魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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裸の付き合い

 ◇トーチカ

 

 魔法少女学級唯一の男子であるトーチカが女子と二人部屋になるのはさすがにちゃんと避けられた。1班は大きめの部屋にシン・ソニック、マスカット、レモネードが3人一緒に宿泊することになっている。幸いトーチカの部屋に押しかけてくることもなく、耳の安寧は訪れた。出された課題をひとり集中するだけの時間はあった。

 ……しかし夜は完全に落ち着けない。それはなぜかトーチカにも同室の魔法少女が存在するせいだ。しかもその同室が、引率の先生(ツインウォーズ)だったら、落ち着けるわけがない。

 

 夕食の仕出し料理で腹を満たした後、夜までに課題の続きをやろうとして、ふとしおりの日程の所を見て、女子と入浴時間は被らないようにしなければならないのを思い出した。部屋に残っていればツインウォーズ先生が帰ってくるだろうが、宿題はいっそ見られながらでもいい。

 さっさと着替えを用意して、部屋から飛び出していく。

 

 浴場は結構広かった。ところどころ作りの古さを感じるが、洗い場もちゃんとあるし、6人程度なら快適に利用出来るだろう。それが1人での貸切状態なら尚更のことである。シャンプーまで終えて、湯船に浸かり、ため息を吐いた。

 ひとりになると、どうしても思索に耽ってしまう。クラスの魔法少女たちの騒がしさには、どうしても一年半前のことを思い出すのだ。あのときレジスタンスだった魔法少女たちは、決して悪でしかない者たちではなかった。彼女らの犠牲はずっと後悔として残っていて、それでもなお、今は魔法の国のプログラムを受けると決めたのだ。亡き姉、亡き仲間たちのためにも、トーチカは。

 

「お隣、失礼しますね」

「えっ?」

 

 現れたのはいつもの二つ結びを後ろでまとめてお団子にした、優しげな笑みの大人。ツインウォーズ先生だった。……えっ? 慌てて時間を確認しようと手首を見て、腕時計は持ち込んでいないことを思い出し、浴場内の時計を見る。まだ早い時間。風呂にいすぎたわけではない。じゃあなんでここにいるんだ。

 

「トーチカくんは、クラスには馴染めそうですか? 唯一の男子生徒なのは辛いと思いますが……」

「えっ、えっ、え……あの」

「何かあれば、すぐ先生に言ってください。ベル先生もラピス先生も優しい方です。どこまでも力になってくださいますよ」

「そ、その……あ、いや、えっと、うちは姉もいましたし、魔法少女やってると周り女の子ばっかりになるし、慣れてるつもり、ではあります」

 

 魔法少女活動の間はずっと何人かの魔法少女に囲まれていて、確かに彼女らの距離も近く、パーソナルスペースという概念がないような人もいた。それを考えるとまあ確かに……マスカットやレモネードのあれも普通、いや、普通なのか? 智樹の普通が壊れている気がする。慣れてはいけないのでは。

 

「そう不安がらなくてもいいとは思います。皆、いい子達ですから」

「……はい。僕もいい人たちに囲まれたと思っています」

 

 それはそれとして。この状況の方が問題である。いや、あのまさに優しいお姉さん先生みたいなツインウォーズ先生がこんな大問題の状況で何も思わないはずがない。なるべく目線を逸らそうとしていたが、ふいに少しだけ様子を窺おうとして、湯船の中の胸板が見えた。

 

「えっ、あの……」

「どうしました?」

「……ツインウォーズ先生って、僕と同じ……男で魔法少女、なんですか……?」

 

 彼女──否、()はきょとんとしてから、初めて見るほど大きく笑った。

 

「っあははは! いやまさか……そこからとは思わなくて! あはっ、あはは……はあ、そうですよ。普通に男です。確かに間違えられるような格好ばっかりしてますね」

「じゃあ同室なのも男部屋ってことですか」

「そうですよ。一人部屋はさすがに寂しいでしょう? まあまあ、親戚のお兄さんなにかだと思って、そう気にしないでください」

「髪伸ばしたりしてるのは……」

「ツインテールが好きで。変身する前からツインテールでいたかったんです。それで、髪型に似合う人でいようとしたら、女の子っぽくなってたみたいですね」

 

 絶句した。が、飲み込め始めてからは、頼もしい味方に見えてきた。クラスには刺激の強い女子ばっかりだ。どこを見ても上澄みのような可愛い女子。互いに魔法少女に変身していたらそういうものだと飲み込めても、素の状態で接するにはドキドキしてしまう。その中でひとり、同性がいるなら、気分は違ってくる。なんだかようやく安心できたような気がした。

 

「刺激強いですよね? トーチカくん、よく囲まれてるイメージです」

「なんか……近いんですよね、みんな」

 

