【第六章 全ては箱の中まで完結!】弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~   作:初雪空

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室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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第48話 オオスズメ……睦実ちゃんがやってきたんです!

 事件は終わった。

 

 しかし、俺の戦いは続く。

 

 全国防人剣術大会。

 

 その会場へ、俺は足を引きずるように入っていく。

 

 東京国武(こくぶ)高校のスペースに入ると、難しそうな顔で座っていた生徒会などの面々が、一斉にこちらを見た。

 

 刀剣解放ありの新人部門で決勝リーグにいる俺には、次の試合がある。

 

 生徒会長の伊花(いばな)鈴音(すずね)が、立ち上がった。

 

氷室(ひむろ)くん、今までどこに……」

 

 目を見開いた鈴音は、両手をテーブルについた。

 

「だ、大丈夫!? 仕方ないわ……。何があったかは後でいいから、試合は棄権しなさい! すぐに、病院で精密検査を受けて」

 

 俺は、それに構わず、試合会場のほうへ歩く。

 

 同じく立ち上がった風紀委員長の櫛田(くしだ)悠史(ゆうし)も、俺の正面に立ち塞がる。

 

「よせ、氷室! お前は、自分の状態を分かっているのか!?」

 

 それでも、俺は止まらない。

 

 止まるわけにはいかない……。

 

「俺は、誰よりも強くならなきゃいけないんだ……。でなけりゃ、あいつらは何のために死んだ? まだ、小学生だったんだぞ……。」

 

「お前は、いったい何を?」

 

 周りの注目を集めつつ、困惑している悠史を避けつつ、試合会場へ続く出口へ向かう。

 

「3人……。数で言えば、俺とお前よりも多いな? だったら、俺たちが撃たれるか、お前が嬲り殺しにされていれば良かったのか? 俺の目の前で暴行され、泣きながら助けを求めているお前を見ているだけが良かったのか?」

 

――それでも、お前は俺を人殺しと言うのか?

 

 無意識に呟きつつ、足を引きずっていく。

 

 そうだ。

 

 俺は、勝ち続けなければいけない。

 

 そうでなければ、何のために――

 

「いい加減にして!」

 

 シャッと、誰かが御刀(おかたな)を抜く音。

 

 立ち止まり、そちらを向く。

 

 鈴音が、脇差ぐらいの刀を抜いた。

 

 短い刀身ゆえ、片手で柄を握っている。

 

「鳴れ、三叉(さんさ)!」

 

 片手にある短い脇差の刀身だけ、魔法使いのワンドのような形状に変わった。

 

 同時に、俺の体を何かが貫くような衝撃。

 

「ガッ!?」

 

 それっきり、俺の視界は黒で塗り潰された。

 

 

 ――試合会場

 

 伊花鈴音の申告により、氷室駿矢(しゅんや)の棄権が決まった。

 

 会場に、その旨を知らせるアナウンス。

 

 東京国武高校のスペースへ戻る鈴音は、ふと立ち止まった。

 

(……視線? 誰?)

 

 しかし、今の放送でざわつくギャラリーに、特定することはできない。

 

 生徒会長の鈴音がオロオロしたら、国武が舐められる。

 

 ふうっと息を吐いた彼女は、頭を切り替えて、姿勢を正した。

 

 目的地へ、キビキビと歩き出す。

 

 

 ――大会後

 

 体調管理をできずに棄権した駿矢を責める声が、わりを食った剣術部を中心に高まった。

 

 けれど、彼の婚約者がいる天賀原(あまがはら)家による声明。

 

 なぜか、防人(さきもり)の名家である綾千侍(あやせんじ)家が全面的な擁護をしたことで、誰もが口を閉ざした。

 

 どちらかだけでも、厄介な相手だ。

 

 一部の人間だけが真実を知ったまま、防人と社会が対立しかけた騒動は終わりを告げた。

 

 

 ◇

 

 

 これは、夢だ。

 

 寝ている俺の上にいる綾千侍(さき)が、紅潮した顔のまま、俺を見下ろしている。

 

 その間にも、よく動く。

 

「どうかしら? タワシや、スポンジみたいな感触でしょ? あなたはラブホの代金を払ってくれたし、約束も守ってくれたから……」

 

――続きは、私のところへ来てくれたら、ね?

 

 上から覆いかぶさって、片手の指で片耳の後ろへ髪をどかした咲が、耳元で囁いた。

 

 

 ――東京国武高校

 

「駿矢、寝不足なの?」

 

 西園寺(さいおんじ)睦実(むつみ)に言われて、俺はギクリとする。

 

「あ、ああ! 最近、ソシャゲに嵌まっていてな?」

 

「ふ~ん?」

 

 ジト目の睦実は、放課後とあって、スマホを弄り出した。

 

 

 ◇

 

 

 カクリヨ神社の跡にいる綾千侍咲は、ご機嫌だ。

 

「ウフフ! いつまで、我慢できるかしら?」

 

 夢の中で氷室駿矢を誘惑している咲は、楽しそうだ。

 

 石段に座ったまま、プラプラと、足を動かす。

 

 けれど、焦ったように立ち上がりつつ、左腰から見えない刀を抜いた。

 

 次の瞬間に、紫色のスパークが地面と平行に走り、咲が構えた御刀にぶつかる。

 

 その衝撃を受けて、後ろへ吹っ飛んだ彼女は、空中で何度も回転しながら手足で器用に地面と接しつつの停止。

 

「んんっ! いきなりね?」

 

 刀剣解放をしている西園寺睦実は、片手に持っている小太刀(こだち)から、その怒りを示すようにバチバチと紫色に放電している。

 

「人の男にちょっかい出すの、やめてくれる?」

 

 ビキビキしている、童顔の睦実に対して、澄ました顔の咲が小首をかしげた。

 

「あら? 同じ浮気仲間でしょ? 仲良くしましょう! 何なら、氷室くんと3人で――」

「死ねぇええっ!」

 

 心温まる会話の直後に、睦実が光のようなスピードで動いた。

 

 切り裂かれつつ、雷が当たったような焦げた臭いと共に……咲の形をしていた人形が土へ戻る。

 

「チッ! 封賀秋灯(ふうがしゅうとう)か……」

 

「せいかーい!」

「さて、本物の私はどこでしょう?」

「退屈だったから、しばらく遊んでね!」

 

 地面から生えてきた、咲の軍団。

 

 彼女たちは、一斉に刀を構えた。

 

 突っ込んできた睦実の刀とぶつかり合い、耳を塞ぎたくなる金属音と火花、切り裂かれる音が、山中に響いた。

 

 同じ顔をした咲が不利だが、次々に補充されるから、泥仕合だ。

 

「お友達ができて、嬉しいわ!」

「黙れ!」

 

 文字通りに、キリがない。

 

 疲れた睦実は、体力が残っているうちに撤退する。

 

 高速鉄道よりも早く、羨ましい能力だ。

 

 咲は大人しくなったが、また夢で駿矢にこすりつけては集中線をつけた睦実が退治しに来るという流れへ……。




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