魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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宿泊研修体験課題──最後の謎

 ◇アルメール

 

「それ、いつまで覗いてんねん」

 

 下敷きのようなシートが3枚ほど、ジュエリーゼリーの手元で空にかざされている。それぞれ違うカラフルな色をしたそれは、先程突破した謎解きで使ったものだ。これらを重ね合わせることで浮かび上がる文字が変わる、というのをやった。それをジュエリーゼリーが気に入り、そのまま持ち歩いている。

 

「私には下敷きとあんまり変わらんように見えてまうけど」

「下敷きだけど。でも世界がいろんな色になる。面白い」

「薄いフィルター1枚を通してさえ世界の姿は変わる。幕を1枚隔てた先は別の世界さ。さあ! 紫色のボクも見るがいい! また別の魅力に満ちたベクトリアが見えるはずさ!」

「ベクトリアは変化なし」

 

 華麗なポーズが華麗にスルーされ、それでも変わらないボクもまたボクと全く懲りもめげもしないベクトリアにアルメールは苦笑いした。ふいにアーデルハイトと目が合う。

 

「てかこれどこに向かってるん?」

「一度、最初の地点に戻ろうかなと」

 

 画面に表示されていた座標が、初期地点を残して全てなくなった。まだ行っていなかった地点は他のチームが謎を解いたということだろうか。とにかく、残りの座標地点に行ってみなければ何もわからない。一応の班長として皆を引っ張り、一存で目的地は決定。先頭にアルメールを置いたまま、2班一行は騒がしくも歩き続ける。

 突破した謎解きは3つ、手に入れたガラス玉は金魚の藍色、イライラ棒の黄色、そして今回の暗記シートの紫色だ。藍色と紫色が同居するということはたぶん虹色に対応している。スタート地点の装置も、確か7つくらいスロットがあったような。

 

「あ」

「!」

 

 そんな中、ばったりと出会ったのは堂々歩くシン・ソニックを先頭とした1班だった。3班のことがあってこちらは戦闘態勢、アーデルハイトとベクトリアが明らかに構えるものの、彼女らに関しては普通に敵意もなく、何をそんなにピリピリしているのか首を傾げているレベルだった。

 

「ん、赤シートで見たマスカット、真っ黒。ブラックマスケット、略してブランケット」

「……ンはどこから来たの……」

「なにそれー、暗記に使うやつ? 謎解きそれだったの?」

「いえす、それそれ。見えないものを見ようとして色々覗き込むやつだった」

「……平和そうで、いいな……」

 

 あちらはあちらで、ジュエリーゼリーが双子に平和的に挟まれている。あれはあれでいいか。アルメールは一応の情報共有というか、成果の状況を把握するため、班長同士にひとり同席させる形で、シン・ソニック及びトーチカに話を聞く。向こうが持っているガラス玉は3つ。我々と同じ数だった。色は赤、橙、緑と、合わせるとやはり虹の七色っぽい。残る青はというと、ここにないなら恐らくは3班。アルメールたちを潰し損ねた時点で方針転換があった、と思った方がいいだろう。つまりこれで、体験課題は終わり、か。

 

「全ての謎解きが終わったということは一番最初にスタート地点に戻ってきた人が勝者になるのではそうに違いないそうと決まったら急がなきゃ」

「なんでそうなるの!?」

「あぁもう……!」

 

 一切の話を聞くことなく飛び出していってしまうシン・ソニック。慌てて追いかけようとする班員たち。トーチカの反応からして、いつもこんな調子なのか。うちも相当だが、こっちはこっちで制御不能らしい。お互い大変だねの視線を一方的に向けながら、自分たちも後を追うことにする。

 

「自分らは急がなくてええんか? なんつってな」

「まだ何かあると思う……んだよね」

「やっぱそうか。私もや」

 

 しかし前方から響いてくるのは放電の音。アーデルハイトはここにいる。ということは。彼女と一緒になって急ぎ、その先で見たのは、ライトニングが放った雷撃を躱し、本人を睨むシン・ソニックの姿。

 

「あなたもそれ避けられるのね。もしかして光って意外と遅いのかしら」

「私が早すぎるだけだから関係ないけどそんなことよりもこれはなんのつもり返答によっては最速で殴る」

「もちろん、敵対行為のつもり」

「ちょーい待ち、ストップストップ!」

 

