魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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閑かに話そう

 ◇ディティック・ベル

 

 大忙しだった宿泊研修が終わり、校舎に戻ってきて一息を──つけるはずもなく、終わったら終わったで忙しい日々が始まった。各所への報告やら次の計画やら何やらが積まれ、書類仕事にラズリーヌを呼びつけ「何なんすかねこれ」と言わせながらも単純作業を任せるくらいに色々追われた。必死になってやりきって、次に来た大イベントはプフレからの呼び出しだった。

 

 これで人事部門に来るのは何度目か。何度来ても慣れないし、今にも迷子になりそうだ。ラズリーヌは受付の魔法少女といつからか顔見知りになっていたらしく、知人に対する態度で朗らかに話しかけ、部門長に会いに来たなんてさらっと言い出したうえで、受付を済ませていた。

 

「担当の子がすぐ来るから待ってて、だそうっす」

「そ、そっか、ありがとう」

 

 それからソファに座り、最近復活したフリードリンクをいただきながら少しゆっくりして、こちらに駆け寄ってくる魔法少女の姿を見る。あの見慣れた青にきらめく首元のカラフルなネックレス、ミルキーウェイだ。

 

「ミルっち〜! 元気だったっすか〜!」

「はい! ミルキーウェイ、元気です! 部門長ですね、ご案内します!」

 

 ラズリーヌが積もる話でいっぱいなようだが、さすがは仕事熱心な彼女はソワソワするラズリーヌに特別なことは言わず、無事部門長室まで送り届けてくれた。次の仕事のため持ち場に戻ったミルキーウェイに礼を言い、今回用事のある荘厳な扉に向き直った。そっとノックを2回。中の人の返事をいただいてから、引く。

 

「やあ。直接会うのはいつぶりかな」

 

 出迎えたプフレになんとなく緊張させられながら、空いているソファに座らされる。時候の挨拶に混ぜ、これまでは手紙や電話口だったのにいきなりどうしたのか、なんて聞いてみると、さらりと答えられる。

 

「通信が信頼できないというほどじゃあないんだがね、大事な時は顔を合わせるようにしているのさ」

「表情とか見るのは大事っすよ。師匠の受け売りっすけど」

「それに今回は少しね」

 

 プフレがわざわざ車椅子を前につけ、向かい合う形になった。表情が大事だと聞かされていても、プフレの微笑みのような無心のようなどちらとも取れる表情では読み取れるものもない。ただ少なくとも、死のゲームに巻き込まれている時よりはずっと余裕がある。

 

「各部門で今の私と似たようなことをしている、と聞いてね。わざわざ直接指示を出された生徒がどう動くのか。警戒はした方がいいだろう」

「……学校生活に影響が出る、と」

「そこまでしてくる可能性はあるね」

 

 生徒たちは皆、いい子だ。ちょっと主張が強い子もいるにはいるが、今のところ激しい問題もなく、宿泊研修も何事もなく終えられた。このまま卒業まで何もなければいいのに、魔法の国の方はそうもいかないらしい。魔法少女たちの学生生活を隠れ蓑にして、思惑を蠢かせあっている。そしてプフレはそれを動かす側だ。

 

人事部門(ここ)の後ろ盾はカスパ派だが、情報局──オスク派系だね。それにプク派系の広報部門については、ある程度の協定がある。

 オスク派系で言えば第八宿舎もそうだ。そもそもあそこの看守長は元人事部門。彼女からの推薦枠が双子の2枠なのは、我々と情報局の友好の証と言えるかな」

 

 そもそも派閥を超えた協定が行われている時点で、プフレの見る先には茨が敷かれた道があるのが見えている。どころか、もう茨の中に足を踏み入れているのかもしれない。そしてその最終目標を、ディティック・ベルでは知る由もない。

 

「私としては……学級内までは持ち込まないでいただきたいと思います。生徒達にまで代理戦争をさせたくない」

「それは私も同じだとも。ただ、やりたがる連中には策を講じる必要がある」

「……よくわかんねーっす! とにかく! 学級崩壊したりを食い止めろ! ってことっすよね。みんな平和に! って!」

「ああ。そうなれば、君の師匠も関わってくるだろうからね」

 

 そう簡単に言われても、街の治安維持とは訳が違う。単純に悪者をとっちめて終わり、になってくれたらどんなに良いか。探偵どころか、先生としても頭が痛くなる話だった。

 

「敵が誰かは不透明だ。だが恐らくは──」

 

 

 

 ◇アルメール

 

