「黒い……ムラサメ……」
クロヱの目の前に現れた、黒いドンムラサメ……
「フゥゥゥゥ……!!」
獣のような唸り声とともに、ニンジャークソードを手にし、目の前にいる敵を……ダイダスを睨みつけている。
「クリス……クリス……!!」
ダイダスのことを「クリス」と呼び続け、剣を振り上げる。
「貴様だけはァァァ!!」
雄叫びとともにダイダスに襲いかかるムラサメ。振り下ろした剣は空振りし、近くにあった街灯を真っ二つに斬り裂いた。
それから何度も攻撃するが、ダイダスには当たらなかった。その剣さばきはいつものムラサメからは想像できないほど乱れており、そんな剣さばきでは当たるはずもない。
「フハハハハ……取り乱しているお前はなんとも無様だなぁ、ウォルター!!」
ダイダスはそんなムラサメを嘲笑いながら、手に持った剣から赤い色の雷を発射し、ムラサメを吹き飛ばした。
「グゥゥゥゥ……!クリスゥゥゥ……!!」
その時だった。ムラサメの、ソウゴの頭に、何者かの声が響いてきた。
『そうだ、怒れ。怒りはお前の原動力だ……あの時もそうだっただろう。』
その声とともにソウゴの脳裏に映像が浮かぶ。
自分らしき男が、怒りのままに目の前にいる女を殺す映像だった。
その直後、映像の中でポタッ……と水滴が落ちた。
(これは……)
『それは、お前があの時流した、最後の涙……』
その涙は、自分が自分の優しさを捨てる覚悟の現れ……もう泣くことはない。涙を捨てた時……
(あの女は、俺は……誰を殺したんだ……!?)
『覚えているはずだ。自分の妹を……ノエルを。』
ソウゴは目を見開いた。「ノエル」は以前グリムから聞いた、ソウゴの妹の名前……そして今流れた映像……
「まさか、俺は……!?ウアァァァァァァァァァ!!!」
その瞬間、ムラサメは悲しむそうな悲痛な叫び声を上げた。青くなったバイザーから涙のように青い光が流れ落ち、黒いオーラのようなものが背中に浮かび上がった。
「おぉ?暴走を始めたか……?」
「ソウくん……?」
クロヱは恐る恐るムラサメに声をかけようとした。しかし、ムラサメはクロヱに気づいてギロリと睨んできた。
「ノエル……」
『その女も殺せ……そして怒れ。その怒りがお前を強くする……』
次の瞬間、ムラサメは剣を構えてクロヱに向かって突進を始めた。まるで獲物を見つけた猛獣のように。
「!!」
《ブブブブブーン!!》
ムラサメの攻撃がクロヱに直撃するその瞬間、赤い閃光が走り、クロヱを連れ去りムラサメから遠ざかった。
「おま、えは……」
「やめるんだ……ソウゴ!」
そこに現れたのは、ブンレッドに変身した大也だった。
「クロヱちゃん、こっち!」
「う、うん……!」
一緒に来ていたブンドリオは、クロヱの手を引いて物陰に隠れた。それと入れ替わるように、変身したグリム達が飛び出してきた。
「鮫山……!」
一変したムラサメを見て、バットレンジャーは思わず声を上げた……対し、ムラサメは構わずグリム達に向かっていった。
その様子を見て、ダイダスはほくそ笑んだ。
「ククッ、後は勝手に潰しあってくれそうだな……」
そう言ってダイダスはその場を去ろうとした。しかし、
「バードブラスター!」
ブラックコンドルはホルスターから銃を抜き、ダイダスの足元を撃ち抜いた。
「逃げんなよ、主犯!」
「あなたは逃さないわよ、ダイダス!」
「僕らが相手だ!」
ダイダスの前にブラックコンドルとニンジャホワイト、キョウリュウグリーンが立ちはだかる。
ムラサメの方にはバットレンジャー、トンボオージャー、ブンレッドが相手をする。
「目ぇ覚ませ、鮫山!!」
「ウアァァァァァァ!!」
バットレンジャーが呼びかけても、ムラサメは叫ぶだけ。しかも凶暴性が増していた。ムラサメの口元のマスクが横にバックリと割れ、牙のようになり、両手の爪も獣のように鋭く伸びていった。
『自分の中を殺意で塗りつぶせ……黒く、黒く……!!』
「ガアァァァァァァ!!」
獣と化したムラサメは雄叫びとともに目の前にいるバットレンジャー達に襲いかかった。
一番近くにいたブンレッドは、手に持った武器でその攻撃を防いだ。
(くっ……!剣さばきは落ちてるのに、力が増している……!!)
