「のど自慢大会?」
ポツポツと雨が降る日……いろはがとあるチラシを見せてきた。そのチラシは「うたバト」というのど自慢大会の広告だった。
チラシには「賞金100万円」、「5人1グループの団体戦」、「高性能AIが判定」と書かれていた。
「みんな歌は好きでござるよな?holox5人だし、世界征服に繋がるかなぁって……どうかな?」
「…歌かぁ……」
「賞金出るのは助かるね。」
「大舞台での実験……最高だね!」
「いいじゃん!その番組自体、征服してやろうぜ!」
皆が賛同する中、クロヱだけが少し不安気な顔を浮かべていた。
「holox!歌番組に殴り込みだーーー!!」
『おーーーっ!!』
「お、おーっ!」
皆はそれに気づかず、意気揚々と大声を上げた。クロヱも釣られて声を上げたが、不安気な顔はそのままだった。
(沙花叉……?)
クロヱの異変に、ソウゴは気づいていた。同じく、こよりもクロヱの異変に気がついていた。
──────────────────────
「沙花叉、隣いいか?」
「うん。あっ、ソウくんは歌ったりしないの?」
「歌うのは得意じゃない。」
ソファに座るクロヱからの質問に答えながら、ソウゴは隣に腰掛けた。それからしばし沈黙が訪れた。
クロヱの様子がどこか変だ……しかし、それを気軽に聞いてもいいものか、ソウゴは思い悩んだ。だが、
「ねぇ、クロたん。さっき……何考えてたの?」
ソウゴよりも先にこよりがクロヱに尋ねた。
「え、えーっ?なんのこと〜?」
「いや……博衣の言う通りだ。」
続けてソウゴが口を開いた。
「歌と聞いて、お前の表情が0.5秒だけ歪んだ。それと右手と左脚が0.3秒強張った……」
「ソウくん……それ、ちょっとキモい。」
「えっ?」
クロヱの少し引き気味な反応に、ソウゴは声を上げた。
すると、クロヱはフーッとため息を吐いた。
「……まいったなぁ。2人にはバレてたんだ……実はね沙花叉、歌手になるのが夢なんだ。だから、本心では出場したいけど……大勢の前で歌ったことないから、緊張せずに歌えるか自信がないっていうかぁ……」
クロヱは語りながら苦笑いを浮かべた。
「……で、とりあえず資金貯められるならいっかぁーってholoxに入ったみたいな……それでなんとなく尻込みしちゃったり……」
「なるほどねぇ〜……」
クロヱの話を聞き、こよりは腕を組みながらウンウンと頷いた。すると、こよりは片目を瞑ってウィンクをしてみせた。
「よーし、わかった!大丈夫!そういうことならこよにお任せ!とっておきの秘策を用意しますよって!」
「ひ、秘策……?」
「ソウきゅんも手伝ってね!」
「了解した。」
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収録当日……
「さぁ〜始まりました、うたバト!!今回も2組の出場者によるカラオケバトルが開催されます!!」
「うたバト!!は〜じま〜るよ〜!!」
「うるせえな!!」
タコのような獣人とコウモリのような獣人の2人のお笑い芸人を司会とし、「うたバト」がついにスタートした。
「本日の対戦カードは〜こちら!!」
コウモリの獣人が声を上げると、舞台袖からholoxの5人とその対戦相手が姿を現した。
「まずは“オープン結社“の異名を持つ秘密結社holox!歌の実力はいかに……?」
「対するは、ロボママさんチーム!最近のど自慢荒らしとして名を知らしめている五つ子チームだ!!」
いよいよ対決が始まろうとする中、クロヱは緊張のあまり震えていた。それに気づいたこよりは、その手をギュッと握った。
(どうしてものときは、“アレ“を使って。)
手を握られて落ち着いたのか、クロヱはコクリと頷いた。
(そういえば、ソウくん……どこに行ったんだろう……?)
