魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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開演のエンドロール

 ◇玲透館思案

 

 参観日当日は、ラズリーヌとしての師匠であるオールド・ブルーが魔法少女学級に来ていた。思案も気がついてはいた。授業中は後ろでこちらの様子を見ていて、ランユウィはずっと気にし続け、数分ごとに後ろをチラ見していた。ただし師匠は師匠で用事があったらしい。恐らく、会いに行ったのは二代目だ。授業が終わるとすぐに行ってしまい、直接話すことまではできなかった。

 

 そういうわけで、参観日の後、わざわざ師匠のところまで報告に赴いている。師匠に会うのも宿泊研修の直後以来だ。ランユウィもそうだ。思案は師匠と対面するのはあまり得意ではない。優しいのにスパルタだし、いつも眼差しが生暖かいのに奥が冷たいというか。今もそうだ。

 

「学級には馴染めましたか?」

 

 椅子に腰掛けた師匠からの第一声に、思案はランユウィを見たが、彼女はすぐ答えていた。

 

「全員それなりに話せるようになったとは思うっす。内向的な生徒とか、転入生とはまだあんまりっすけど」

「ランユウィは他の班の生徒とも話しておりますし、成績も良いと思いますの」

「あれ、自分のことは報告しないすか?」

「わ、私は……それなりですわ! 楽しくやっておりますから!」

 

 どちらかといえば2人でいがちにはなっているものの、孤立ではない。他班がつるんでいるから3班もつるもうとして、自由人2人が自由にしていてどっかに行ってしまうだけの話だ。

 

「ツインウォーズからも聞いていますよ。ただ仲良くだけでなく、切磋琢磨していると」

「……! はい! そうです! そうですわ!」

「思案は二代目のことばっかり見てるっす」

「ちょっと! 言わないでくださいまし!」

 

 師匠には言わなくてもバレていそうだが、思案が目指しているのはやはりラズリーヌという称号や後継の座ではなく、あの二代目『ラピス・ラズリーヌ』、彼女その人だ。それを観察して、悪いことはない、と思案は自分で思っている。

 

「彼女も元気そうでなによりです。先生としての振る舞いもしっかりしてくれるようになったと」

「この間、軽く進路相談させてもらったっす」

「えーっ! ずるいですわ!」

「2人とも、仲良くなりましたね」

 

 師匠の言葉で、今度こそ顔を見合わせた。

 

「確かに。そうそう、あれがきっかけですわね?」

「まあ、そうっすね。宿泊研修の」

 

 宿泊研修、2人で肩を並べて、ラズリーヌと戦ったあの試練。あれから、ランユウィも思案も相手との間に閉じていた扉を開いたような。

 

「そうです、宿泊研修。お2人を下した、彼女はお元気ですか?」

「下した……? 学級全員元気ですわよ?」

「ベクトリアのことっすよ。次は負けないっす」

 

 わざわざ師匠が話題に出して気をかけるとは思わず、首を傾げてしまった。確かにベクトリア、あの強力な魔法や戦闘への余裕、独特の世界観は『強い』魔法少女のそれだ。ただ、彼女はラズリーヌを目指しはしないだろう。なれてビジネスパートナーか。次は負けないと闘志を宿すランユウィの隣で、味方だったら心強いのになと、思いを馳せる。

 

 

 ◇キューティープラリーヌ

 

「プラリーヌ嬢、遅くに悪いね。少しばかり時間いいかな?」

 

 廊下をひとりでふらっと歩いていたところを、ベクトリアに捕まった。首だけで振り返って、それから向き直る。魔法少女学級には部活動もない、こんな日が暮れるまで残っているのは自分くらいだと思っていたのに、誰かに出会すなんて。

 

「昨日の礼をしたかったんだが、安眠やライトニング嬢との歓談を邪魔はしたくないと思ってね」

「はぁ。そりゃどうも」

「いやいや。改めて、昨日の舞台への協力、ありがとう。ベストな小道具だったよ」

「いいよいいよぉ、面白そうだったし、あのくらいそんな大変じゃないって」

 