 特にマスカット・マスケット。ついでにその姉、レモネードもだ。そもそも彼女らは誰に対してもパーソナルスペースがほとんどない気がする。双子同士でのパーソナルスペースゼロの状況に慣れきっているのだろうか。

 

「正直なんですけど……ラズリーヌ先生も近いです」

「あぁ確かに……」

「ベル先生に対してよりは近くないんですけどね……それでも心臓に悪い」

 

 ツインウォーズ先生と思わぬ意気投合をしたトーチカ。この後もしばらく、湯船の中で、心労トークを互いに吐き出して、部屋に戻ってもしばらくは続くのであった。

 

 

 

 ◇ディティック・ベル

 

 明日の準備のために奔走し、夕食の後の作業でようやくひと段落がついて、ラズリーヌを連れてお風呂に入ることにする。先程すれ違ったアルメール達2班が部屋に備え付けの浴衣姿で、ついでに1班はあの性格のシン・ソニックがいる関係で、今の時間は3班が入っている頃だろうか。瑠璃──ラズリーヌと並んで脱衣所へ。

 既に衣類の入ったカゴが4つ分埋まっている。そこに置いてある魔法の端末のアクセサリーでなんとなく個人を特定し、予想通り3班の生徒たちだと思いつつ、適当な位置を選んで、衣服に手をかけた。

 

「お疲れ様っす。いやー、手が込んでて、ベルっちの作業も大変っすね」

「本当にね……これを企画した自分を恨むよ。ラズリーヌも、ありがと」

「いやいや! あたしはこんくらい慣れてるんで、へっちゃらっす!」

 

 さすがに大変な作業は魔法少女姿でやってもらっているものの、それでも煩雑なものは煩雑だし、大掛かりなものは大掛かりだ。元々やりたかったちょっとした夢と、ライトニングの要望を取り入れようとした結果、膨れ上がってしまった。ツインウォーズを通した研究部門のバックアップがなければ実現もできなかっただろう。

 浴場の引き戸を潜り、洗い場の方に手を引かれていく。瑠璃に座るように促され、なんだかやる気な彼女に押されてされるがままだ。

 

「お背中洗うっすよ」

「いやそんな、そこまでは」

「まあまあ、先生になってから色々頑張ってるっすから!」

 

 彼女にも色々頼んでいるし、ディティック・ベルひとりではどうにもならないことばっかりなのだが──こういう時のラズリーヌは強引だ。彼女の手が背中を走るのは少しくすぐったいが、彼女の頼もしさというか、優しさというか、そういうのを感じる手つきだ。人にやってもらうのも気持ちいいもので、結局、背中だけでなく、体全体、頭までやってもらってしまった。

 

「じゃあ、交代しよう」

「お、いいっすか〜? じゃあ、お言葉に甘えて〜、っす!」

 

 彼女のきめ細やかな肌に泡を這わせながら、一緒に住み始めた当初を何気なく思い出す。あの頃も張り切っていて、連日洗いっこなんてしたっけ。にこにこしながら泡に包まれていく彼女を、傷つけぬよう慎重に洗ってやりながら、出会った頃と私も彼女と変わらないなと、笑みが溢れた。

 

「あら、先生方。仲がいいのね」

「ら、ら、ラズリーヌ様のお身体をっ……羨ましいですわっ!」

「その声……思案ちゃんとライト氏っすね!」

 

 ラズリーヌの髪を泡立てている時、ふいに話しかけられた。スラリとした肢体、あまりにも均整のとれたスタイル。プリンセス・ライトニングは相変わらず絶世の美少女だ。思案も中学生とは思えぬ発育。童顔で小柄な自分のことを思うと、自分が可哀想になる。そんなライトニングが隣に悠々と歩み寄り、にこりと笑いかけてくる。

 

「明日。楽しみにしてるわ」

「おっ! そうっすよ、ベルっちすごいの用意してるっすから!」

 

 目を閉じたままびしっと指をさすラズリーヌに、ライトニングがくすっと笑う。ただ、自信がないといえば嘘だ。ラズリーヌの言う通り、すごいのを用意できたはず。こんな態度のライトニングも、いつもやる気がないプラリーヌも、楽しませてやるつもりでいる。そう思いを込めてライトニングに視線を返した。

 

「……ふふ、そう。それじゃあ、私たちはサウナに行ってくるわ。どんな感じなのかしら、楽しみね」

「ラズリーヌ様……お肌が綺麗」

「……行かないの?」

「? あっ、はい、行きますわ!」

 

 歩いていくふたりを見送りながらシャワーの温度を調整し、ラズリーヌの髪を優しく流す。宿泊研修は、明日が本番だ。

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