【第六章 全ては箱の中まで完結!】弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~   作:初雪空

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室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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第五章 一場春夢
第49話 上意による斬首


 江戸時代を思わせる、街並み。

 

 河川敷は、増水時に大きな被害をもたらす川を押さえ込むため。

 

 その立地上、汚してもいい広場となる。

 

 多くの河原者が住み、あるいは、楽器による音楽、踊りを披露しての金稼ぎ、家畜のバラし、皮革への加工と、種々雑多な姿を見せていた。

 

 河原者には、歌舞伎や浄瑠璃の源流である散楽も含まれている。

 

 手先で行う職人の一部も住みついており、当時は四民の下と見なされていたのだ。

 

 何かと厳しく、お布施を払う必要がある寺社とは違い、河川敷は自由だ。

 顔役はいるものの、基本的に自己責任。

 

 けれど、住居やお店が立ち並ぶ場所から下った河川敷は、上を含めて群衆に埋め尽くされていた。

 

 ツギハギの服ばかりだが、老若男女の視線はどれも批判的。

 

 本来なら、ヤジを飛ばしつつも、様々な余興を楽しむはずだが――

 

 増水で流れ着いた石、椅子代わりになる流木は、すみに退けられている。

 

 そこには、墨で細長い紙に文字を書いている、正座をしたままの少女。

 

 土手の上で壁のようになった庶民とは異なり、珠のような肌と、後ろで一本に縛った長い黒髪。

 

 ところが、明らかに薄汚れており、冷遇されている様子。

 

 異常なまでに静まり返った、庶民芸能のフィールド。

 

 永遠に思える時間が過ぎた後で、筆を置いた。

 

 書いたばかりの、濡れたような黒文字が目立つ紙を持ち上げ、ゆっくりと読み上げる。

 

 傍にいた侍らしき男が、両手でその紙を受け取った。

 

 雑用をしている者たちは、筆記用具を片づける。

 

 姫のような少女は、達観した表情で何かに耐える。

 

 紫の瞳が、閉じられた。

 

 ゆっくりと、息を吐く。

 

 お代官らしき男が、立派な和装で宣言する。

 

駒乃(こまの)の藩主である藤堂家の紗良(さら)! そちは、上様への反逆により打ち首、獄門と処す! その大罪により、名前を刻んだ墓に入れること、読経などの供養も禁ずる!」

 

 あまりの沙汰に、世の全てを恨んでいる乞食、悪事をしている面構えの男ですら、絶句した。

 

 死による救い、来世での幸せすら、完全に否定するのだ。

 

 無縁仏。

 

 それも、今から斬首する本人に聞かせた。

 

 代弁するように、土手の上のギャラリーが騒ぎ出す。

 

「そこまで、するのか……」

「まだ、成人したばかり(昔は15歳ぐらい)じゃない!」

 

「だ、大名の姫さまを……」

「人の心がないのか!?」

 

「今からでも、やめろよ!」

「その子が、何をしたって言うんだ!」

 

 ブーイングが続くも、土手の下に立っている代官は何も言い返さない。

 

 同じ気持ちだから。

 

 感情を押し殺した結果としての無表情で、端的に叫ぶ。

 

「これは! 上意である!!」

 

 封建制度では、上の命令は絶対。

 

 どれだけ理不尽であろうと……。

 

 代官の下にいる者たち、特にこれから首を落とす侍は、顔面蒼白だ。

 

 本来なら、大名の姫を見ることすら不可能。

 

 であるのに、罪人のように……。

 

「構えろ!」

 

 代官の命令で、音もなく鯉口が切られ、シャアッという鞘走りの音と共に鈍い金属の光。

 

 その切っ先が上へ軌跡を描き、両手による八相の構えへ。

 

 刀が震えることで、カタカタという音。

 

 耐えきれなくなったのか、許しを請うように告げる。

 

「じょ……上意でございますっ! どうか、お覚悟をっ!!」

 

 上ずった声が、誰も息を殺している場に響く。

 

 こくりと頷いた紗良は、正座のままで頭を下げた。

 

 その先には、落とした首と血を受け止める穴が掘られている。

 

 涙を流しつつ肩を上下させていた侍は、片足を踏み出す勢いで刃を振り落とした。

 

 

 ◇

 

 

珠姫(たまひめ)という愛称で親しまれた藤堂紗良は、斬首となった! 当時ですら非難轟轟でな? 次にあったことだが――」

 

 日本史の授業が、終わった。

 

 放課後になった東京国武(こくぶ)高等学校から、まっすぐ帰宅する。

 

(今日は、誰にも邪魔されずにゆっくりできる……)

 

 自宅で早めの風呂を沸かし、途中で買った高価な入浴剤を入れた。

 

 湯船につかりつつ、ぼんやりと思う。

 

(全国防人剣術大会は、疲れたってレベルじゃなかったからな……)

 

 俺の御神刀を完全解放したまま、何人の死をなかったことにしたやら。

 

 そのせいで、危うく自分も死ぬところだった。

 

『フフ……。今日は、睦実(むつみ)も乱入してこないし』

 

 独り言が、風呂場によって反響。

 

『さて、限りある今日はどう過ごそう――』

 バシャ―ン!

 

 上から降ってきた物体が、湯ぶねを噴水のように変えた。

 

 俺は、貴重な安らぎを台無しにしてくれた乱入者を見る。

 

 汚れた白い浴衣に、長い黒髪を後ろで一本に縛って、紫がかった瞳……。

 

(どこかで見たような気がする)

 

 そう思っていたら、俺と同年代に見える少女は暴れ出す。

 

「こ、ここが、あの世ですか!? あつっ! は、早く上がらないと――」

「ちょっと待て! ここ、俺の家だぞ?」

 

 バシャバシャと暴れていた少女は、ピタリと動きを止めた。

 

 恐る恐る、こちらを見る。

 

「そ、そなたは……ブホッ!」

 

 途中で吹き出した少女が、ふらりと揺れて、湯ぶねの中に沈む。

 

 気絶したようだ。

 

(あ! 俺が立ち上がっていて、こいつが正座していたから)

 

 ちょうど、別のものに挨拶する構図だ。

 

 溺れないように抱き起しつつ、考える。

 

(間違っても、睦実には見つからないように――)

 

 バンッ!

 

駿矢(しゅんや)! いったい、何が……」

 

 いきなり登場した、西園寺(さいおんじ)睦実。

 

 彼女は、見知らぬ少女を抱きあげている俺を見て、スッと表情をなくした。

 

「……説明してくれる?」




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