いかにも仲間になりそうな敵美少女キャラ   作:草おいちい

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始まりの日

 赤い、赤い、赤い、赤い、紅い、紅い、赤い

 

 

 どこを見渡しても視界を赤が占領している。煌々と燃え盛る炎に囲まれて、ただ独り立ち尽くす。

 

 床に倒れ伏す同胞達によって、足元は真紅に染まっている。足を上げてみれば裸足にへばりついた肉片と血がぴちゃぴちゃと音を立てる。

 

 先程まで口うるさく命令していた男は既に炎に呑まれて炭化していた。もう僕は自由だ。自由、そう、自由である。

 

 あれ程待ち望んでいた自由だというのに、いざこうして解放されても、何の感慨も湧いてこない。胸を満たすのは、果てしない虚脱感のみ。

 

 逃げようと思えばこの炎からも簡単に逃げられる。それだけの力はある。でも、不思議とここから動く気にはなれなかった。

 

 

 もう、疲れてしまった。これまでの人生を振り返って、生きていて良かったと思ったことなどただの一度もない。

 

 

 このまま、同胞達と共に逝くのもまた一興だろう。

 

 

 そうして、炎に身を委ねるべく目を瞑ろうとしたその瞬間────

 

 

 巨大な魔力反応と共に目の前の壁が吹き飛んだ。吹き荒ぶ瓦礫混じりの熱風に、思わず顔を手で庇う。

 

 粉塵が、風の魔法によって強引に晴らされる。視界が開け、吹き飛んだ壁の向こう側から足音が近づいてくる。ホムンクルスとして強化された聴力が、炎の中でもそれを聴き分ける。

 

 

 姿を現したのは、金髪の美丈夫であった。この殺伐とした空間には似合わない真っ白の礼服を纏った男は、ゆったりとした足取りでこちらへと向かってくる。

 

 

 僕は本能的に、彼には逆立ちをしても勝てないことを察した。

 

 

 ハイエンドのホムンクルスである僕は圧倒的な魔力量を誇る。しかしそれが霞んで見える程の膨大な魔力を目の前の男からは感じる。

 

 そんな彼の齎すプレッシャーに、僕は恐怖で後退ることもできなかった。ピタリと静止する僕に、その男の目が向けられる。

 

 

 美しい目だと、場違いにも思った。炎に赤く照らされてなお美しく緑に輝く、透き通った碧眼だ。

 

 

 先程の爆風で僕と彼の間に横たわっていた同胞達は吹き飛び、一本の道が出来上がっている。屍に囲まれた道を、美丈夫は優雅に歩いてくる。

 

 

「君が、個体識別番号0(ゼロ)……か。聞いていた以上の魔力量だ」

 

 

 笑みの一つも浮かべず、僕の側で立ち止まった彼は、そう言って僕の頭を撫でる。そして、僕の顔を覆っていた前髪をそっとかき上げた。手袋に包まれた指が、額に浮かぶ紋様を優しく撫でる。

 

 

「こんな掃き溜めで腐らせるには惜しい…………私と共に来るといい。今日から、私が新たな主人(マスター)だ」

 

 

 効力を失っていた隷属の魔法が書き換えられていく。幾重にも掛けられていたロックが一つずつ剥がされ、従来の隷属先がすり替えられていく。そのあまりに繊細な魔法の行使に、思わず感嘆の息が漏れた。

 

 書き換えを終えた彼はその手を引っ込める。

 

 

「私の名は、オルフェウス。そうだな……0番では呼びにくい、名を与えよう。今日から君は、ペトルーシュカだ」

 

 

 そう言って彼は手を引っ込めると、背を向けて歩きだす。

 

 

「共に夜明けを見届けよう。ペトルーシュカ」

 

 

 こうして僕は、新たな居場所と……この身を繋ぐ新たな鎖を得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 とあるゲームの話をしよう。『Silent Catharsis』というタイトルのゲームだ。読み方は「サイレント・カタルシス」。プレイヤーからはよく縮めてSCS、もしくはカタルシスとだけ呼ばれている。

