「よし……これでいい。」
喫茶どんぶらに戻ったソウゴ達……ソノセンはタブレットを改造し光の玉である園子をその中へ入れた。
「しゃべれるか?」
「はい……ありがとう、ソノセン様。」
タブレットの画面に女性のシルエットが映り、同時に園子の声が響いてくる。
「じゃ……話してくれるか?なぜおぬしがそんな姿になってしまったのか、ソウイチに何が起きたのか……」
「はい……私の息子……ソウイチは、あの悪魔のような男の……!実験の被害者なんです……!」
涙ぐんだ声で、園子は全てをゆっくりと語り始めた……
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私と夫は二人とも科学者で、人間の意識とデータに関する研究をしていました。夫は大学の講師と研究で忙しく、私も家事と研究で忙しい毎日でした。
そんなある日、私達の間に子どもが生まれました……ソウイチのことです。
私はもちろん喜びましたし、夫も喜んでいました。
ですが、夫は少しづつ変わっていきました……
「父さん見て見てー!これ、僕が作ったのー!」
「邪魔だ、あっちへ行ってろ!!」
夫は研究にのめり込むようになって、私やソウイチのことを邪険に扱うようになりました……
「邪魔だ」と言って、ソウイチが作った模型を壊すこともありました……でも、いつの日か前と同じ主人に戻ってくれる……私はそう信じていました。
ですが……あの日、私達の前に脳人元老院が現れたのです。
私達家族を半ば無理やり脳人の世界に連れ去り、「ドンモモタロウと同等かそれ以上の兵器を作れ」と言ってきたのです。
私はもちろん反対しましたが……夫は二つ返事で了承しました。
「ここなら……ここならば、私の研究は完成できる……!」
脳人の世界には、夫に与えられた研究所には、夫の研究に必要なものがたくさんありました。
夫がしている研究……それは、人間のデータ化……人間の思考、肉体、記憶……ありとあらゆる要素をデータにして残すことはできないか……夫はそれをずっと研究していました。
脳人の技術を利用して、自分の計画を完遂しようとしていたのです。そして、ついにあの日が訪れました……!
「父さん!!いやだぁ!!離して!!」
「うるさい!!何も怖いことなどない……安心しろ……」
「あなた!!ソウイチ!!」
悲鳴を聞きつけ、私は目の前の光景に戦慄しました……研究所にソウイチを連れ込んだ夫が、実験台にソウイチを貼り付けにしている光景を……
「あなた、やめて!!」
「黙れ!!」
夫は私を殴り飛ばし、そのままソウイチを拘束し、巨大な装置のレバーを降ろしました。
「こ、この装置は……」
「人間を完全にデータ化するための装置だ。今からソウイチをデータという粒子状の物体に変え、ニンジャークソードに転送する!」
「そんな……やめてください!!」
装置から光が放たれて、ソウイチの身体がドンドン粒子に変わっていって……
「ソウイチーーー!!」
私は思わず、ソウイチのところに飛び込みました。やがて私の身体も粒子に変化して、ソウイチと一緒にデータとなってニンジャークソードの中に取り込まれていったのです……
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「……それで、今のドンムラサメが生まれた……ってことか。」
「はい……」
園子の話を聞き、皆静まりかえっていた。最後にグリムが言った一言に園子が頷くように返答した。
「その本物の鮫山……とんだサイコパス野郎だな……バイラムと同レベルだぜ……」
「そういえば、ムラサメ……ソウイチは?」
「今、店の休憩室で休ませてるよ。」
マスターからそう聞くと、ソウゴは立ち上がった。
「ソウくん、どうするの?」
「……ちょっと、あの子と話してくる。“鮫山ソウゴ“としてではなく、“ウォルター・クロフォード“として……」
ソウゴはそう言って自分の髪を結っている紐を締め直し、奥の休憩室に入った。
部屋に入ると、そこには部屋の隅で蹲っているソウイチの姿があった。
「……ソウイチ。」
「……」
ソウイチはソウゴを警戒しているのか壁に身を寄せている。そんなソウイチに対し、ソウゴは彼の目の前に胡座をかいて座り込んだ。
「……俺は、ウォルター・クロフォード。訳あって君のお父さんの名前を借りている。」
