いかにも仲間になりそうな敵美少女キャラ 作:草おいちい
その日、前触れなく世界は狂った。狂ったことに気づく暇もなく、一瞬にして元の平穏は崩れ去った。
だが、そのことさえも知覚できたものは極小数である。一部の類稀なる魔術師、極めて幸運であった者、そして
そして、知覚できたもの達は皆一様に──────絶望の中に突き落とされた。
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「はぁ……はぁ……はぁ……!!」
後のことなど考えず
「アハハハハハハ!!!!」
背後から聞こえる壊れたラジオのように無機的な笑い声が、まだヤツを撒けていないことを示している。しかしこのまま走っていても追いつかれるのは時間の問題だ。もはや膝下の感覚はなく、肺が焼けるように痛い。既に体力の限界だった。
だがヤツに捕まれば待っているのは死のみだ。こんな世界では人の助けも期待できない。死に物狂いで走り続ける。
だが、いくら根性で走ろうとも現実は非常である。
ふと、目眩がして足元のバランスを崩す。あっと思った次の瞬間には派手に転んでいた。早く起き上がらねばと思うももはや立ち上がる気力もなく、せめてもの抵抗で振り返ってヤツを睨みつける。
真っ黒なマネキンのような化け物が、追い詰められた獲物で遊ぶように、走るのをやめてゆっくりと軽い足取りで歩いてくる。
顔は真っ黒なのっぺらぼうで表情など分からぬが、ヤツが嗜虐的な笑みを浮かべる様子を幻視した。
ヤツは僕の目の前までくるとその手に持った巨大なハンマーを振りかぶる。
あぁ……ここで死ぬのか……こんなわけのわからない化け物に殺されて。
死を覚悟して目を閉じる。できれば即死がいいな、痛いのは嫌だ。
『
来世も人間に生まれたらいいな、とそんなことを考えながら終わりを待っているが、しかし一向に衝撃は訪れない。
恐る恐る目を開けてみると、そこにはぼんやりと光るロープのような物で全身を拘束されたヤツがいた。
呆気に取られてしばらくの間思考停止する。カツカツと、近づいてくる足音を聞いて我に帰る。足音の方向に勢いよく振り返るとそこには銀色の髪の美しい少女がいた。
幼い顔立ち、低めの身長のおそらく中学生くらいであろう少女。黒を基調とし随所に青白く光る線が引かれた近未来的な衣装を着ている。美しさとあどけなさが入り混じるその顔からは何の感情も読み取れない。そして何より目を引くのはその輝く銀髪だ。輝くというのは比喩ではない、なぜか淡く光っているのだ。少女の髪から淡く輝く粒子が舞っている。そのあまりに幻想的な風貌に、もしや全て夢だったのではないかと頬をつねる、普通に痛い。
「こちら白銀、正常者を発見した。至急サポーターの派遣を要請」
チラリと横でいまだ叫び続けているマネキンを一瞥したあとこちらに視線を向ける少女。
「すぐに助けが来ます。しばらくここで動かないで待っていてください。防御式『
無表情で、平坦な声で話しかけてくる彼女はその容貌も相まって機械のように見える。そして彼女が何かを呟くと同時に僕の足跡に白い円形の線が現れる。一体何なのかわからないが、それについて考える前に、周囲から聞こえてきた嗤い声が思考をそちらに攫っていった。
周りを見回すと黒マネキンの叫び声に誘われてか、大量のマネキンが集まって来ていた。ヒュっと思わず息を呑む。恐怖で体が再び震えだす。
十数体のマネキンが集まる絶望的な光景に対し、少女はその無表情を一切崩さない。ゆっくりと僕から離れていく彼女。そして懐からこれまた近未来的なデザインのハンドガンのような物を取り出した。
「ターゲット『
そう口にし銃を上空に向けて撃つと銃口から黄色の光線が射出され、上空で分裂した光が一斉にマネキン達へと降り注ぐ。光線に撃たれたマネキン達は体が麻痺したかのようにピクピクと震えながら崩れ落ちる。
その現実離れした光景を前に開いた口が塞がらない。全てがおかしくて脳の処理が追いつかない。そしてふと視界に入ったものに思わず叫ぶ。
「危ない!!!!」
ぴくりともこちらの声に反応しない彼女はまるでわかっていたかのように上空から降って来たものを最低限の動きで躱わす。
それは蜘蛛であった。おそらくその名が最もそれを形容するに相応しいものだろう。足が五対の四メートル程の蜘蛛が空から降って来たのだ。人など簡単に食いちぎれるであろう大きな顎をカチカチと鳴らしている。全力で走って逃げたいところだが、動くなと言われてしまったし、何よりこの地面に書かれたラインの外に出たらよくないことが起きると直感が告げている。
「こちら白銀、センチネルと会敵。ただちに
そこからの光景は非常に幻想的なものだった。まるでバレエダンスを見ているかのような気分だった。
