魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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夜の学校は怖いところ

 ◇雷将アーデルハイト

 

 夜の学校は薄気味悪さに包まれる。まともな小学校生活を送っていないアーデルハイトに、やたらと明るい春の月明かりの下でさえ、怪談のような言い知れぬ不気味さを覚えさせるのだ。無機質で、何も言わぬその様がそうさせるのか。あるいは本来明るいうちにしか訪れないことに対する背徳感、か──居心地のいいものではない。そして、ここが魔法少女学級で、警備が普通の学舎のそれではないという事実もまた、ここに立つ緊張感を産む。

 

 わざわざ夜中に来た理由は警備の確認だ。侵入して欲しいものがある、わけではないし、忘れ物をしたわけでもない。実際の目的は具体的にはない。建前の方は、夜間のパトロールでもしに来ましたと言っておけば通じるだろう。

 どう侵入したものかとルートを模索する。梅見崎中学校の方は、人間社会の警備システムが張り巡らされている。引っかからない侵入を専門とする魔法少女でもなければ、警備会社が飛んでくる。アーデルハイトは目立ちに来たわけではない。本命である魔法少女学級の方へは、警報のない屋上を経由して行くことにする。グラウンドの方から旧校舎に行けばどうにかなるか。そう考え、グラウンドの野球で使われるネットを経由し、貯水タンク目指して跳んだ。この時蹴った支柱がやや歪み着地先のコンクリートが少し凹んだことを反省しつつ、深く息を吐く。夜風がマントを靡かせる。

 

 あとは旧校舎の入口に降りるだけだ。どこまでが魔法的な警備なのかを確かめるため、その辺で拾った枝を投げてみる。旧校舎入口手前、十メートルまでは反応がない。その地点まで飛び降りてみる。それから今投げた枝をまた拾って、入口に投げた。今度は一定のラインを超えた瞬間に、旧校舎周辺の夜闇が揺らいだように見えた。いや、あれは夜闇に紛れる黒い人型、ホムンクルスだ。やはり対策はされているか。

 警備用のホムンクルスを舐めてはいけない。かつて魔法少女管理部門に喧嘩を売った魔王塾生たちが返り討ちにあったなんて話があるくらいだ。アーデルハイトとて、魔王塾生の例に漏れず腕っ節に自信は少なからず持っている。それでも触れるべきでないものなのが見え見えだ。

 

 軽く溜息を吐いて、今日のところは確認で済ませて帰ろうと振り向いた。その先に、見覚えのあるシルエット。長い黒髪に何を考えているかわからない微笑みを浮かべ、夜に溶け込むような立ち姿だった。街灯の明かりだけでもその浮世離れした顔立ちは目立つ。

 

「入らないの?」

「入らんよ。ちゃんと魔法少女も入れんようになっとるみたいやもん」

「ふぅん。魔王塾生なら、飛び込んで大暴れ、とかするものだと思ってたわ」

「するような連中は破門されてるんよ。余計な騒ぎ起こすんはただの常識外れやろ。真っ当な魔王塾生なら見えてる地雷は踏まんし余計な叩き売りの喧嘩なんて買わん」

「あらそう。買わないの? なら押し売りしてあげようかしら」

 

 目の前の彼女が取り出したのは街灯を反射して光るオレンジの宝石だ。──オレンジ? アーデルハイトが疑問を抱く暇もなく、額に翳した宝石は自ら輝きを放つ。

 

「プリンセスモード・オン」

 

 巻き上がるのは雷、ではなかった。熱風が吹きつけてきて、思わず腕で顔を覆う。そしてその後に立っているのは、思っていたような人物じゃない。赤熱したツノ、火砕流を思わせるマント。振るうのは剣ではなく、ライフルの先に刃の取り付けられた銃剣だ。それを片手で構え、迷いなく弾丸が放たれる。咄嗟に躱した先で、弾丸は激しく熱を放ち、着弾した先の窓ガラスを窓枠ごと融解させる形で破壊し、融けたガラスが光を放っている。

 

「まさに火山弾。いいでしょ?」

「っ……なんやあんた、学校ぶっ壊しに来たんか」

「半分くらいそう。残り半分は……あなたを壊しに来た! ってところかしら!」

 

 銃剣を赤熱させながら迫る少女。どうにか引き抜いた軍刀で受け止める。近くにいるだけで汗の吹き出る凄まじい熱エネルギーだ。そのうえでさらにマントの裏側から赤く輝くマグマが溢れ出し、アーデルハイトを飲み込もうと襲いかかる。

 

「っ……獅風迅雷(ブリッツクリーク)!」

 

 銃剣を押し返し、足元にエネルギーを集中、一気に蹴って上方へ逃げ、そこを狙ってくる火山弾を斬り裂いて防ぐ。斬った半分がこちらのマントに掠り焦がされる。あんなもの、肉体に喰らえばいくら魔法少女でも丸焼けだ。電撃を放ち牽制、着地の隙をなくし、今度はこちらから距離を詰め、相手が放ち続けている熱のエネルギーを吸収、体内に溜めていく。

 

「なんなんやあんた。えらく誰かさんに似てはりますけども」

「『プリンセス・ボルケーノ』と呼んで。全てを焼き尽くす最新のプリンセスの名よ」

 

 やはりライトニングではない。その姿も共通項は少なく、あるとすれば変身に用いていたこの宝石。ティアラと胸元、二箇所に填められているということは同じだ。だがその宝石の輝きは違う。いや、ティアラにある透明の輝きは同じ……なのだろうか。

