なんか思いついたんで勢いで書きました!
薄暗い夕暮れの街に、不協和音のような警報の響きが響き渡る。銀行の前で立ち込める煙、その中から動き出したいくつもの影──ヴィランたち。
混乱と恐怖が一本の脈となり、この都市の息づかいを早めた。
その中心に立つのは、真っ黒なコートを羽織ったリーダー格のヴィラン。
彼の顔はフードの影に隠れてほとんど見えないが、その双眸だけが鋭く光り、周囲を見渡していた。
「全員、速やかに移動だ。警察とヒーローが来る前に!」
と低く響く声が指示を飛ばす。
その声は冷静でありながら、鋼のような強靭さを持っていた。共犯者たちはその指示に従い、金庫から奪い取ったバッグを抱えながら慌ただしく走り始めた。異様な光景は、通りの片隅で息を潜める市民たちの心に恐怖を植え付けた。子供を抱えた母親が、一歩も動けずにただ立ち尽くして声を押し殺す。
「やるな、リーダー。これだけの獲物を手に入れられたのはあんたのお陰さ。わざわざ外国からあんたを呼んだ甲斐があったってもんだぜ」
一人のヴィランが感嘆の声をあげた。しかし、リーダーはただ無表情を保ち、前方を見据えるだけだった。
彼らは混沌とした街路を抜け、疾風のように次々と曲がり角を曲がる。ヴィランたちの持つ多様な個性が巡り巡り、まるで一瞬ごとに風景が変わる悪夢のようだった。数名のヴィランは一瞬でも身を隠せるように、外灯の明かりの陰に潜り込んだ。別の一人は、風のように速く走り、他人の目を欺くために何度も方向を変えた。
街の雑踏をかき分けるように進むヴィランたちは、その速度と連携の良さで市民たちの恐怖を煽った。周囲のビル群が物語るように、ここは決して静かな場所ではなかったが、その日だけは異様な静寂が訪れていた。
「リーダー、本当に大丈夫なのか?あいつが来るんじゃないのか?」
仲間の一人が不安げに口を開いた。彼の顔には汗が滲み、その声には緊張が宿っていた。そして、彼の脳裏には1人の奇襲を得意とするヒーローが浮かんでいた。
「心配するな、日本のヒーローといえばオールマイトだろう?あいつは今、立てこもり事件で人質を助けるのに手一杯なはずだ。それに他のビルボードチャートに名を連ねるような奴らもこの近くにはいない。お前たちは作戦どうりに行動しろ」
だがリーダーはその問いを、事前に調べ上げた情報をもって否定し、彼らの痕跡を隠しながら進む。彼の冷静さは、まるでこの世のどんな脅威も恐れないかのようだった。
「……わかった」
男が聞いた人物とリーダーが言った人物が食い違っていることに気づいたが、男は現状の不安を押し込め、リーダーの言葉に無理矢理納得することに決めた。男の心の中には一瞬の疑念が走ったが、オールマイトが現在別の事件に対応していると聞かされ、それで十分だと思い込むことにした。自分の不安を押し隠し、彼はリーダーの指示に従うことを選んだのである。
薄暗い路地を駆け抜ける中、街頭の明かりはちらつき、煤けた壁には幾多の落書きが走る。先ほどの男が荒い息を吐きながら、ほとんど叫ぶように声を上げる。
「り、リーダー!次はどうするんだ?」
リーダー格のヴィランがその声を受けて振り返る。
「このまま地下鉄の入り口まで行くぞ!そこまで行けば追っ手を撒け…」
彼は一瞬、立ち止まって眉をひそめた。
「…待て、なぜ誰も俺たちを追ってこない…?それにサツのサイレンすら聞こえない……まさか!?」
彼の言葉が途切れると同時に、背後で鈍い音が響いた。
仲間の一人がまるで糸が切れた人形のように前のめりに崩れ落ちた。
彼の体が冷たい石畳に倒れる音は、不吉な前兆のように響き渡った。
「何だ!? 誰かいたのか!?」