 ベクトリアから舞台をするから協力しろと言われたから何かと思えば、ヒーローショーの敵を作ってくれという依頼だった。それもちょうど、ジュエリーゼリーの魔法で壊せるようなやつを。プラリーヌが固めて作る魔法の砂糖菓子なら強度も自由自在。それなりという選択肢もある。

 クラスでヒーローショーをやるなんて変な話、普通はない。せっかくだから協力してやった、というだけなのだが。ベクトリアは本気で感謝しているらしく、その芝居がかった所作で頭を下げてくる。いいからと言うしかない。

 

「して少し、話をしてもいいかな」

「だったらそこの教室でいい〜?」

「構わないとも」

 

 旧校舎は空き教室でいっぱいだ。中には椅子が放置されている部屋もある。適当な教室で座って、向かい合った。プラリーヌは人の話を聞くのは好きな方だ。ベクトリアのように面白い人間なら尚更である。こういう状況は嫌いじゃない。と思いきや、向こうから来たのは質問だった。

 

「昨日、キューティーショコラさんが来ていたね。実の所、彼女との関係はどうなるのかな」

「あ〜ショコラ。まあ仲良い方の仕事仲間、みたいな感じ」

「いつも一緒仲良し、まで距離は近くないんだね」

「そうだねぇ、正直タイトルと性格によるとしか。自分らはあくまで元ネタだからね〜。ショコラは全員とプライベートでも交流あるけど、自分と……例えばミントとかフレーズとは特にプライベートで遊んだりはしないかな〜」

「それでも交流があるというのは、それを知ったファンは嬉しいだろうね。作品の中から飛び出したようで!」

 

 キューティーヒーラー関係のこういう突っ込んだ話はあんまり漏らさないようにと言われてはいるが、プラリーヌは特に気にしていない。なんでも大袈裟な身振りと一緒に聞いてくれるベクトリア相手なら、楽しく話せて、余計なことが口から出そうなのは堪える。

 

「……キューティーヒーラー、好きなの?」

「実は、ね。憧れて魔法少女になったクチなんだ」

「わ、意外だね〜」

「ボクを形作っているものの多くは他の作品だけど、やはり根底には関わってくる、といったところかな」

 

 小さい頃見ていたとか、そういう感じだ。ベクトリアの振る舞いとはちょっと結びつかなくて首を傾げるが、そういう先輩もいるだろう。というか、プラリーヌの師匠(キューティーペンギン)がそれに近いかもしれない。

 

「自分語り、いいかな」

「ん、いいよ〜」

「ボクには憧れがある。それは数年前のことだ。その日、ボクはB市にいた。そしてそこで見たんだ。本物の、力というものを」

「力?」

「キューティーヒーラーさ。もっと言えば、大海原をゆく白と黒のアバンチュール、キューティーオルカ」

「……オルカ先輩かぁ。自分、個人的にはちょっと苦手かも」

 

 オルカの姿を思い浮かべる。あぁ、あの人は確かに、『力』って感じだ。理想があって、その理想に適う自分であるために力を振るい、暴力であろうとしている。キューティーヒーラーストライプはそういうところかある。だからこそ、プラリーヌは苦手意識を抱いていた。

 

「すごく強くてカッコいいのはわかるけどぉ」

「そう、それなんだ。どれだけ追い詰められようが、立ち上がる。悪にとっての最大の壁として聳え立つ! それがキューティーヒーラーであり、ボクの目指す魔法少女! ベクトルという『力の時代』!」

 

 力説された。面白いと同時に納得感がある。ベクトリア・エラ、フリーランスで一般試験からこの魔法少女学級にやってきた魔法少女。同試験を受けようとした魔法少女たちを、その力で蹴散らして、堂々と椅子に座ったと聞く。事前に調べた時から要注意人物としては挙げていた。実際はその振る舞いと逸話に反し、良い奴、仲間と舞台を愛する女、という印象だが。

