【第六章 全ては箱の中まで完結!】弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~   作:初雪空

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室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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第52話 朝昼夕がついて1日3,000円は安すぎる!

 封建時代からタイムスリップしてきたと思われる、お姫様。

 藤堂(ふじどう)紗良(さら)を迎えて、1週間ほど。

 

 剣術部のやつらは、紗良があまりにお堅いことで辟易したようだ。

 

(いつ、刃傷沙汰になるやら……)

 

 自分の命よりも家の名誉で動いていた時代。

 

 現代の感覚では、無自覚にそのスイッチを踏んでしまうため、ずっと見張っていた西園寺(さいおんじ)睦実(むつみ)は疲労困憊。

 

 海辺に打ち上げられたサメのような姿に、俺は温泉旅館へ誘った。

 

 ちょうど、連休。

 

 紗良といつものグループも、同行している。

 

 元の時代へ帰ることを前提に、紗良にあまり刺激を与えないことを重視。

 

 その結果、俺たちには退屈な、辺鄙な田舎町となったのだ。

 

 古い乗合バスの窓から外を見れば、ガタガタと揺れる席から一面の緑。

 

(日が暮れたら、真っ暗になりそうだ……)

 

 東京の住宅地とは全く違う、緑の牢獄だ。

 

 しかし、何もないことで諦観する俺たちとは異なり、紗良は楽しそうだ。

 

「このような遊山(ゆさん)は、初めてでございます!」

 

「そうか……」

 

 見ると、睦実さんは神宮寺(じんぐうじ)(のぞみ)と並んで座っている。

 

 他の席には、男子2人、女子2人。

 

 何気に、男女のバランスがいい。

 

(天女伝説の村を思い出す……)

 

 事件を解決したはずが、水の底に沈んだ。

 

 しかし、東京の繁華街にお姫さまを連れて行った日には、元の時代に帰ってからのギャップに耐えられない恐れもある。

 

 適当に話していたら、村のバス停に到着した。

 

 主な乗客である老人たちが、ヨタヨタと降りていく。

 

 その後で、後ろ座席に集まっていた俺たちの番。

 

 足を動かせば、ジャリジャリという音。

 

「ここからは……あっちのほうか!」

 

 俺が言えば、水主(みずし)東一(とういち)も同意する。

 

「ああ! うさぎ亭って、すごい名前だな?」

 

「外見は、昔ながらの旅館のようだったが……」

 

 ここで、日高(ひだか)烈火(れっか)も加わる。

 

「朝昼夕の食事がついて1日3,000円は、安すぎない?」

 

 東一が、おどける。

 

「まあな! 本当に大丈夫か、駿矢(しゅんや)?」

 

「たぶん……。料理がショボすぎたら、売店で温泉饅頭を買おう」

 

 俺のフォローとも言えない返答に、乾いた笑いをする2人。

 

 駄弁っている間にも歩いており、俺たちの後ろで女子たちの話し声。

 

 やがて、“うさぎ亭” という木の看板が見えてきた。

 

 立ち止まったグループの中で、見上げている東一が呟く。

 

「思っていたよりも、立派だな?」

 

 時代を感じる、木造の二階建て。

 

 しかし、部屋は横に広いようで、男子と女子に分かれての滞在も快適そうだ。

 

「お待ちしておりました! 私は、うさぎ亭の番頭である久住(くすみ)と申します。わざわざ遠いところからお越しいただき、誠にありがとうございます」

 

 出てきたのは、20代半ばの優男。

 

 旅館のスタッフと思える和装をしており、腰が低い。

 

「予約した氷室(ひむろ)です」

 

(うけたま)っております! さっそく、お部屋にご案内しますが……。お荷物をお運びしますね?」

 

 けれど、他にスタッフはいないようだ。

 

「女子のほうをお願いします」

 

「……お気遣い、ありがとう存じます」

 

 ペコリと頭を下げた久住は、女子グループへ。

 

 人を使うことに慣れている紗良が、あっさりと渡す。

 

 それ以外は、適当な理由をつけて、持ったまま。

 

「こちらへ、どうぞ……」

 

 広い玄関口に、宿泊名簿を書くためのカウンター。

 

 靴を脱いで、靴箱へ――

 

「大変申し訳ございませんが、履き物はこちらの袋でお部屋へお持ちいただけますか? この旅館は地元の銭湯になっているうえ、私1人なので、なるべく貴重品の管理をお願いします」

 

 頭を下げた久住に、俺たちの横を通り過ぎた爺さんが声をかける。

 

「入るよー!」

 

 募金箱のような箱のスリットで、チャリンと小銭が落ちる音。

 

 どうやら、入湯料のようだ。

 

「ごゆっくり!」

 

 振り返った久住が声をかければ、ひらひらと手を振った爺さんが、慣れた様子で、積まれているバスタオル、ハンドタオルを1つずつ持っていく。

 

 続いて、数人の高齢者。

 

 同じような会話が続き、申し訳なさそうな久住の説明。

 

「このように、人の出入りが激しいので……。食事の仕込みなどで不在なら、地元の人は勝手に入って帰ります」

 

 なるほど。

 

 どちらかと言えば、民宿だな?

 

 宿帳に名前などを書いた後で、久住に案内された。

 

 男子と女子で、隣接する部屋2つ。

 

 修学旅行じゃないから、わざわざ離す必要はない。

 

「お食事は朝昼晩で、1階の食堂で提供いたします。夕飯は午後6時から出しますが、早めに召し上がっていただけると幸いです」

 

「分かりました! ありがとうございます」

 

 俺に続いて、他のメンバーも礼を言う。

 

 会釈した久住が、別れを告げる。

 

「では、ごゆっくりどうぞ……」

 

 ドアに鍵はあるが、本当に気休め。

 

 部屋そのものは、わりと立派だ。

 

 2階には和風のバルコニーがあり、座って景色を眺められる。

 

「うーん? セキュリティボックスがないね?」

「温泉に入る時は、どうするんだよ?」

 

 男子2人の会話に、ツッコミを入れる。

 

「さっきの様子じゃ、金庫があっても信用できんぞ? どうせ、管理者用のマスターキーか開く方法があるだろうし」

 

 呆れつつも頷いた、烈火。

 

「だね! 部屋で誰かが見張るか、いっそ温泉でもビニールに入れて貴重品を持ち歩くか」

 

 ため息をついた東一も、首肯する。

 

「地元に悪いやつがいても、他のやつらが庇うだろうし。小銭稼ぎのコソ泥が出入りしているかもな?」

 

 歓迎されてのディスりだが、これだけ管理がザルでは、言われても仕方ない話。

 

 十分に警戒して盗まれないほうが、お互いのため。




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