 宿泊研修とゴールデンウィークを挟んだ連休明け。通常授業に戻り、登校は教室に。アルメールはまだ1週間と少し使っただけの、出席番号1番の最前席に座る。

 

「おはよう、メルメル」

「おはようございます」

「おはようさん」

「また今日という舞台が始まる! チャイムをブザーに、鉛筆を剣に、歯車を学力に!」

「朝から何言うてるかわからんね」

 

 そのうち自然と集まってくる2班のメンバーたち。今日の班員からの挨拶は比較的大人しい、かと思いきや顔を上げると目元にピースを添える独特のポーズを伴っており、自信満々なジュエリーゼリーの顔を見るに彼女の仕業だろうことがわかる。ついでにそれだけじゃない。教室を見回すと、こちらに気がついたマスカット・マスケットやキューティープラリーヌが同様のポーズで返した。他班にも伝染している。宿泊研修のおかげでクラスの中での距離感は縮まった。こうして班を超えておふざけが共有されるほどには。

 ゆえにアルメールも、皆の様子は見ておく。普段と違うのは──なんだか疲れた顔をしたトーチカ、か。接点がないとは言わないが、わざわざ話しかける仲でもないなと思っていると、アーデルハイトからの言葉が来る。

 

「部門所属の魔法少女は結構呼び出しくらったんやて。ほら、シン・ソニックもなんか浮き足立っとるし」

 

 アーデルハイトが言っている通り、椅子に腰掛けつつも足を頻繁にブラブラさせ落ち着きのないシン・ソニックが見られた。監査部門であることを時折口に出しており、そのことに誇りを持っている彼女なら、部門からの指示か何かに張り切っているんだろう。

 

外交部門(ウチ)もそや。上司に色々聞かれて大変やったわ」

「『アルメールはツッコミが上手いですよ』みたいな報告をした? よかったねメルメル、外交部門からツッコミのお仕事が来るかも」

「いらないけど……」

 

 トーチカはどこかに所属しているような魔法少女だったろうか。アルメールは知らない。ふと注意を向けていると、ちょうどレモネードとトーチカが話しているらしい。近くで好き勝手喋っているベクトリアのおかげでレモネードの声は聞き取りにくいが、トーチカ自身のは盗み聞きできる。

 

「いや……ちょっと、偉い人に会ってきた心労と……なんか、嫌な予感がして」

 

 予感……か。魔法少女は埒外の存在だ、その直感は何かの変化を感じ取った結果出てくるもので、そういうのは当たりがちだ。彼の嫌な予感が外れるように祈りつつ、意識を前に戻す。と、視界に圧倒的な存在感の美貌が目に入ってぎょっとする。ライトニングだ。わざわざこっちに来たらしい。そもそもジュエリーゼリーにベクトリアにアーデルハイト、美人だらけの視界にライトニングまで来ると、やたらとキラキラしていてここにいるのが辛くなってくる。

 

「なんの話してるっすか?」

 

 そこへすっと入り込んでくるランユウィに、その後ろで控えめに見ている思案。ライトニングを連れ戻しに来たらしい。当のライトニングはアーデルハイトにちょっかいをかけに来ただけだったらしく、すんなりと離れていく。ようわからん奴やなほんまにとこぼしたアーデルハイトに、心から同意する。そうして席に戻る後ろ姿を見送ろうとした時、はらりと、思案のポケットから何かが落ち、最初に気がついたベクトリアが手を伸ばした。

 

「お嬢さん」

「……っ! あっ、ひ、拾ってくださったんですのね! ありがとうございますわ!」

 

 声をかけるや否やひったくるように取り返して、小走りで戻っていった。なんだったのかベクトリアと顔を合わせたが、彼女も何だったのかはよく見ていないらしい。

 

「人の落し物を勝手に覗くのはよろしくないだろう? あぁだが、差出人はオールド・ブルー、となっていたようだね」

「オールド・ブルー?」

「確か、ラピス先生、ユウィ、思案の師匠」

「お師匠様からのお手紙ね」

 

 本人には聞こえないようにボリュームを落としつつ、話題はオールド・ブルーとやらに移っていく。どうやらジュエリーゼリーが聞いた話によると弟子は彼女らだけに留まらないらしい。先生のラピス・ラズリーヌは名前を継いでいて、実は師匠である先代も『先生のラピス・ラズリーヌ』になってしまうため呼び分けが大変……みたいな話になって、噂話で盛り上がり始めた頃、扉が開いた。生徒は揃っている、つまり先生だ。また後でと声を交わして、一時解散だ。

 

「みなさん、おはようございます。それでは5月7日──」

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