魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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プロローグ
始まりは一筋の青


 ◇ディティック・ベル

 

 長かった冬が明けようとしている。まだ肌寒いがゆえ、暖房代節約のため、ケープのおかげで暖かい魔法少女姿で生活中だ。結局人気のないアパートの隅に開業したラズベリー探偵事務所は、残念ながら設備を新しくすることもできず、ディティック・ベルは白い息を吐きながら、それっぽく新聞を読み、熱いコーヒーで気を紛らしている。

 

 ディティック・ベルがラズベリー探偵事務所を設立できたのは、あの事件があったからだ。『魔法少女育成計画』──複数名の魔法少女が命を落とした、キークの狂気のゲーム。その臨時収入のおかげで夢を叶えられた。この夢が命の上に成り立っていることは、片時も忘れたことはない。

 

「ベルっちぃ、みかんなくなっちゃったっす」

「え……私はまだひとつも食べてないんだけど」

「あ、じゃあ全部あたしっすね。買って……んー……でも寒くて出たくないっすね……がまん……」

「後でまとめて買い出しに行くから」

 

 彼女はラピス・ラズリーヌ。ディティック・ベルの助手で、バトル担当だ。魔王塾卒業生ともやりあえる武闘派で、事実、1年前の事件でも彼女がいなければ自分はどうなっていたことか。今はこたつから出てこない飼い猫みたいな感じだが、それはそれで可愛い奴ということで。仕方ない、可愛い助手のために、そろそろ買い出しに行こうか。

 ディティック・ベルは残り少なかったカップの中身をぐいっと飲み干し、ふぅ、とひといき吐いて、支度のために変装用の外套と買い物袋を手に取ろうとした。

 

 そこへ鳴るインターホン。ラズリーヌの尻尾がぴんと立ち、こたつから飛び出し、我先にと玄関に駆けていった。彼女が通販で何か注文でもしたのだろうか。なんとなく玄関の方を見ていると、その向こうに立っていたのは顔見知りだった。

 

「ミルっち〜! 来てくれたっすね〜!」

「お久しぶりです! ミルキーウェイです!」

 

 ラズベリーに手と尻尾をぶんぶん振って歓迎され、その青い魔法少女は照れくさそうに笑った。彼女、ミルキーウェイは人事部門の警備員をやっている、ラズリーヌの友人だ。昨年の大事件では危ないところを助けてもらった。それからもたびたび、遊びに来たり仕事関係の話だったりと顔を合わせる機会がある。今回はどちらだろう。

 

「人事部門長からのお手紙をお預かりしてまして」

 

 なるほど、そっちだったか。魔法のかけられた封書を受け取り、開封。魔法の封書は送り先の相手以外開けられないようになっているうえ、手でも綺麗に開いてくれる。中にある手紙は無傷で取り出されて、何気なく開いた。達筆で、時候の挨拶からきっちり書かれている。さすがは従者がいるリアルお嬢様、なんて思いつつ、覗き込んできたラズリーヌと一緒になって読み進めていく。

 

「『正しい魔法少女を育てるための魔法少女学級』……だって。学校なんて作るんだ」

「面白そうっす!」

「『その講師に貴女を推薦しておきました』……はい?」

 

 ……講師? なんで? ディティック・ベルが? 

 一応短大卒ではあるが、教職課程にあったわけではない。もちろん教員免許もない。探せば先生かつ魔法少女くらい見つかるのではないだろうか。

 意味がわからず、少し立ち止まり、それから続きに目を通す。

 

『免許や資格については問題ない。通常授業は他の者が担当する。家庭教師のアルバイトの延長のようなものだと思ってくれていい』

 

 見透かされている。いや、それならばなおさら、他に適任がいるのではないだろうか。正しい魔法少女を指導する立場として、魔法少女で探偵事務所なんて常道とはちょっと外れた選択をしている奴なんて連れてきても。

 

『生徒は各部門からの被推薦者になる。貴女の仕事は資質と思惑、つまり真実を見極めることだ』

 

 真実──。

 いや、探偵っぽい言葉遣いに踊らされているだけだ。無茶ぶりであることに変わりはない。ないのだが。隣で見ているラズリーヌがあまりにも興味津々に、目を輝かせていた。

 

「ベルっちベルっち、これってすごいことっすよね?」

「……そうかな」

「だってぇ、ベルっちの人間観察力? が買われて、魔法の国がやってる学校に潜入……! ってことっすよね!?」

「そう、なるのかな」

 

 人事部門長のプフレともまた顔見知りだ。共にキーク事件を生き残った仲間だと言ってもいい。コネというか、縁のおかげで回ってきた仕事ではある。ただ、あの周到でカリスマ性の塊のようなプフレに選ばれたのであれば、栄誉……と、言えるかもしれない。