 3班がまだやる気だったことに驚きつつ、アーデルハイトに先に行って割って入ってもらった。とはいえそれで引き下がるライトニングではなく、シン・ソニックもそうではないらしい。一触即発の戦闘態勢は続く。

 その間にアルメールはトーチカの肩を叩き、装置のところに先行しようとした。ここで、阻止に現れるのが案の定プラリーヌだ。飛来した溶液を魔法のタブレットで受け止め、砂糖でベトベトになったのを即座に拭いた。いつもはやる気がなさそうなのに、間に立ちはだかって、こういう時は意地の悪い、いい笑顔をしてくる。

 

「ちゃんと謎解きするようになったと思ったのに!」

「最初からこのつもりだったけどね?」

 

 トーチカもアルメールも戦えはしない。ベクトリアが即来てくれればまだなんとかなるだろうが、フルーツ姉妹とジュエリーゼリーでランユウィと思案がどうにかなるか。数的には有利だが、血の気は向こうが多く、何なら一番好戦的なところは三つ巴になるかもしれない。課題始まって、どころか学級始まって以来最大の乱闘になってしまうか。

 しかしここで素直に戦わないのもアルメールだ。自律浮遊機能を使って漂わせているこの魔法のタブレット、ここからなら十分、目視はできなくても装置の解析ができる位置だ。アルメールは素早いタップ操作で、プラリーヌが首を傾げている間に知りたかった情報を取りにかかる。

 

「……やっぱり。ねえプラリーヌさん、謎解きのガラス玉、『青色』だった?」

「そ〜だったらなんだっていうの?」

「まだ、あるよ、謎解き」

 

 トーチカが驚きの目で振り返った。そしてタブレットを見せる。今撮った画像を拡大すればわかるが、回答用のマシンにはガラス玉を嵌める場所が()()()あるのだ。そして慌ててトーチカが魔法の端末を開き、ルール説明のファイルを確認する。7つ、という表記は初めからどこにもなかった。

 

「ふぅん? それで? 私たちはぁ、他の班を全部しばいてからゆ〜っくり最後の謎を解けばいいわけでぇ」

「……やっぱりそうなるか……ん? 待って」

 

 アルメールは気がついた。今トーチカが開いているこのルール説明のファイル。ファイル名がただのルール説明、ではなく、末尾に何かの数字が振られている。日付かと思っていたが、そうじゃない。今は5月の頭だ。ゼロイチで始まるわけがない。最後の謎がわからないがゆえにそこまで気になってしまったのかと流すことはできる。できても──自分のタブレットにあるファイル名と確認くらいはしておく。すると、末尾の数字が違った。

 

 ──だからなんだ、という話ではある。ここで頭を悩ませても、プラリーヌだから待ってくれているのであって、もうすぐシン・ソニックもライトニングも痺れを切らすだろう。その時までになんとかしないと。なんとか、なんとかってなんだ。考えなきゃ──。

 

「『互いに助け合って課題に取り組むこと』」

 

 不意に声がして慌てて振り返る。手に例の暗記シートを持ったジュエリーゼリーだった。

 

「こっちに来たんだ」

「うん。どうせならプラリーヌと対決すべきかなと」

「それに今の……ルール説明の」

「これ越しだととても強調される」

 

 言われて覗いてみると確かにそうだった。ジュエリーゼリーの持っているシート3枚重ねを通すと、アルメールのタブレットに表示されていたその部分が強調して見えるようになっている。何かのメッセージか。それからなんの気なしに、そこから赤のシートだけを残してみて、当たり前ながら見える色が変わる。

 ──そして見える色が変わったことで、残っている文字も違う。これはと思い、奥歯に力が自然と込もりながら、トーチカの端末を見た。アルメールのものと同じ色、しかし違う文字が。

 

「……! 皆! 待って!」

「? 何か見つけた?」

「この暗記シートを使ってルール説明のファイルを見ると文字が抜き出せる。出てくる文字が、人によって違う」

 

 つまり──最後の謎は、全員が協力しなければ辿り着けない。

 

「3班も! 協力して! お願い!」

 