ムラサメの剣さばきは素人レベルまで落ちている……その代わりに力は何倍にも上がっている。防御しただけでブンレッドは膝をつきそうになった。
「どけっ!!」
そこにトンボオージャーが飛び出し、オージャカリバーでムラサメの剣を上空へ弾き飛ばした。そこにバットレンジャーが殴りかかるが、ムラサメは逆にバットレンジャーを踏み台にし上空へ飛び上がる。
すると、弾き飛ばされた剣を牙で咥え、そのままブンレッド達の背後に回った。
『ハァッ!!』
3人は同時にムラサメに攻撃するが、ムラサメは両手の爪と口に咥えた剣で攻撃を防いだ。
『!?』
「ゴアァァァァァァ!!」
雄叫びとともに、ムラサメは3人を掴んで思い切り投げ飛ばした。
「うわっ!?」
「こうなったら……!」
投げ飛ばされながらも、ブンレッドは起き上がって消火器と銃を合体させたような武器を取り出した。
《ワン!ワン!ナーーイン!!》
「ズンズンチェンジ!!」
下側についたポンプをスライドすると音声が鳴り響き、続けて後部についた黄色いハンドルを引いた。
《ブン!ブン!ブン!ズン!ズン!ズン!》
《ワン!ワン!ナーーーインッ!!》
さらに鳴り響く音声とともにブンレッドの身体に赤い追加装甲と救急隊員のようなヘルメットが装備された。
「ブーーンレッド!
姿を変えたブンレッドは、銃「ズンズンショウカブラスター」をムラサメに向け、銃口から水の弾丸を発射する。
しかし、ムラサメは四つん這いの状態で動き回り、水の弾丸を次々とかわしていく。
「動きが速い……!2人とも、なんとかしてソウゴの動きを止めてくれ!!」
「無茶言いやがる……!」
「でもやるしかねぇ!!」
ブンレッドの指示通り、トンボオージャーとバットレンジャーは武器を構え、ムラサメの動きを止めるために攻撃を仕掛けた。
しかし、獣と化したムラサメの動きは速かった。目にも止まらぬ速さで動き回り、2人を翻弄し、逆に攻撃を加えていく。
「くそっ、速すぎる!」
「これじゃ、狙いがつけられない……!!」
ブンレッドはムラサメが動きを止めたところで必殺技を放ち、気を失わせようとするつもりでいた。
しかし、ムラサメの動きが速すぎて2人は動きを止められない。
だが次の瞬間、ドシュンッ!!という銃撃音が聞こえ、弾丸がムラサメの背後に直撃した。
『!!?』
「今のは……!?」
「とにかくチャンスだ!!」
《ズン!ズン!ズーン!!》
銃のポンプを3回スライドし、銃口に巨大な水の弾丸をチャージする。
「ズンズンオーバードライブ!!」
《ガオーンパニッシュ!!》
トリガーを引き、まるで光線のような水流を発射した。水流は一瞬動きを止めたムラサメに直撃し、ムラサメは水流に押し出されて後ろにあるビルの壁に直撃した。
「あ……うっ……」
必殺の一撃を食らったムラサメはその場に倒れ、変身が解除されてソウゴは元の姿に戻った。
「ソウくん!」
「おのれ……!!誰だ、今の銃撃は!」
倒れたソウゴにクロヱは駆け寄り、邪魔されたことに怒るダイダスは戦いながら、誰がムラサメの動きを止めたのか辺りを見回した。
その人物はすぐに見つかった。ムラサメが叩きつけられたビルの屋上にいた。
「っ!グレイ!!」
「グレイ……貴様ァァァ!!」
銃を撃ったのはグレイだった。味方であるはずの者からの裏切り行為にダイダスは憤慨した。
「俺は貴様らの味方になった覚えはない……復活させてくれたことだけは感謝するがな。」
「この……裏切り者がぁ!!」
ダイダスは怒りで拳を震わせて叫んだ。すると、グレイの背後にザイガン及びその配下である大量の戦闘員が現れた。
「グレイ、裏切りの罪で貴様を処刑する!」
ザイガンが叫ぶと、周りの戦闘員達は一斉にグレイに襲いかかった。
「ハッ!」
グレイはビルから飛び降り、同時に腕のマルチショットガンをダイダスに向けて放った。
「くっ!」
「ブラックコンドル、いけっ!!」
グレイはブラックコンドルに逃げることを促し、ダイダスに銃撃を浴びせた。
「でも……多勢に無勢だろ!」