「………」
ソウイチは何も答えない。ソウゴは話を続けた。
「ソウイチ、お前のお父さんはどんな人だった?」
「……嫌な人だった。僕や母さんに乱暴するし、僕達家族のことなんか見てないんだ……」
「家族のことを見ていない、か……」
ソウゴはフッとため息を吐き……少しの沈黙の後に口を開いた。
「まるで、俺の親父と同じだな。俺も……だがな。」
「え?」
ソウゴの一言に、ソウイチは声を上げた。そのままソウゴは語り始めた。
「今にして思えば、俺の親父もそうとうなクズだった。」
自分の父親のことを……
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クロフォード家に生まれた男は、将来は軍や保安局に就職し、国を守ることに殉ずることを定められていた。
俺も、それが自分の使命だと思った。
「お父さーん!見て見て!私、テストで100点とったの!」
「……ふん!」
ある時、親父は俺の妹の……メアリが見せてきたテストの答案をいきなり破り捨てた。
「100点など、クロフォード家では当たり前だ!たった一教科だけで自慢気に話すな!!ウォルターを見ろ!全教科のテスト100点だ!!」
親父は事あるごとに俺とメアリを比較した。
親父は俺たち子どもに、自分と同じようになって欲しかったんだろうな。自分が優秀だから、自分の子どもにもそうなってほしい……そう思ってたんだろう。
よく環境によって人は変わるっていうだろ?アレは本当のことだ。現に、俺がそうだった。
「ウ、ウォルターくん!なんてことを……!!」
「先生、こいつらはクズです。未成年にも関わらず飲酒なんて……こいつらは正しくない。正しくないから殴ったんです。」
親父は俺に「正義を貫け」と言った。だから俺はその正義を貫くために、自分が正しいと思うことは実行した。親父もそれを喜んだ。
小学生の頃、イジメの現場を目撃した際には教師にそれを報告したし、報復に来たイジメっ子を返り討ちにした。
中学の時は、俺の態度がナマイキだと、上級生達が俺をシメようとした。だがそれも返り討ちにした。二度と俺をシメようなんて思えないように、腕を折ってやった。
高校と大学生時代、チャチな悪さばかりを繰り返すチンピラを半殺しにしてやった。中には半身不随になった奴もいた。
……今にして思えば、俺に正義なんてなかったのかもしれない……親父は俺を褒めるばかりじゃなかった。
「99点……!?このバカが!!」
「すいません……父さん……」
点数が1点でも足りなかったら間違った点数分だけ殴られた。それで泣いたり、膝をついたりすると、今度は「男の癖に根性がない」と言われてまた殴られた。
俺はそのストレス解消に「自分の正義」という蛮行をしていただけなのかもしれない……
そんな俺にとって、メアリは癒しだった。俺たち兄弟は厳しい生活をお互いに支え合って生きてきた。
メアリも俺のことを頼りにしてくれた……だが、ある日……
「クソッ!なんなんだよ……!」
「覚えてろ!」
その日、メアリは学校の生徒からいじめられていた。帰りにたまたま通りがかった俺が見つけて、そいつらを黙らせた。
「お兄ちゃん……!」
メアリは涙目になりながら俺に駆け寄ってきた。だが俺は……メアリの頬を叩いてしまった。
「え……?」
「お前が弱かったからこうなった!もっとしっかりしろ!!」
その時の俺は荒れていた。俺の今までの行動を見て、学校の教師陣は問題視して俺を学園長室に呼び出し、教師全員で俺を取り囲んで説教したんだ。おまけに親まで呼び出されて……
説教が終わった後、俺は親父に殴られた。
「こんなことで呼び出させるな!役立たず!」
……親父はそんなことを言いやがった。おふくろは俺のことを必死にフォローしてくれたが、俺には聞こえなかった。その時俺が思っていたのは、親父と教師への怒りだった。
何故、自分だけこんな理不尽を受けなきゃいけないのか、何故、自分の考えを理解しないのか、何故、こんな親がいるのか……
ムカついてしょうがなかった。だが、俺はあろうことか……妹に八つ当たりしてしまったんだ。
恐らくそのせいだろうな……妹が俺のことを裏切ったのは……
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「本当、バカな男だ……今更になって原因に気づくなんてな……」
