◇アルメール
「皆、揃っておるな!」
前方で人数を確認するのは和装の童女。腰には二振りの刀を携え、小柄な体躯で精一杯声と胸を張り、存在感を放とうとしている。が、そのアニメキャラクターのような姿は彼女だけではない。壁に寄り掛かる探偵風の少女、その横で尻尾を揺らす青くきらめく少女。いや、アルメール自身も含めた、この会館エントランスにいる15人。生徒12名、教師3名。その全員がそれぞれ異なる世界観から飛び出してきたかのような、可愛らしく、美しく、ちぐはぐで、自分全開の姿でいる。中には現役でアニメのメインキャラクターなゆえにアニメほぼそのままな者さえいた。
このクラスは『魔法少女学級』だ。須らく、皆が『変身』する力を持つ。普段の授業では不要がゆえに制限されているが、しかしわざわざ魔法少女姿で集合がかけられた、ということは、そういうことだ。
「これより本課題のルールを説明するぞ! 心して聞くのじゃ!」
和装の童女の声に、その前にちょっと、と手を挙げる者がいる。トゲトゲした軍装風の魔法少女。アルメールのすぐ隣にいる彼女は、雷将アーデルハイトだ。
「すんません、そこのちっこい魔法少女、誰なん?」
「……む? 何を言うかと思えば……わらわじゃ、わらわ」
「クラスで聞いたことない一人称やけども」
「ツインウォーズじゃ」
……ツインウォーズ先生! 確かに大きなツインテールの髪型、先生っぽいポジションから察することはできたか。アーデルハイトも合点がいって、手をポンと叩いた。あの優しげな敬語のツインウォーズ先生が魔法少女になると「のじゃ」とか言う童女なのは違和感が激しいが、変身したらキャラ変するタイプはそれなりにいると聞く。外部から来たサポートの人だと思っていたが、学級内の人だった。皆それぞれに納得して、続くルール説明に入った。
「今日の課題は……『班対抗・謎解き合戦』じゃ! ベル先生謹製の体験型課題! 立ちはだかる問題の『答え』に、最も早く辿り着いたチームが勝者じゃ!」
「最も早くですかそうですか」
「ねー、謎解きになんで変身する必要があるんだろー?」
「そこッ!」
1班らしき方向を、ツインウォーズがびしっと指した。全体的にマスカット色で髪飾りにもマスカット風の玉がついた魔法少女──見るからにマスカット・マスケットだろう──が肩を震わせたが、直後、ツインウォーズの表情が笑顔に変わる。私語の注意ではなかったらしい。
「いい疑問じゃ。確かにただの謎解きレースなら変身する必要はあるまい。じゃが! この課題の間、魔法の使用及び魔法少女同士の交戦を許可させてもらう!」
魔法少女同士の、交戦──即ち他チームへの妨害や、もっとシンプルに、攻撃してもよいということ。道理で、このホールの外で忙しなく動く人がいて、さらに救護室が準備されていたわけだ。これまでの授業とは完全に毛色が違う。純粋な潰し合いになる可能性すらある。
中でも──3班。1班は突っ走るだけで大人しく、我ら2班はやかましいが非行には走らない。底が知れないのが彼女らだ。そこに固まっている班員たちは、にやり笑っているのが半分、眉間に皺を寄せているのが半分。何かを起こすつもりには間違いないだろう。
「詳細なルールは魔法の端末の方に送らせてもらう、目を通しておくように、じゃ。では──」
一瞬の沈黙。息を呑む。
「班対抗! 魔法少女専用体験型地獄サバイバル下克上……なんか混じったのじゃ? まぁ良い! 謎解き課題! 開幕じゃあ!」
ツインウォーズの宣言と同時に、歓声をあげようとする魔法少女たちの中から、白いボディスーツの魔法少女が飛び出していく。この突っ走り具合、シン・ソニックだろう。彼女を追いかけるマスカットにレモネード、そして料理人風の魔法少女──トーチカが続き、先陣を切ったのは1班となった。