収録現場にソウゴの姿はなかった。客席の方にも姿は見えない。
そのソウゴは今、外にいた。
(クロヱの出番は大将戦……もう少し時間があるな……クロヱの出番になったら、アイツが歌い始めたと同時に俺が……ムラサメがバックダンサーとして出る。)
こよりの作戦の1つはこうだ。ドンムラサメをバックダンサーとして登場させて、観客の目線をそちらに誘導させること。
全員とはいかないだろうが効果はある。演出にもなって一石二鳥……というわけだ。
(もう一度準備を……)
何か忘れ物がないか確認しようとしたその時、ソウゴは気配に気がついた。顔を向けると、そこには2人の男と1人の女が立っていた。
「ようやく見つけたぞ……ドンムラサメ……」
「……誰だ、お前らは。」
青い服を着た男前の男が言うと、白い服を着た美女が続けて口を開いた。
「まさか、かつて元老院が言っていた、“レプリカ計画“が実在していたとはな……」
「なんだっていい……さっさとこいつを倒して、元の世界に戻るぞ。」
槍のような長い傘を持つ長髪の男はソウゴのことを睨みつける。
すると、3人は左腕につけている紋章のようなブレスレットを見せるように出すと、その紋章を軽く叩いた。
すると、3人の身体は光りに包まれ、鎧を身にまとった。
「鬼ではないようだな……」
「清廉潔白完全主義、ソノイ!!」
その時、青い鎧を着た男がいきなり名乗りを上げた。続けて白い鎧を着た女も名乗りを上げる。
「美しい薔薇にはトゲがある……愛を知りたい、ソノニ!!」
さらに続けて、茶色の鎧を着た男も名乗りを上げた。
「思い込んだら一直線!ソノザ!!」
そして、3人は横一列に並び……
『我ら、脳人3人衆!!』
3人同時に叫んだ。同時に、何故か背後にそれぞれのパーソナルカラーの爆発が起きた。
「……もういいか?」
《ニンジャークソード!》
いつものように飛んできたニンジャークソードを手に取り、ギターのように構えた。
「今は時間がないんだ……向かってくるなら、容赦はしない。アバターチェンジ!!」
《ドンムラサメ!切り捨てソーリー!!》
ギアを高速回転させて、ソウゴはドンムラサメへと変身した。
「ドンムラサメ、参る!」
「いくぞっ!!」
ムラサメが駆け出すとともに、脳人の3人も駆け出した。
間合いに入った瞬間、先に攻撃を繰り出したのはリーチの長い槍を持つソノザだった。
「ハァッ!」
槍による三段突きを繰り出すソノザ。しかし、ムラサメは剣先を回転させて槍を弾き飛ばした。
「!!」
「フンッ!!」
武器を弾き飛ばされたソノザに、ムラサメは一太刀、もう一太刀と攻撃を浴びせていく。
しかしその時、ソノニは短剣を繋げて弓に変化させ、光の矢を発射した。
ムラサメは連続バク転をしながら矢を回避していく。
《
ムラサメは回避しながらギアを3回転させ、刃から三日月状の刃を発射し、飛んできた矢を爆発させて相殺した。
「タァァァァッ!!」
すると、その爆発にまぎれてソノイが飛び込んできた。ソノイは剣を両手で持ち、ムラサメに襲いかかった。
「チッ!」
両者の剣が激しくぶつかり合い、火花が散る。
(こいつ……かなりの腕だ!)
(私達と互角か……!)
(ならば……!)
このままでは拉致があかないと踏んだムラサメは、隙をついてソノイを蹴り飛ばした。
さらに、ギアを高速回転させた。
《what's up!?》
《オオクワガタオージャー!!》
音声とともに、ムラサメは顔にクワガタのシルエットをつけた、灰色の戦士「オオクワガタオージャー」に姿を変えた。
《オージャカリバーZERO》
オオクワガタオージャーは金色に輝く剣を抜き、ソノイに襲いかかる。鋭い剣戟が襲いかかるが、ソノイは赤い宝石がついた胸当てを取り外し、それを盾にして防いだ。
「ソノニ、ソノザ!!」
「よしっ!」
「わかった!」
ソノイがオオクワガタオージャーを抑えている隙に、ソノニとソノザが襲いかかった。しかし、
《ニンジャークソード!》
「なにっ!?ぐあっ!」
「くっ……!」
ニンジャークソードがひとりでに動き出し、ソノニとソノザを妨害する。
《オージャチャージ》
オオクワガタオージャーは剣についているトリガーを引き、鍔についているクワガタの顎のようなレバーを3回連続で引いた。
《ロードフィニッシュ!!》
「ハァァァァァァァッ!!」
剣に金色のオーラをチャージし、雄叫びとともに回転しながら一閃した。剣戟を喰らった3人だったが、咄嗟に武器で防御したため、吹き飛ばされただけで済んだ。
「強い……!」
「さすが……“レプリカ計画“の素体に選ばれるだけあるか……!」
「そのレプリカ計画とはなんだ?答えてもらうぞ……」
オオクワガタオージャーは剣先をソノイに向けた……が、その時だった。
「うっ……!?」
その時、オオクワガタオージャー……ソウゴの頭の中に映像が突然流れてきた。
王族のような服を着た兄弟2人が互いに剣を向けている映像……片方はオオクワガタオージャーに変身し、もう片方はオオクワガタオージャーに似た赤い戦士に変身している。
さらに別の映像も出てくる。その兄弟が泣きながら抱き合っている映像だ。
『兄さん……!』
弟らしき少年は抱きしめている男に対してそう呼んでいた。すると、
『お兄ちゃん』
少年の声が女のものに変わった。それは抱きしめている兄ではなく、こちらに…ソウゴに呼びかけているようだった。
やがて、少年の姿は声と同じく、女性に変わっていった……
『お兄ちゃん』
(なんだ……!?なんだこの女は……!?なぜ、急に……!?)