 

 ゲームの内容はよくあるオープンワールドRPG。

 

 一言で説明するのは難しいので超大雑把に言うと、ヒロイン達とイチャイチャしながら悪の魔法組織と戦っていくゲームだ。これでは大雑把すぎるのでもう少しだけ詳しく説明するとしよう。

 

 SCSは、ハ○ー・ポッター、もしくはfat○シリーズのように魔法が秘匿された、現代の地球によく似た世界が舞台である。しかし日本などに対応する国があるものの、登場人物名はカタカナや漢字が入り混じったものとなっている。劇中でも多くは語られておらず謎が多いが、魔法界では基本的にカタカナ名を名乗ることが多い。

 

 

 物語は、悪の魔法組織の禁術によって世界が滅びかけるところから始まる。

 

 そんな世界に一般人として生まれた主人公だったが、なんやかんやあって善の魔法組織にスカウトされ、そこで出会った仲間達と絆を深め合いながら悪の組織と戦って世界を救っていくというストーリーだ。

 

 雑すぎる説明だが、細かいところは今はいい。大事なのは、

 

 

 

 ──────この世界がそのゲームの世界であり、僕がラスボス直属の配下であるということだ。

 

 

 先程も言ったように、この世界の物語は善の組織が悪の組織を追い詰めていく典型的な勧善懲悪ストーリーだ。そんな世界でラスボス側についた場合の末路なんて察するに余りある。

 

 

 十五年前、僕は今のマスターによって拾われた。そのマスターこそが、サイレント・カタルシスのラスボスたるオルフェウスである。

 

 彼に出会うまで、僕はここがゲームの世界であることに一切気がついていなかった。

 

 

 今から十八年前、僕は前世の記憶を持ったままこの世界に生まれ落ちた。魔法使いによって生み出された戦闘用ホムンクルスとして。

 

 生まれた時から成体であった僕は三年間、ただただ延々と戦闘訓練を施された。そんな環境であったため、周囲の情報などなく、ただ魔法がある世界に転生したのだと思っていた。

 

 そんな時、僕たちを生み出していた施設が襲撃されたのだ。マスターの率いる魔法組織によって。

 

 あの時は本気で驚いた。何やら見覚えのある容姿の男から、聞き馴染みのある名前が告げられたのだから。

 

 そうして、僕を作った組織は壊滅し、原作における悪の組織に引き取られた僕だったが、その待遇は昔よりも遥かに良いものであった。

 

 

 あの地獄から救ってくれたマスターには感謝している。これだけの恩があって、今更裏切って主人公側に寝返ろうなどとは考えていない。そこまでの恩知らずにはなれない。

 

 確かに、マスターがマスターになったばかりの頃はいかに逃げ出し、主人公達の組織に保護を求めるかばかりを考えていた。でも、もう今の生活に愛着を持ってしまった。

 

 

 だから、彼ら(主人公達)をこちら側に勧誘するか………………もしくは、徹底的に潰す。マスターに危害が加わる前に抹殺する。

 

 それが、今世での最大の目標となっていた。

 

 

 そして、今日がついに原作開始の日である。世界を二つに分つ禁術によって、世界を混乱に陥れる、その日。

 

 

 姿見の前に立ち、身だしなみを整える。

 

 今世の僕は、なんの因果か、性別が女性となっていた。前世では立派な男子高校生だったというのに。

 

 鏡には、無表情で佇む白髪の少女が映っている。白を基調とし、随所に赤いラインが入ったバトルドレスを着た桃色の目をした少女。これが今世での僕だ。ホムンクルス故に余計な機能が削ぎ落とされているのか、表情筋はぴくりとも動かない。こうして客観的に見ると、無機的で人形のようだ。

 

 服の乱れを整えた僕はマスターの元へ向かう。今の僕にはこうして自室が与えられている。本当に感謝してもしたりない。

 

 

 だから、この生活をくれたマスターに、最大限の忠誠を。そう思うのだ。

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