「前回までのあらすじ!秘密結社ホロックスの採用通知をもらった私、沙花叉クロヱはひょんなことから変な男の人と会って、変なサングラス見つけて、変な怪物に襲われて……と思ったら男の人がドンムラサメっていう、なんか凄いのに変身しちゃったの!しかもその男の人は鮫山ソウゴを名乗ることになって……もう意味わかんねー……」
屋上から降りたクロヱとソウゴは、改めて「秘密結社ホロックス」が入っているビルに入った。
そして三階に上がり、ホロックスが入っているドアの前に立った。
「……なんだこれ?」
「『いりぐち』と書いているな。」
ペンキで「いりぐち」と書いてあるドアを開け、2人は中に入った。
「すいませーん、沙花叉でーす。」
中に入ってみると、汚らしいビルの外見とは裏腹に、中は思いの外キレイに整っており、オシャレなインテリアもある。
「おい、沙花叉……誰かいるぞ。」
「え?」
ソウゴの言う通り、部屋の真ん中に人影があった。
「ゔ、ゔ、ゔぅぅぅ……が、がんばれ……落ちんなWi-Fi君……!」
紫色の服に黒く大きい角を生やした子どもだった。その子どもは唸り声を上げながら、パソコンのキーボードとマウスでFPSゲームをプレイしていた。
(なぜこんなところに子どもが……?)
(しかもゲームにめちょマジになってるし……)
2人が子どものことを不思議に思いながら見ていると、子どもがゲームの中で使用しているキャラが撃たれ死亡した。
それにショックを受けた子どもはあんぐりと口を開けたかと思うと、テーブルに顔面を突っ伏した。
しかし、すぐに顔を上げ、拳をバンバン!とテーブルに叩きつけた。所謂、台パンというものだ。
さらにはつけていたヘッドホンを投げ捨て、歯ぎしりを立てた……
「これは精神の修行……精神統一、精神統一……素数を数えろ、素数を数えろ……」
怒りを抑えるためなのか、無理矢理気持ちを落ち着かせてブツブツと呟いた。
(こ、こ、こわぁーーーいっ!!?)
(感情の起伏が激しいな……)
感情の起伏が激しい子どもに怖がりながらも、クロヱはチラリと子どもの方を見た。
(ソウくん……ここ、この子しかいないのかな……?)
(親が共働きなんじゃないか?それで友達もおらず、ゲームしかやることがないとか……というか、俺いつから「ソウくん」になったんだ?)
クロヱはヒソヒソとソウゴと話すと、そっと子どもに近づき、
「あのー、ちょっといいかな?」
声をかけながら肩を優しく叩いた。
「あ”あああああああああああああ!!!!!」
その瞬間、子どもは奇声をあげ、目にも止まらぬ速さで部屋の隅っこに移動した。
「ご、ごめんごめん!えーと、私、沙花叉っていうの!よかったら大人の人を呼んでくれると、嬉しいなぁって……」
「頭がたけーな……からだ4つに折りたたむぞ?」
(独特な圧……)
子どもは目に涙を浮かべながら強きな言葉で圧をかけてくる。しかし、すぐに何かに気がつき、クロヱの方を見た。
「さかまたって……お前、沙花叉クロヱか?」
「そうだよー!ここの新入社員、沙花叉クロヱでーす!!」
クロヱから名前を聞くと、その子どもは何かを悟ったようにフッと笑った。
「ああ、はいはい。なるほどね……やっと状況が飲み込めたよ、新人くん!」
「?」
クロヱが首を傾げると、子どもは近くにあったいかにも高級そうなソファに腰掛け、足を組んだ。同時に、頭の上に小さいカラスのような鳥がとまった。
そして、バッと左手を前に突き出し、叫んだ。
「刮目せよ!我輩のお名前はラプラス・ダークネス!!この会社で一番エラ〜い総帥だぁ!!」
大きな声で自己紹介をするラプラスという少女……静寂が訪れる中、クロヱはプッと吹き出した。
「またまた〜!総帥ごっこ?ラプちゃんはおもしろいな〜!でもお姉ちゃん的には大人の人を呼んでほしいなぁって……」
「沙花叉クロヱ、フリーター。」
すると、ラプラスは一枚の紙を取り出して読み始めた。
「とある夢のため金が必要だが、就職活動は全滅。好奇心旺盛だが、ホラーゲームは苦手。好き嫌いが多く、特にカブと大根・パクチーが苦手。ダイビングで鼓膜を破った過去がある。寝付きは悪いが、一度寝たら滅多なことでは起きない。」
紙に書かれていたのはクロヱ自身の経歴と過去だった。クロヱはポカンとしていると、ラプラスはふいにニヤリと笑い始めた。
「お?ほう、これはこれは……小さい頃、ピアノ発表会のステージ上でドレスの裾を踏んでしまい……」
その瞬間、昔、その時何があったのか思い出し、クロヱは顔を真っ赤にした。
「パンツ丸出しになったことがある〜〜〜♪」
「なんで知ってんだぁぁぁぁぁぁ!!!」
「丸出しになったのか、沙花叉。」
「うるせえ!!!