「やめろ……!俺を呼ぶなァァァァァァ!!」
頭の中に女の声が響き、その声にソウゴは雄叫びを上げ、オオクワガタオージャーから元のドンムラサメの姿に戻ってしまった。
「ハァッ!」
その隙を突いて、ソノイは剣で斬りつけた。ムラサメは吹き飛び、膝をついた。
「何が起きたか分からんが、決めさせてもらう……!いくぞっ!」
次の一撃が、ムラサメに襲いかかった……
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そのころ、うたバトの方はこより考案のパフォーマンスとメンバー達の歌唱力のおかげで現在27対23で、ホロックスが優勢だった。
「続いて副将戦!先行は博衣こより選手!ご自身のマイクを持参しての歌唱です!」
こよりが取り出したのは、可愛らしいコヨーテの飾りがついたピンク色のマイク。それを使って意気揚々と歌い始めた。
「……?」
その時、司会の2人と観客達、メンバー達は異変に気がついた。
最初は美しい歌声が響いていたものの、段々とその歌声が崩れていった。本人はそのことを気にせず楽しそうに歌っている。
「な、何が起こったー!?博衣こより選手、みるみる調子を崩しているぞー!?」
(えっ、なんで!?急に音程外れだしたんだけど!?)
結局調子が戻ることはなく、音程が外れたまま歌唱を終えた。
「こよちゃん……なにがどうして……?」
クロヱが恐る恐る聞くと、こよりはテヘと舌を出した。
「これ最近作った“うたうまマイク“!でも調整間違って、“うた音痴マイク“になっちゃった♪」
「おいおい……」
笑い事ではなかった。現に、こよりの失敗で点数が32対32と相手に詰め寄る隙を与えてしまったのだ。
「点差がついてたもんだから安心して冒険しちゃった!でも……クロたんが満点取れるから、余裕だよ!」
こよりのその一言に、クロヱは微妙な顔を見せた……しかし、意を決したのかうんと頷いた。
「さぁ、同点のまま緊張の大将戦が始まります!賞金100万円を勝ち取るのはどっちだ!?」
「それでは秘密結社holox、沙花叉クロヱ選手の入場です!!」
司会の呼びかけとともに、ステージを登壇するクロヱ。マイクを握り、スーッハーッと深呼吸をする……と、次の瞬間ドゴォッ!と後ろの壁が突き破られた。
「えっ!?」
「な、なんだなんだぁ!?」
壁を突き破ってきたのは、ムラサメ……そしてソノイ達3人だった。
(ソウくん……!?)
(沙花叉……!!)
クロヱを見て、ムラサメはここが会場で、クロヱの番が回っていたということに気がついた。
それを見て、ムラサメは思った。今はやるべきことがあると……
「歌え!沙花叉!」
ムラサメはクロヱに向かって叫び、ソノイ達に向けて剣を構えた。
それを見たクロヱは力強く頷き、マイクを握りしめた。
クロヱはもう一度深呼吸し……思い切り歌い始めた。
「なんだここは……?」
「関係ない、やつを倒すぞ!」
(邪魔はさせん……!)