それは予想通りではあるが、そもそも詳細ルールや出題された問題に目を通さずに走り出して何になるのか。アルメールはため息をひとつ、それから自慢の銀髪をふわりと靡かせ、こんな時に適したタッチペンを抜く。そして己の魔法の端末と『魔法のタブレット』を同期させた。
「なんや画面大きいな」
「魔法の端末にできることで、私のタブレットにできないことはありません」
届いていたメッセージから、詳細ルールの項目を選ぶ。昼食の休憩時間には必ず戻ってくる旨や、けが人を出した場合のペナルティ等を班員と共有する。覗き込む半透明コスチュームの魔法少女──ジュエリーゼリーと、気風溢れる紅白のドレスの魔法少女──ベクトリア・エラが目を通したのを確認。万一のルール違反は避けられそうか。互いの顔を見て、ベクトリアがフッと笑い、アーデルハイトがつられ、ジュエリーゼリーは首を傾げた。
「してメルメル。空から問題文を見ていこう。なぜ謎を解くのか、そこに謎があるからさ」
「ジョージ・マロリーだね。そこに立たずにはいられぬもの、即ち謎解きとは舞台」
「なんでも舞台やん」
「ああそうさ! なんでも舞台だ! キミもボクも!」
「……問題文は……『試練の先に、君の色を示せ』」
会館敷地内のマップデータと、8つの座標データ。エントランスにもひとつ反応がある。顔を上げてみると、ツインウォーズと探偵──ディティック・ベルが何か装置を用意していた。何かを填めるスロットが何個か空いており、どうやらアイテムを集め、あの装置に填め込むのがゴールということだろうか。
「ほな、他の座標まで行ってみるかぁ。百聞は一見にしかず言うしな」
「笹食ってる場合じゃねえ。ユーゴーアイゴーヒアウィゴー。決めるぜ覚悟」
「そうと決まれば! 行かねばならないのだ、あの大海原へ!」
「あら。行けると思ったかしら?」
各々騒がしくも歩き出そうとしたその時、雷鳴が行く手を阻む。太鼓を背負い、ティアラには宝石が輝き、雷を迸らせる魔法少女。プリンセス・ライトニング──。いずれ仕掛けてくると思ったが、始めから来るとは。さらにその後方からは半透明の液体が飛来、思わず腕で顔を隠し、その間にジュエリーゼリーが割り込んだ。空中に現れたキラキラのゼリーが液体を受け止める。ゼリーで冷やされて急速に固まってゆくその正体はなんだ。タブレットでの解析を急ぐ。グラニュー糖が100パーセント──つまり、砂糖。
「ペロッ、これはグラニュー糖。ああ砂糖漬けになっちまうよ、これは人に向けるものでいいのかな? クラスメイトよ」
「アハ、い〜んじゃない? たっぷり砂糖漬けにしたらぁ、必殺のキューティー☆シロップアウトでプラリネペーストにしてあげる」
可愛らしく飾り立てられた黄色のコスチューム、彼女はテレビの中でも見たことがある姿。キューティープラリーヌだ。普段はやる気なさそうにしているが、変身したゆえか、あるいは対人戦がゆえか、小悪魔めいて笑っている。
彼女だけじゃない。その傍らには金魚を思わせるランユウィ、コスチュームの各所に引き出しのついた玲透館思案、即ち3班全員がこちらにいる。いきなり、こちらを潰しに来ている。
「……いいの? 開幕で潰し合いだなんて」
「ライバルは減らした方がいいっすよ」
「それに、何か勘違いをしていらっしゃるのではなくて?」
思案がこちらを見て、くすりと笑う。
「これは潰し合いではなく……一方的な『潰し』でしてよ!」
「下がっていたまえ、我らが班長。我々は恐らく謎解きは不得手。ブレーンたる貴女が手折られては困る」
「同じく。メルメルは下がって、記録係。これでも私、元テロリスト未遂。荒事の心得、多少はあるつもり」
「あのお姫様は私が引き受ける。手ぇ出さんといてや」
ベクトリアが前に出る。ジュエリーゼリーが隣に並び、さらにアーデルハイトは闘志を剥き出しにしてライトニングと対峙する。敵は4人。実力は未知数。だが──アルメールでは、戦えない。
「……ありがとう、みんな」
皆が引き受けてくれる中、第一の謎解きへ走り出す。