魔法少女育成計画Blue/Shift   作:皇緋那

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ヒビの入った学級

 ◇キューティープラリーヌ

 

 ツインウォーズに言われて教室に戻ったはいいが、空気は最悪だった。いつも私語の止まらないマスカットでさえ黙っている。死人が出た、というのはそれほど重いことだ。しかもそれがよりによって、いつも明るく仲良くしていた2班の、さらに目立ちたがり屋ベクトリアだった。

 ベクトリアは鬱陶しいところはあったが、深い恨みを買うような奴ではない──いや、入学試験の件は別か。とはいえ学校関係者でなかったとして、わざわざ魔法的処理が何重にもかけられた学内でやる意味がない。

 では誰が、と言われても、プラリーヌには推理できる気もないしする気もない。疑われることへの忌避感だけはある。

 

「……ごめん、僕、やっぱり先生を手伝うよ」

 

 最初に、この空気に耐えられなくなったのはトーチカだった。立ち上がると、ツインウォーズが待ちなさいと止めても、歩き出してしまう。それに続いてキュー・ピット・アイもついていってしまう。誰かが出ていったら、続く者が出る。せっかく気を遣ったツインウォーズ先生が可哀想だ。ついでに何人もいたら監査部門の人も単純に邪魔だろう。

 プラリーヌは止めるか考えたが、何も見せぬように、いつも教室でしているのと同じ振る舞い──つまり腕枕に頭を預けた。そのまま目線だけは向けて、観察だけしようとして、トーチカの前に立ちはだかった存在を認識する。シン・ソニックだ。

 

「待て」

「……あなたも監査部門所属だよね。僕の魔法なら犯人探しにも役立てると思う。だから」

「それ以前の問題だっていきなり出ていくのはおかしい待機だって言われてるそれにそいつをここから出すべきじゃない」

「あら、私?」

「そもそも私はお前を信じてないお前には前科がある全部凶悪犯キュー・ピット・アイの仕業でもおかしくない」

「やめて、アイさんは」

「じゃあそいつ以外に誰がやるって言うんだ他のクラスメイトかそれともこの厳重な警備を掻い潜った殺人鬼がいるとでも」

「ある意味信頼されていますのね、私」

「どこが信頼だ」

「どうして私があの方を殺さなければならないのです? 接点もない。ですから理由もない」

「接点ならクラスメイトだし理由なく人を殺すから凶悪犯なんだろう」

「だからっ! やめてよ、ふたりとも!」

 

 トーチカは割って入ろうとするが、互いに譲ろうとはしない。どちらも『自分』が強い、自分が正しいと信じて疑わないせいだ。前科を根拠にして詰め寄るシン・ソニックの気持ちもわかるが、キュー・ピット・アイとて証拠もないのに疑われてはたまらないだろう。こうなる気配を察して場を離れようとしただろうトーチカは、結局挟まれて可哀想だ。さすがのプラリーヌもこれを面白がる気はないし、かといって助け舟を出すのも。自分で関わりたくはない。割って入るなら、残りの班員だろう。

 目線を双子の方に向ける。マスカットはトーチカたちとレモネードを何度も交互に見ている。レモネードは逆に、トーチカを見てぐっと拳を握り、どうすべきか考えている。そして考えた果てに、レモネードはシン・ソニックの側に立つ。

 

「……わ、私もっ……信じられない……!」

 

 アイを庇うのではなく、疑う方に立つレモネード。マスカットは驚いた様子で周囲を見回し、誰かに助けを乞おうとしているが、ランユウィや思案は目を逸らし、プラリーヌ自身も応じてはやれない。残るライトニングは──いつの間にか、止めに入ろうと立ち上がったツインウォーズのすぐ後ろに立ち、肩に手をかけていた。

 

「っ、駄目です、生徒同士で──」

「止めるの? ねえ」

「──、ライトニング……」

「あなたたちが見たかったものなんじゃないのかしら? クラスメイトをあんなことにして」

「……私たちがやったことだと?」

「アイが前科で疑われるなら、あなた達も前科で疑われるべきよね」

 

