

「帰れよ!」

 

 幼い男子の声だ。

 

 振り返ると……。

 

 やっぱり、男子小学生だ。

 高学年のようで、中学の可能性もある。

 

 よく見れば、広場でボール遊びをしていた1人。

 

「帰れって!」

 

 感情的に叫んでいる男子に、音々は向かい合い、屈みこむ。

 

 手慣れた様子から、弟がいるか、子供好きのようだ。

 

「お姉さん達は、調査で来たの! 刀を振るう防人だから、化け物が出ても心配いらないよ? 君、何か知っている?」

 

「し、知らない!」

 

 見るからに、事情を知っています、と書いてある表情。

 

 俺は、睦実を見た。

 

 彼女も、こちらを見る。

 

(止める?)

 

 視線で問われたが、今動くべきか――

 

「こらこら! タカシ、御供さんを困らせるんじゃねえ!」

 

 老齢になった男のダミ声。

 

 軍用というには粗末なジャケットを着用している。

 

 ただし、その背中にあるのは、細長い銃身とグリップを含めた木のパーツで構成された物体。

 

(ボルトアクション式のライフル……。実弾か!)

 

 怯えたタカシが、後ずさる。

 

「い、池之上(いけのうえ)のジジイ……」

 

「余計なこと言わないで、はよ行け!」

 

 (あご)で示されたタカシは、向き合っている音々を無視して、走り出す。

 

 おや? という顔になった音々は、立ち上がった。

 

 池之上と呼ばれた爺さんが、彼女に謝る。

 

「すまねえな? あいつは、礼儀知らずで……」

 

「それはいいんですが――」

「朝から、田村さんのところにいる若い連中が渓谷に潜ってるようだ。あんたらも、そこへ行くのだろ?」

 

「あ、はい……」

 

「せいぜい、気を付けるこった! ワシなら、どれだけ金を積まれても嫌だが?」

 

「それは、どういう意味で――」

 

 わざとらしく古い歌を口ずさんだ爺さんは、そのまま背を向けた。

 

 ユラユラとしながら、遠ざかっていく。

 

 俺は、奴がいなくなってから、口を開いた。

 

「焦らずに、急ぐぞ?」

「うん!」

 

 俺と睦実に遅れて、説明して欲しい、という雰囲気の音々も続く。

 

(さっきのメインストリートの接待を含めて、時間稼ぎだったか?)

 

 その予測が当たっていれば……。

 

「大学生の連中は、手遅れだろうね?」

 

 睦実が、嘆息した。

 

「えっ!? だから、説明してよ!!」

 

 音々の文句は、置き去りになった。




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