蜘蛛がその足を振り回すのを踊るように優雅に躱していく少女。少女がステップを踏むたびにキラキラと光の粒が舞う様子は絵画のように美しい。
僕は思わず見惚れていた。恐怖心も忘れてただ恍惚とその光景に見入っていた。
しばらく回避に徹していた少女がどこからともなく特大の太刀を取り出す。突然彼女の手に現れたその太刀の長さは少女の背丈を優に超している。例の如く青白い光で出来た刀身はなんの素材で出来ているのか見当もつかない。
少女が蜘蛛の足を躱わす度に返す太刀で足が一つずつ飛んでいく。十本の内六本の足が失われたことでようやく恐怖を感じたのか後退っていく蜘蛛。その姿を追いかける彼女の表情は相変わらず動かない。
「攻撃式『
少女は再びハンドガンを構える。捕食者と非捕食者の関係が逆転したその光景はいっそ滑稽にも見える。
銃口から放たれた真紅の光線が蜘蛛の胴を貫通する。一瞬遅れて轟音と共にその体が盛大に爆発した。その爆風に思わず腕で目を覆う。爆煙が晴れたその後には蜘蛛の姿は影も形も残っていなかった。
とても長いようで短かったその劇に、夢見ごこちな気分になる。あまりの現実味のなさに、少しの間呆けてしまった。
少女は一体何者なのか、この化け物は何なのか、助けてくれてありがとう。聞きたいこと、言いたいことはたくさんある。少女はまだスマホのような端末を操作しながらその場に立ち尽くしている。
居ても立っても居られず、興奮気味に彼女の元に一歩踏み出す。そしてそのまま駆け寄ろうとした瞬間、
────圧倒的なプレッシャーが辺りを支配した。
心臓が鷲掴みにされたかのような錯覚を覚える。先程の蜘蛛の存在が一瞬で塗りつぶされるほどの、強大な存在感。早鐘を打つ心臓によって聴覚が上手く機能しない。
ガクガクと震える足をなんとか抑えて前を見ると、臨戦態勢で大太刀を構える少女の姿。その切先の向かう先に佇む小さな影。
その影を視界に入れた瞬間、速まりすぎた拍動と過呼吸によって視界がぐらつき、思わず膝をつく。
しかし、その存在から視線を逸らすことはできなかった。
「子供が二人……ここは……遊び場ではない」
舌足らずな、幼い少女のような声が響く。先程まで機能停止していた耳が、なぜかその声だけははっきりと聞き取る。
その暫定少女は、体をすっぽりと覆うローブに、目深に被ったフードのせいで容姿は窺えない。
フードの端から
彼女は懐から拳大の石を取り出すとそれをそっと前に掲げた。僕は、彼女の圧力に
先程蜘蛛が爆散した際に、地面にくっきり残った焦げ跡。その辺りから紫色の淡く光るモヤが突如立ち昇り始めた。
モヤがゆっくりと石に吸い込まれていく。それに伴い何の変哲もなかった石が紫に光を帯びていく。
何分、何時間だろうか。もしかしたら数十秒のことだったのかもしれない。極度の緊張により引き延ばされ永遠にも思われた時間は終わりを告げる。
立ち昇っていたモヤを全て吸い尽くした彼女は再びそれを懐に仕舞った。
「……こんな、ところで遊ぶのは……もうやめて、大人しく……静かに暮らすといい……。知らぬ間に……全部、終わっている、から……」
ピンクの髪の少女はそれだけを言い残すと、初めから存在しなかったかのように唐突に消えた。最後の瞬間、フードの隙間越しに、目が合ったような気がした。
それは、髪の毛と同じ、
彼女が去った瞬間、緊張が一気に抜け、地面に崩れ落ちる。手をついて何とか息を整える。急速な心拍数の上昇による聴覚抑制が解け、周囲の音が突然聞こえ始めた。
一体彼女は何だったのだろう。ただ声を掛けられただけで、全身が粟立った。ありとあらゆる細胞が恐怖を訴えていた。
存在の格とでも言うべきものが違う、それを魂で理解させられたのだ。
息を整えて一旦落ち着くと先程蜘蛛と戦っていた銀髪の少女を思い出す。顔を上げて周囲を探すもその姿は見つからなかった。
唐突に消えた二人の少女。先程見たものは夢なのかと再び思う。だが地面に引かれた線がそれを否定する。それに、あんな恐怖が夢であっていいものか。
また意味のわからない世界に一人取り残されて、色々と疲れた僕は白黒の空を見上げて黄昏る。
「もしもーし、大丈夫ですかぁ?」
そうして呆けていると後ろからいきなり声を掛けられた。振り返るとブロンドのボブカットの背の高い少女が立っていた。またしても美人である。先ほどから顔面偏差値の暴力が続き目眩がしそうだ。その高校生程度と思われる少女の隣には若い青年が立っている。
「あ、やっと気づいた。何回か声かけたのに無反応だから、もう廃人になってるのかと……」
「おい、もう少し言葉に気をつけろ」
恐ろしいことを言う少女を隣の青年が咎める。青年はごく平凡な顔立ちで髪も黒髪だ。親近感を覚える。