ソノイ達はその場の雰囲気に関係なくムラサメに襲いかかった。
だがムラサメには関係なかった。このステージでのムラサメの役割……バックダンサーを全うするのみ。
逆に、ソノイ達を利用してみせた。クロヱが歌う歌に合わせて動きを変えていく。わざとやられたフリをしてみせたり、飛んだり跳ねたりと縦横無尽に舞ってみせた。
「おおおおおっ!これはスゴイ!まるでヒーローショーと歌ライブの融合だーっ!!」
その斬新なパフォーマンスとクロヱの歌唱力に観客は釘付けだった。それは注目を集めていることに他ならないが、会場の視線の半分はムラサメに、残りの半分はクロヱに集まっていた。
だが、クロヱは気にしなかった。ムラサメのおかげもあるが、こよりから受け取った秘策のおかげでもあった。
クロヱの脳裏にこよりがその秘策をくれた時の光景がよぎる。
『これは……マスク?』
『みんなからのプレゼント!マスクをつけると緊張を克服できるんだってさ!本番当日、やばそうだったら使って!』
マスクとムラサメのバックダンス……この二つのおかげでクロヱは緊張せずに歌うことができた。
(こよちゃん、ソウくん、みんな……ありがとう!沙花叉、緊張せずに歌えてる!こうやってみんなで助け合って、みんなの夢を掴みにいくって……なんか……戦友って感じじゃん!!)
曲が終わり、拍手が鳴り響いた。同時に、ムラサメは渾身の力で剣を振るい、ソノイ達を吹き飛ばした。
「くっ……!この状況……俺達、利用されたのか?」
「人目が多すぎる……ここは退くぞ!」
人々の注目が集まっているのを見て、ソノイ達はそそくさと立ち去っていった。
ソノイ達が去ったのを見て、ムラサメは剣を背中に背負い、クロヱの隣に立った。ムラサメが手を差し出すと、クロヱはその手を取って握った。
そして2人は客席に向かってペコリと頭を下げた。
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その後、見事優勝を勝ち取ったホロックスは帰路についていた。
「勝ち申した!ふぅ〜っ!」
「賞金助かった〜!これでアジトの家賃も払えるよ。」
「それにしても、さっきの鎧の人達なんだったんだろうね?」
「俺に聞くな……アイツラのせいでヒドい目にあったんだ……」
「まあまあ、おかげで凄いパフォーマンスだったでござるよ!」
皆が雑談を進めていると、クロヱは足を止めた。
「沙花叉、どうした……?」
「こよちゃん、ソウくん……みんな、ありがとう!沙花叉、今日で自信ついたよ!」
クロヱは皆に礼を言い、ペコリと頭を下げた。すると、こよりはドンとソウゴの背中を叩いた。
「な、なんだ…?」
「ねぎらいの言葉かけてやりなよぉ♪」
「だから、なんで俺なんだ……あ、と……沙花叉……」
ソウゴは戸惑いながらも、クロヱに歩み寄りねぎらいの言葉をかけることにした。
「歌というのは、人を元気にする力がある……誰かの暗い気持ちを晴らしてやるのも、掃除屋の仕事にもなるんじゃないか?俺は……お前にそれができると思ってる。」
「ソウくん……うんっ!沙花叉、がんばるね!」
ねぎらいの言葉を聞いて、クロヱはニコッと満面の笑みを見せた。それを見たソウゴは釣られてフッと笑った。
それは、ソウゴが初めて見せる笑顔だった。
「あっ、ソウくん笑っ……」
その瞬間、クロヱの言葉が止まった。笑ったソウゴが、手を伸ばしてクロヱの頬に触れたのだ。
頬に触れた手は頭に移動し、そのまま頭を撫で始めた。
「ソ、ソウくん……?」
「今日はよく頑張ったな……お前はよくやった。おめでとう、“ノエル“。」
「へ……?」
その言葉に、クロヱと他の4人は目を見開いた。言った本人であるソウゴも自分が言ったことに驚いている様子だった。
「……か、帰るぞ。」
ソウゴはまるでごまかすようにその場から足早に去っていった。
残された5人は互いに顔を見合わせていた。
「おい……聞いたか今の……?」
「うん……ノエルって……誰だろ……?」
「元カノとか……?」
「ソウくん……」
5人よりも先に先へ進んでいくソウゴは今の自分の発言に混乱していた。
(俺はなぜあんなことをいった……?ノエル……?俺は、その名の女を知っている……!?)
ノエル……知らないはずなのに、その名の女を知っている……そんな自分に混乱しながら、ソウゴは帰っていったのだった……
クロヱ「じかーいじかい。ソウくん、なんであんなこと言ったんだろう……もしかして記憶が蘇ったとか?ちょっと聞いて……えっ、ソウくん風邪でボロボロ!?マスターが変身!?タコ焼き!?ロボット!?なんでなんでなんで〜〜〜〜!!?ドン11話『ボロサメとロボサメ』というお話し。」