ソウゴは自分を客観視し、自分はなんて酷い人間なのかと再認識し笑った。ソウイチの方は、ソウゴの過去を知って何も言えなくなっていた。
「……ずっと暗闇の中にいると、この先もずっと暗闇なんじゃないかと思ってしまう。そうなった人間にできるのは、立ち止まって泣くか、泣くのをやめて前に進むかだ。俺は、前に進むことを選んだ。だが……進み方を間違えた。」
ソウゴ……ウォルターは妹に裏切られた後、暴走した。家族を殺し、テロリストになり、国中をパニックに陥れ、自分の後輩や仲間達、さらには自分で作った妹のことも傷つけた。
ソウゴは、ソウイチに自分と同じ気持ちを味あわせたくないと考えていた。
「お前はどうしたい?」
「え?」
「お前は自分の親を殺したいか?」
その質問にソウイチは答えられなかった。確かに父は自分と母を傷つけた最低の男……だが、殺したいかと問われたら簡単に「はい」とは言えなかった。
それはつまり、自分の中でまだあの男のことを信じている証拠でもあった。
「どうしたいかはお前が決めるんだ。だが……どうしても進めくなった時は、俺が手伝ってやる。背中を押すぐらいはできるさ。」
ソウゴはそう言うと立ち上がり、部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
「……お前は母親以外に味方がいなかったんだろう?だが、お前はここにくる今まで、色んな奴と出会ってきたはずだ……誰かと出会うことで……人は変わる。俺が……そうだった。お前も……いつか出会えるといいな。」
ソウゴは捨て台詞を残し、ドアを開けて部屋を出ていった。
その時、ソウゴの捨て台詞を聞いてソウイチは脳裏に1人の男の顔が浮かんだ。
その男の名は、桃谷ジロウ。彼と出会い、互いに生き方を語り合った。そして、ドンモモタロウとそのお供達。彼らは自分の生き方を、進むべき道をまっすぐ突き進む者達……
「ぼくは……」
もし、自分も彼らのように進むべき道を見つけられたなら……
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それから数日後……
「んー……かなたその奴全然出ねぇな……」
グリムはケータイでかなたに電話をかけていたが、一向に電話がつながらないでいた。代わりに、とグレイに電話をかけた。
「もしもーし。ホロライブ事務所の方にかなたそ来てね?」
『いや……ここ最近見ていないな……』
「そうか……最近、アパートの方に遊びに来ねえし……」
かなたは頻繁にグリムが住んでいるアパートに遊びに来ていたかのだが、最近それがなくなっていたため、グリムは心配していた。
ふと、グリムは窓の方を見た。
「ん……?」
窓の下、道に立つ電柱の陰から覗く人影……その人影の正体は男だった。その男を見た瞬間、グリムは自分の目を疑った。
「なっ……!?アイツ……!!?」
『グリム、どうし……』
グリムはグレイとの通話を無理やり切り窓を開けた。電柱に隠れていた男はグリムを見るなりスタスタに逃げるように去っていく。
「あの野郎……!また性懲りもなく蘇りやがったのか……!!」
グリムは窓枠を今にも壊さんばかりに握りしめたかと思うと窓から外に飛び出した。
「そっちがそのつもりなら……何度でもぶち殺してやるよ……!!カトル!!」
同時刻、ソウゴの方は……
「珍しいね、ソウくんの方から誘うなんて。」
「ああ……」
クロヱと二人で街の方へ出かけていた。
「……あれから、ラプラスはどうだ?」
「うーん、まだ面接結果来ないから不安がってるみたい。」
二人は街を歩きながら雑談をしていた。
「それもそうか……お前は不安じゃないのか?ルイやこより、いろはもだが……」
「不安だけど……不安になってばかりじゃいられないっていうか……」
「それもそうだな……」
ソウゴは歩きながらフッとため息をついた。するとクロヱは下から顔を覗き込んできた。
「また考え事してる。」
「いや、すまん……ムラサメの……ソウイチのことを考えていたんだ。」
「ソウイチくん……なんか可哀想だよね……」
同情しているのか、クロヱは沈んだ表情を見せている。その反面、ソウゴは真面目な顔つきだった。
「俺はアイツを助けたいと思ってる。」
「あぁ……確かに可哀想だし、助けたくなるね。」