「俺の強さは知っているだろう。なら、考える暇はない。」
「……!!」
敵の数は圧倒的にダイダス側が上。グレイの強さは知っているが、ブラックコンドルは不安が拭えなかった。しかし、グレイの意志を無下にはできない。
「……わかった、死ぬなよ!2度目の人生だろ……楽しみたいだろ!」
ブラックコンドルはそう言ってニンジャホワイト、キョウリュウグリーンと共にその場から離れてバットレンジャーと合流する。
「お前ら、逃げるぞ!」
「ああっ!ブンブン!」
「オーライッ!!」
ブンドリオはその場で飛び上がって巨大化し、トレーラーへ変形した。皆ソウゴを引き連れてブンドリオに乗り込んだ。
それを戦いながら見届けたグレイはフッと笑った。
「ふっ、2度目の
笑うグレイをよそに、ザイガン、ダイダス、大量の戦闘員達がグレイを取り囲んだ。
「……来い。」
────────────────────────
ダイダスから逃げ延びたクロヱ達は、気絶したソウゴを喫茶どんぶらへと連れて行き、休ませた。
「おいっ!雑用が倒れたって本当か!?」
その時、クロヱから連絡を受けたラプラス達が喫茶どんぶらにやってきた。
「ああ……暴走したぜ、あのスカポンタヌキ……」
ヤンマはそう言って店の奥の方へ視線を写す。気絶したソウゴは店の奥へ寝かせることになった。ソウゴはまだ目覚めていない……
「クソッ、まさかダイダスの正体がクリスとはな……!あの野郎……しぶとく生き延びやがって!!」
クロヱからソウゴとダイダスのやり取りを聞いていたグリムがギリッと歯ぎしりをして拳を握って怒りを滲ませた。
すると、そんなグリムを見てかなたは恐る恐る声をかけた。
「グリ兄……何か知ってるの?」
かなたのその言葉に、怒っていたグリムは言葉が詰まった。
すると見かねて大也が声を上げた。
「……言った方がいいんじゃないか?みんな、知る必要がある。特にholoxのみんなには……」
そう言われて、グリムは口を開いた。
「……アイツは元々俺がいた世界の住人だった。そこまでは知ってるな?」
グリムがそう言うと、皆はコクリと頷いた。
「……アイツの本当の名前はウォルター・クロフォード。アイツは、俺のダチの元上司で……テロリストだった。」
その言葉に、皆一様に驚いていたが、グリムは構わず続けた。
「そしてダイダス……クリスは昔、ウォルターと一緒に『ブラックサレナ』っていうテロ組織を作った。そんで色んな奴を混乱させて……大勢の死人を出した。」
話の内容に皆は、ラプラス達は驚くばかりだった。まさか、ソウゴが……ウォルターがダイダスことクリスと仲間同士だったとは思わなかったからだ。
すると、グリムはギリッと歯ぎしりを立てた。
「ガオも……俺が殺したクソみたいな昔馴染みも、その組織の一員だった……!!」
自分が殺してしまった男のことを思い出したのか、グリムは悔しそうに拳を握っていた。
「……ねぇ、もしかしてノエルさん……妹さんも……?」
その時、クロヱは恐る恐る尋ねた。もしかしたら、妹のノエルもその組織の一員だったのではないか、と思ったのだ。
しかし、グリムは首を横に振った。
「……どっから話せばいいかな……ノエルは妹だけど、妹じゃねぇんだ。」
その一言に皆は首を傾げた。それもそのはず、妹だと聞かされていたのに「妹だけど妹じゃない」と言われれば困惑もする。
グリムは詳細を説明するためゆっくり話し始めた。
「アイツには昔……メアリっていう妹がいた。血の繋がった本当の妹だ。でも……ウォルターはその妹から酷い裏切りを受けてな……ウォルターは……妹を殺したんだ。」
思わず言葉を失ってしまった。実の妹を、家族を手にかける……
そんなことは絶対にあってはならない。だが、ウォルターはそれを行ってしまった。
「その後……ウォルターは家無しだった女の顔をメアリと同じ顔に整形させた。それが……ノエルだ。」
またしても衝撃的な一言……同時にグリムが先ほど言った「妹だけど妹じゃない」という言葉も理解できた。
「ケッ、とんだサイコパス野郎だな。」