生き残ったヴィランたちは目を見張り、その場に立ち尽くす。一瞬の出来事に全く備えていなかった彼らは、不安と恐怖に支配されていた。
しかし、その問いに答える者はいなかった。路地を吹き抜ける淡い風が、微かに揺れる影を見せる。それはまるで、風にさらわれる薄絹のように一瞬だけ動き、消えた。
リーダーは焦燥感に駆られながら声を張り上げた。
「狼狽えるんじゃない!慎重に──」
だが、その瞬間、彼の言葉は再び途切れた。まるで見えざる手に操られたかのように、彼の四肢が滑稽に止まり、次いで全身が硬直した。背後にぼんやりと浮かぶシルエットが、冷たく無慈悲な影を落とした。
透明な襲撃者はその姿を現し、リーダーに一撃を見舞っていた。
襲撃者はカメレオンを模した騎士のような姿をしており、鋭利なデザインの頭部は、まるで生きたカメレオンの瞳のように冷ややかに光り、周囲の何者をも威圧するかのような眼差しを持っていた。冷ややかな視線の先には、彼の次なる標的が怯えた表情で立ちすくんでいた。
「な、なんだ!?がっ…!」
「ひぃっ!やめっ…ぐぁっ!」
「よせっ!やめろ!やめてくれっ!!…ぐぅっ…!」
無音で滑るように動き、ヴィランたちの意識を次々と刈り取っていった。その動きはまるで舞踏のように滑らかで、一つ一つの動作が完璧に遂行された。
そして再び──
『CLEAR VENT』
無機質な機械音と共に姿を消す。
その完璧な消え方にヴィラン達はさらに恐怖を深めた。
「見えないっ……やはり奴だ、奴がっ!ベルデが来たんだ!!…一体どこにいる……っ!」
ヴィランの一人が怯えた声で叫ぶ。その声には恐怖が滲み出ていた。しかし、その声もすぐに途絶えた。カメレオンを模した騎士──ベルデは彼の背後から忍び寄り、首元に冷ややかな手刀をかけた。ヴィランの瞳は大きく見開かれ、一瞬で意識を失い、体は重力に逆らえず地面に崩れ落ちた。
「ぐっ……くそっ、咄嗟に防いだとはいえ、一発貰っただけでこのザマか…!どこにいやがる!出てきやがれっ!」
リーダーは最後に残されたヴィランとして恐怖と怒りが交錯する中、冷静さを取り戻し、警戒を強めていた。
彼は祖国では名の知れたヴィランだった。強盗、密輸、殺人……数々の犯罪を重ね、行く先々で多くの修羅場を掻い潜ってきた。だが、そんな経験豊富な彼でも透明なベルデの存在を感じ取ることはできなかった。
次の瞬間、彼の視界が暗転する前に、敵はすでにその目の前に立ちはだかっていた──透明で、静寂の中に潜むヒーローが。
「何者だ…こんな奴がいるなんて聞いて…ない…ぞ…」
意識が薄れる中で、彼の最期の嘆きが虚空に消えていった。
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「すみませんでしたっ!!」
先ほど銀行強盗を見事に退治したヒーロー、『ベルデ』こと葉隠彩人。彼はこの事務所の主であるにも関わらず、広間で正座し、頭を深く垂れ下げたまま謝罪の言葉を絞り出した。
しかし、彼の前に立つ女性──レディ・ナガンは、腕を組んだまま、その不機嫌そうな表情を全く隠そうとはしなかった。彼女のダークブルーとピンクの髪は、まるで彼女の内面の苛立ちを表すかのようにキツく束ねられている。
「はぁ、なんであんたはいつもそう急いで帰ろうとするのさ、まったく…」
ナガンは深いため息をつきながら、彩人を睨みつけた。
彩人は苦笑いを浮かべ、顔を少しだけ上げる。
「いや、ナガンさん、違うんだって。俺はただ妹に会いに行きたくて…」
ナガンは眉をひそめ、手を腰に当てる。
「また妹か…ったく、まだ一応仕事中だろ?」
「わ、分かってるよ。でも妹が…透が今日は早めに学校から帰ってくるっていうから…」
