魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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宿泊研修体験課題──美味しいところ

 ◇ディティック・ベル

 

「1班、戻りました」

「はい、おかえり。ご飯はあっちね」

「はい!」

 

 各班、休憩時間を忘れることはなかったらしい。無事に戻ってきて一安心だ。

 特に3班。謎解きだって言っているというのに、完全に謎解きを放棄して他チーム潰しに走るという暴挙に出て、ディティック・ベルは頭を抱えたわけだが──こういうところでのルールはしっかり守ってくれている。彼女らの提案に乗ってこの課題を対人戦ありに変えたのはこちらの方だが、いくらルールに則っているからといって、いざ潰しに出られるとさすがに、被害チームに申し訳なくもなる。

 とはいえ、なんだかんだ喧嘩を仕掛けられた2班も切り抜けて謎解きに挑んでくれている。アーデルハイトが煽られた時はどうなるかと思っていたものの、無事全員戻ってきた。全員ばらばらのマイペースに見えて、その実優秀だ。

 

 謎は既に突破されたものが4つ。一応、ディティック・ベルの想定とほぼ同程度のペース。残っているのは──これまで以上の難易度を持つステージだ。うちの優秀な生徒たちなら大丈夫、だと思うのだが。

 

「ねえねえベル先。このゲーム、終わりそう? 半分くらい?」

「……キューティープラリーヌ。先生には敬語を」

「はいは〜い。というかラズ先は? ラズ先いないと思案ちゃんがキョロキョロしちゃうんだよねぇ〜」

「ラズ先って……ラズリーヌのこと?」

「そそ。ベル先、ラズ先、ツイ先」

 

 自分もお弁当を食べようと蓋を開けるや否や、隣に堂々と座ってくるのもキューティープラリーヌだった。彼女に続き、というかいつの間にか、逆側の隣もプリンセス・ライトニングで埋まっている。主にプラリーヌが食べながらしきりに話しかけてきて、立場上ゲームに関わることは喋れないしもちろん喋らない、が、生徒と交流する程度ならと、いくらかは受け入れた。

 これあげる〜と漬物がプラリーヌから横流しされてくる、のはどうかと思った。この距離感は友達でも中々ない。

 

「てかベル先は漬物とかいける? 大人だしいけるよねぇ」

「私は好きだよ」

「やっぱり! さすが大人ぁ! でも本当に好きなのはぁ〜?」

「……なんだろう。結構なんでも食べるけどな」

「好き嫌いなさそう! 会食とか得意そう。自分と代わってほし〜」

 

 現役のキューティーヒーラーはそういう方向でも忙しいらしい。偏食だと大変だろう。

 

「あら。ご飯がまだあるのにお肉がなくなってしまったわ」

「え〜じゃあ自分のあげるよぉ。お姫様ぁ、はい、あ〜ん」

 

 からの、なぜか間のディティック・ベルを挟んでプラリーヌからライトニングにスプーンでハンバーグが届けられるなど不思議な状況が続いており、本人たちは呑気なもので、こっちが緊張しているのがおかしいくらいだ。

 

「ねえ、ベル先」

「ライトニングさんまでその呼び方に……どうかした?」

「謎解き。一番難しいのって、どれ?」

 

 難易度──か。今回用意した中に、そんなに差をつけたつもりがあるわけでもない。ただ特定の魔法がなければ辛くなる設計にしてあるものは何個かあるけれど、それも該当する生徒さえいれば一気に楽ができるようになっている。

 そうすると、難しいものを挙げるとなれば。

 

「……青、かな」

「青?」

「ああ、えっと、クリアの証にもらえる玉の色でそう呼んでるんだけど」

「場所は?」

 

 ライトニングは間髪入れず、鋭く続けてくる。その勢いに押されかけたが、答えた。

 

「裏庭の……倉庫の入口がエントランスになってるよ」

「裏庭ね。そう。プラリーヌ、決めたわ」

「えぇ? それ一番難しいんだって今言ってましたよねぇリーダー」

「だからそれにするの」

 

 強引だが、プラリーヌもそれなら仕方ないか、という顔をして、大きく伸びをした。弁当はメインディッシュのハンバーグが綺麗になくなり、ポテトサラダに乗っていたパセリと、ミニトマトだけが器の中に残されている。その最後の一口になったミニトマトをひょいと摘んで、くすっと笑ってみせた。

 

「美味しいところは全部持っていかなくちゃ、ね」

 

 ミニトマトが口の中に消えていく。ただ、ディティック・ベルの用意した『青』はそんな簡単に食べ尽くせるものではない。苦笑いが出て、生徒への期待とちょっとした対抗心を含めて、自分の弁当をかき込む。