ラプラスの胸倉を掴み、勢いよく前後に揺さぶるクロヱ。それを見てデリカシー無しに呟くソウゴ。対し、クロヱはラプラスから手を離してソウゴに向かって叫んだ。
すると、ラプラスは笑った。
「がはは……すまんすまん。念入りな調査の上でお前を選んだこと知ってほしかっただけだ。しかし……」
ラプラスはソウゴの方を見てきた。
「そっちの男の資料はない……お前の彼氏か?」
『違う。』
ラプラスの質問に即答する2人。ラプラスは「あ、そう」みたいな顔で一息つくと、再びクロヱの方を見た。
「さて、改めてようこそ……沙花叉クロヱ。まずお前に教えてやろう。我がホロックスの目的はただ一つ……」
ラプラスはニヤリと笑い、そして叫んだ。
「世界征服だ!!我輩はこの星を手中に収める!!貴様は我輩を手伝うのだ!!」
ラプラスの突然の告白に、クロヱとソウゴは目を点にしていた。すると、クロヱは突然目をキラキラと輝かせた。
「うっそーーー!!世界征服!?ラプちゃんめちょスゲーー!!がんばってね、応援してます!!じゃっ、ソウくん置いていきまーす!!」
「えっ、沙花叉?」
呆気に取られるソウゴをよそに、クロヱはペコリと頭を下げると足早に部屋を出ていってしまった。
それは誰が見ても「逃亡」だった。クロヱはさすがにヤバいと思ったのだろう。
すると、そんなクロヱに対し、ラプラスはフッと笑った……と思いきや、またもや目にも止まらぬ速さで窓を突き破った。
「うっそーーー!!?」
そして、逃げるクロヱに向かって飛びかかった。
「帰るなあぁぁぁ!!新人んんんんん!!世界征服しようよーーー!!!」
「やだやだ……!はなしてぇぇぇ……!!」
先ほどの生意気そうな態度はどこへやら……見た目通り子どものような態度と口調で泣きながらクロヱにしがみついている。
「なんなんだアイツは……ん?」
その時、窓から眺めていたソウゴは、ラプラスの異変に気がついた。ラプラスの身体から、黒いモヤのようなものが溢れていた。
「うっ……!ううっ……!世界、征服……!世界征服ーーーッ!!!」
突然ラプラスが叫び出し、目が眩く光るとともに、文字化けした光る帯が彼女の周囲を回る。すると、ラプラスの身体が暗闇に包まれ、姿が変わってしまった。
「でぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
「な、なんだあの姿は……!?」
「世界征服ゥゥゥゥゥゥ!!!」
姿を変えたラプラスは、まるで鬼のようだった。鬼の姿に騎士と竜を合わせたような鎧を装着したような姿。「騎士竜鬼」と呼ぶべきか、騎士竜鬼は雄叫びを上げながら武器を振り回す。
「ひいぃぃぃ!?」
「沙花叉!」
ソウゴは咄嗟に窓から飛び出し、走り出した。
「はぁっ!」
そして、飛び蹴りを繰り出して騎士竜鬼を蹴り飛ばした。
「ソウくん!」
「離れてろ!」
《ニンジャークソード!》
その時、先ほどのようにニンジャークソードがどこからともなく現れ、ソウゴの前に突き刺さった。
ソウゴは剣を取り、ギターのように構えてギアを回転させる。
「アバターチェンジ!」
《ドンムラサメ!切り捨てソーリー!!》
ソウゴはドンムラサメへと変身し、騎士竜鬼に向かっていった。
「ハッ!」
「ガアッ!!」
2人の攻撃がぶつかり合い、火花が散る。
「ラプラス・ダークネス!貴様、何のつもりだ!?」
「世・界・征・服ゥゥゥ!!」
騎士竜鬼は雄叫びを上げながらブンブンと武器を振り回す。まるでムラサメの声が聞こえていないようだ。
(聞こえていない……?取り憑かれているのか……!?)