彩人の声は焦りと少しの申し訳なさが混ざり合っていた。
ナガンはその言い訳を聞き流すかのように、冷たい視線で彼を見下ろす。
「……ほら、透が一人で寂しい思いをするのは可哀そうだろ?だから一足先に帰って一緒に遊ぼうかな〜と…」
ナガンは呆れたように首を振りながら、再び視線を彩人に注ぐ。
「この馬鹿。今日はもう少し街中をパトロールする予定じゃないか。それにあんたがさっきボコしたヴィランの事とか報告書にまとめなきゃいけないし…」
彩人は少し得意げに笑顔を見せた。
「あ、報告書ならさっき書き終わって提出しといた」
「……ああ、そうかい。で、それを理由にして消えようとしたわけか。」
ナガンは彩人に一歩近付くと、その目の前に仁王立ちした。
「とにかく、今日はまだ仕事があるんだよ。それに、あんたがしれっと透明になって逃げようとしてた事、私は気づいてるからな」
彩人はスーーッと視線を逸らした。
「……でも……俺は早く妹と……」
ナガンは続けてため息をつき、さらに彼を追い詰めるように話す。
「はぁ……大体なんであんたはそんなに焦ってんの?あんたシスコンだし、自分の妹に会いたい気持ちは分かるけどさぁ」
その瞬間、彩人は真剣な表情で顔を上げた。普段とは違うその表情に、ナガンは一瞬驚きを見せる。
「俺にはね、やらなきゃいけないことがあるんだ」
目を見開いたまま、彩人は静かにしかし強い意志を持って続けた。
ナガンは戸惑いながらも問い返す。
「な……なにさ急に?」
彩人はゆっくり立ち上がり、ナガンに真正面から向き合った。
「透はあと1年で高校生になる…」
ナガンは困惑し、少し眉を寄せる。
「そ、それがどうしたのさ?」
「透は頭もいいし、運動もできる。それに正義感もある優しい子だ。だからきっと雄英に行く。俺も行ったし、透もきっとそうする」
ナガンは驚きを隠しきれず、再び質問を続けた。
「はぁ?まあ、そうだろうな。あの子も優秀だし」
彩人はもう一度深呼吸し、決意を込めて語り続けた。
「透がヒーロー科に入る……そうなったら透は多分、訓練やらなんやらで忙しくなる。そうなったら俺と透の大切時間が減るじゃあないかっ!!!!だから……その前にできる限り俺は透と過ごす時間を作っておきたいんだよッ!!」
ナガンは一瞬言葉を失い、何も言えなくなった。しかし、その後すぐに冷静を取り戻し、彩人に対して呆れたように首を振った。
「……あんたの熱意は十分過ぎるほどに伝わったよ…気持ち悪いぐらいにね……。まぁ、報告書も書いたようだし、どうしてもって言うなら?先に帰ってもいいけど…」
ナガンのその言葉が聞こえた瞬間、彩人は本能的に変身能力を発動させ、いつのまにか手にしたカードを左大腿部に装着されている
『CLEAR VENT』
次の瞬間、彩人の姿は事務所から消え、表の道路に出るとまるで何事もなかったかのように一息ついた。
「ふぅ……」
だが、彼が一息つこうとしたその瞬間、背後から猛然と怒鳴る声が飛び込んできた。
「待てやゴラアアァァ!!!!」
その声と共に、彩人の背中に猛烈な飛び蹴りが炸裂し、彼は無様に地面に突っ伏した。着地したナガンはまさしく怒りの化身として彼に近づく。
「てめーふざけんなよ?普通何も言わずに帰るか?あ?」
ナガンの怒りは炎のごとく燃え上がり、彩人は地面に倒れ込んだまま震えながら彼女を見上げる。
「……いや、だって……早く帰りたいし……」
彩人の声は弱々しく、しかし逃げる気力すらない。
ナガンはそのまま容赦なく彩人の腕を掴み、無理やり引き摺るように立ち上がらせる。
「チッ、このシスコン馬鹿がぁっ!!!さっさとパトロール行くぞ!!!」