「あ、私はエマ、エマ・ネトワユール。エマちゃんって呼んでねぇ」
「え、あ、えと橘
独特な雰囲気の少女に少したじろぎつつも質問しようとする僕を手で制す彼女。
「知りたいことはたくさんあると思うけど、取り敢えず場所変えよっかぁ」
そう言ってチラリと横に視線をやる彼女。その視線の先を見ると、再びマネキンが集まって来ていた。
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うーん……あれが主人公、であってるのかなぁ。
任務を終えて、魔力放出を抑える。魔力を纏って
世界をひっくり返してから三日目、ようやく主人公らしき少年を見つけた。
だがあの銀髪の少女、あの容姿には大変見覚えがある。あの子が恐らくSCSのヒロインの一人である黒崎
この世界ではどうやら男主人公らしい。まだ確信はないが、状況的に見て彼が主人公だろう。
今、世界は禁術によってバラバラになっている。比喩ではない、文字通り
我がマスター、オルフェウスの行使した術式は、世界を表の世界と裏の世界に分けると言うものだ。
この説明だけでは酷く分かりにくいだろう。そもそものマスターの目的は、魔術師のみの世界を作り上げることだ。
この世界で魔術師というのは力を持つ一方で圧倒的少数派だ。……少数派は、排斥される運命にある。例の如く、かつてこの世界でも魔女狩りというものがあった。
非魔法族と魔法族は基本的に相容れない、故にこの世界では基本的に魔術師たちは己が痕跡を消して隠れ潜んでいる。
だが、それではあまりに窮屈だった。
もともと、この世界に魔力なんてものは存在しなかった。人々の魔力、超常の力への羨望。その力によって魔力の存在する世界が引き寄せられ、この世界と位相が重なることでこの世界に魔力というものが齎されたのだ。
故にオルフェウス率いるこの組織は考えた。いっそのこともう一度世界を分離して、魔力溢れる世界に自分たちで移り住むのはどうか、と。
世界の分離なんてそう簡単に行えるものではない。一度この世界を不安定にするために、なんらかのきっかけが必要だった。
それが、今の現状である。オルフェウスの行った禁術、それは…………概念の操作である。
もはや神の所業とも言えるそれで、最も“分離”のしやすい善悪の概念を分離した。よく二元論で語られるこれらは足がかりとしてちょうど良かった。
以上がゲーム内で語られる設定である。まぁこれ以上長々と語っても仕方ない。とにかく、そうして今の状況が生まれたのである。
ていうか主人公はあの分離した“悪”の方の世界で単身三日間も生き延びたのか……さすが主人公に相応しい生命力である。
おかげで見つけるのに手間取ってしまった。基本的に発言が許可されていない中、何とかわざわざマスターに進言して僕の巡回ルートを変えてもらい、あの日から全力で探したというのに。三日目になるまで見つからず本気で焦ったものだ。
見つけた時は思わず歓喜で全力の魔力放出をしてしまった。おかげで主人公達を威圧しすぎてしまった。ちょっとだけ反省だ。
彼らを見つけたはいいものの、どうするべきか迷った。後々障害となるのがわかっているのだ。その場で殺してしまおうかとも考えた。でも、実際に目の前にして、あの善性の塊たる主人公を殺すのに躊躇する気持ちが生まれてしまったのだ。
そして……あの少女、黒崎玲はこちら側に引き込める可能性が非常に高い。殺すのはまだ早いと思った。
だから今回は適当に意味深なことを言って去ることにした。
それに、あそこで殺してしまえば、彼らの本拠地がわからなくなる可能性もあったのだ。
ゲームの作中では終ぞ正確な位置が語られることはなかった。僕もいまだに発見できていない。あれだけ前々から存在を知っていたのに、何とも悔しい。
彼らに
まぁ、彼らを殺すかどうかはまた後々考えれば良い。まだ殺せるタイミングはいくらでもある。彼らの手がマスターの喉元に届くのは、ずっと先なのだから。
そんなことを考えながら2週間ほどのんびりと過ごしていた時のことである。マスターによって衝撃の指令が下されたのは。
「この頃、我々の大事な魔力供給源をチマチマと潰して回る鬱陶しい存在が確認されている。彼らは同時に、
「!?」
いつもの如く定期報告でマスターの元を訪れた僕に、いつもなら適当に待機命令を出して終わりだったマスターがそう告げたのだ。
「彼らは恐らく我々と同じく組織立って行動している。早速レジスタンスが結成されたということだろう。彼らの元に
そうして唐突に、主人公組へスパイをすることが決まったのだった。
お気に入り、ポイント評価よろしくお願いします! 作者が泣いて喜びます。