 これはもはや魔法少女的な人助けでも、現実の探偵的な地道な解決でもない。魔法の国に関わる大仕事だ。探偵らしからぬと言ってしまえばそこまでだが──。

 

『ちなみにだが決定事項だ。いずれ必要な書類などが届く。よろしく頼むよ』

 

 やっぱり無茶ぶりは無茶ぶりだった。強引だが、やるしかないらしい。深く、ため息混じりの深呼吸。そしてラズリーヌと目を合わせ、彼女のキラキラした青色に網膜を焼かれそうになりながら、落ち着いた。

 

「えっと……うちのボスがまた何か大変なことを……?」

「いや、大丈夫。ミルキーさんは何も悪くないし。この仕事、請け負う。そう伝えておいて」

「はいっ!」

 

 なぜわざわざ手紙で送ってきたのかと思ったが、もしかしたら完全に有無を言わせないためか。とんだむちゃくちゃお嬢様だよと苦笑いして、手紙を畳もうとする。と、封筒の中から、最後に何かがひらりと落ちてきた。とても封筒に入り切る大きさではないのに折り目がついていないのはさすが魔法の国の書類だ。見ると、本当に魔法の国が発行する何かの証明書らしい。……中身は、教職系のものであることはなんとなくわかった。試験らしいものは受けていないのに、そんな──。

 

「……ん?」

「どうかしたっすか、ベルっち?」

「そういえば前ミルキーウェイが持ってきた依頼で何か解かされたのって──」

 

 もっと前から、そのつもりで用意を進めていたのか。何も知らず踊らされていたわけだ。どうしようもなく笑えてきて、顔を手で覆った。

 

 

 ◇ブルーベル・キャンディ

 

「人事部門から派遣される講師ですが、ディティック・ベルという魔法少女だそうです」

 

 研究部門から連絡のために訪れた魔法少女は、跪き、そう告げた。ディティック・ベル、知った名前だ。誰から聞いたものだったか、少し考え、思い出し、合点がいった。

 どうやらプフレは、オールド・ブルーが2代目ラピス・ラズリーヌを呼び寄せる気であったことを見抜いていたらしい。でなければ、わざわざ探偵に教師を依頼などしない。隣でオールド・ブルーも、ほんの少しだけいつもと表情を変えて、目を見開いていた。

 

 ディティック・ベルが教師役になるのであれば、当然2代目ラピス・ラズリーヌも一緒になって現れる。こちらが関わっているのを知って、むしろ投入してきた、ということか。巻き込まれる側はたまったもんじゃないだろうが、ほんの少し、こちらも予定変更をする必要がある。

 

「へー、その子、可愛いの?」

 

 付近でクッションに寝転がり、くつろいでいたもうひとりの少女が、寝返りで白黒ツートンの髪を揺らし、顔を出してくる。広報部門のエージェント、それも裏仕事を専門にする彼女は、こうして味方でいる間でも油断はできない存在だ。くつろいでいるように見えて、その隙は緩みではなく挑発だ。

 どんなパーソナル情報よりも『可愛い』を優先するあたりが彼女らしさ、ということになるのだろうか。その答えを聞いて何になるのかはわからなかったが、傍らのオールド・ブルーが答える。

 

「可愛いですよ。うちの可愛い弟子が、惚れ込むくらいには」

「ふーん。かわいいのリレーなんだねー」

 

 特に意味があったわけではないらしく、前髪を気にする彼女。そのモチーフと着ぐるみめいたコスチュームのせいで指先が分かれておらず、やりづらそうにしている。それでもちょいちょいと弄っているのは年頃の乙女の本能か。

 

「まーどっちでもいっかー! ペンギンちゃんは会わないしー」

 

 本当に他愛のないやり取りだったらしい。発言のひとつひとつを警戒し気にしていたこっちが馬鹿らしくなる。

 

「これで、先生含めて、みんな出揃ったね」

 

 ブルーベル、オールド・ブルー、そしてキューティーペンギン、皆の中央に座り、ぷらぷらと足を揺らしていた『彼女』が鈴を鳴らすような声を出す。

 

「他部門、他派閥の干渉のせいで、貴女のお気に召す結果になるかはまだ未知数ですが」

「いいの。みんなが選んでくれた子たちでしょ? いい魔法少女になるよ、きっと!」

「そーそー、魔法少女って、可愛ければいーの」

 

 そうは言っていないと思うが。キューティーペンギンには言っても糠に釘だと言葉を押しとどめた。

 

「──うん。いい魔法少女になってくれるよ。プクのために」

 

 彼女──『プク・プック』は微笑み、目の前に出されていたお菓子を口に運ぶ。そしてせっかくだからと、報せにやってきた魔法少女に対してもお菓子を薦めていた。

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