 

「ああすまない。熱くなってしまったね」

「いいよ〜、そういうの聞いてて面白いもん」

「そうかい?」

「でも、なんでわざわざ、他班で、こんなやる気な〜い自分にその話を? 憧れには、共感できないよ」

「それでもさ。皆にボクを知って欲しいし、ボクは皆を知りたい。共に作る舞台も、訪れる試練も、互いを知らねば完璧な脚本には成り得ない」

 

 とりあえずなるほどねぇと頷いて返す。

 

「そうだ忘れていた。これを」

 

 渡されたのは個包装のキャンディ……ではない。水色の立方体、指で押すと柔らかい。ゼリーだ。

 

「ジュエリーゼリーからの好意でね、お菓子にアレンジしてみたそうだ。これが渡したくてね」

「なるほどねぇ……じゃあお返し……厳密にはお返しってより、自分からの素直なお礼だけど。はい」

 

 鞄からプラリーヌが取り出して渡したのは、自分のグッズ。正確にはアニメ版の自分のグッズだ。デフォルメされたマスコットのついたキーホルダーで、ベクトリアはそれをじっと見つめ、いつもの笑みをフッと浮かべた。

 

「いいのかい? 大切にするよ」

「いいってこと。宣伝用はいっぱいあるからさ〜」

 

 貰ったゼリーを鞄の内側のポケットに放り込んだ。そしてほとんど日が落ちてしまった外を見て、そろそろ帰ろうかな、なんて思い立ち上がる。

 

「んじゃ〜、自分はそろそろ帰らないと。また」

「あぁ! また明日!」

 

 プラリーヌは教室を出る。ベクトリアは手を振っていた。これからは他班にも手を伸ばしていこうか考え、やっぱりやる気が出ないと却下しようと思いながら、魔法の国の門をくぐる。それから夜眠って朝起きるまで、プラリーヌは今後のことを、これまで受けた指令やら何やらと混ぜてなんとなく考えていた。

 

 

 ──けれど、翌日。

 朝早めに登校してみると、教室にはひとりしかいなかった。ジュエリーゼリーだ。彼女はいつもならもう少し遅い時間帯のはずだが、なんて考える間もなく、彼女に抱きつかれる。そんなに親しかったつもりはなく、驚いたまま、なんだよぉ、なんて返してみる。するといつもの表情、ではなく、冷や汗を滲ませ目を泳がせた彼女が、プラリーヌの袖を掴んだ。

 

「っ、ど、どうしようっ……」

「なになに、なんのこと〜?」

 

 ジュエリーゼリーがおどけていない異常事態に、この時点で気がついていなかった。気付かされたのは、この後だ。

 

「こ、こっち……!」

 

 手を引かれて、連れていかれるがまま。昨日通った覚えのある廊下を歩き、そしてやがて、あの空き教室に着いた。扉は開け放たれていて──中に、真っ赤な絨毯。

 

「……は?」

 

 いや、絨毯なんかじゃない。あれは血だ。鼻を突く鉄の匂いがそう知らせている。赤の中には、人が倒れている。これは全部、中央に倒れている人物が流したものに違いない。傷口があるらしき胸元から、()()が赤く染められている。

 そして──血の海に沈むのは、同じ赤色の髪。昨日、自分のことを聞かせてくれたばかりの、ベクトリアに他ならなかった。

 

「ッ……と、とにかく先生を!」

 

 ジュエリーゼリーはハッとして、駆け出した。プラリーヌはその場に残り、教室に足を踏み入れる。声をかけてみる。返事はない。顔は青白い。ぎゅっと閉じられた目蓋が開くことはない。背筋が凍る。昨日はあんなに大袈裟なジェスチャーばかりしていたのに。

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