 プラリーヌを見て、めんどくさそうに目を逸らされた。それからライトニングを見る。彼女は戦闘態勢、帯電していたはずだったが、アルメールとじっと見合って、それからトーチカやアーデルハイトを見回して、手元の青のガラス玉を見て──最後に、帯電を解いた。

 

「仕方ないわ。協力しましょう」

 

 ──来た。3班の協力を取り付けた。緊張の糸を弾かれて、アルメールは息を吸うのを忘れて倒れかけ、ジュエリーゼリーに支えられた。

 

「メルメル、大丈夫?」

「はぁ、はぁ……大丈夫、うん、大丈夫。ありがとう」

「メルメルだから辿り着いたと思う。ぐっじょぶ」

「はぁ〜あ。つまんないの〜。でもベル先なら人が良さそうだしこうもなる、かぁ〜」

 

 プラリーヌはさっさと諦めたらしく、もう魔法の端末を出して表示までしてくれていた。これはアルメールの端末側でメモまでしっかりした方がいい。こういう時に使うタッチペンは、しっかり携帯している。

 

 

 

 ◇ディティック・ベル

 

「お疲れ様っす〜」

「あ、ラズリーヌ。お疲れ様」

 

 ラズリーヌが戻ってきた、ということは青の試練も無事突破されたということらしい。挑んだのは3班で、コンビネーションには光るものが見えた、という。実際に交戦したラズリーヌからの評価を聞くと、担任としてとは違う視点でまた考えさせられる。

 

「謎解き課題、最後まで行くっすかね?」

「行くよ。ほら、もうすぐ」

「……あっ! ほんとっす! おーい! みんな〜!」

 

 最後の謎は複雑にし過ぎたかと思ったが、心配は杞憂に終わった。なぜならば、一度スタート地点に戻ってきた後、解散、最後の最後に集めきって戻ってきたその時、皆が肩を貸したり、話し合いながら、和気あいあいと固まって戻ってきたからだった。

 

 8色目のガラス玉、『黒』の問題は、全員の端末に送ったルール説明を問題文として、シートを使って解くと次のシートやキーアイテムの在り処が次々と示され、最後には宝箱に到達する……という最後にして最大のお使い謎解きだ。

 そんな黒のガラス玉と一緒に、これまで集められてきたガラス玉が嵌め込まれて、8つのスロットが埋まる。順番も、謎の途中で示された通り。皆は息を呑み、ラズリーヌたちに用意してもらった特大のくす玉がファンファーレと共に破裂、『CONGRATULATIONS!!』の垂れ幕と紙吹雪が降り注ぎ、ディティック・ベルは拍手しながら皆の前に出た。

 

「おめでとう。思っていたよりずっと早いクリアだったよ」

「班対抗でしたよね勝者は誰になるんでしょう結果は発表していただかないと」

「……それもそっか。私はこの課題で、みんなに『答え』に辿り着いてほしかったんだ。手を繋ぐこと……というか。協力する、ってことが『答え』だよ」

「……つまり?」

 

 こうすると、ライトニングやシン・ソニックみたいな対抗意識の強い子には良くないかもしれないが、初めからずっと、こうするつもりだった。

 

「勝者は全員! おめでとう、魔法少女学級諸君!」

 

 ここでラズリーヌと、ついでに来てもらったツインウォーズ先生にもクラッカーを鳴らしてもらった。初めは呆然としていた生徒たちたったが、主にライトニングやベクトリアがハイタッチやらを始めて、やがて内気なレモネードやめんどくさがっていたプラリーヌも巻き込んだ。

 この光景がディティック・ベルのやりたかったことだ。謎解きラリーを作ってみたかった……というのもあるけれど。皆が楽しんでくれたのなら、先生冥利に尽きる。

 

「じゃあみんなで! ベルっちを胴上げっすよ!」

「そうだね! やはりこの素晴らしき舞台を用意した最大の立役者から!」

「ラズリーヌ様がそういうのなら! ベル先生も実質主役ですわ〜!」

「なんでそうなるのかわかんないけど面白いから持ち上げちゃお〜」

 

 ──いつの間にか混ざっていたラズリーヌによって、なぜか生徒たちに持ち上げられ、胴上げされる羽目になったが。それはそれで楽しかった、ということで。

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