魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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参観日という舞台で!

 ◇アルメール

 

 ──学校生活も、もうすぐ2ヶ月。こうも毎日騒がしいと慣れてきてしまって、班員の口から飛び出す不可思議の数々を取捨選択できるようになってきたつもりだ。つもり、なのだが。班員側もエスカレートしており、今日は朝からわざわざ校舎裏の非常階段に集められ、班員が皆悪い顔をしている。この異常な状況に、どう反応していいかわからず、誰かの発言を待つ。

 するとジュエリーゼリーが、わざわざ可愛らしい上着をマント代わりにして、ボス役を買って出た。

 

「これより、魔法少女学級第2班暗黒定例会議を行う」

「いきなり知らない会議始まった!?」

「本日の議題は……一週間後に迫った、暗黒参観日」

 

 参観日。本来は普通に暗黒はついていない、ただの参観日。普通の学校なら保護者が授業の様子を見に来る日だ。だがここは魔法少女学校。アーデルハイトの実家のように親族が魔法少女であるパターン以外では、やってくるのは魔法の国関係だ。主に所属しているチームや部門の上司、推薦した部門の人なんかが、その生徒の関係者としてやってくる。アルメールの場合は、法務局のお偉いさんが来るかもしれない、らしい。顔も見たことないので、来られてもわからない人だと思う。

 

「うちのオカンは……来ないでくれへんかな」

 

 親も魔法少女のアーデルハイトは嫌そうな顔をしていた。親に学校での自分を見られるのは、確かに嫌だ。アルメールも小学校の時、来ないで欲しいと思った覚えがある。

 

「実を言うとその日、我らが暗黒チーム、暗黒MyNameの暗黒メンバーが来るで暗黒」

「あぁ語尾まで暗黒になっちゃってる……」

「MyNameといえば、フリーランス魔法少女のチームだね。今は人事部門をパートナーにしていると聞いたよ」

「うん。学級への推薦もしてもらった」

 

 この魔法少女学級に推薦されている時点で皆しっかりエリートなんだった。普段の振る舞いがそんな雰囲気ではないせいで忘れていた。

 

「それはそれとして。そう、仲間たちが来る」

 

 魔法少女の中にはチームを組んでの活動をする者も多い。アニメの影響だったり、友達の延長だったり、純粋に雇われたり、始まりは色々だ。そして特に、ジュエリーゼリーの所属するチームは、彼女が小学生時代から一緒に活動している、半ば家族のような存在。参観日にやってくるのは自然なこと、のようだ。そしてそこで、ジュエリーゼリーからの本題に入る。

 

「あのね。せっかく来てくれるから、ジュエリーゼリーはうまくやってるぞ、って、見せてあげたい。それで、ちょっと協力してほしくて」

 

 普段何を考えているのかわからないジュエリーゼリーだが、今は素直だった。その眼差しには耐えられず、アルメールが頷くと、アーデルハイトもベクトリアも当たり前に力を貸そうと胸を張った。

 

「でも参観授業の内容って、普通だよ。魔法少女学の、言っちゃなんだけど、話聞くだけの授業」

「ならば! 作ってしまえばいいじゃないか。試練を」

「試練?」

「あぁ試練だとも。そしてそれを華麗に解決してしまえば、主役はキミになる」

「……試練って。どうするの」

「そうだね! ボクに任せたまえよ!!」

 

 ベクトリアがそう言い出すのはなんだか不安が残るが、なんだかんだ頼れるのが彼女でもある。普段からして自信満々な彼女がさらに自信を持った様子なのが余計に、だ。まあ、悪い奴じゃないことは知っていて頼んでいるんだし、言われた通り任せて……みてもいいのだろうか。

 

「どうすんねや? 授業内容は変えられへんやろ? かくし芸大会ならなぁ」

「スベるだけだよ」

「やかましわ! それならいっそ殴り合わせろとか模擬戦をさせろとか交渉してみるかいな? いや、なんか、どっかの誰かさんはもう既にどっかでやってそうやけども」

「ベル先生ってよく疲れた顔してるし、負担はかけたくないよね」

「もちろん別の方法を考えるとも。授業外で、ということだね」

「せやなぁ。ま、手伝えることがあったら言ってや」

「本人もがんばる」

「あ、私も出来る限りでよかったら」

「ありがたい言葉をありがとう。役者が必要になれば、声をかけさせてもらうよ」

 

 キラリとウインクしてみせるベクトリア。その日から何やら彼女は単独行動が増えていった。

 

 ──そして、当日が来る。アルメールは特に声をかけられなかった。仕込みに参加しなくてもよかったらしい、が。何が繰り出されるのか。不安すぎる。

 

 魔法少女学級の教室は後ろの方が人数の関係で余っており、そのぶんこの参観日には多くの人が入れる。生徒13人の関係者はかき集めれば溢れるだろうが、そこまでの人は来ないはず。そう、考えていたのだが。

 

「クラム! ファイトやで!!」

 

 飛んでくる関西弁、しかしアーデルハイトではない。ジュエリーゼリーの仲間たちのうち、明らかに関西弁を喋りそうな格好の小柄な子が手を振っている。サイズ的には、ジュエリーゼリーの妹、みたいだ。隣にいるモデルみたいな女性と包容力のありそうな女性がその両親っぽく見える。そう思うと止まらず、さらに長女がギャル、そのピアスまみれの悪い彼氏、元気印の末っ子、といった大家族の雰囲気が漂っている。

 クラム、というのは旧名のはずだ。ジュエリーゼリーは一度改名している。手続きの前に手柄を立てて人事部門に取り入らなければなかったとか色々な話があったがともかく、その改名前がクラムゼリーという名前だったはずだ。なんでも、魔法少女犯罪学の教科書にも載っている有名人と名前がとても似ているから、だそう。その名で呼ぶのを許しているというのも、きっと親しいがゆえの特別、なのだろう。

