ここは数多に枝分かれした時間軸、いくつもに分かれた世界の一つ。
その護り人、
世界の中枢たる黄金に輝く塔。
その私室で、天蓋付きのベッドで夜明けと共に目覚め、宝石をちりばめたゴージャスなバスタブに身を清めたあと、シルクのバスローブをまとってくつろぎ心身をゴージャスに整える。
そして、一流の食材を厳選し一流の腕前によって調理された朝食を、一流の作法にのっとり、時間をかけて口に運んで吟味する。
だが、その優雅なモーニングルーティーンにそぐわない、けたたましいアラームが響き出した。
その騒々しさに眉を顰める彼の下に、濃い顔つきの、燕尾服の執事が走りながら近づいてきた。そのまま『バトラー』と呼ばれる、彼の忠臣である。
「カグヤ様、ハンドレッドの襲撃です。急ぎ迎撃の準備を」
そう早口で言う彼に、
「やれやれ。ゴージャス暇なしだな」
などという即興の格言を口にしつつ、きちんと朝食を完食してから椅子から立った。
それからプリンス然とした召し物に着替えて、その『戦装束』と今の気分とに相応しい指輪を、細い指に通していく。その間の敵の攻勢は、都市の防衛システムに一任する。
「お早く!」
わずかに振動が届く施設内の中、声を荒げて、バトラーは必死の形相で急かす。
「おそらく敵の狙いは開発中の超兵器、レジェンドカメンライザー。それに先んじて、確保しなければなりません。その保管場所までお急ぎください」
万端準備整えば、出座である。
マントをはためかせて宝石を輝かせ、悠然とした足取りで、バトラーの横を通り過ぎる。
「その前に、訊いておく」
……そして、その手前で足を止め、カグヤは自らの従者を顧みた。
「貴様、何者だ?」
――と。
『バトラーの顔』が、わずかに軋んだ。
「……おっしゃる意味が、解りかねますが」
首を傾げながら愛想笑いを貼りつかせる彼に、冷ややかかつゴージャスな声色で、カグヤは告げた。
「バトラーはカグヤ様に相応しい、ゴージャスな執事だ。敵の襲撃だからと取り乱して食事や妨げたり、着替えを急かしたりなど決してしない。主人に前を歩かせるなどということもしない」
バトラーは彼のそうしたサイクルが何にも代え難い、至高の時間であることを知っている。
カグヤがゴージャスであること。
それは輝きで敵の目を自分へと集中させる、陽動。
それは他を寄せ付けないための、牽制。
それは救いを求める人々にとっての、燦然たる希望。
「ここまでの貴様の行動からは、ゴージャスさなど欠片も感じない」
そう言い切るや否や、『バトラー』の蹴りがカグヤの尊顔目がけて飛んだ。
それが避けられると、普段の彼らしからぬ荒々しいハイキックの連打が見舞われる。
だが、それらはカグヤの身に一掠りもしない。洗練された、無駄のない所作と審美眼とで躱し続け、その蹴りが焦れと消耗で大味になったところを見計らい、偽りの顔に手をかけた彼は、一気にそれを剥いだ。
「言ってくれるじゃないか」
顔も、返す声音も、すでにバトラーを真似たものではなくなっている。
神経質で若いようでもあり、どこか老練で余裕のある感じにもとれる、年齢不詳の端正な顔立ちと不思議な声色。
「貴様は……」
面識はない。だがその顔と、手にした装置を見た瞬間、泰然としたカグヤの顔に当惑が浮かんだ。
――その青く長い、銃型のデバイスを。
〈Kamen ride〉
回転させながら展開したその装填口に、男は自身のカードを読み取らせる。
「変身!」
〈Diend!〉
天を衝かんばかりに掲げた銃口から、掛け声とともに発せられたのはいくつものプリズム。
それが彼の肉体を交錯し、合わさりながら別の姿――仮面ライダーとしての姿に変わっていく。
当代となっては比較的シンプルな方だが、バーコードを想わせる、独特のフォルムの上半身。四角の頭部。どこで視覚を確保しているか分からないマスク。
マゼンタとは対照的に、シアンを主体とした、その色味。
その形態にこそ、カグヤの記憶と、自らの懐より抜き出した一枚のカードの図柄と一致する。
「ディエンドか」
そしてその賊の名を、口にした。
【仮面ライダーレジェンド外伝 ~盗まれた伝説~】