 

 

 

 ◇玲透館思案

 

 休憩時間を終え、午後の部になるや否や、プリンセス・ライトニングの「方針を変えるわ」のひとことで、3班はこれまで陣取っていた初期地点を初めて離れた。まさかここに来て他チーム潰しから作戦変更になるとは思ってもみなかった。ただ、気まぐれなライトニングのことだから何か心境の変化があったんだろう。プラリーヌに聞こうがなんかあったんじゃない、の答えしか返ってこないのは目に見えている。ランユウィは……自分から話しかけるのは、ちょっと。

 

「裏庭の……ここっすかね」

 

 ディティック・ベルが言っていたという裏庭の座標を目指して移動する。ランユウィが指し示した通り、倉庫の入口が別の空間に繋がっているらしい。他にそれらしいものもなく、発見したランユウィを先頭にぞろぞろと入っていく。光に包まれ、視界が切り替わった。白い。迷路のような空間、というより、目の前には迷路が広がっている。

 

「なるほど。それで転移なんてさせるわけ」

「もう会館関係ありませんわ!」

 

 それを言ってしまっては元も子もないのだが。迷路はどうやら結構しっかり広いらしく、先はそれなりに遠くに行き止まりが見え、その道中には分かれ道がいくつもある。天井はしっかりあって、試しにライトニングが火力をぶつけてみたが、撃ち抜くのは難しいという結論になった。これはとにかく歩くしかなさそうだ。こういう時、思案にはいい知識がある。

 

「左手法って知ってますこと!?」

 

 左手法とはつまり常に片手を壁に這わせ続ければゴールに辿り着けるという迷路の攻略法だ。別に右手でもいい。スタートとゴールが壁で繋がってさえいれば、この方法を使えば必ず攻略できる。いざ使う時が訪れるとは思わなかったが、こういうのが教養である。ふんすと胸を張ってお嬢様的手柄を主張、特に褒め言葉がかかるでもなく、それじゃ行くっすよとランユウィがさっさと歩き出してしまった。そして左手法を使うこと数分、今度ぶち当たるのは壁ではなく。

 

「え」

 

 意味深に置かれた大きな水晶玉。いや、宝玉だろうか。台座にしっかりと固定されている。付随された説明文が、これは迷路的に意味のあるオブジェクトだと確定させてくる。そしてその説明文には『ワープ宝石』の文字。試しに触ってみたライトニングの姿が消えた。慌てて続くと、確かに視界が白に染まり、気がつくと違う場所にいる。背後には、さっきのワープ宝石と似たような宝石と台座が置いてあった。

 

「対応する宝石同士が繋がってるみたい。ワープ迷路ねえ。そういう絵本では見た事あるけどね〜」

「ちょっと待つっす。これ、どっち側の壁に手を?」

「……こっちから来たからこっちの?」

「でも出てきた時はこの向きだったじゃないっすか。この場合左手側はどっちすかね?」

 

 とまあ何よりの問題は、左手法がここで完全に瓦解したということであった。どっちがどっちかわからなくなってはどうしようもない。手を離して、宝石の色や形はしっかり覚えながら歩く、ということで皆の見解は一致した。ワープ宝石を2度、3度ほど通過し、同じ道を通りそうな時は思案の引き出しから目印になりそうなものを取り出して、迷路の対策は欠かさずに進む。

 これは時間がかかりそうだなと、先生が言っていたらしい『難しい』とは、こういうことを指すのだと。なんとなく思い始めていた、その辺りである。

 

「……あれ」

 

 急に開けた場所に出た。目の前にある大きめの扉。明らかにもう終わりの雰囲気だ。この規模の迷路ならまだまだあるかと思っていたのに、なんだ。思案は胸を撫で下ろし、ここで初めて先頭に立つ。

 

「さあゴールですわ! 私が一番乗りで──」

 

 そして扉を開いた、その先には。

 

「おっ! やっと来たっすね!」

 

 ゴールとは書いてあるけれど、その終着点にある宝箱は固く閉ざされ、そこには番人の姿。爪を立てた手をクロスさせ、片足を曲げ、もう片足は伸ばし。白虎の尾をゆらゆらと揺らして、待ち構える少女。

 

「戦場に舞う青い煌めき! ラピス・ラズリーヌ! さあ、この『青の試練』はあたしから1本取るのが試練っす! どっからでもかかってくるっすよ〜!」

 

 迷路はほんの前哨戦。真の相手は、憧れの人らしい。

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