【第六章 全ては箱の中まで完結!】弾丸より速く動ける高校生たちの切っ先~荒神と人のどちらが怖いのか?~   作:初雪空

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室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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第56話 この温泉旅館、何か変……

「この後は、どうなります? うさぎ亭に村人が押しかけるんですか? それとも、警察を呼ぶ?」

 

 俺の質問に、正面で向き合っている老婆が訊ねる。

 

「うさぎ亭?」

 

「この村にある、温泉旅館です! 俺たちも泊まっています」

 

 少し考えた老婆は、頷く。

 

「今は、そう呼んでおりますか! 近づかないよう、言うておいたのですが……。姫さまがお越しになられたので、この神社も終わり。ところで、あなた様のお名前をお伺いしても?」

 

 藤堂(ふじどう)紗良(さら)が、代わりに答える。

 

「わたくしが身を寄せております、氷室(ひむろ)家のお方でございます」

 

「氷室駿矢(しゅんや)です」

 

 正座のままで両手をついた老婆が、頭を下げた。

 

「姫さまをお護りくだされしこと、かたじけなく、言葉もござらぬ(ところ)(そうろう)

 

 俺が圧倒されていると、紗良のフォロー。

 

「氷室様にございますれば、そのようなこと、当然とお思い召されておりまする。どうぞ、(おもて)をお上げなされませ」

 

「ハッ!」

 

 スッと、上体を起こした老婆。

 

(姫様みたいだ……)

 

 そういえば、紗良は自分を大名の娘と言ってたな?

 

 老婆が、俺を見た。

 

「結論から申し上げれば、ワシらは何もいたしませぬ……。姫さま! お家に戻りたければ、この神社にお越しくださいませ! たまひ神社は、そのためにあります」

 

 困惑した紗良が、問いかける。

 

「そなたは――」

「もう1つ、申し上げたい義がございます! 良いですか? 最後の最後まで、諦めてはなりませぬ! その件で、お耳に入れたいことが」

 

 老婆が立ち上がり、紗良の耳元で囁く。

 

「……!?」

 

 息を吐いた紗良は、動揺した様子で、俺をチラチラと見ている。

 

 離れた老婆は、元の位置に座り直しつつ、念を押す。

 

「ワシも、全てを知りませぬ……。ですが、必ず意味がある! もし追い詰められたら、このババを思い出してくだされ」

 

 

 ◇

 

 

 うさぎ亭へ戻れば、ランチタイムを過ぎたぐらい。

 

 広い玄関で、ちょうど番頭の久住(くすみ)と出くわした。

 

「お帰りなさいませ! この村は何もなく、申し訳ございません」

 

 上機嫌の藤堂紗良が、陽気な声で応じる。

 

「いえ! たまひ神社で歓迎されました」

 

 びっくりした表情の久住は、口が半開き。

 

「たまひ神社……ですか?」

 

「はい! どのような由来で……」

 

 紗良は、悩んでいる久住を見て、黙り込んだ。

 

 我に返った彼は、笑顔を作る。

 

「ハハハ! 村の支えでは、あったんですけど」

 

 あった?

 

 俺は、その言い方に引っかかった。

 

 いっぽう、久住は、おずおずと尋ねてくる。

 

「あなた方は、神社で何を?」

 

「宮司の方と――」

「頂上を目指したついでに、見学しただけです。立入禁止であれば、知らずにすみません」

 

 紗良が、俺の顔を見た。

 

 空気を読んで、何も言わず。

 

 俺たちを見比べた久住は、息を吐く。

 

「いえ、危険だから近づかないほうが良いというだけで……。ご無事で、何よりです! ところで、お昼はいかがいたしましょうか?」

 

「まだ残っていれば、お願いできますか? 夕飯の仕込みに入っているでしょうけど……」

 

 俺の謝罪に、久住は頷く。

 

「大丈夫です! 2名様で、よろしかったでしょうか? 準備ができましたら、食堂へどうぞ」

 

 会釈した久住は、立ち去る。

 

 俺たちも、それぞれの大部屋に戻り、すぐに食堂へ。

 

 厨房に大勢がいる気配と声の中で、どんぶりに入ったカツ丼と、漬物、味噌汁。

 

 向かいに座った紗良は、上品に食べていた。

 よっぽど美味しいらしく、面白いほどに表情が変わる。

 

「氷室さま? 召し上がらないので?」

 

「食べるよ!」

 

 遅めの昼食が終わり、いつもの組み合わせで、交代の夕飯。

 

 氷室ハーレムと名付けられて、もはや定着しつつある。

 ともあれ、ようやく馴染んできた温泉旅館。

 

 修学旅行のような雰囲気だが、男女が同じ部屋で談笑しつつのカードやボードゲームという、あり得ない光景へ。

 

 俺の側室と見なされている女子3人と、それ以外の男女という、見えない線のような区分けはあるが……。

 

 眠くなったら、女子が自分たちの部屋へ帰るだけ。

 

 翌日の朝に、変化が起きた。

 

 

「どーなってんだよ、この宿は!?」

 

 朝日が眩しい食堂に入ったら、若い男が番頭の久住に怒鳴っていた。

 

 ネットの配信者の一行が集まっていて、他のやつらも責めるような視線。

 

 聞いていると、昨日の夜に怪奇現象が起きたそうだ。

 

「俺たち、寝られなかったんだよ! これで金とるのか!? あんたらも、ちゃんと言ったほうがいいぞ?」

 

 怒鳴っていた若いイケメンが、俺たちに気づいた。

 

 ズカズカと歩み寄り、俺に訴える。

 

「昨日の夜、お前らも眠れなかったろ?」

「……落ち着いてください! 何もなかったと思いますが」

 

 言いながら、後ろにいるグループを見た。

 

 男女が混じっている高校生たちは、誰もが首を横に振る。

 

 上半身を前に戻したら、納得できないイケメンが足踏み。

 

「んなわけ、ねーだろ!? まさか、こいつに金をもらって――」

「違います! 俺たちは、メシを食いに来たんで! 時間があるのなら、その後に話し合いませんか? 少なくとも、俺は事情を聞きますよ?」

 

 俺の説得で、ハッとするイケメン。

 

「わ、わりぃ! そうだな……。1階に団らん用のリビングがあんだろ? そこで待ってるから……。お互いに全員で集まるのはアレだから、俺たちか、多くても4、5人で話そう」

 

「分かりました。俺が食べ終わったら、すぐに行きます」

 

 イケメンは、ようやく落ち着いた。

 

 けれど、久住に謝ることなく、全員分の朝食を要求する。




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