「俺も最初はそう思ったよ。でも……ウォルターは心を入れ替えて、ノエルを本当の妹として愛するようになった。」
そう言ってグリムは少しだけフッと笑った。しかし、すぐに真顔になり、話を続けた。
「でも……今から3年前に怪人どもの襲来があってな……俺と仲間達は全力で戦った。ウォルターも陰ながら戦った。その時にクリスと戦って……クリスは死んで、ウォルターは行方不明になった……だけど、俺の知り合いに“K“って奴がいてな。そいつがウォルターが別の世界に飛んだことを知った。探しにいけないダチに代わって、俺が飛ぶことになった……ってわけだ。」
そう言ってグリムの話は終わった。話が終わり、空気は静まり返っていた。グリムがこっちに来た理由は分かった。クリスとの因縁も分かった。ソウゴの過去も明らかになった……だが、釈然としないことが、納得できないことがあった。
「どうして……どうして言ってくれなかったの!?」
クロヱが思わず声を上げた。それがラプラス達がグリムに聞きたかったことで、納得できないことだった。
「もっと早く言ってくれれば……!」
「言ったら、お前らどうしてた!?」
クロヱの言葉を遮るようにグリムが大声を上げた。
「今まで通り、アイツと接することができたか!?今まで通り、仲間としてアイツを受け入れられるのかよ!?」
ラプラス達は何も言えなかった。もしもっと早く真実を知ったとして、本当のソウゴのことを受け入れられるのか……いつも通りでいられるのか、ラプラス達は自信がなかった。
「そら見ろ!こうなるって分かってたから俺は今まで言わなかったんだ!!」
「でもだからって……!!」
「やめろ!!」
クロヱが抗議しようとした瞬間、店の奥から声が聞こえてきた。その声とともにさっきまで気絶していたソウゴが姿を現した。
「ソウくん……」
「ソウちゃん……」
「ソウきゅん……」
「ソウゴ殿……」
「雑用……」
フラフラと歩くソウゴを見て、ラプラスはそれぞれの呼び方でソウゴを呼ぶが、ソウゴは首を横に振った。
「俺は……ソウゴじゃない。全部、思い出した……」
ソウゴは静かに呟きながら、一度もラプラス達に目をあわせることなく入り口の方へ向かった。
「俺は最低の人間だった……妹を、家族を殺して……勝手に無関係の人間を妹にして……!大勢を不幸にさせた……!俺は、お前達と一緒にいる資格はない……!!」
「そんなこと言わないでよ!!私達は……!」
「俺はもう辞める。」
励ましの言葉を遮り、ソウゴは口走った。その言葉にラプラスは耳を疑った。
「今日をもって、holoxを退職させてもらう。……世話になったな。」
たったそれだけ言って、喫茶どんぶらのドアを開けてソウゴは出ていってしまった。クロヱは慌ててその後を追いかけ始めた。
「待って!待ってよ!!」
クロヱは外を出たソウゴの肩を掴んだ。しかし次の瞬間、ソウゴは思い切りその手を振り払った。
「!!」
「来るなっ!沙花叉……もうお別れだ……!!」
手を振り払ったソウゴは、クロヱと顔を合わせようとはしなかった。顔を見てしまったら、また迷ってしまうと思ったからだ。
そのままソウゴは立ち去っていった。手を振り払われたクロヱは、その場に膝をつき、座り込んでしまった。
「そんな……ソウくん……!ソウくん……!!」
座り込んだクロヱは泣き出してしまった。
もうソウゴと会えないかもしれないという悲しさと、あの時暴走したソウゴを止められなかった自分の不甲斐なさ……それが重なって、目から滝のように涙を流し、泣きじゃくった……
(すまない……沙花叉……俺がいたら、お前達を不幸にさせてしまう……)
その泣き声が聞こえていたのか、ソウゴは苦しそうに顔を歪ませながら足早にその場を去っていった……
ソウゴ「じかーいじかい。俺は最低の人間だ……自分の中の黒い部分を抑えることができない駄目な男だ。だが、いつまでも悲しんでいるわけにはいかない……!俺は自分と戦う!!ドン22話『ぼくらはヒトツになる』……というお話し。」