痛みに歯を食いしばりながら、彩人は叫び声を上げた。
「ちょ、ナガンさん痛い痛い!!引き摺らないでっ!痛いからッ!」
その後、街中では、レディ・ナガンの機嫌を直そうと必死に媚を売る無様なヒーローの姿が目撃されたという噂が広まった。
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冷たい風が木々を揺らし、ひそかにささやくような声が公園全体に響いていた。日も沈み、街灯に照らされた薄暗い広場では、無人のジャージが目を引くように動いていた。その袖がピンと伸び、まるで見えない糸に引かれたかのように力強く地面を蹴り上げる。その躍動感が周囲の景色にまで影響を与え、風景がわずかにたわむ。誰も見えないその場所には、確かな存在感があった。
公園の端にある古びたベンチに腰掛けていた彩人は、その光景を少し微笑んで見守っていた。彼の視線の先には、無形の存在である妹、透が確かにいた。彼女の個性『透明化』は、一目でわかるような透明人間――そのため、彼女の身につけているジャージだけがひとりでに動いているように見える。
「もっと速く、もっと強く…お兄ちゃんみたいに…」
透は自分に言い聞かせるように呟いた。その声は冷たい風に乗り、わずかに彩人の耳に届いた。彼女は何度も地面から跳び上がり、空中で美しいバク転を決めていた。透の身体は見えないが、その動作の美しさと力強さが風景に微かな影を落としていた。
彩人の目には、妹の努力と決意が鮮烈に映っていた。彼女が一生懸命に訓練する理由も、彩人の胸には痛いほど刻まれている。彼はその姿に心からの誇りと愛情を感じていた。
突然、透の動きが止まる。ジャージの襟元がふわりと浮かんだ。彼女は疲れたのだろうか、微かに息を整えている。冷たい夕闇が公園を覆い、ますます薄暗くなる中、そのシルエットがいっそう曖昧になっていった。
「よく頑張ったな、透」
彩人は静かに声をかけた。透は振り向いたように見え、透明なまま微笑んだ気がした。
「あ!お兄ちゃん、見てたんだ。でも、まだまだ足りないや。雄英に入るためにももっと頑張らないと」
彼女の言葉には深い決意がこもっていた。彩人は微笑みつつ、ベンチから立ち上がり、彼女に近づいて頭を優しく撫でた。目には見えないが、彼にはその存在がはっきりと感じ取れていた。
「透なら絶対にできる。なんてったって透は日本一、いや世界一の妹だからな」
「えへへ、ありがと。私も宇宙一のお兄ちゃんにそう言ってもらえてすごく嬉しい!」
透は嬉しそうな声で答えた。その声は明るく、自信に満ち溢れていた。彩人は彼女の頭から手を離し、少し後ろに下がった。
「もう帰っちゃうの?」透が残念そうな声で尋ねる。
「いや、ただお兄ちゃんが稽古をつけてあげようと思ってね」
彩人は腕を組み、視線を妹に戻した。透は一瞬、目を輝かせ、次の瞬間にはもう準備万端の体勢を取っていた。
「本当に?ありがとう、お兄ちゃん!」
彼はその決意に満ちた声に微笑みを返し、自身も身体をほぐすように軽くストレッチを始めた。
「じゃあ、いくぞ!」
彼の声が響くと同時に、二人の特訓が始まった。透は透明なまま、彩人の指示に従って素早い動きを見せる。彼女のジャージが空を舞い、また地面を蹴る。彩人もまた、見えない妹の動きを鋭い目で追いかけ、適切なアドバイスを投げかけた。
闇が深まり、二人の影は公園全体に溶け込んでいった。風がさらに冷たくなる中で、兄妹の特訓は続く。互いの固く結ばれた絆が、その場を温かく照らしているかのようだった。
レディナガンとの過去や、もう1人の事務所メンバーとの話を書いたら原作と同じ時間軸で進めていきたいです。