未だレジェンドの世界。その海沿いの道。
海東大樹は、その『お宝』を手の中で遊ばせた。
誰ぞを模した黄金の意匠には、確かに面影はある。だがあくまでそのモデルは『彼』本人ではなく、そこにその意志は感じられない。
彼。
自分の運命に執拗に関わり、自分が進む道を追従し続ける男。
決してその逆ではない。
時に対立し、互いを出し抜き、あるいは共闘した。
ありとあらゆる時代で、ありとあらゆる世界で。
今顧みれば、充実した日々だったのだろう。
思えば、シニカルに見るあの目や言葉こそが、己が存在を繋ぎ止める物だったのか。
それが、唐突に消え失せた。同じ視座にあったあの男が。
自分に一言も残さず、よく分からない魔王もどきに斃されて。
それから令和ライダーなるものが本格的に現れ始めて数年、怪盗稼業からは自然手が遠のいていた。
あれほど人生を賭けていたお宝への興味が失せていた。
世界を渡るオーロラカーテンシステム。いくつもの仮面ライダーの姿と能力を使い分ける仮面ライダーレジェンドなる存在の誕生。久しぶりに興味が涌いた。
ちょっかいを出したのは、士への執着か、あるいは追慕ゆえか。
そうではない。むしろ、その逆だった。
否定したかった。
ディケイドなど、士など所詮自分の人生の前を通り過ぎただけの存在。いなくなれば代わりが立てられるだけの存在なのだと哂いたかった。
だがなんのことはない。
レジェンドは姿形だけ彼を似せただけの、自分のお宝さえ守れない若輩であり、世界は褪せたままだ。
時と共に虚しさと、そして奇妙な敗北感が全身を蝕んでいく。
「……つまらないな」
「ではその兵器、我々が貰い受けよう」
ぼやく海東の後ろで、灰色に空間が波打つ。
その揺らぎの裏より、後続のカッシーン部隊を伴って、一人の人間が現れた。
野心に目を異様にギラつかせ、パンクロッカーのような髪型をした少壮の男。
沈んだ黒で編まれた軍服の上から巻いたスカーフには、手と目玉を重ねたシンボルマークが編み込まれている。
「ハンドレッドのトーカだ」
求められてもいない名乗りをあげる男に、手すりにもたれかかりながら、聞こえよがしに海東はため息を吐く。
「今、ハッキリ言って機嫌が悪いんだが……構わないでくれるかな」
低めた声でそう返した彼に、したり顔の男はなお踏み込んで続ける。
「その不機嫌の理由は、ディケイドの株を奪ったレジェンドの存在だろう?」
「……」
「我々と組めば、奴とこの世界を破壊することができる。仮面ライダーディエンドよ、ハンドレッドの傘下となり、そのレジェンドカメンライザーを渡すが良い」
拒まれることなど微塵も考えていない、傲慢な物言いとともに手を差し出してくる。
「ライダーもライダーなら、その敵も敵だな」
海東はその手を取ることなく、ネオディエンドライバーの銃口を突きつける。
「アウトサイダーズにさえ劣る低俗な集団に下げる頭はないよ。僕を思いのままに出来るのは、僕だけさ」
明確な拒絶を受けても、トーカなる構成員はたじろぐ様子は微塵も見せない。むしろ望むところだとばかりに、傲然と口端を持ち上げた。
「ならば、力づくで奪うまで」
そう嘯くや、彼の横合いで再び灰色の帷が揺らぎ、それは波となって彼そのものを通り過ぎていく。
その後に握られていたのは、見忘れるはずがない、カメラレンズを想起させる、銀色のバックル。
「我らハンドレッドは、すでに究極を超えている……!」
それを腹の前に据えて巻いて、嘯く男の手には、一枚のカード。
そこに映し出されたライダーは、海東の知る彼のマゼンタではなく黒い色合いとなっている。
〈Kamen Ride〉
それを開けたドライバーに通せば、澱んだ音声が響く。
「変身」
〈Decade〉
閉ざされたバックルから撃ち出されたいくつもの影とエンブレムが、トーカを覆う。
妖光と共に彼の身体が明滅を繰り返し、その輪郭を変えていく。
バーコードを象徴としたその姿は、確かに彼と同じもの。
だがその色は黒く、その眼は青く、胸に掛かる十字は金色で、沈んだコントラストになっている。
――さながらそれは、写真のネガのように。
息を詰まらせ、言葉を失う海東の眼前でそれは、図々しさを通り越した自負と恍惚の声音で、また別の名を唱えた。
「これこそが、真の伝説、幻のライダー……仮面ライダー、ダークディケイドだ」