「それだけじゃない。」
ソウゴはフルフルと首を横に振り、スーッと息を整えた。
「アイツは……なんとなく俺に似てるんだ。見た目とかじゃなくて、雰囲気が昔の俺に似てるんだ……このままだと、アイツは俺と同じになってしまう……俺は、俺と同じ人間を二度と作りたくない……」
どんな理由があっても、子が親を殺すということはあってはならない。だが、ソウゴは過去にその一線を越えた。そんな人間をこれ以上作りたくない……ソウゴはそう考えた。
「……力になれそうなことがあったら、言ってね。」
ソウゴの真面目な顔を見て、クロヱはソウゴの手をギュッと握りしめた。
「ソウくん、なんか1人で抱え込んじゃいそうだから……ちょっとぐらい頼ってほしいなぁって……!?」
次の瞬間、ソウゴはクロヱの手を引っ張って身体を引き寄せ、そのまま抱きしめた。
「ち、ちょっ、ソ、ソウくん!?ひ、人が見てるからぁ!!」
いきなり抱きしめてきたソウゴに、クロヱは顔を真っ赤にして慌て始める。
周りには通行人が大勢いるため、皆2人のことを見ていた。
「すまない……だが、その……お前を抱きしめたくて堪らなくなった……というべきか……」
自分で言っていて恥ずかしいと思っているのか、ソウゴも顔を真っ赤にしていた。
「ソ、ソウくんもそんな顔するんだ……じゃなくて!」
「す、すまん!離れる!」
ソウゴは慌ててクロヱから離れたが、二人はなんとなく気まずくなり、話しづらくなってしまった。
(バカなことをしてしまった……とにかく謝らねば……)
「その……クロヱ……!?」
ソウゴはクロヱの方に顔を向き直した。だがその瞬間、赤くなった顔が一気に青くなった。
(バカな……そんなことは……!!)
クロヱの後ろにいる1人の女性……その女にソウゴは見覚えが……いや、その女のことは忘れるはずもなかった。
(メアリ……!!?)
その女は死んだはずの妹、メアリだった。一瞬、代わりであるノエルなのではないかと思った。しかし、自分がメアリとノエルを見間違えるはずがない。目の前にいるのは間違いなくメアリだった。
メアリはソウゴのことを見るなりフッと笑い、そのまま立ち去っていく。
「クロヱ、ここにいろ!!」
「えっ?ソウくん?」
クロヱはその場に置き去りにし、ソウゴはメアリの後を追いかけた。
メアリの方はソウゴに気づいているのか定かではないが、どんどん入り組んだところへ進んでいく。
(メアリ……本当に、本当にお前なのか……!?)
メアリは路地裏の方へ入り、ソウゴも急いで路地裏に入った。しかし次の瞬間、ドン!と何かとぶつかった。
「イッテ〜……何しやが……鮫山!?」
「お前こそどこを見て……グリム!?」
なんと、ぶつかったのはグリムだった。まさかの対面に驚きながらも、二人はひとまず互いに事情を聞く。
「いや、俺の死んだはずのクソ兄を見つけたから、思わず追いかけてきたんだ……」
「俺も……死んだはずのメアリを見た……」
互いに事情を聞き、最初にグリムが首を傾げた。
「……どういうこった?俺ら幻でも見たのか?」
幻覚を見たのだと思い始めた二人。しかし、
「残念だが、」
「幻じゃないよ。」
男と女の声が聞こえ、二人は声が聞こえた方に瞬時に顔を向けた。そこには、二人が追いかけていた人物がいた。
「カトル……!!」
「久しいなぁ……落ちこぼれ。」
「メ、アリ……」
「久しぶり、お兄ちゃん……」
目の前にいるのは死んだはずのグリムの腹違いの兄と、ウォルターの妹のメアリ……死んだ人間が蘇ることなどあるはずもない……二人がそう思っていると、カトルとメアリの後ろから眼鏡をかけた1人の男が姿を現した。
「気に入っていただけたかな?」
「お前……!」
「クリス……!?」
その男は少し前にダイダスとしてソウゴ達と戦ったクリス……だが、どこか様子がおかしかった。
「お初にお目にかかるかな……名前だけなら何度も聞いたのではないのかね。」
元のクリスと違いかなり声が低く、まるで中年のような声だった。どこか芝居がかっているようにも見える。
「はじめまして、かな……?」
「なに……?」
「私の名は……
ソウイチ「じかーいじかい。ぼくはどんな道へ進めばいいんだろ……あの人みたいになれるのかな、あの人みたいに進むべき道が見えるのかな……?ドン32話『はんこういっちょくせん』というお話し。」