 そんなことを考えている暇はほとんど与えられなかった。銃剣を振り回し、時折銃口を向けて火山弾を放ち、全ての攻撃への対応を強いられる。が、常時熱を放ち続けていることは好都合だ。叩きつけられた銃剣を受け止め、突き飛ばしながら潜り込み、溜めてきたエネルギーを一気に纏わせる。

 

閃手必勝(カイザーシュラハト)

 

 腕から溶岩を展開して受け止めようとしたボルケーノ。しかし激しい閃光が溶岩を散らし、彼女の体を貫いた。飛散したその少しがアーデルハイトに付着し腕を火傷させられるが、その程度で済むなら構わない。肺から息を一気に吐き出して、よろめくボルケーノ。その顔から余裕の笑みは消えている、ライトニングならばまだ笑っていただろうに。

 

「なかなかやるじゃない」

「そいつはどうも」

「本気で融かすわよ」

 

 全身から溢れだしてくる溶岩。まずい、このままボルケーノが本気を出せば学校の施設が破壊される。そもそもここで交戦していること自体が問題で、既に破壊行為は起きている。それでもこれ以上壊されては問題になる。その手にした銃剣は溶岩を纏い姿を変え、大剣と化した。あれはいくらなんでも受けきれない。振り回すだけで街路樹が消し飛び、学校の外壁が削られる。横薙ぎを避け、振り下ろしを躱し、地面に突き刺さり、その瞬間を狙い電撃を飛ばし、まともに食らったボルケーノはビクンと痙攣するが、まだ諦めようとしてくれない。

 

「なんなんや! 最新型ってなんやねん! なんでわざわざ戦わなあかん!? せめてなんか話せや!」

「ダメ」

 

 問い詰めて稼ごうとした時間は一蹴される。代わりに貰った火山弾が脇腹の皮膚を削り、激しく痛みを齎してくる。そのせいで反応が遅れ、振り回される溶岩の剣を受けようとした軍刀が吹っ飛ばされ、アーデルハイトの手元から武器が奪われた。

 

「さあてもう終わり? この程度? 魔王塾生なのに。ねえ?」

 

 ボルケーノは笑い始めていた。その表情は似ているようで、似ていない。ライトニングの持つ気品が見えないせいか。作り上げられていく巨大な噴炎の柱を前に、アーデルハイトは苦笑した。

 

「それならとっておきの一撃でシミにしてあげる! どうせなら技名も考えてあげましょうか! そうね、ボルケーノ、ボルケーノ……きゃっ!」

「そいつはあらかじめちゃんと調べて決めとくもんや」

 

 これほど熱を吸収し続けていれば、閃光弾からの獅風迅雷(ブリッツクリーク)で拾いにいける。軍刀は取り戻した、が、それでどうする。今から仕掛けて間に合うか。既に逆上したボルケーノは振り下ろす体制だ。逃げ切れるか。あれが落ちた破壊規模ならどうなってもおかしくない。全身を循環させ続けているエネルギーを、どう回す。

 

 その時、ぴたり、と。頭上の柱が止まる。有り得ない、なんて言おうとしているのか、歯噛みするボルケーノ。だが確かに動きが止まった。後方には人影だ。学級の生徒ではない、アーデルハイトの知る相手じゃない。かといって誰かを見ているほどの余裕もなく、アーデルハイトは仕掛けることを選んだ。溜めたエネルギーは一気にぶつける。

 

閃手必勝(カイザーシュラハト)ぉっ!」

 

 雷鳴がボルケーノの体を貫いた。叩きつけられたエネルギーで彼女は吹き飛ばされ、旧校舎の方に放り込まれる。噴炎の柱は崩壊し、花壇を潰すのみに留まった。そして本体は警備用ホムンクルスに群がられ、姿が見えなくなっていく。

 

「ハァ、ハァ……ほんまに、なんやったんや……あぁ、あんた、助かったわ、あんたも何モンや」

(わたくし)? えぇ、そうですわね、貴方は確かおうじさまの……ふふ、でしたら、明日、わかることでしてよ」

 

 そう言って、ピンク色の魔法少女は姿を消す。追う気力は今のアーデルハイトには無い。あの時ボルケーノが止まったのは、さっきの魔法少女の仕業だろう。味方……なのだろうか。明日わかるというのなら、明日を待てばいい、か。

 

 それよりも、だ。ボルケーノの様子、死体になっているなら死体を確認しに行こうと覗いた時、校舎の前に激しく炎が噴き上がる。噴火が起きた、ということはまだ生きている。軍刀に手をかけ身構え、覚束無い足取りで抜け出してきたボルケーノは、いつの間にか身につけていた外套のフードを被り、顔を隠していた。

 

「今日は……ここまでに……してあげるわ……」

「二度と来んなや」

「覚えて……なさい」

「待てや、おい、おいこら!」

 

 逃げ足は速い。余力は多少あったのか。あのままやり合っていたらどこまでやられていたか。アーデルハイトは寄りかかれるものが軒並み焼き尽くされた光景に、深い溜息を吐き、その場に寝転がった。

 

「意味わからん……どっちも……」

 

 夜の学校は嫌な場所だ。怪異よりも酷いものが出た。アーデルハイトは額の汗を、火傷で痛む手で拭った。

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