おそらく、ラプラスは何かに取り憑かれている。暴れているのはラプラスの意思ではない……とすれば、目を覚まさせてやらなければならない。
「ソウくん!ラプちゃんを助けてあげて!」
クロヱも同じことを感じたのか、ムラサメに向かって叫んだ。
その意思を理解し、ムラサメは頷いた。
「承知!ドンムラサメ……参るッ!!」
ムラサメは”霞の構え”を取り、突きを繰り出した。
しかし次の瞬間、騎士竜鬼は武器の先端を回転させながら剣を弾き飛ばした。
「もらっ……!」
「セイッ!」
しかし、騎士竜鬼が攻撃しようとした瞬間、ムラサメは拳を腹に食らわせた。
「少々手荒になるが……悪く思うな。」
ムラサメは右手で手刀を作り、左手の拳を握って腰の位置に持っていく。空手の構えに近い。
「ハァッ!」
ムラサメはさらに拳を叩きつけ、さらには連続の回し蹴りを繰り出して蹴り飛ばす。
「グガァッ!」
負けじと騎士竜鬼は武器を振り下ろす。しかし次の瞬間、ムラサメはサマーソルトキックで騎士竜鬼の武器を弾き飛ばした。
「来いっ!」
さらに、ムラサメの呼びかけとともにニンジャークソードが戻って来た。それを掴むと騎士竜鬼に剣の連撃を浴びせた。
「グガァァァァッ!」
「トドメだ!」
ムラサメは剣のギアを2回回転させ、トリガーを引いた。
《
剣の刀身にエネルギーをチャージし、そこから紫色に光る4本のアンカーを発射した。
そのアンカーで騎士竜鬼の両手両足を拘束し、勢いよく引き寄せる。
「ハァァァァァァァッ!!」
「ギャアァァァァァァッ!!」
そして、強化した刀身ですれ違い様に騎士竜鬼を切り裂いた。
騎士竜鬼は断末魔を上げて爆散した。爆発が止むと、そこに倒れていたのはラプラスだった。
「うきゅ〜……」
「大丈夫……?死んでない?」
「生きてるさ。おい、起きろ。」
ソウゴは変身を解き、寝転ぶラプラスの頬を軽く叩いた。
すると、うんと唸りながらラプラスは目を覚ました。
「……アレ?我輩、何してた?」
「覚えてないのか?お前、暴れていたんだぞ。」
「そうか……グズッ……」
すると、ラプラスは急に泣き始めた。
「ちくしょう……仲間になれよぉ……グスッ」
「……あのさぁ、なんで沙花叉なの?適任な人、他にもいるでしょ。」
泣くラプラスに、クロヱは恐る恐る尋ねた。
すると、ラプラスの頭に先ほどのカラスがとまった。
「……我輩にまとわりつくうざいカラス……こいつを助けたこと、お前覚えてるか?」
「あー……そういえば見たことあるかも。確か足を怪我してて……」
思い出したのか、クロヱはカラスの方をじっと見た。
ラプラスは続けて言った。
「我輩はそれを見てた。『こんなやつにも優しいなんて、こいつちょーいいヤツじゃん!おもしれー女!』……そう思った。」
ラプラスの話を聞き、ソウゴは自分にも身に覚えがあると感じていた。
クロヱは、ソウゴがドンムラサメという本人にもよく分からない戦士であるにも関わらず、怯える様子がなかった。助けられたから……というのもあるだろうが、ソウゴのことを「ソウくん」と呼び、普通に接している。
「ヒック…でも、友達の作り方…わかんないから……脅迫して社員にしちゃおうって……」
「発想が怖いわッ!!!」
最悪脅迫しようとしていたという事実に、クロヱは叫び、ソウゴは呆れて自分の顔を抑えた。
すると、クロヱは「やれやれ」といった感じに笑った。
「ねぇ、あの採用通知に書いてあったこと、ウソじゃないよね?」
採用通知には、「未経験OK、年収300万〜、週休3日」と書かれていた。それは本当なのかラプラスに尋ねた。
すると、ラプラスは急に慌て始めた。
「ももも、もちろんだ!我が社は今のところ資金にも困っていないんだ!!」
(本当か……?)