 ツインウォーズはほぼ脅されているような体勢だ。冷や汗を流し、下唇を噛んでいる。

 

「言っておきますけれど……前科がないからって信用するのもおかしいと思いませんこと。例えば……現場の血痕、扉の内側だけで不自然に途切れていましたわよね。それって、扉を通して魔法を使った、ということじゃないのかしら」

 

 アイはランユウィに疑いの目を向ける。目を逸らしていた彼女らまで巻き込むつもりだ。続けて思案に対しても、彼女の魔法なら凶器を隠せるじゃありませんか、なんて話しはじめ、マスカットは相変わらず困り果てた様子で、さすがのプラリーヌも寝たフリをしてはいられなくなって、机を勢いよく叩いた。

 

 ばん、と響いた大きな音に、マスカットがビクッとした。立ち上がって、ため息を前置きにして、全員に向けて声を出す。

 

「はぁ……あのさ。疑心暗鬼が一番駄目、でしょ。殺人鬼の思う壷」

「私はただ犯人を捕まえようとしているだけでこの女が最大の犯人候補だからこそ動かしてはならないと思っただけで」

「ごめんごめん、説明は後で聞くから。全員、まずは今の(なす)り合い、やめてよ」

 

 ──なんてプラリーヌの言葉から、数秒を待たずして、睨み合っていた均衡が崩れ状況が一気に動き出す。シン・ソニックとキュー・ピット・アイが変身したのはほぼ同時。直後にプラリーヌも合わせ、止めようとツインウォーズが続き、それを押さえるべくライトニングが最後に宝石の輝きを放つ。ツインウォーズの首元に雷光を纏う剣が突きつけられ、生徒を止めることは叶わない。シン・ソニックはすぐさま生身のままのトーチカの背後に隠れアイの視線を遮ると、そこから一気に仕掛けてくる。それを捕まえたのはプラリーヌが放った水飴で、ねばつく糖分が彼女を捕らえて冷え固まっていく。それでもなお、己の高速移動の魔法で空気を蹴って振り払い、アイではなく、壁に向かっていく。隻眼のアイの死角を狙うべく大きく動き回り、また教室の壁を蹴っての超高速移動。彼女が視線で追い切れない中、そして殴りかかった彼女を、教室の外からひらり飛び出してきた和服の少女が叩いて止めた。

 ローキックの一撃から兎耳を翻しながら見事に押さえつけ、頭を床と少女の手に挟まれたシン・ソニックは呻く。

 

「はぁっ、うぐっ、は、羽菜先輩」

「いくらなんでも、突っ走りすぎですよ」

「どうしてここに」

「通報を受け、捜査員として来ましたよ。生徒の皆さんにもお話をと思いまして」

 

 下克上羽菜の登場で、その迷いなく直進する出鼻をくじかれたシン・ソニック。彼女がそれ以上食い下がるのをやめたのも含め、彼女は監査部門の人物だと確信した。そしてさらに剣を抜いているライトニングにも睨みをきかせてくる。その様子にライトニングも拍子抜けしたのか、あーあ、なんて残念そうな声を出して、剣を下ろした。

 

「ライトニングッ……なんのつもりじゃ!」

「脅しのつもりだったけれど」

「小娘がっ……」

「変身したら、あなたの方が小娘じゃない?」

「おぬしをここに推薦したのは、わらわの邪魔をするためじゃない! わかっとるじゃろ!?」

「そうだったかしら」

 

 ツインウォーズはライトニングに迫り釘を刺すが、彼女にそんな言葉は糠に釘、まるで効いていない。こちらとしても班長のこの振る舞いはまずいと感じる。ただ、プラリーヌから言ってもどうしようもない。ランユウィや思案でも同様だ。

 

「あの、これからおひとりずつ、お話を聞きたいので……すみません、一度、座っていただけますか?」

 

 羽菜の声でようやく皆が矛を収めた。太鼓を背負ったままで席にどんと座るライトニング。プラリーヌもそれに続き、キューティーヒーラーのままでため息を吐いたら、寝たフリをすることにした。

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