 

 名を呼ばれ、ジュエリーゼリーはびしっと、なぜか持ち込んだハチマキを締め、教室後方にサムズアップをし、授業に臨んだ。魔法少女学は魔法少女に関する社会科の授業みたいなもので、だいたいは話を聞いているだけ。授業中は、カツカツとチョークの音が響く。参観日だけあって、いつもある細かな私語や寝息は聴こえない。プラリーヌですらちゃんと話を聞いている……かと思いきや、ペン回しに夢中だった。人に見られていてそれでいいのか、キューティーヒーラー。

 

「今日は前回の続きの104ページから。えーっと、まずはこの時期の魔法少女についてだけど──」

 

 ディティック・ベルの話をちゃんと聞き、板書をとって、50分間が終わった。何事もなく終え、視察に来たお偉いさん魔法少女達は先生との話のために部屋を移動。帰りの会が始まるまで、待機ということになって、教室には魔法の国的な用事のない、純粋な関係者が残ることに。

 教室の中では、アーデルハイトが声をかけられるだけで嫌な顔をし、話しかけてきた煌びやかな姿の魔法少女に「なんでオカンやなくてゴージャスが来るねん」と話していたり、思案やランユウィが同門らしい魔法少女たちと集まっていたりしている。

 アルメールのところに来る関係者はもちろん居ない、かと思いきや、『キューティーショコラ』と名乗るとても愛想のいい子が挨拶に来て、プラリーヌがいつもお世話になってます、とお菓子を配り歩いていた。市販のチョコレート菓子だった。受け取ったチョコを食べながら、ぼんやりと色々あるらしい教室内を見回す。すると何やら、ベクトリアがここにいないことに気がついた。どこに行ったのだろう。

 

 考える間もなかった。

 

「ハーッハッハッハ!! 魔法少女学級の諸君!! ボクが来た!!」

 

 明らかに怪しい黒いバイザーを着用したベクトリアだった。どう見ても本人である。教室で変身姿なのは、先生が見ていないから注意はされない。

 

「ボクはダークベクトリア! 暗黒の力でこの学級を支配する!!」

「な、なんやて!? 侵略者やー!?」

 

 白々しく叫び声をあげるアーデルハイト。主にライトニングやアルメール、そして来賓の方々から何をしているんだこいつらはと言う目を向けられながら、ダークベクトリア(?)の演説が続く。そして彼女が手をかざすと、教室の扉から、角砂糖を積み重ねて作ったような人形が入ってくる。

 

「行け、暗黒角砂糖ゴーレムたち! あの……小柄なお嬢さんを捕まえたまえ!」

「ウチ!?」

「ちびっ子が捕まるのはヒーローショーの定番!」

「誰がちびっ子やねん!」

 

 ジュエリーゼリーの仲間である女性は人質にとられ、優しく押さえられている。彼女もなんとなく趣旨を理解したのか、ちょっと悲鳴が芝居くさくなっている。

 

「わー、捕まってもうたー! クラムー、助けてぇなー!」

「待っていたまえ同志よ……とぉーう!」

 

 華麗に飛び出すジュエリーゼリー。不可思議な決めポーズを決め、ゴーレムに向かっていく。が、その緩慢な動きでも変身なんてしていない状態では危険になる。ほどほどに苦戦すると、振り返った。

 

「みんな……私に力を!」

「あ。これっ、あれですね! 頑張れ! ジュエリーゼリー!」

 

 キューティーショコラがなぜか率先して参加、数名は乗ってくれて、声援を背に、ジュエリーゼリーはむふっと笑った。そして、さっきよりも不可思議なポーズをとり、魔法の端末を掲げ、魔法少女姿に変身。角砂糖ゴーレムの周りに多数のゼリーを出現させると、彼女の合図で一斉にはじける。

 

「くらむ……ぼん!」

 

 連鎖的に起こる破裂。削れていく角砂糖ゴーレム。最後にひときわ大きく、「ばよえ〜ん」の声でゼリーが大爆発。するとゴーレムの中から、飛び出してきたのは、感謝を込めたメッセージと、包装された小箱だった。ちょうど人質ポジションだった彼女の手に渡る。

 

「チームのみんなへ……って、お手紙やないか。これ、まさかクラムの」

「……気恥しいから今は開かないで。……いや、訂正、今開いたらショック死する呪いをかけてあるから」

「おー怖い怖い。ほな、持ち帰ってみんなで読むかぁ」

 

 これは予定通り、なのだろうか。謎のお芝居の末、渡すものは無事渡せたようだが、アルメール的にはあのダークベクトリアをどうするのかが気になった。そしてじっと見ていると、ジュエリーゼリーの話が全部終わったと判断してようやく動き出した。

 

「このボクの手下が一瞬で! 覚えていたまえ、ジュエリーゼリー!」

 

 マントを翻して逃げていくダークベクトリア。その後にジュエリーゼリーの決めポーズタイム。彼女は拍手に迎えられ、ご満悦の様子。

 そしてすぐ後、変身を解除した姿で、バイザーが突っ込まれた手提げ荷物と一緒に、変身前のベクトリアが戻ってきた。何かあったのかななんて明らかにとぼけた反応の後、ジュエリーゼリーと親指を立てあっていた。

 

「いいお友達ができたんやね、クラム」

 

 ……結果として引き出した反応はこれだ。この寸劇作戦、成功はしている、のだろうか? 

 少なくとも、ベクトリアとジュエリーゼリーは楽しそうだった。教室もなんだかんだ、ノリのいい者は一緒になってショーを楽しんでいたという雰囲気だ。

 アルメールはとにかく拍手をした。拍手で終わればいい感じになる。

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