その慌てようから、嘘なのではないかとソウゴは訝しんだが、クロヱはラプラスに手を差し伸べた。
「じゃあさ、”総帥”。入るよ、ホロックス。他にアテもないし……世界征服はよくわかんないけど、ラプラス悪い奴じゃなさそーだし。」
「し、しんじん……!!」
「その代わり……ここにいるソウくんも一緒にいいかな?」
「なぜ俺も?」
クロヱの一言に、思わずソウゴは声を上げた。
「だってソウくん記憶喪失だし、衣食住ないと困るでしょ?」
「確かに……まぁ、仕方ないか。」
「よっしゃあ〜〜〜!!もう一人社員ゲットだぜ〜〜〜!!」
クロヱの言うことも一理あると思い、ソウゴもホロックスに入社することを決めたのだった。
─────────────────────
その後、会社に戻った3人は、食事をすることにした。食事は買ってきた某バーガーチェーンのハンバーガーだ。
「これがバーガーか……中に挟まっているレタス、しなしなだな……これではバランスが悪いぞ。」
「フッ、分かってないな新入り。ジャンクフードは身体に悪いから美味いんだ!」
ジャンクフードに文句を垂れながら食べるソウゴに、誇ったように言うラプラス。それを見て、ソウゴは納得したように頷いた。
「なるほど……わざわざ身体に悪い物を摂取する……それがジャンクフードか。」
(ソウくん、ジャンクフードとか食べたことないのかな……)
「あ、そうだ!ラプラスに質問!」
ジャンクフードを噛みしめるソウゴを横目に、クロヱはラプラスに質問を投げかけた。
「この会社でさー、沙花叉は何すればいいの?」
「清掃だ。採用通知にそう書いてあっただろ。」
「え〜〜!?困るんだけど!!沙花叉、掃除めちょヘタだよ?」
「うん、見りゃわかるわ。」
ラプラスの言う通り、クロヱは食事中のこの短時間で自分の周りを汚しまくっていた。ゴミ、こぼれたソース、食べ物があちこち飛び散っていた。
「ぽえぽえぽえ〜〜?」
「掃除をしろ、沙花叉……!」
自分の周りを汚している沙花叉を見て、ソウゴは眉間にシワを寄せながらウェットティッシュを差し出した。
「まぁ、お片付けの”清掃”はさておきだ。ぶっちゃけ我輩も苦手だし……調査でわかったお前の洞察力!判断力!思い切りのよさ!その才能を我輩は高く買っている!ズバリ沙花叉クロヱ、お前の役職は……”掃除屋”だ!!」
「はい?」
突然のラプラスの一言に、クロヱは声を上げた。すると、ラプラスはソウゴの方を指差した。
「あ、お前は”雑用”な。」
「雑用……」
「いやだから掃除は苦手なんだってば!!」
雑用と言われて軽くショックを受けるソウゴをよそに、クロヱは声を上げるが、ラプラスは「まあまあ」と諫める。
「いいか?今この組織には4人の構成員がいる。」
ラプラスはそう言うと名前の書かれたプレートをテーブルの上にばらまいた。
「まず我輩、ラプラス・ダークネス!言わずと知れた最っ強〜の存在だ!」
自分のプレートを指差すと、次に「
「次に幹部!頼れる組織の司令塔だ!」
次に、「
「そしてハカセ!我が組織の頭脳!かしこいんだ!」
最後に「
「最後にサムライ!強いぞ!ま、我輩ほどじゃないが!」
全員の軽い紹介を終えると、プレートを回収し改めて説明するラプラス。
「少数精鋭ゆえトラブルは未然に防ぎたい…そこで掃除屋の出番というわけだ!!始末屋ともいうがな!お前がそれやれ!」
「待ってそれって人殺し!?沙花叉そんなことやりたくないー!!やだやだやだー!!」
掃除屋という単語に殺し屋を連想したクロヱは、涙目になりながらラプラスの角を掴み前後に激しく揺さぶった。
「揺するなぁぁぁ……!!こ、殺せとは言ってない……!そ、掃除とはいっても、いろんな方法があるんじゃね……?」
「マジかこいつ〜〜〜!!」
あっけらかんとするラプラスにクロヱは頭を抱えた。
「まっ、自分なりに考えてやってみろ!期待してるぞ、
(
ラプラスの”研修生”という一言に、クロヱはピクリと動きを止め、壊れかけのロボットのようにラプラスの方を向いた。
「……は?社員じゃねーの?給料ちゃんと出んだろーな?」
そう言ったクロヱの顔は引きつっていた。それもそのはず、年収300万を期待して入社したのだから当然だろう。
しかし、それを見てもラプラスは笑っていた。
「おいおいおい、
「ざけんなラプラスーーー!!!入るかこんなブラック企業ーー!!」
クロヱがそう叫ぶと、ラプラスは小型の録音機を取り出し、ボタンを押した。
『入るよ、ホロックス。』
「撮られてたぁぁぁぁぁぁ!!!」
その様子を見ていたソウゴはため息を吐きながら小さく呟いた。
「……バイト探すか。住む場所は確保できたし。」
かくして、沙花叉クロヱと鮫山ソウゴはホロックスの掃除屋(インターン)と雑用(インターン)となり、ラプラスの世界征服の夢に一歩近づいた。
しかしこの時、ホロックス本社に近づく新たなトラブルの足音を……3人はまだ知らない。
「みんな待たせたかね〜……?」
「じかーいじかい!みんな待ったかね〜?あれ?採用したのは一人って聞いたけど、2人になってる?よろしい!じゃあ料理大量に作っちゃおう!”りょう”だけに……ってね!ドン3話『タカネのかんぶ』というお話し。」